第239話~ホルスターの家庭教師~
「うん?もう朝か」
部屋の窓から入ってくる朝陽が顔に当たり、俺は目を覚ます。
横を見ると、リネットがスヤスヤと眠っていた。
リネットは他の二人と異なり『体力回復』を使えないので、俺と夫婦生活を楽しんだ日の朝は、よく眠っていることが多い。
昨日も結構遅くまで夫婦生活していたから、結構疲れているのだと思う。
「うん、かわいらしい寝顔だな」
俺はリネットの顔をやさしくなでながら、蒲団をかけ直してやる。
「うーん」
体を触られたリネットがかわいらしい寝言を言うが、眠いのだろう、起きはしなかった。
そんなリネットを横目に見ながら、俺は窓の所に置いてある椅子に腰かける。
そして、昨晩の嫌な出来事を思い出し、不機嫌な顔になる。
今日はヴィクトリアの母さんたちとドラゴンのステーキを食べに行った翌日で、今はヴァレンシュタイン王国の王都のホテルに泊まっている。
昨晩、皆でお茶をした後、エリカのお父さんと連絡を取ったのだが、そこでいい話と悪い話を聞いてしまったのだった。
いい話の方はうれしかったのだが、悪い話の方を聞くと腹が立った。
まあ、ここで怒ってもしょうがないので、後で嫁たちと相談だな。
★★★
「まあ、旦那様。レイラさんが冒険者になるとか言っているのですか」
朝食が終わった後、俺は嫁たちを集めて昨日のエリカのお父さんとの話について相談した。
ヴィクトリアのお母さんとおばあさんには席を外してもらって、銀の相手をしてもらっている。
「あら、銀ちゃん、耳と髪がふさふさでかわいいわあ」
「本当、気に入ったわ」
お母さんとおばあさんも銀のことを気に入ったらしく、なでなでしている。
と、話がそれてしまった。
今はエリカのお父さんの話の件だった。
まず悪い方の件から話す。
もちろん、悪い方とは妹のバカが冒険者になるとか言い始めた件だ。
「あのバカは本当に何を考えているんだ!あいつが冒険者で成功できるとはとても思えない。どう考えても失敗して、俺たちに迷惑をかけてくるに違いない。大体、あいつは魔法がちょっと使えるくらいで、家事とかうちに来た時のヴィクトリア並みにできないんだぞ」
それを聞いてちょっとだけヴィクトリアがブスッとした顔になる。
「ちょっと、ホルストさん。その言い方はちょっとワタクシに対して失礼ですよ」
それを見て俺は慌てて謝る。
「ご、ごめん。ヴィクトリアのことを悪く言うつもりはなかったんだ」
「……まあ、別にいいです。許してあげます。それよりもホルストさんの妹さん、どうなるんですかね。やっぱり、ホルストさんの言うように失敗するんでしょうか」
「うん、このまま大して努力せずに甘い考えを持っているままだったら失敗するんじゃないかな」
「甘い考え?ですか?」
「うん、彼女、アタシたちのチームが成功しているのを見て、冒険者が簡単にお金を稼げるとか考えていると思う」
「そうなんですか」
「私もリネットさんの考えに賛成ですね。旦那様はどうですか?」
エリカに話を振られたので答える。
「昨日、お父さんと話した時に俺もそう思った。大体、あいつは昔から甘ったれた奴だったからな。嫌なことがあると、すぐオヤジやおふくろに泣きついて何とかしてもらっていた。あの考えのまま冒険者をやったら、絶対やらかすと思う」
俺の考えにみんな同意したのか、嫁ズは全員うんうん頷いている。
「それで、旦那様はレイラさんが失敗して泣きついてきたらどうするつもりですか?助けるんですか?」
エリカの問いかけに対して俺は首を横に振る。
「いいや。助けたりはしない。ヴァンパイアの時のようなことでもない限り、基本放置だ。下手に助けたりすると、俺だけでなくここにいるお前たちにも迷惑がかかる。いや、お前たちで終わりじゃない。下手をすれば、俺たちの子供たちや孫にまで迷惑がかかる。俺は、お前たちや子供たちや孫たちがあいつに悩まされるのは見たくない」
俺は嫁たちの顔を見ながらそう言うと、嫁たちも俺の顔を見ながらポツリポツリと言う。
「そうですね。そうなったら、かわいそうですけど放っとくしかないですね」
「ワタクシは自分の子供たちに迷惑をかけたくないので、ホルストさんの意見に賛成します」
「アタシも、実の妹にそこまでするのは……と思わないでもないけど、将来のことを考えたらそうするがベストだと思う」
どうやら俺の意見に全員同意のようだ。
「よし!じゃあ、その方針で行くぞ!妹のことは助けを求めてきても基本放っとくということで。それでもしつこく縋ってきたら、俺の実家にでも押し込めて一生誰にも迷惑が掛からないようにする。それで、いいか?」
「「「はい」」」
さて、これで妹のやつについての相談は終わりだ。
次の議題に移る。
★★★
「それで、昨晩エリカのお父さんに聞いた話だと、ホルスターがみんなの前で魔法を使ったそうなんだ」
俺がお父さんに聞いたホルスターの魔法の件を話すと、エリカが首をかしげる。
「旦那様、それはまことなのでしょうか。あの子はまだ2歳ですよ。それなのに誰にも教わっていない魔法を使えたりするのでしょうか」
「それが、お父さんの話によると、どうやら俺たちが魔法の練習をするのを見て覚えたらしいんだ」
「まあ」
俺の説明を聞いたエリカが思わず口を押え唖然とした顔をする。
信じられないという感じだ。
それはそうだ。
エリカも魔法を使えるようになるまで苦労して練習したはずだ。
それを、我が子ながら、2歳の子が簡単に使って見せたというのだから、信じられないのも無理はなかった。
「エリカが信じられないのもわかるが、ホルスターは俺とエリカの息子だからな。魔法に関して、俺たちのいい部分を受け継いだんだと思う」
「ワタクシもそう思いいますね。ホルスター君、生まれつきホルストさんに似て魔力が高かったですからね。それに、エリカさんに似て頭が良くて、魔力のコントロールの才もあるんだと思います。その上でアリスタおばあ様に加護までもらっちゃいましたからね。2歳である程度魔法を使えるようになっても不思議ではないです」
「……そうですね。そうかもしれないですね。というか、親としては息子が魔法を使えるようになったことに驚くよりはむしろ喜んでやるべきなんでしょうね。ただ、私としてはちょっと不安な部分もあるのです。あの子が魔法を暴走させて、けがをしたり、人を傷つけたりしないかと」
エリカの意見には俺も賛成だ。
俺も息子が魔法を使えるせいでひどい目に遭っては欲しくない。
だから、こう言った。
「うん、だからエリカのお父さんもホルスターに家庭教師を付けたらどうかって言っているんだと思うよ。俺はお父さんの考えに賛成だ。ホルスターにはちゃんと魔法について教えてやって、きちんと魔法をコントロールできるようにしたらいいと思う。エリカはどう思うんだい?」
「私も旦那様のおっしゃる通りだと思います。あの子にはちゃんと教えてあげるべきだと思います。ただ、先生の人選となると難しいですね。そこまで才能のある子を教えられる人ってそうはいないと思います」
「そうだな。難しいな。……あ!それなら、いっそ俺たちが」
「それは良くないと思います。親が教えると、どうしても甘やかしてしまうような気がするのです。ですから、教えるのは他人の方がいいと思います」
「うーん」
確かにエリカの言う通りだ。
親が教育すると、どうしても子供を甘やかしがちになる。
それでは子供のためにならない。
ここはやはりちゃんとした先生に頼むべきだろうな。
さて、誰に頼むべきか。
俺がそう悩んでいると、ヴィクトリアがこう言ってきた。
「もしかして、ホルスター君の家庭教師にふさわしい人をお探しですか?なら、いい人を知っていますよ」
「ほう、誰だ?」
「あの人です」
そう言いつつ、ヴィクトリアが指さしたのは魔法を司る女神ソルセルリだった。
★★★
「いいわよ」
「本当ですか!よろしくお願いします!」
ヴィクトリアのお母さんにホルスターの家庭教師を頼んだら、あっさり了承してくれた。
正直ありがたかった。
何せ、ヴィクトリアのお母さんは魔法を司る女神様だからな。
息子の家庭教師として、これ以上の存在はないと思う。
「『空間操作』」
ということで、エリカと二人、早速エリカの実家に向かう。
「あ、パパ、ママ」
「久しぶりね、ホルスター。元気にしてた?」
エリカの実家に行くと、俺たちを見つけたホルスターがすぐさま飛びついてきたので、二人して頭をなでなでしてやる。
しばらくして満足すると、エリカのお父さんたちの所へ行く。
会うなり、早速話を切り出す。
「ホルスターの家庭教師の件なんですけど」
「おお、どうするつもりなんだい?」
「実は家庭教師にふさわしい人を見つけたのです。その人に頼もうと思います」
「ふさわしい人?誰なんだい?」
「詳しくは話せないのですが、俺たちよりも魔法の実力は上ですね。実は、俺たちも魔法を教えてもらうことになっています」
昨日、ヴィクトリアのお母さんが俺たちに魔法の稽古をつけてくれると言っていたのだが、あの後、考えた末に頼むことにしたのだった。
それで今日、ホルスターも一緒に教えてほしいと頼んだわけだ。
「ほう、ホルスト君に魔法を教えられるほどの方かね。それならホルスターを任せても安心だろう」
「いいのですか?詳しく話さなくても?」
「うん、君たちにはいろいろ事情があるのは知っているからね。だから詳しくは聞かないでおくよ」
「ありがとうございます」
俺は詳しい話を聞かないでくれたお父さんにお礼を言った。
その後は、お父さんとお母さんと少し雑談をしてからみんなの所へ帰った。
★★★
「ホルスター・エレクトロンです。よろしくお願いします」
皆の所へ帰ってきた俺たちは、早速ホルスターをヴィクトリアのお母さんとおばあさんに挨拶させた。
「あら、君がホルスター君?うん、中々見込みのありそうな子だわ。お姉さん、気に入っちゃった」
「本当にかわいい子だこと。おばさんも気に入ったわ」
二人とも一目見るなりホルスターのことを気に入ったようで、近寄っては頭をなでなでするのだった。
というか、ヴィクトリアのお母さん、ホルスターにしれっとお姉さんと呼ばせるようにしているし。
まるで、ヴィクトリアにお姉ちゃんと呼ばせているセイレーンみたいだ。
……って、そういえばヴィクトリアのお父さんとお母さんはいとこ同士だったな。
ということは、ソルセルリとセイレーンも……。
まあ、余計なことは考えないでおこう。
バレたら、後が怖そうだし。
さて、これでホルスターの紹介も済んだことだし、ファウンテンオブエルフのヒッグス家の商館へ帰ることにする。
「『空間操作』」
俺は転移門を作ると、皆を連れて帰るのだった。
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