閑話休題33~その頃の妹 さあ冒険を始めよう~

 レイラ・エレクトロンです。


 今日、とうとう待ちに待った日が訪れました。


「シスターレイラに、シスターフレデリカ、ご卒院おめでとうございます」


 とうとう私とフレデリカが修道院から旅立つ日が来ました。


 本当は8月ごろに卒院の予定だったのだけれど、頑張って修道院の授業を受けたことでちゃんと更生したと判断されて、2か月ほど卒院が早くなったのだ。


 本当、修道院のお偉いさん共はちょろいわ。

 ちょっと真面目にやっただけで、私たちが更生したって判断してくれるんだもの。

 こんなことなら、最初からもっと真面目にやっておけばよかった。


 まあ、過ぎたことはもういいわ。

 それよりもこれからだ。

 私はこれから冒険者になって、兄貴を見返してやるくらい稼いで、いい男を捕まえて幸せになってやるんだから。


 見ておきなさい、兄貴。

 幸せになった私をいやというほど見せてやるんだから。


★★★


 卒院の前日、私とフレデリカはこれからのことを話しあっていた。

 まず、お互いの実家から送られてきた荷物を開けて中身を確認する。


「私の方は魔法使い用の杖が2本とローブが1着。それに魔法の本が何冊かと愛用のポーチ型のマジックバッグ。それと実家からの資金援助として、金貨1枚と銀貨50枚か」


 私の方の荷物は以上だ。


 ちなみに、杖を2本送ってもらったのは1本をフレデリカに使わせるためだ。

 というのも、フレデリカのやつ、神様へお祈りを捧げているうちに信仰の力に目覚めてしまったらしく、回復魔法を使えるようになってしまったのだ。

 神様なんて全然信じていないやつがどういうことだと思ったが、神様を信じていようがいまいが、お祈りをしているとそういうことがあるらしい。

 まあ、私も神様を信じていないけど回復魔法を使えるし、そんなものだろうと思う。


 ただ、私たちの売りが一つ増えたのでこれでパーティーも組みやすくなると思う。


 ということで、2本の杖のうち、私が上級学校へ上がる時に買ってもらった中級者向けの杖は私が使い、私が昔使っていた練習用の杖をフレデリカに使わせることにする。


「そっちの方はどう?」


 自分の方の確認が終わったので、私はフレデリカに確認する。


「こっちは、昔使っていた弓と矢、それに狩猟用の装備に、ナイフとかの道具一式に、支援金の銀貨200枚が入っていた。それと……ジャ、ジャーン」


 そう言ってフレデリカが見せてきたのは2つのウィッグだった。

 前にここから脱出する時に使ったのと同じものだった。


 ここでは、修道院を出る少し前から髪を伸ばし始めてもいいことになっている。

 だから、今の私とフレデリカは坊主頭ではない。

 ただ、そんなにすぐに髪が伸びるわけがなく、私たちの髪形はいいところ刈り上げベリーショートといった感じだった。


 ということで、このまま外で働くのは恥ずかしいので、こうやってウィッグを調達したというわけだ。

 早速被ってみると。


「うん、結構いいんじゃない?」


 ウィッグを被ると、二人とも肩につくくらいのミディアムヘアに変身した。


 私は十分に満足した。

 これなら冒険者としても十分やっていけそうな気がした。


★★★


「今までお世話になりました」

「頑張るのよ」


 最後に修道院の人たちとそうやって別れのあいさつを交わすと私たちは修道院を出た。

 とりあえずここから近い王都の冒険者ギルドへ行き、そこで冒険者生活を始めようと思っている。


 さあ、希望に満ちた冒険者生活の始まりだ!


★★★


 一方その頃。ここはエルフの王都。

 ここではホルストがエリカのお父さんと久しぶりに連絡を取っていた。


「ホルスターが魔法を使ったというのは本当ですか?お義父さん」


 俺はエリカのお父さんからホルスターが魔法を使ったと聞いて、驚いていた。

 俺の息子はこの前2歳になったばかりだ。

 それなのにもうそんなに魔法を使えるとか、我が子とはいえ信じられなかった。


「ああ、本当だよ。大ぜいのものが実際に見ているしね。それで、家庭教師の件はどうするね」

「そうですね。僕もホルスターに家庭教師をつけるというのには賛成ですね。ただ、人選に関しては少し待ってください。エリカと少し相談しますので」

「うん、わかった。それでいいよ。ところで、ホルスト君の妹のレイラちゃんなんだけどね」

「え?あのアホがまた何かやらかしたんですか?」


 その俺の疑問をお父さんが否定した。


「いや、そんなことはないよ。ただ、レイラちゃん今度修道院をめでたく卒院するそうなんだけどね。レイラちゃん、卒院したら冒険者になるって言っているらしいんだ」


 冒険者?

 俺はあいつは何を言っているんだと思った。


「えーと、お義父さん。確かお義父さんに聞いた話だと、レイラのやつにはとりあえず一人暮らしをさせて、反省している態度を世間に見せて、ほとぼりが冷めたらお義父さんの紹介で、軍の若い奴とお見合いさせて、お互いが気に入れば結婚させるとか、そういう話ではなかったですか?」

「僕もオットーに頼み込まれてそういうつもりでいたのだけど、レイラちゃん何か勘違いしたみたいで、冒険者になるって聞かないらしくて、仕方がないから、オットーも冒険者になるために色々送ってやったようだよ」


 ガッデム。

 本当にあのバカは……。

 俺は内心苦々しく思った。


「でも、お義父さん。あいつに冒険者なんか出来っこないですよ。あいつ、魔法はそこそこでしたけど、お釣りの計算もできないくらいには計算に弱いですし、自炊もできないし、他の家事もほぼ全滅です。絶対に冒険者向きではないです。絶対に失敗します」

「僕もそんな気がするけど、本人が選んだ道だからね。見守るしかないさ」


 お父さんの発言を聞いて俺は愕然とするしかなかった。


 俺には妹のバカが失敗する未来しか見えなかったからだ。

 どうせあいつのことだから、俺が成功しているのを見て楽に稼げるとか思って冒険者になろうとしているのだろうが、世の中そんなに甘くない。

 確実にあいつは失敗して、周囲に迷惑をかけまくると思う。


 こうなったら仕方ない。

 あいつとは他人のふりをして、こっちに迷惑をかけられないようにするしかなかった。


 クソ!レイラめ!俺はもう知らんからな。

 失敗しても冒険者なんだから、自分で責任はとれよ。


 自分でやったことの責任は自分で取れ。

 それが冒険者の掟だ。

 自分でその道を選んだ以上は、その現実を甘んじて受け入れろよ。


 もし、俺を頼ってきたりしたら、容赦なく実家の座敷牢にでもぶち込んででやるからな。


 妹の身勝手さに怒れる俺はそうすることに決めたのだった。


 そして、その俺の想像が当たってしまうことを、この時の俺はまだ知らなかった。


ーーーーーーー


 これにて第11章終了です。


 ここまで読んでいただいて、気にっていただけた方、続きが気になる方は、フォロー、レビュー(★)、応援コメント(♥)など入れていただくと、作者のモチベーションが上がるので、よろしくお願いします。


それでは、これからも頑張って執筆してまいりますので、応援よろしくお願いします。

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