第241話~ソルセルリの魔法テスト初級編 異世界での戦い~

「やったぞ!」


 俺の『天火』の魔法を受けて、ようやくソルセルリの小石が壊れた。

 それを見て、ヴィクトリアのお母さんがうんうん頷く。


「うん、大分上手になりましたね。これならとりあえず合格と言えるレベルね」


 ソルセルリに魔法の修業をしてもらうようになってから10日。

 ようやくソルセルリが俺たちに合格だと言ってくれた。


「魔力の使用効率が上がって、魔力の使用量も抑えられるようになったし、魔力のコントロールが上手になって、魔法の威力と精度が飛躍的に上がったわね。これなら、次のステップに行っても大丈夫ね」


 普段おちゃらけた態度をとるくせに魔法に関しては人一倍厳しいヴィクトリアのお母さんが褒めてくれるものだから、俺たちはなんだかこそばゆい感じがした。


 だが、そこはヴィクトリアのお母さん。

 ここで、ヴィクトリアさながらの突拍子も無い事を言い始める。


「さて、それでは試験をしましょうかね」

「試験?お母様、急にそんなことを言い出して……どういう意味ですか?」

「どういう意味も何もそのままよ。今からあなたたちの試験をすると言ったの。あなたたちの実力のどのくらいなのか、今から試させてもらうわ」


 どうやらヴィクトリアのお母さんは俺たちの魔法の試験をしたいようだった。


「ということで、早速行きましょうね」


 俺たちに試験をすることを明言したヴィクトリアのお母さんは、早速行動を開始する。

 この点、ヴィクトリアのお母さんは行動が早く、かつ強引だった。


「行きましょうね……って、お母様、試験を行うのはここではないのですか」

「ええ、ここだと獲物がいないからね。別の所へ行くわよ」


 ヴィクトリアのお母さんは試験を別の場所で行うようだ。


「『空間操作』」


 ヴィクトリアのお母さんが魔法で転移門を開く。

 聞くところによると、ヴィクトリアのお母さんの使う『空間操作』の魔法は、俺のと異なり、どこでも任意な場所に転移できるらしかった。


「さあ、どうぞ」


 俺たちはヴィクトリアのお母さんに導かれて試験会場へと向かう。


★★★


 転移門を抜けると、そこは見知らぬ山奥だった。


 空は黒い雲で覆われ、雨こそ降っていないが雷鳴がとどろいている。

 周囲の山々も岩だらけの荒山で、見える範囲には草一本生えていなかった。


 それに空気の質も違うような気がする。

 何というか、肌にまとわりつくような感じがして、とにかく気持ち悪いのだ。


 ここにいると、まるで自分がどこか場違いな場所にいる。

 そんな感じすらした。


 と、ここでヴィクトリアが口を開く。


「お母様、もしかして、ここって別の世界ではないですか」

「ええ、そうよ。よくわかったわね」


 ヴィクトリアのとんでもない質問を、ソルセルリはあっさりと肯定した。


「え?ヴィクトリアのお母さん、ここって別の世界なんですか?」

「ええ、その通りよ」


 俺の質問にもお母さんは屈託のない表情で答える。

 それを聞いて、俺はお母さんの話が本当だと確信した。


 というか、他の世界に簡単に行ってみせるとか、さすが神!

 単純にすごいなと思った。


「それで、お母さん。なんで俺たちをここに連れてきたのですか?」

「簡単な話よ。ここには君たちの世界では珍しい生き物がそこら中にいるからよ。君たちにはその相手をしてもらうわ。……って、早速来たわね」


 そう言いつつ、ヴィクトリアのお母さんが指さした先には。


「ベヒモス!?」


 かつて『希望の遺跡』で俺たちが倒した強敵ベヒモスがいた。


★★★


「ベヒモスが相手ですか!」

「あら、ベヒモスを知っているの?」

「ええ、アリスタ様の遺跡で相手をしたことがあります。確か、あの時は合成魔法で倒しましたが」

「まあ、お義母様の遺跡で。なら話が速いわ。今回はあれを倒してちょうだい。ただし、魔法だけでね。あと、合成魔法と合体魔法は使用禁止だからね」

「え?普通の魔法で、ですか?」

「そうよ。まあ、あなたたちの実力ならそれくらい余裕よ。さあ、やってみなさい」


 そう言いながら、ヴィクトリアのお母さんは俺たちの背中を押すと、ベヒモスの前に立たせる。


「グルル」


 俺たちを見たベヒモスがうなり声をあげる。


 こうして俺たちとベヒモスの戦いが始まった。


★★★


「さあ、ホルスター君と銀ちゃんはお姉さんの結界の中に居なさい。この中なら、ベヒモスごときが何をしようと、安心だからね。ここからお姉さんの指示で、ベヒモスに練習がてら魔法を使えばいいわ。わかった?」

「は~い」

「畏まりました。ソルセルリ様」

「後、言い忘れたけど、リネットちゃんは私が教えたサブウェポンなら使用してもいいわよ。ただし、ベヒモスは魔法以外で攻撃すると、反撃してくるから、ここぞという時に使うのよ」


 どうやらホルスターと銀はヴィクトリアのお母さんが保護してくれるらしい。

 それとヴィクトリアのおばあさんがリネットに自分が教えた武器の使用許可を出してくれたので、多少は攻撃の幅が広がりそうだ。


 それはともかく、俺はどうしようかと思った。

 正直、普通の魔法でベヒモスを倒すのはきつい。

 ベヒモスがでかすぎるからだ。

 ベヒモスを倒すには広範囲で強力な威力の魔法が必要だった。


 と、そこまで考えた時、俺はふと思う。

 本当にそれがベヒモスを倒すのに正しい方法なのか、と。

 ベヒモスだって生物だ。

 急所は無数にある。

 そこを突けばいいのではないか。


 そう悟った俺は作戦を考える。

 そして、嫁たちを呼び、作戦を告げる。


「……これで、行くぞ!」

「「「了解です!」」」


 こうして作戦も決まったところで、俺たちはベヒモスに攻撃を開始する。


★★★


 まずは魔法を使ってベヒモスの弱点を探ってみることにする。


「『世界の知識』」


 『ベヒモスの弱点』

 ベヒモスは巨大であり、一見弱点などないように感じられる。

 しかし、ベヒモスも生物である以上弱点がある。

 ベヒモス最大の弱点は心臓だ。

 ベヒモスは巨大であるがゆえに心臓が3つある。

 その3つを潰すことができれば死に至らしめることができるだろう。

 それと、ベヒモスには呼吸嚢こきゅうのうと呼ばれる器官がある。

 これは肺の補助機関だが、ベヒモスの全身に酸素を行きわたらせるためにはなくてはならない器官だ。

 これはベヒモスの体内に1個しかないので、まずこれを潰せば一気にベヒモスの体から酸素を奪い、ベヒモスの行動を制限できるだろう。


 ……と、以上が出てきた結論だ。


 というか、『ベヒモスの弱点』という項目が検索できたことに驚いた。

 それはともかく、要するにまず呼吸嚢とやらを狙えということか。


「生命力感知」


 俺は生命力感知で呼吸嚢の場所を探ってみる。

 すると。


「上半身の背中側だな」


 あたりをつけた俺は皆に声をかける。


「ベヒモスの背中に重要な呼吸器官がある。俺はまずそこを狙うから、援護しろ」

「「「はい」」」

「『重力操作』」


 俺は空を飛んでベヒモスの上空へと飛んでいく。

 すぐさまベヒモスが迎撃してくる。


「うん?これは『雷嵐』の魔法か?」


 ベヒモスは雷と突風を引き起こす『雷嵐』の魔法を使って俺を迎撃してくる。

 たちまち風と雷が俺に襲い掛かってくる。


 前に戦ったベヒモスはいきなり突進してくる脳筋タイプだったが、今度のは小技も使うようだ。

 小賢しい奴だが、俺は慌てない。


「『神強化』」


 すぐさま鎧と盾に属性魔法防御を施す。

 カン、ドカン。

 俺に迫ってきた真空の刃と雷撃が魔法の効果で弾かれる。


 ベヒモスが攻撃してくる間に一気に接近する。


「『天火』」


 ゴオオオオオ。

 たちまち該当箇所を覆っていたベヒモスの体毛が広範囲にわたって焼け落ちる。

 それを見て、俺は自分の実力が思ったよりも上がっていることを悟った。


 ベヒモスの体毛は丈夫だ。

 以前ならベヒモスの体毛を燃やす威力の『天火』の魔法を放てば、ここまで広範囲を一気に燃やすことはできなかったはずだ。

 それが今ではその威力を保ったままこうやって広範囲に攻撃できる。しかも、魔力の消費はほとんど変わらない。

 素晴らしい進歩だと思う。


 さて、これで該当部分がむき出しになったので、追加の攻撃をする。


「『天土』」


 俺の魔法で無数の金属の槍が空中に出現する。

 ベヒモスの皮膚の皮は魔法使い用のローブの最高品質の素材として珍重されるが、俺の魔法なら簡単に貫ける。


 なぜなら、今の俺ならこれだけの数の槍を出現させても、それぞれにアダマンタイト並みの硬度を持たせることができるからだ。


 しかも、『天火』同様、これだけの攻撃を行っても魔力の使用量はさほど増えていなかった。


「行けええええ!」


 俺の言葉とともに槍が一斉にベヒモスに向かって行く。

 ドス、ドス、ドス、ドス、ドス。

 次々に槍がベヒモスにぶっ刺さっていく。


 と、同時に。


「ゴホッ!」


 ベヒモスが口から血を吐き出す。どうやら内臓にダメージが行って血を吐いたみたいだ。


「よし、成功だ!」


 第一撃の成功を見た俺は一旦みんなの所に帰って、次の攻撃に移るのだった。


★★★


「次は全員で一気に心臓を潰すぞ!」

「「「はい」」」


 呼吸嚢を潰した俺たちは、次に心臓を潰してとどめを刺すことにした。


「俺とエリカで上半身の心臓を二個潰すから、リネットとヴィクトリアは下半身の心臓を頼む。『重力操作』」


 分担を決めた俺たちは早速空を飛び攻撃を開始する。

 3つの心臓を背中側から狙っていく。


 見ると、ベヒモスはかなり弱っているようで動きが弱々しい感じだ。

 それでも最後の抵抗で激しい攻撃をしてくる。


「火の石?に、『雷嵐』?」


 ベヒモスは上空に真っ赤な火の石を召喚して俺たち向けて放ってきた。その上で『雷嵐』の魔法で俺たちの動きを阻害し、火の石を俺たちに当ててこようとする。


「『天爆』」

『大爆破』」

「『精霊召喚 土の精霊』」


 俺とエリカが爆発魔法で火の石を破壊し、ヴィクトリアが土の精霊の力を借りて『雷嵐』の魔法を相殺していく。

 これは適切な対応だったようで、火の石はことごとく破壊され、『雷嵐』の魔法も相殺され、ベヒモスの最後の抵抗も潰えて行く。


 さて、ベヒモスの抵抗も排除したことだし、とどめを刺しに行く。


「『大爆破』、『大爆破』」


 エリカが2発魔法を放ち、ベヒモスの体毛を焼き払うと、


「『天土』」


すかさず俺が大量の槍をベヒモスの心臓めがけて放つ。


 ブス、ブス、ブスと、槍が次々に突き刺さり、ベヒモスの心臓が動く音が2つ消える。


 一方のリネットとヴィクトリアはというと。


「『精霊召喚 火の精霊』」


 ヴィクトリアが召喚した火の精霊がベヒモスの体毛を焼き払い、


「『必殺必中瞬速の槍』」


リネットがヴィクトリアのおばあさんに習った投げ槍の技を使い、ベヒモスの心臓にアダマンタイト製の槍を投げつける。


「ピギャアアアア」


 もちろんリネットの投げた槍はベヒモスの心臓に見事に突き刺さり、ベヒモスは断末魔の悲鳴を残して息絶えるのだった。


 これにて、ヴィクトリアのお母さんの試験を俺たちは見事に突破したのだった。


★★★


「う~ん、95点てところね」


 試験終了後、ヴィクトリアのお母さんは俺たちをそのように採点した。


「中々よかったけど、それでも魔力の効率的な使い方とかコントロールに難があるわね」

「では、今回は不合……」

「いいえ、合格ね。ただ次のステップに進む前に補習ということで、詰めの修業はするけどね」


 合格。


 ヴィクトリアの母さんのその言葉を聞いて俺たちは心底ホッとするのだった。


 ちなみに、ホルスターと銀にもお褒めの言葉があった。


「ホルスター君と銀ちゃんも良かったわよ。お姉さんの言う通りに支援魔法も使えてたし、お父さんたちへの支援攻撃もばっちりだったわよ。お姉さん、感激だわ」


 さっきは言っていなかったが、ホルスターと銀はベヒモスへ牽制の攻撃をしてくれてたり、支援魔法をかけてくれていたりした。

 ヴィクトリアのお母さんの指導があったとはいえ、中々的確だったと思う。


 というか、2歳の子供に初めて戦わせる魔物がベヒモスとかどうなんだという気もするが、まあ、うちの息子はすごいからな。よしとしておくか。

 ……ごめん。ちょっと親バカ過ぎた。


 それはともかく、これで試験は終了だ。後はお楽しみの時間だ。


★★★


「ホルストさん、試験が終わったのはいいのですが、これ、どうしますか?」


 ヴィクトリアの言う、これ。

 もちろん、ベヒモスの死体のことだ。


「そうだな。狩り殺した以上は有効利用してやるしかないかな。とりあえずは、前のと一緒で、俺たちの子供、いや子供の配偶者や孫にも杖やローブとしてやるとするか。しかし、それでも全然あまりそうだな。どうしようか?」


 本当どうしようか。

 これだけ巨大なベヒモス。俺たちの自家消費だけでは処分できそうになかった。


「それなら、ワタクシに良い考えがあります」


 と、ここでヴィクトリアが提案してきた。

 それを聞いた俺たちはいい考えだと思い採用することにした。


「それじゃあ、事が片付いたら、お前らに好きなものを買ってやるからな」

「「「「「「「期待してます」」」」」」」


 ということで、ヴィクトリアがベヒモスを回収し、俺たちは元の世界へと帰るのだった。

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