第233話~黄金のリンゴ~
「それでは、失礼します」
「ああ、気を付けて帰りなさい」
宴の翌日、ダークエルフの王様たちに見送られながら、俺たちはダークエルフの王都を離れた。
魔樹も何とかできたし、ダークエルフの王様の具合も良くなったし、ここでの用件は全部済んだ。
ということで、ここらでエルフの王様がどうなったか、確認に帰らなければならなかった。
「さようなら」
そう言いながら、王都を離れた俺たちはしばらくの間街道を進んだが、やがて。
「『空間操作』」
人影がなくなったところで一気に空間転移した。
行先はエルフの国の禁足地へ行くための門だ。
さすがにここを通らずに帰ってしまったら、どうやって帰ってきたのだろうと思われるからだ。
門の少し手前に転移した俺たちはそのまま門へと進み、門をたたいて門番の兵士に帰還を告げる。
「今、帰ったぞ」
「これはホルスト様。お帰りなさいませ」
そう言いながら門番が門を開けてくれる。
「首尾はいかがでしたか?」
「うん、何とかうまいことやり遂げることができたよ。これで、すべてうまく行ってくれるといいんだけどね」
「左様ですか。それはおめでとうございます」
「ありがとう。だから、ファウンテン オブ エルフへは急いで帰るとするよ」
「は!お気をつけて」
門番とそんな会話を交わしながら門を通過すると、それからさらに街道を進み、また人影がない場所まで行くと、今度はエルフの王都近くまで一気に転移する。
そして、そのまま二つの女神の神殿まで行き、神官長のネイアさんに取り次いでもらう。
なぜ王宮に直接行かないのかって?
それは簡単だ。
そもそもエルフの王様が病気で臥せっていることは国民には内緒にされている。
それなのに俺たちのような一般人がたびたび王宮に行って、王様に会っていたら世間が怪しむだろう?
だから、ことが終わって帰ってきたら神殿に顔を出す手筈となっていたのだ。
ネイアさんに連絡を付けた後、しばらく客間で待っていると。
「ホルスト様」
息を切らせながらネイアさんが駆け込んできた。
かなり急いできたらしく、激しく呼吸が乱れていた。
そんな汗だく姿のネイアさんは部屋に入ってくるなり、こう言った。
「それで、魔樹の討伐に成功したのですね。さすがホルスト様です。すごいです」
「ああ、確かに成功しましたけど、どうしてそれが分かるのですか」
「はい、それはですね。今まで全く効果を示さなかった薬が王様に効くようになったからです。だから、これはホルスト様たちがきっと魔樹を討伐されたからに違いない。そういうことになっていまして」
「ほう、そうなんですか。それは何よりですね」
どうやらエルフの王様にかかっていた魔樹の呪いは解除されたようだった。
それを聞いて俺はホッとしたが、ネイアさんの顔はまだ暗かった。
「どうかしたのですか。王様は薬が効いて快方へ向かっているのでしょう?」
「それがそううまく行っていないのです。ホルスト様方。私は今から王宮へ向かいますので、ご同行していただけませんか」
疑問に思った俺がネイアさんにそう尋ねると、ネイアさんは何やら必死な顔でそう頼みこんできた。
俺たちとしても相当深入りした案件だ。
王宮へ行くのに否やはなかった。
「ええ、行きましょうか」
ということで、俺たちはネイアさんと共に王宮へ向かうのだった。
★★★
「こちらでございます」
王宮へ着くと、俺たちは執事さんの案内で再び王様の寝室へ向かった。
「失礼いたします」
ネイアさんが先頭に立って寝室に入って行く。
「おお、来てくれたか」
寝室に入った俺たちを王様が出迎えてくれるが、その声はどこか弱弱しかった。
見ると、王様の横にはこの前の時と同じように王妃様と王女様もいた。
だが、二人ともどこか悲しそうな顔をしていた。
そんな王様にネイアさんが声をかける。
「王様、ご気分はいかがですか」
「うむ、少しは良くなった気が……ううう、ごほごほ」
「王様、無理をしてはいけません」
ネイアさんに返事をしようとした王様がせき込むのを見て、ネイアさんが慌てて処置に入る。
それを見て、王妃様と王女様が王様の側に寄っていき、
「あなた!しっかりなさってください」
「お父様!」
二人して目に涙をためながら王様のことを励まし続けるのだった。
しばらくネイアさんが薬を飲ませる等の処置を続けると、やがて王様の症状も落ち着き、王様は深い眠りに入る。
王様の症状が落ち着いたので、王妃様と王女様がホッとした症状になる。
王様が寝静まったところで、ネイアさんは俺たちを連れて寝室を出る。
そして、寝室の隣の控室に俺たちを連れて行くと、事情を話してくれるのだった。
★★★
「ホルスト様たちのおかげで魔樹の呪いが解除されて、治癒の薬の効果が王様に及ぶようになりましたが、最早手遅れだったのです」
俺たちの前でネイアさんはそんな風に話を切り出してきた。
「手遅れだったのですか」
「はい。ホルスト様が魔樹の呪いを解いてくださったときには、王様はどんな薬も受け付けないほどに弱り切っていたのです」
俺の問いにネイアさんはそう答えた。
「それは例の……『エルフの秘薬』を使ってもダメだったのですか?」
「はい。薬を使った直後はわずかに症状が良くなるのですが、すぐにまた症状が悪化してしまうような状況でして。ここまで生命力が落ちてしまっては、正直手の施しようがありません」
そういうネイアさんの顔はとても悲しそうだった。
もう本当に打つ手がないのだろうと思う。
それでも、何か希望は残っていないのかと思い、俺はネイアさんに聞いてみる。
「本当に何も手はないのですか?俺たちにできることなら、できる範囲で協力しますから何でも言ってみてください」
「……実は一つだけ手があるかもしれません。実はエルフに伝わる秘伝中の秘伝の薬に『エルフの仙薬』というものがあるのです。これは『エルフの秘薬』をも超える治癒効果を持っていて、不治の病でも直してしまうという薬なのです」
「ほう、そんな薬があるのですか」
「ただ、この薬は作るのがものすごく難しいのです。何せこの薬を作るには、『黄金のリンゴ』というどんな万病をも直してしまうという伝説のリンゴが必要なのです」
「『黄金のリンゴ』ですか。それはどこに行けば手に入るのですか」
「それが皆目見当つかないのです。伝承によれば、『神に選ばれた者だけが入れる神との約束の地の森』にあるということですが、これだけではどこかわかりません。ですから、手に入れるのは不可能に近いと思います」
そうか。どこにあるのか全然わからないのか。それならちょっと無理かも。
と、そう思った時、俺はふと気が付く。
黄金のリンゴ?その名前どこかで聞いたような気がするな。
どこでだったんだろう。……あ!そうだ!
ない頭で必死に考えて、ようやく思い出した俺はネイアさんにこう言う。
「ネイアさん。その黄金のリンゴ。すぐにお渡しすることができますよ」
その俺の発言を聞いて、ネイアさんが驚いた顔になる。
「本当ですか?ホルスト様」
「本当ですよ。ということで、ヴィクトリア」
「はい、なんですか?」
「確か、収納リングの中に、希望の遺跡で手に入れた黄金のリンゴがあっただろう。あれを出せ」
「黄金のリンゴ?そんなのありましたっけ?」
「ほら、森のエリアで狐たちが教えてくれた木に生えていたやつだよ」
「狐?……あ、そういえば、そんなこともありましたね」
「やっと思い出したか。というわけで、王様の薬を作るのに必要みたいだから出してくれよ」
「ラジャーです」
俺に指示されたヴィクトリアがすぐさま収納リングの中をチェックし始める。
5分後。
「じゃじゃーん。これですね」
ヴィクトリアが収納リングからようやく黄金のリンゴを取り出す。
収納リングの中では時間が経過しないので、黄金のリンゴは手に入れた時と同様に金色に光り輝いていた。
それを見て、ネイアさんの顔がパッと明るくなる。
恐る恐るという感じでヴィクトリアから黄金のリンゴを受け取ると、それをギュッと握りしめる。
「ありがとうございます。これこそ、まさに黄金のリンゴ。これで『エルフの仙薬』が作れます。王様の病が直せます」
「そうですか。それは良かった。それではその薬をすぐに作ってください。王様の症状を見るに、もうあまり時間はないと思いますよ」
「そうですね。それでは早速……」
そう言うと、ネイアさんは控室を出て、薬の調合に向かうのだった。
やれやれ、これで王様の病気も何とか治りそうだな。
俺はそう思い、ホッとするのだった。
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