第232話~再び、ダークエルフの王都へ~

「『空間操作』」


 魔樹を倒し、魔樹復活のための種を手に入れた俺たちはダークエルフの王都へと帰還した。

 開かずの門の少し手前まで転移し、そこから馬車で門へ向かう。


 門に着き、どんどんと門をたたくと、


「誰だ!」


と、門の向こうから声がした。


「ホルストだ。神木の救済を終え、今神木復活のための種を持ち帰った所だ」


 そう返してやると。


「こ、これは救い主様。失礼いたしました。ただ今門を開けますのでしばらくお待ちください」


 門番の兵士が慌てた声でそう言いながら、急いで門を開けてくれた。

 門が開いたので中へ入ると、


「お帰りなさいませ、救い主様。ダークエルフ一同、救い主様のお帰りをお待ちしておりました」


門番の兵士がそう言いながら、最敬礼で俺たちを出迎えてくれた。

 さらに。


「あ、救い主様だ」

「救い主様がお戻りになったぞ」

「救い主様、お帰りなさいませ」


 王都に住むダークエルフたちも総出で俺たちのことを出迎えてくれる。


「救い主様、ありがとうございます」

「救い主様、万歳!」


 あまりにダークエルフたちの歓迎ぶりがすごいので、ちょっと面食らってしまうほどだった。

 まあ、歓迎されてうれしいことはうれしいんだけどね。


 こんな感じでダークエルフたちに囲まれながら、俺たちは王宮へ向かうのだった。


★★★


「ホルストよ。よくぞ無事に戻って来た。私はお前たちに再び会えてとてもうれしいぞ」


 王宮に着いた俺たちは、すぐさま謁見の間に通され、ダークエルフの王と謁見した。

 会うなり王様はそうやって俺たちにねぎらいの言葉をかけてくれた。


 こうやって大勢の人が見守る前で、王様からねぎらいやお褒めの言葉を授かるのは何度も経験したが、俺の性分のせいなのか何度聞いても慣れる気がしなかった。

 そうは言っても、王様に言葉をかけてもらった以上は返礼の言葉を返さなければならない。


「はは、そうやってねぎらっていただけるとはありがたき幸せ。このホルスト。感謝いたします」


 そう型通りに返事しておいた。

 さて、そうやって帰還の挨拶も済んだことだし、本題に入る。


「このホルスト、リンドブル様、王様の依頼通り、神木を倒してまいりました。これで王様の呪いも解けたことと思いますが、ご気分の方はいかがでしょうか」

「うむ、そのことか。その点についてはそなたたちのおかげで、とても良くなったぞ。今までの体調不良が嘘のように消え、食欲が落ちていたのも元に戻って、普通に食べられるようになったのだ。そなたたちには非常に感謝しておる」


 そこまで言うと、王様は俺たちにぺこりと頭を下げてきた。

 王様に頭を下げられて恐縮してしまった俺は、慌てて手を振る。


「いえ、王様に頭を下げていただくなど恐れ多いことでございます。自分たちは単に仕事をこなしてきただけに過ぎないのですから」

「そう謙遜する必要はあるまい。そなたたちはそれだけのことをしてくれたのだから。皆の者、この者たちを称えよ!」

「ホルスト殿、万歳!王様、万歳!」


 王様の一言で、謁見の間にいる全員が万歳三唱し、それが終わると、部屋中に拍手の音がこだまする。

 ちょっと恥ずかしかったが、同時に称賛されて気分が悪いわけではなかったので、俺たちはしばらくの間、拍手の音に聞き入っていた。


 やがて、拍手が鳴りやむと、王様が再び声をかけてくる。


「それで、ホルストよ。もう一つの依頼の方はどうなっておる」

「もちろん、そちらの方も達成しております。ヴィクトリア、例の種子を出せ」

「はい」


 ヴィクトリアに言って魔樹の種子を出させると、恭しく王様に差し出す。


「おお、これが神木の種子か」


 光り輝く神木の種子を見て、王様は瞠目する。

 恐る恐るという感じで俺から種子を受け取る。

 種子を渡す時に王様の手が若干震えていたので、その緊張ぶりがよく伝わって来た。


 なお、渡す時に俺は神木の育て方について助言しておいた。


「この種子はひとまず王宮の庭に植えてある程度の大きさになるまで大事に育てた後、元の場所に植樹するといいと思いますよ」

「ほう、そうなのか」

「はい。死ぬ間際に神木が俺たちにそう話してくれました」


 もちろんこれは嘘だ。

 神木は最後にありがとうと言っただけだ。


 ただ、『世界の知識』で得た情報なので間違ってはいないし、俺の魔法について説明するのも面倒なのでそう言っておいた。


 ただ、その説明で王様は納得したようだ。


「そうか。神木様がそう申したのか。ならば、そのようにしよう」


 と言ってくれたのだった。


「さて、そうなると神木の世話は誰にやらそうかのう。やはり、太陽の神殿の神官にやらせるべきか。どう思うか、ホルストよ」

「神木は木を育てる者については何も言っていませんでしたが、それでよろしいのではないですか。ただ、神官たちは皆拘束されているのでは?」

「うむ、王都の神官はそうだな。奴らはすでに死刑かよくて追放になることが決まっておる。ただ、ダークエルフの国には他にも町があり、そこにも神官がいる。皆、神官長に逆らって左遷された真面目な者たちばかりだ。私はそれらのものをかき集めて神官団を再編するつもりだ」


 王様の話によると、神官の中でも真面目な人たちは、神官長のやり方に異議を唱えていてそのせいで地方に左遷されちゃったようだ。

 王様はそういう人たちを集めて神官団を再編する腹積もりのようだ。


 うん、とてもいいことだと思う。

 そうすればダークエルフたちもヴィクトリアのおじいさんをますます信仰するようになってダークエルフも栄えることになると思う。


 と、俺がそんなことを考えていると、王様が話題を変えてきた。


「さて、ホルストよ。長々と話をして待たせたな。それではこれから、お前たちに褒美をやるとしよう」


 どうやら王様が俺たちに褒美をくれるらしかった。


★★★


「ホルストよ。褒美をやろう」


 どうやら王様が俺たちにご褒美をくれるらしかった。


「宝物官」

「は!」


 王様の命令で部下が褒美の品を持ってくる。

 部下はそれを王様に渡し、王様はさらにそれを俺たちに渡してきた。

 代表して俺はそれを受け取る。


 王様がくれたのは1個の宝石だった。

 俺はこれと同じものを見たことがあった。


「王様、これは?」

「これは聖石というものだ。魔石と似たようなものだが、魔石よりも多くの魔力を蓄えられるという話だ。我が国の宝の一つだが、これはお前たちにやろう。お前たちはまだ旅を続けるのであろう?そうであれば、この石に蓄えられた魔力がお前たちを救うことになるかもしれん。遠慮なく持って行くがよい」

「はは、ありがたき幸せ。大事に使わせてもらいます」


 これは正直嬉しいご褒美だった。

 何せ高度な魔法を使えるようになったせいで、最近魔力をよく消費しているからな。

 足りなくなったりしたら、手持ちの聖石やマジックポーションでやりくりしているが、ここで1個聖石が増えるとやりくりが非常に楽になる。


 しかも王様は国の宝だというのをポンとくれるというのだ。

 太っ腹な王様には本当感謝しかなかった。


「それと、ホルストよ。これもやろう」


 俺が聖石をもらって喜んでいると、王様がもう一つご褒美をくれた。


「これは?」

「『ダークエルフの証』だ。これはダークエルフの信用の証である。それがあればすべてのダークエルフが友好的に接してくれるだろう」

「はは。聖石ばかりか、このような物までいただきありがとうございます」

「いや、ホルストよ。そなたたちはそれだけのことをしてくれたのだ。お礼を言うのはこちらの方だ。ありがとう」


 最後に王様が俺たちにそうお礼を言ってきて謁見は終了した。

 本当有意義な謁見の儀だった。


★★★


 王様との謁見の儀が終わった後は、お祝いの宴が開かれた。

 王都中がお祭り会場と化し、そこらじゅうでダークエルフたちがお酒片手に踊りまくっていた。


 そんな中、俺たちのパーティーは太陽の神殿の前で王様一家と一緒に座って祭りの様子を見物していた。

 王様一家は王妃様とまだ幼い王子様の3人家族で、楽しそうに踊りを見物していた。


 もちろん、俺たちも楽しんでいる。


「救い主様、どうぞお召し上がりください」


 そう言いながら、メイドさんたちが続々と料理を運んで来てくれる。


「銀ちゃん、すごいごちそうですね。今日はお腹が裂けるまで食べましょう」

「はい、ヴィクトリア様」


 特にヴィクトリアなど大喜びで、銀と一緒に運ばれてくる料理を次々に平らげている。


 というか、腹が裂けるまで食うって何よ。

 そんなことになったら死んじゃうんじゃないかな。

 このおバカ!口を開くときはもうちょっと考えてからものを言え!


 そうも思ったが、今日はお祝いの席だ。

 野暮なことを言うのもどうかと思い、俺は何も言わなかった。


 それよりも、俺はダークエルフたちの踊りを見物する。


 ダークエルフたちが今踊っているのは、『太陽の踊り』というものらしい。

 ダークエルフ伝統の踊りらしく祭りとか、めでたい席で踊るものらしかった。

 結構激しい動きの踊りで、これを身に着けるにはかなりの練習が必要そうだった。


「素敵な踊りですね」

「うん、いいね」


 ヴィクトリア以外の嫁たちも思わず見ほれるほどの踊りだった。

 俺も見ていて楽しい。


 特に女性の踊り子さんが躍る時に衣装の下がちらりと見える……。


 おっと、俺は何を考えているんだ。

 こんなことを考えているのが嫁たちにバレたら、また泣かれてしまうではないか。

 この前、飲みに行ったときに女性店員さんの胸を服の隙間からチラッと見ただけでも一晩中泣かれたというのに。

 俺の嫁さんたちはそんな風に俺の浮気?というか、よその女の子に興味を示すことに非常に厳しいのだ。


 俺は急いで頭を振り、邪念を振り払った。


 それでも、純粋に踊りを見るだけでも楽しいので、踊り見物は続けたのだった。

 こうして、楽しい夜は更けていくのだった。

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