第234話~エルフの仙薬~
ネイアさんに黄金のリンゴを渡して3時間ほどが経った。
「ようやく『エルフの仙薬』が完成しました」
するとネイアさんがようやく出来上がった薬をもって控室に入って来た。
早速それをもって王様の寝室へと向かう。
「うん、ネイア……か」
寝室に入ると、ちょうど王様の意識が覚醒したところだったようで、ぼんやりとした表情でこちらを見てきた。
そんな王様の前へ俺たちは膝まずき、ネイアさんが一歩出て、王様に薬を差し出す。
「ネイア、この薬は?」
「ホルスト様からいただいた黄金のリンゴで作った『エルフの仙薬』でございます。これを飲めば、王様もたちまちお元気になられることでしょう」
それを聞いて王様が驚いた顔になる。
「『エルフの仙薬』?まさか、本当に手に入ったのか」
「はい。ホルスト様のおかげで手に入りました。さあ、どうぞ」
「うむ」
ネイアさんに『エルフの仙薬』を渡された王様は一気にそれを飲み干す。
「おおおおお」
すると、薬を飲んだ王様の体が黄金色に輝き出す。
しばらくの間王様はそうやって輝いていたが、やがて光が王様に吸収されるように消えてしまう。
ここで、ネイアさんが声をかける。
「王様、気分はいかがでしょうか?」
「うむ、何というか、今までの不調が嘘のように治っておる。これが『エルフの仙薬』の力なのか」
どうやら王様の体調は元に戻ったようだ。
それを見て、これで心配事が一つ片付いたと、俺はホッとするのだった。
★★★
「ほほう。つまり、その太陽の神殿の神官長が黒幕だということか」
「はい、その通りです」
王様の体調が戻った後、俺たちはダークエルフの国での出来事を王様に話していた。
「その太陽の神殿の神官長は、ダークエルフの王様を暗殺して自分がダークエルフの王になることを企んでおり、魔樹を暴走させ、ダークエルフの王様が呪われるように仕組んだのです。その呪いに王様も巻き込まれたのだと、自分たちは考えています」
「なるほどのお」
俺の説明に王様は大きく頷き、腕を組む。
それを見ていると、俺の話を王様は納得してくれたのだと感じた。
「それで、その神官長はどうなったのだ」
「はい。神官長の悪事を見かねた太陽神リンドブル様が天から降臨なされて、神官長の悪事を暴き、リンドブル様の怒りに触れた神官長は天罰を食らい地獄へ堕ちました」
「何とリンドブル様が……どうやらそなたたちは天に愛されているようだな」
「愛されている……のですか」
「そうだ。神は下界のことにほとんど干渉しないと聞く。それなのにそなたらを助けるために降臨されたというのはすごいことだと思うぞ。その上、我が神官長の話によるとそなたたちは『神に選ばれた者しか入れぬ神との約束の地』で、黄金のリンゴを手に入れたというではないか。そのような者たちが神に愛されておらぬわけがなかろう」
王様の話を聞いて、俺は周囲の人間からは俺たちはそんな風に見えるのかと思った。
そして、今がチャンスだとも感じた。
だから、例のことを頼んでみることにした。
「愛されているのかどうかは何とも言えませんが、実は自分たちには一つ秘密があります」
「ほう、秘密、とな?」
「実は、自分たちは女神アリスタ様から神命を受けているのです。今、この世界に邪神の復活を企てている者がいる。だから、それを阻止してほしい。そう頼まれています」
とうとう言ってしまったと俺は思った。
普通の人間ならこんな話を聞いたら俺たちのことをうさん臭く思うだろう。
だが、王様は俺たちのことを信じてくれる。
その確証があったから俺は話した。
案の定。
「にわかには信じがたい話ではあるが、そなたたちはそのような嘘をつくような人間ではない、な」
なんか信じてくれそうな雰囲気だった。
「その通りです。ホルスト様は魔樹をあっという間に倒されてしまわれるような方。その上、黄金のリンゴまでお持ちでした。神が神命を授け、そのために援助なさっても不思議ではないお方です」
さらにネイアさんがそうやって援護射撃をしてくれたので、王様も俺たちのことをすっかり信じてくれたようだ。
「そうだな。神官長の申す通りだ、私もそなたたちの言うことを全面的に信じるとしよう。それで、そなたたちには何か頼みがあるのであろう?さもなければ、このようなことを話したりはしまい。できるだけ協力するから話してみるがよい」
やった!成功だ!
俺は作戦がうまく行って、内心ほくそ笑むのだった。
ということで、早速お願いしてみる。
「実は、このエルフの森にその邪神を封じている遺跡の一つがあるみたいなのです。どこにあるのか詳しくはわかっておりませんが、多分、エルフの伝承を聞いたところでは禁足地にあるものと思われます。ですから、引き続き禁足地に立ち入り調査する許可をいただけませんか」
「何だ、そのようなことか。よいだろう。思う存分禁足地の調査を行うがよい。そして、この世界を邪神から守ってくれ」
「はは、ありがたき幸せ。このホルスト、必ずや王様の期待に副えるように努力いたします」
こうして俺たちは遺跡調査の許可を得ることに成功したのだった。
その後はしばらく王様と雑談し、まだ王様が病み上がりのこともあって、1時間ぐらいで退席したのだった。
★★★
それから2日後。
俺たちは王宮の謁見の間でエルフの王様と謁見していた。
「ホルストよ。そなたらのおかげで私の病もすっかり良くなった。感謝する」
謁見では、まず最初に王様からそうやってお褒めの言葉をいただいた。
「はは、お褒めいただき恐縮至極にございます。しかし、手前どもは依頼を果たしたにすぎません」
「ほほう、何と謙虚なことよ。しかし、依頼を果たしたのであろうがなかろうが、そなたたちが期待以上の成果を果たしてくれたことに間違いはない。よって、褒美を取らそう。財務官、これへ」
「はは!」
王様の命令で、財務官が何やら一つ箱を持ってきた。
王様は財務官から箱を受け取ると、俺に渡してくれた。
「王様、これは?」
「うむ、開けてみるがよい」
王様に言われて開けてみると、中には赤い宝石が入っていた。
「それは赤い瞳という」
「赤い瞳……ですか?」
「うむ、それは初代のエルフ王から代々受け継がれているものでな。この世に再び神に遣わされた勇者が現れた時、それを渡せと伝えられておる。ホルストよ」
「はは!」
「そなたこそまさに神が遣わした勇者に違いない。それを使って世界を救ってくれ」
「はは!必ずや」
「うむ、頼んだぞ。後、これもやろう」
そう言うと王様は何やらビンのようなものを渡してきた。
全部で5本あった。
「王様、このビンは?」
「うむ、私に使った『エルフの仙薬』の残りだ。これをお前たちに渡しておこう」
「『エルフの仙薬』ですか。しかし、これは……」
「ホルストよ、何も言わなくてよい。確かに『エルフの仙薬』はエルフの秘伝中の秘伝。簡単に外に出してよいものではない。しかし、この材料となる黄金のリンゴは神がそなたたちへ与えたもの。となれば、残りはそなたたちが持つべきであろう。それに、『エルフの仙薬』は一度しか効果がないのだ。だから、私には二度と効かぬ。ゆえに遠慮なく持って行くがよい」
「はは、そこまでおっしゃっていただけるのなら、ありがたくいただきます」
ということで、俺は『エルフの仙薬』をもらったのであった。
褒美の下賜が終わったので、これで謁見の儀式は終わりだ。
最後に王様が声をかけてくれる。
「では、ホルストよ、行くがよい。行って世界を救うのだ」
「はは、必ずや」
最後の挨拶が終わると、俺たちは退席した。
★★★
「ホルスト様、ご立派でしたよ」
謁見の儀式の後、俺たちはネイアさんと面会した。
「そうですかね」
「ええ、ご立派でしたよ。王様もお喜びです」
あまりにも褒めてくれるので、俺は思わずニッコリとしそうになるが、背後に嫁の目があることを思い出し、ぐっと我慢する。
「それで、ホルスト様。明日のことなのですが」
「明日?」
「はい、王様もお元気になったことですし、明日前に言っていたお祭りが開かれます。だから、ホルスト様たちもぜひお越しください。王様のすぐ近くの席を用意してお待ちしております」
お祭りか。
そういえばそんなことを言っていたな。
俺は嫁たちの方を見る。
すると、皆とても行きたそうな顔をしていた。
「わかりました。是非お伺いさせていただきます」
「はい、お待ちしております」
ということで、俺たちはお祭りに参加することになったのであった。
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