第240話~魔法修業開始! 修行の準備が終わったら、まずは魔力のコントロールの修業からだ!~

 ホルスターを迎えに行った翌日。


「さあ、出かけるぞ」


 俺たちは魔法の修業のため出かけることにした。

 行き先はいつも俺たちが修行に使っているノースフォートレス郊外の山の中で、エルフの王都『ファウンテン オブ エルフ』の町を出た後、『空間操作』の魔法で移動するつもりだ。


 と、その前に行く場所がある。


「ホルストさん、多分あそこですよ」


 目的の場所に着くと、ヴィクトリアがうれしさのあまりそわそわし始める。


 目的地は、『至高のお時間』という店だ。

 ここは主に自分たちで生産したハーブティーを売っているお店だ。

 そう、この前王宮で飲んだハーブティーを売っているお店なのだ。


 最近、忙しくてずっと来る機会がなかったのだが、この度修業を始めるにあたって、休憩の時に飲もうということになって買いに来たのだった。


 お店は、王宮に納品しているだけあって立派な造りで、お店の入り口には『王宮御用達』の看板も掲げられており、人の出入りも激しいようだった。

 しかも出入りしているのは、裕福な家の使用人風の人たちばかりで、客層もよさそうだった。


 ということで、早速店へ入ってみる。


「うん、いい香りだね」


 店内に入るなり、リネットが鼻をクンクンさせながらそう呟く。

 リネットの言う通り確かに店内は茶葉の良い香りで満ちていた。


「いらっしゃいませ。当店のご利用は初めてですか?」


 俺たちが店に入って店内を見渡していると、店員さんが声をかけてきた。


「はい、今日はお茶を買いに来ました」

「茶葉をお求めですか?どのようなのがよろしいですか?」

「えーとですね。この前、王宮でハーブティーを出してもらったんですけど、できればあれと同じのが欲しいです」

「王宮?……ですか?」


 ヴィクトリアのその発言を聞いて、店員さんが驚いた顔になる。

 それはそうだ。

 いきなり初見の客に、『王宮で飲んだのと同じお茶が欲しい』と言われたら、普通はこの人何者と驚かれるだろう。


 ただ、驚かれているだけでは話が進まないので、俺は懐から『エルフの印』を取り出し、店員さんに見せる。

 さすがは高級店の店員さん。どうやら『エルフの印』のことを知っていたみたいで、途端に頭を下げてくる。


「これは失礼しました。王宮の関係者の方とは。すぐに店主を呼んでまいりますのでお待ちください」


 そう言うと、店員さんは一度奥へ引っ込み、店主らしい初老のエルフを連れて戻って来た。


「ご来店ありがとうございます。何でも王宮から『エルフの印』をいただいているお客様がいらしたとのことで。失礼ですが、お名前をお聞かせ願えますか」

「ホルスト・エレクトロンと申します。Sランクの冒険者をしております」

「ほほう、Sランクですか。それはすごいですな。王宮から『エルフの印』をいただけるのも当然ですな。……と、失礼しました。王宮に納入しているのと同じ茶葉をご所望だそうで。こちらになります。ご確認ください」


 そこまで言うと、店主さんが茶葉を見せてくれた。

 とてもいい香りのする茶葉だった。


「飲んでみますか?」


 試飲させてくれるらしいので飲んでみると、確かに王宮で飲んだハーブティーと同じ味だった。


「よし、それじゃあ、これをもらおうか」

「はい、それとこちらのティーポッドも一緒にいかがでしょうか。これでお茶を淹れると、よりおいしく飲めますよ」


 俺が茶葉の購入の意思を告げると、店主はここぞとばかりに茶器の購入も勧めてきた。


 うん、商売上手な人だ。

 俺は店主の商魂のたくましさに感心した。


 ちなみに、おすすめのティーポッドは白磁に花の絵付けがされたかわいらしい物で、それを一目見てエリカが気に入ったらしく、


「旦那様、これ買いましょう」


ということで、一緒に購入することになった。


「ホルストさん、このクッキーもおいしそうなので一緒に買いましょう」

「アタシも、このシフォンケーキが食べたいな」


 俺が店主と話している間に、ヴィクトリアとリネットはお茶請けのお菓子を物色していたらしく、店内から気に入ったものを見つけてきて、俺にせがんできた。


「ああ、いいよ。買いな」


 もちろん、俺が断わるわけがないのでこれも購入する。


「ねえ、ホルスト君。私もおいしいアップルティーを見つけたのだけど、買ってもらってもいい?」

「専用のティーポッドもあるらしいのだけれど、これもいい?」


 さらにヴィクトリアのお母さんとおばあさんも俺におねだりしてきた。

 どうやらお気に入りのお茶とティーポッドを見つけたらしい。


「いいですよ」


 当然これも購入だ。


 こうして結構買い物をしたが、修行中の休憩の準備も終わり、俺たちは店を出るのだった。


★★★


「さて、それではこれから修業を始めます」


 茶葉店を出た後、ノースフォートレス近くの山の中へと移動した俺たちは、満を持して訓練を開始した。

 ヴィクトリアのお母さんの前に俺とエリカとヴィクトリアが整列する。


 ホルスターと銀は俺たちと別枠で教えてくれるらしい。


「明らかにホルスター君たちよりも君たちの方がレベルが高いからね。レベルが違う人たちを一緒に教えるのは良くないからね。別に教えることにするわ」


 ということらしかった。


「さあ、リネットちゃんはおばちゃんが教えてあげるわ」

「よろしくお願いします」


 魔法の使えないリネットはヴィクトリアのばあちゃんに教えてもらうらしい。


 ヴィクトリアのばあちゃんは『月の女神』だが、狩猟も得意らしく、その辺について教えてくれるらしかった。

 リネットは魔法を使えないが、魔法が使えなくても魔力感知は使えるようになるらしく、まずそれらを使った索敵方法を身につけさせて、その上で他の索敵方法を身に着けさせるつもりらしかった。


 それと同時に、投げ槍や投げナイフ、投石術などのサブウェポンの技も習得させるつもりのようだ。

 リネットはこういうのはあまり得意ではないので、それらを教えてもらえるとあって大変喜んでいた。


 さて、修行内容も決まったことだし、修行の開始だ。


★★★


「さて、ファーストステップは魔力の効率的な使用方法から始めるわよ」


 修行を始めるにあたり、ヴィクトリアのお母さんはまずそう言った。


「魔力の使用効率のアップですか?」

「ええ、そうよ。最初に言っておくと、あなたたち、人間にしては魔力を上手に使用できているわ。良くここまで自己流で修業したものだと褒めてあげるわ」


 魔法の神様に褒められて、俺たちはちょっとだけ嬉しかった。

 思わず笑みがこぼれそうになるが、そこは我慢する。


「ただ、それでも、まだまだ無駄が多いわね。魔樹との戦いを見ていたけど、ホルスト君とか、危うく魔力切れになりかかっていたでしょう?本来の君の力を発揮できれば、魔樹とか魔力切れを起こす前に余裕で倒せていたのにね。惜しかったわね」


 そこまで言うと、ヴィクトリアのお母さんはなぜか俺の頭を撫でてきた。

 まるでいとおしい子供を撫でるみたいな感じだった。


 ただ、それを見てヴィクトリアとエリカが怒る。


「ちょっと!お母様!何どさくさに紛れて、ホルストさんの頭を撫でているのですか!」

「そうです!ソルセルリ様、今は修行中です!まじめにやってください!」


 だが、二人にそう言われてもソルセルリはどこ吹く風で。


「あら、あなたたちも頭を撫でてほしかったの?」


 煙に巻くようななことを言ってごまかしつつ、二人の頭を撫でるのだった。


「さて、冗談はこれくらいにして、修行を始めるわよ。まずは魔力を効率的に運用できるようにしてかつ魔法を精度を上げていくわ。そのために、集中力を上げるための訓練と、魔力のコントロールの訓練を受けてもらうわ」


★★★


 ヴィクトリアです。


 ワタクシは今暗闇の中にいます。

 え、洞窟の中にでもこもって修行しているのですかって?

 違います。

 ここはお母様が作った特殊な暗闇の空間なのです。


 ワタクシたち3人はここで集中力を高めるために座禅をするように言われています。

 一見簡単なようですが、これがすごくきついのです。

 というのも、ここ、精神の集中を乱すための妨害がいろいろあるのです。


 例えば、ここの暗闇って心の中に入り込んでくるのです。

 言っている意味が分からないと思いますが、本当に心に入り込んでくるのです。

 ここにいるだけで、耐性がない人なら一瞬で心をむしばまれて、二度と立ち上がれなくなってしまうかもしれない。そんな場所なのです。


 幸いなことにワタクシたち三人は耐えることができていますが、これも今まで頑張って修行して来たからだと思います。

 以前の、ホルストさんたちと出会う前のワタクシだったら、一発でノックアウトされていたと思います。


 うーん、こんな意地悪な空間を作ってしまうとか、お母様って絶対サディストに違いないです。


 まあ、それはともかく、ここは確かに集中力の修業には最適そうです。

 もっとホルストさんたちの役に立つために、ワタクシは頑張ります。


★★★


 ようやく精神集中の修業が終わった。


 あの暗闇の空間は本当にきつかった。

 ありとあらゆる手段でこちらの精神を削りに来て、辛いと言ったらありゃしなかった。


 エリカとヴィクトリアも結構やられたようで、げんなりとした顔をしている。


 ふとヴィクトリアのお母さんの方を見ると。


「銀ちゃんにホルスター君、よくできましたね。その調子で頑張りなさい」

「「は~い」」


 ちょうどホルスターたちに魔法を教えているところだった。

 俺たちと違い、結構楽しそうにやっているみたいだ。


 まあ、ジャスティス同様、ヴィクトリアのお母さんも子供にいきなり厳しい修行を課す気はないようだった。

 その辺は親子なんだな、と思った。


 とりあえず休憩がてら二人の修業を見ることにする。

 ソルセルリは二人に魔法の基礎を徹底的にたたき込むつもりらしく、優しくはしているが結構厳しめの課題を与えていた。

 ただ、二人とも、特にホルスターは難なく修行をこなしているように見える。


 それを見て俺は思う。

 ああ、俺の息子ってやっぱりすごいんだな。

 親バカと言われればそれまでだが、俺は顔がにやけるのを止められないのだった。


★★★


 さて、精神集中の修業の次は魔力のコントロールの修業だ。


「魔力のコントロールは精神の集中力と密接な関係があるのよ」


 ヴィクトリアのお母さんが修行の前に講釈を垂れる。


「精神の集中の訓練をすれば魔力のコントロールも上がるし、その逆も然りね。ということで、今から魔力のコントロールの修業をしてもらうのだけど、まずはこれを見て」


 そう言いながら、ヴィクトリアのお母さんは小さな小石を俺たちに見せてきた。


「お母様、これは?」

「見ての通り小石よ。あなたたちには、今から魔法でこの小石を破壊してもらうわ」

「え?修行って、そんな簡単な……」

「ただし!」


 ソルセルリは、簡単だと言いかけたヴィクトリアを大声で制止する。


「この小石はね、ある一定以上の高密度の魔力を持った魔法でないと壊れないの。だから、私の指導で魔力のコントロールを身に着けてもらって、この石を壊せるようになってもらうわ」


 なるほど、そういう修行か。

 俺はお母さんの説明に納得した。


 ということで、早速修行開始だ。


「『天火』」


 小石に向かって魔法を使ってみる。しかし。


「ダメだ」


 小石には傷一つつかなかった。


「これは難しいですね」

「ダメですね」


 エリカとヴィクトリアもダメだったらしく、がっかりした表情をしている。


 しかし、まだまだ最初だ。

 その後も俺たちは頑張って修行を続け、それは夕方まで続くのだった。


 このようにして、俺たちの魔法修業は始まったのだった。

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