第238話~あなたたち、まだまだですよ~

 ヴァレンシュタイン王国の王都へ来た俺たちは早速そのドラゴンステーキのお店へ向かった。


「あ、ホルストさん、ここです。ここ」


 店に着くととたんにヴィクトリアのやつがはしゃぎだす。

 というか、お前、もしかして自分が単にドラゴンのステーキが食いたかっただけでは?と疑ったが、まあ、それはいい。


 今日はそもそもエルフのお祭りの日だから、例えヴィクトリアのお母さんたちが来なくても、どこかへ外食に行くつもりだったからな。

 元々の予定とそんなにかけ離れているわけでもないので、別に構わない。


 それでも少々高くついた気もするが、俺は家族のためなら、お金を惜しむ気はない。

 ここでお金をケチって、ヴィクトリアがお母さんたちに何か言われたらかわいそうだからな。


 さて、それはともかくご飯にするとしよう。

 俺は夕日がさす中、レストランの扉に手をかける。


「こんにちは」


 そして、そのまま店の中へと入って行くのだった。


★★★


 『ドラゴンたちの宴』

 俺たちが入った店の名前だ。

 店の名前からすると、ドラゴンたちが楽しく宴会でもしておいしいものを食べているような感じがするが、実際に食われるのはドラゴンたちの方だ。


「どっか別の世界で読んだ小説みたいなオチの名前ですね」


 ヴィクトリアが店に入る時にそんなことを言っていた。


「ほう、そんな小説があるのか」

「はい、異世界のお話なので詳しいことは話せませんが、ありますね」


 ヴィクトリアによると、おいしい料理がたくさん出てきそうな名前のレストランに入った客が、逆に食べられそうになって何とか逃げだすとかいう話らしい。

 それを聞いて、確かにオチが似ている、と思った。


 それはそれとして、席に着くと注文をする。


「お母さんは、この極上ドラゴン胸肉のフルコースがいいわ」

「おばあちゃんは、ドラゴンサーロインのフルコースがいいわね」


 ヴィクトリアのお母さんとおばあさんは迷うことなく店で最も高いメニューを注文する。


 ……まあ、別にいいんだけどね。

 二人は久しぶりに下界で遊んでいるみたいだし、この位はね。

 というか、娘のヴィクトリアも食い物に関しては遠慮が無いから、こんなものだという気もする。


「他のみんなは、ドラゴン胸肉のフルコースとドラゴンサーロインのフルコースのどっちがいい?」


 俺はお母さんたちに気を遣わすのも悪いと思い、皆にもどっちかを食うように促す。


「私は胸肉の方で」

「ワタクシはサーロインで」

「アタシもサーロインかな」

「銀はハンバーグ食べちゃダメですか?」

「いいよ。食べたいのを食べな。って、俺は胸肉だな」


 ということで、ドラゴン胸肉のフルコースが3と、ドラゴンサーロインのフルコースが3に、ドラゴンハンバーグを頼んだ。


「畏まりました」


 注文を受けたウェイターさんが下がってしばらくすると、ワインと前菜が運ばれてくる。

 このワインは、料理に合うワインをお任せでと言って頼んだやつだ。

 多分、うまいのだと思う。実際。


「あら、このワインおいしいわね」

「うん、酒神の造ったお酒とまで行かないけど、かなりおいしいわね」


 と、おばあさんとお母さんも満足そうだ。

 というか、酒神の酒って何?ちょっと飲んでみたい。


「これはとてもおいしいですね。気に入りました。旦那様、お土産に一本買って帰ってもよろしいですか?」

「ワタクシも、夜にベッドで飲みたいので一本欲しいです」

「アタシはお土産には別にいいけど、お酒の苦手なアタシでもおいしいと思うくらいにはおいしいね」


 嫁たちも気に入ったようで、エリカとヴィクトリアに至っては買って帰るとまで言い出している。

 俺たちは以前にノースフォートレス近くのダンジョンで大量のワインをゲットした事があるので、今更という気がしないでもないが、エリカに言わせると、ワインとの出会いは一期一会なのだという。


 だから、これはと思ったワインを見つけたら買っておくのだそうだ。

 よくわからないが、奥さんが欲しいっていうのなら俺としては買わないという選択肢はないからな。


「すみません。このワイン、お持ち帰りで何本か売ってもらえますか」

「はい、畏まりました」


 そうやって早速ウェイターさんに注文するのだった。

 さて、そうやってワインを飲みながら前菜を食べていると。


「お待たせしました」


 メインの肉料理がやって来た。

 早速食べると。


「うん、うまいな」


 久しぶりに食べたドラゴンの肉はうまかった。


「あら、この世界のドラゴンは肉が柔らかくておいしいわね」

「おばあちゃんも、ドラゴンを食べたのは久しぶりね。なんか久しぶりにドラゴン狩りに行きたくなったわ」


 ヴィクトリアのお母さんとおばあさんも満足そうだ。

 というか、おばあさん、ドラゴン狩りに行くのを魚でも釣りに行くかのように言わないでください。

 人に聞かれたら、頭がおかしいと思われてしまうので。


 と、まあこんな感じで楽しく食事は進んでいくのであった。


★★★


 食事の後はヴァレンシュタイン王国の王都のホテルに泊まった。


 とりあえず風呂に入って出てくると、


「お母様におばあ様。ここの美容マッサージ、とても気持ちがいいんですよ」


そんなことを言いながら、ヴィクトリアがお母さんたちをマッサージに誘っていた。


「あら、いいじゃない」

「おばあちゃんも行きたいわ」


 誘われたお母さんたちは速攻で賛成して、嫁たちともどもマッサージに行ったのだった。

 何か銀もついて行っていたが、銀はマッサージに行ったのではなく、


「銀ちゃん、暑いから髪の毛切りたいんだって」


と、嫁たちを待っている間に髪を切ってもらうつもりみたいだ。


 ということで、俺は一人ホテルのレストランで王都の夜景を見ながらコーヒーを飲んでいた。

 いくら王都といえども、夜は暗い。

 一部重要地区には街灯が設置されて、夜でもかなり明るいところがあるがそれ以外は暗い。


 後、夜でも明るい場所と言えば昨年俺が強制的に生かされてヴァンパイアと戦う羽目になった歓楽街くらいのものだろうか。

 去年のヴァンパイアの事件で結構損害を受けたそうだが、今はもう完全に復旧しているようで、建物とかが新しくなった分、以前よりも賑わっているようだ。


 それを聞くと、人間の欲望って恐ろしいな、と思うのだった。


 そうやって、レストランで二時間ほどのんびりしていると。


「旦那様、ただいま帰りました」


 エリカたちが帰ってきた。

 見ると、マッサージのおかげなのだろう、皆肌がつやつや輝いていた。


「みんな、より美人度が上がったな」

「そうですか?褒めてもらってうれしいです」

「ホルストさん、もっと褒めてください」

「ホルスト君にそう言ってもらえると嬉しいな」


 俺に褒められた嫁たちは嬉しそうに笑うのだった。


「とっても良かったわー」

「おばあちゃん、こんなに気持ちの良いマッサージ初めてだわー」


 ヴィクトリアのお母さんとおばあさんも満足そうだ。

 二人に喜んでもらえてとても良かったと思う。


「ホルスト様、どうですか?」

「うん、いいんじゃないかな」


 銀も髪をバッサリと切っていた。

 腰くらいまであった髪が肩甲骨くらいの長さになっていた。

 夏らしくすっきりしてていいと思う。


「その髪型なら、ホルスターも褒めてくれると思うぞ」

「そうですかね。ホルスターちゃん、長い髪の女の子がいいって言ってたから、ちょっとバッサリ切り過ぎたかなと不安だったんです。ホルスト様にそう言ってもらえると、安心です」


 息子よ。お前もか。

 俺は一瞬そう思った。

 やはり血は争えないのだろうか。自分の息子も髪の長い女の子がいいらしかった。


 まあ、いつも俺が嫁たちの髪を褒めているのを見て真似しているだけかもしれないので断定はできないけどね。

 ただ、ホルスターは髪が短くなったくらいで女の子の扱いを変えるような子ではないから安心してもらって大丈夫だと思う。


 さて、これで用件は大体終わったようだし、後は就寝時間までのんびりするとしよう。


★★★


「あなたたち、このままではダメよ!」


 就寝前、ホテルのレストランでみんなで飲み物を飲みながらのんびりしていると、ヴィクトリアのお母さんが突然そんなことを言ってきた。

 それもとても真剣な口調で、だ。


 今までののほほんとしたお母さんしか知らない俺たちは非常に驚いた。


「お母様、急にどうしたのですか?何か変なものでも食べたのですか?」


 心配したヴィクトリアがそう声を書けるつと。


「そんなわけないでしょ!ふざけているんじゃないわよ!」


 そうヴィクトリアを怒鳴りつけたので、どうやら本気なようだった。


「それで、お母さん、何がダメなのでしょうか」

「あなたたちの魔法よ。、ま・ほ・う!」

「魔法ですか」

「そうよ。実は私ね、天界からあなたたちがダークエルフの神木と戦うのを見ていたのよね」


 どうやらヴィクトリアのお母さんは俺たちが魔樹と戦う様子を見ていたらしかった。

 それで、見た結果。


「あなたたち、確かに素晴らしい魔法を使うわ。でも、使い方はまだまだね。魔力の使い方に無駄が多いし、魔法の潜在力を十分に引き出せているとは言えないわ。合体魔法とかも確かに自力で開発したのはすごいけど、あれだってまだまだ向上の余地があるわ。魔法を司る女神として断言してあげる。このままだと、これから先に出てくる強敵に対抗できなくなるわ」


 そのお母さんの発言を聞いて、場が静まり返る。


 確かに俺もそれは思っていた。

 ジャスティスに指導してもらった武術に比べて、確かに魔法は一歩劣るところがあるな、と。


 エリカたちも頑張って修行はしているものの、自分のやり方で本当に良いのかという迷いがあったのだろう。

 魔法の女神様にダメだと断言されて意気消沈していた。


 そんな意気消沈している俺たちにヴィクトリアのお母さんは優しく言ってくる。


「そんなに心配しなくても大丈夫よ。なぜなら、この私があなたたちに魔法を指導してあげるから」


 どうやら、ジャスティスに続いてソルセルリも魔法の修業をつけてくれるつもりの様だった。

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