第231話~魔樹を救え! 後編~

 俺の合成魔法『神の業火』が魔樹に命中し大爆発を起こす。

 暴走した魔樹は闇に堕ちているので聖属性を含んだ攻撃がよく効く。

 案の定。


「ヒイイイイイ」


 どこからともなく、悲鳴のような音が周囲に響く。


 魔樹はしゃべることができないはずだが、魂の雄たけびというのだろうか、とにかく魔樹の悲鳴のようなものが聞こえてきた。

 どうやら俺の攻撃は結構効いてくれたようだ。


 さて、第一撃はうまく行ったので、次へ行くことにする。


「みんな、準備はいいか?」

「「「はい」」」


 俺が嫁ズに問いかけるといい返事が返ってきた。

 うん、いい返事だ。これなら行けそうだ。

 そう思った俺は作戦を決行する。


 俺たちの作戦は単純明快だ。

 大火力の魔法を放ち、魔樹のコアを覆っている樹皮を一気にはぎ取った後、コアに特大の一撃を叩き込み破壊する。


 簡単な作戦だろう?


 多分、これが一番確実な作戦だと思ってこれを選択したのだ。

 いや、むしろこれ以外の方法が思いつかないくらいだ。

 こんな巨大な魔樹にちまちました攻撃を当て続けてもらちが明かないと考えたからだ。


 幸いなことに、実験的な意味も込めて放った俺の『神の業火』は魔樹にかなりのダメージを与えていて、いい感じで魔樹の樹皮を削り取っている。


 ということで、作戦続行でいいと思う。


★★★


 そうはいっても、魔樹だってやられっぱなしというわけではない。


「来るぞ!」


 魔樹が攻撃を仕掛けてくる。


 自身の枝を鞭のように振り回し、俺たちに襲い掛かってくる。

 何せこれだけ巨大な木の枝だ。

 長さも太さも並外れていて、枝だけでも下手な木くらいの大きさがある。

 それがしなって勢いをつけて襲い掛かってくるのだ。

 普通の冒険者なら迎撃は困難だろう。


 だが、俺たちは普通ではない。

 それだけの努力をしてきたのだ。


「はあああああ」

「うおおおおお」


 俺とリネットの二人が前面に立ち、枝の前に立ちはだかる。

 そして、俺はクリーガ、リネットはオリハルコンの斧を振り回し、バッタバッタと迫ってくる枝を切り落としていく。


 何せジャスティスの修業を受けた俺とリネットの連携攻撃だからな。

 何百、何千という枝が襲ってきたが、今の所一本たりとも俺たちの守りを突破できそうになかった。


 ただ、魔樹の攻撃はこれで終わりではない。


「ホルスト君、トゲだよ」


 リネットが俺に警告してくる。


 見ると、俺たちの方に無数のトゲが向かってきている。

 枝を振り回しても俺たちに通じないのを見て、攻撃方法を増やしてきたのだと思う。


 このトゲも、枝同様、巨木のトゲにふさわしく大きかった。

 多分、人の拳くらいの大きさがあると思う。

 まともに命中すれば、熊の頭ぐらいだったら一撃で吹き飛ばせそうだ。


 ただ、それでも俺たちには届かない。


「『神強化』」

「『戦士の記憶』よ!力を貸して!」


 俺とリネットはともに身体強化の強度を上げる。


「あたたたた」

「おりゃあああ」


 身体強化の強度を上げた俺たちの攻撃で、トゲもすべて迎撃される。

 しかし、魔樹はさらに追加の攻撃を放ってきた。


「ホルストさん、魔樹が怪しく光っています」

「あれはグランドタートルの荷電粒子砲と似たような感じがします。旦那様、お気をつけて」


 今度はヴィクトリアとエリカが警告してくる。


 二人の言葉通り、魔樹の一部が怪しく光り出す。

 そして、そこから一筋の閃光が放たれる。

 確かにグランドタートルの荷電粒子砲のような技だ。

 ビイイイと、空気を切り裂く音を立てながら閃光が俺たちに迫ってくる。


「『防御結界』」


 だが、ヴィクトリアがそれらの攻撃を魔法で防いでしまった。

 どうやら、魔樹の光線にはグランドタートルの荷電粒子砲のような威力はないようだった。


「『火槍』」


 もちろん、こちらも一方的に攻撃されているわけではない。

 魔樹の攻撃の隙を縫ってエリカが反撃を試みる。


 だが。


「旦那様、ダメです。黒い、多分闇属性と思われるバリヤーのせいで魔法が届きません」


 どうやら魔樹は闇属性のバリヤーを張ってこちらの攻撃を防いでいるようだ。


 3種類の性質の異なる攻撃に魔法のバリヤー。

 これは厄介だった。

 今のところ互角の戦いというていになってはいるが、このままでは持久戦になってしまう。

 そうなると、俺たちの方が体力、魔力的に不利だと思う。


 となると、この状況を打開するための手を打つ必要があるな。

 俺はそう考え、作戦を考えるのだった。


★★★


「みんな、聞いてくれ!」


 俺は皆に考えた作戦を伝える。


「俺とリネットで一時的に魔樹の攻撃を何とかするから、エリカとヴィクトリアはあの魔樹のバリアを何とかしてくれ。バリアが何とかできたら、二人は防御に戻れ。そうすれば、俺が一気に魔法で何とかしてみせるから」

「バリアを何とかって……何とかなるのでしょうか」

「わからないが、お前たちには合体魔法があるだろう?聖属性の魔法と聖属性の魔法を合体して放てば、俺にはあれを突破できそうな気がするんだが」

「なるほど、いい考えですね。それではヴィクトリアさん、やってみましょうか」

「はい」


 エリカとヴィクトリアが一時戦線を離れ準備する。

 その間は俺とリネットが戦線を維持する。


「『十字斬』」

「うおおおお!『旋回撃』」


 俺が小技を使って魔樹の光線を防ぎ、リネットが枝とトゲの攻撃を『旋回撃』で防いでいく。

 と、そうしているうちにエリカたちの準備ができたようだ。


「『光の矢』」

「『聖光』」


 二人同時に魔法を放ち、


「「『光の矢』と『聖光』の合体魔法。『聖撃の矢』」」


光り輝く極太の矢が出現する。

 その矢は魔樹へと一直線に飛んでいき、


「「やりました!」」


ピキーンという大きな音とともに闇のバリアーを粉砕する。


「後は任せろ!」


 そこへすかさず、俺が追撃の一手を放つ。


「『天火』と『天爆』の合成魔法、『天壊』」


 俺の魔法の中で一番の威力の魔法を放つ。

 『天壊』は聖属性を持たないが、聖属性を持つ『神の業火』よりその分純粋な破壊力には優れている。

 闇のバリアで覆われた魔樹にはそんなにダメージを与えられないが、それがはぎ取られた今なら絶大なダメージを与えられると思う。


 そして、事態は俺の目論見通りに進んだ。


 ドッゴオオオオオン!

 すさまじい音とともに魔法が炸裂し、魔樹の幹が300メートルくらい一気に吹き飛ぶ。


 これで中心部のコアまであと一息だ。


「『天壊』」


 俺はさらにもう一発魔法を放つ。

 これで、俺の魔力はほとんど空になったが問題はない。


 ドッゴオオオオオン!

 と、再び大爆発が発生し、


「やった!コアだ!」


とうとう魔樹のコアがむき出しになる。


「『究極十字斬』」


 そこへ残った力を総動員して、俺が必殺剣を放つ。

 ズバッ!

 必殺の十字がコアを切り裂く!


 だが、今までの攻撃で力を消耗しすぎていたのだろう。

 8割方コアを破壊したところで止まってしまう。


「リネット!」

「おう!」


 とどめを刺せ!、と俺はリネットに声をかける。


 というか、リネットは俺が声をかける前にすでに走り始めていた。

 さすがは俺の嫁。

 俺の思惑をよく理解してくれている。


 近づくリネットに魔樹が最後の抵抗を試みる。

 ビュッと枝を振るい、トゲを放ってくる。

 光線は放ってこなかった。どうやらそこまでの力は魔樹にはもう残っていないようだ。


「『火矢』」

「『精霊召喚 火の精霊』」


 だが、その抵抗も無駄だ。

 エリカとヴィクトリアが魔法で迎撃してしまったからだ。


 そうこうしているうちにリネットがコアに十分近づいた。

 と、ここでリネットが必殺技を放つ。


「『一撃必殺木工割』」


 『一撃必殺木工割』とは、『戦士の記憶』の中にあった技で、木の魔物に絶大な効果を発揮する技だ。

 『一撃必殺木工割』を使用しすると、リネットの持つ大斧の刀身が真っ赤に発光する。

 そして、その状態でリネットは大上段から大斧を振り下ろす。


 ドゴーン。

 でかい音とともに今度こそ魔樹のコアが粉々に粉砕される。


 それと同時に周囲に漂っていた邪気も消滅した。

 勝ったな!

 そう確信した俺は、ホッと胸をなでおろすのだった。


★★★


「ホルストさーん、ありましたよ」

「お、ようやく見つかったか」


 魔樹を倒した後、俺たちは魔樹の種を求めてコアの残骸を捜索していた。

 魔樹はコアだけでもかなり大きかったので、探すのは中々大変だったが、1時間ほどの捜索でようやく見つけることができた。


「はい、どーぞ」


 見つけてきた種子をヴィクトリアが俺に手渡してくる。


「これがそうか」


 種子は光輝いていてとてもきれいだった。

 一応、魔法で確認してみる。


「『世界の記憶』」


 『神木の種子』

 神木が死ぬときに残す種子。

 これを大事に育てると、神木復活となる。

 ということで大事に育てましょう。


 ……最後、妙に投げやりな解説文だ。このテキストを書いている人物の適当具合が分かってしまいそうな一文だが、まあいい。


 本物で間違いないようだ。

 と、俺が種子を持っているのを見て嫁たちが寄ってくる。


「旦那様、きれいな種子ですね」

「本当、宝石みたいだね」

「銀もいいなって思います」


 何か、皆種子をべた褒めしている。

 それくらい種子は美しかった。


 さて、これで依頼も達成したことだし、帰るとするか。


「帰るぞ」

「「「「はい」」」」


 そうやって帰ろうとしたとき。


「ありがとう」

「「「「「?」」」」」


 俺たちの脳裏にそんな声が聞こえた。

 周囲を見渡しても誰もいない。


「旦那様、今のは?」

「多分、魔樹の声じゃないのかな。最後に俺たちにお礼を言ってくれたんだと思う」


 俺の言葉にみんなが頷く。

 俺は最後に魔樹に声をかけてやる。


「生まれ変わったら、またダークエルフたちを守ってやれよ」


 そのあと少し黙とうをして、俺たちはその場を離れたのだった。

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