第228話~魔樹へと続く道 第二の関門 過去の恐怖と向き合え!~

 第一の関門を突破した次の日。


「旦那様、また何かあるようですよ」


 俺の横にいて魔法で探索していたエリカが俺にそう報告してきた。


「『神強化』」


 すぐに魔法を起動し、前方を確認する。

 すると。


「門だな」


 前方に昨日と同じような門を発見した。

 昨日と同じパターンだ。


「おい、皆、次の関門に着いたようだぞ」


 俺は馬車の中に声をかける。

 すると、馬車の中で待機していた3人が顔を出す。


 3人とも結構疲れた顔をしていた。

 というのも第一の関門を突破して以降、敵の襲撃の頻度が上がっていて、それで戦闘が増え、皆結構体力を使っていたからだ。


 それでも、外に出て臨戦態勢を取ったら、たちまちキリリとしたりりしい顔つきに変わったのはさすがだと思う。

 さて、皆も準備できたことだし、第二の関門に挑むとしますかね。


★★★


「ヴィクトリア、ついて来い」

「ラジャーです」


 門にたどり着くと、俺は様子をうかがうために門に近づいていく。

 今回は前回の教訓を活かしてヴィクトリアを同行させる。

 多分、今回もあれがあると踏んだからだ。


 それで、近づいて門をくまなく調べる。

 すると。


「お、あったな」


 門の横の所に神代文字らしい文字で何かが書かれているのを見つけた。


「ヴィクトリア、読んでくれ」

「は~い。えーとですね。Face your fears of the past.”過去の恐怖と向き合え”って書いてますね」


 過去の恐怖と向き合え、か。

 どういう意味だろうか。

 そう思ったが、これだけではよくわからんかった。

 まあ、考えても結論は出そうにないので、先へ進むことにする。


 ということで、俺は扉に手をかけた。


★★★


 瞬間、俺たちの周囲を邪悪な気配が包み込む。

 背筋にゾッとしたものを感じる。


 しかし、そこは俺の嫁たちのパーティー。

 すぐに全員が武器を取って身構える。

 準備ができたところで気配の方へ向く。


 すると、そこには。


「久しぶりだな」

「お、お前は確か北部砦での戦いのときの……」


 かつて俺たちが北部砦にて戦った時の魔物たちのボス。リッチーがいた。


★★★


 リッチーが再び俺たちの前に現れた。

 どうやら門に書かれていた過去の恐怖とは過去の強敵という意味らしかった。


 しかし、なぜリッチーなのだろうかと俺は思う。

 他にもリッチー以上の強敵と戦ってきたはずなのに。

 まあ、いい。

 今は目の前のリッチーを倒すことだけを考えよう。


「ヴィクトリアは馬車を守りながら隙があれば聖属性魔法で攻撃。エリカは俺の支援。リネットはヴィクトリアと共に馬車の防衛を。銀はパトリックを守ってやれ」

「「「「了解です」」」」


 俺の指示で全員が配置に着く。


「『神強化』」


 それを見て俺がリッチーに向かって行こうとすると。


「はあああああ」


 リッチーが先に動いた。

 現在の魔導士風の姿から本性である巨大な骸骨の姿に変身する。

 そして、骸骨になると同時に魔法を放ってくる。


「『黒火炎』」


 闇の力をまとった炎が無数に出現し、俺たちに襲い掛かってくる。

 唐突な攻撃だったので俺の迎撃が間に合わない。


 だが、ここで。


「『氷弾』」

「『聖光』」


 エリカとヴィクトリアが同時に魔法を放つ。

 無数の氷弾が空中に出現し、それにヴィクトリアの聖属性魔法の効果が乗る。


「「行きなさい!『氷弾』と『聖光』の合体魔法、『聖氷弾』」」


 合体魔法とは俺の『魔法合成』を見て、エリカとヴィクトリアが編み出した魔法だ。

 異なる魔法を同時に使用することで、より強力な魔法を放つ手法だ。

 ただ、二人の息が完璧に合っていないと使用できないみたいで、二人が練習で何度も失敗してきたのを俺は見てきた。


 それで今回、実戦で初めて使用したわけであるが、その威力はすさまじかった。


 ボン、ボン、ボン。

 二人の魔法は次々にリッチーの魔法を粉砕していき、とうとうすべての『黒火炎』の魔法を迎撃してしまった。


「おのれ!小娘が!」


 自分の魔法が通用しなかったのを見て、リッチーが怒り狂う。

 すぐさま次の魔法を放とうとするが、それは俺が許さない。


「たああああ」


 思い切り飛び上がってリッチーに切りかかっていく。

 だが。


「ち、二属性付与ではダメか」


 以前はリッチーを倒す切り札となった二属性付与攻撃を奴は軽くはじきやがった。

 どうやらリッチーのやつも以前の時よりはパワーアップしているようだ。


 俺は攻撃方法を変更する。


「三属性付与」


 武器に火、聖、風の3属性を付与する。

 それで切りつけると。


「これならいけそうだな」


 リッチーの体が裂け、そこから黒い霧のようなものが漏れ出る。


「ぐおおおお」


 当のリッチーのやつも痛そうに叫んでいるので、効いているようだ。

 さて、リッチーのやつを倒すめどが立ったので、ここは一旦引いて体勢を立て直すことにする。


★★★


「お前ら、俺が必殺剣を放つ時間を稼いでくれ」


 一旦、嫁たちの所に戻った俺は皆にそう頼んだ。


「はい、お任せください」

「ラジャーです」

「任せて」

「お任せください」


 皆のオーケーが出たので、俺は必殺剣の準備をする。


 狙いはリッチーのコアだ。

 そこ目掛けて、三属性を付与した状態で『一点突破』を食らわせてやるつもりだ。

 リッチーがパワーアップしているとはいえ、グランドタートルほどの防御力はないはずだから、これでリッチーを倒せるはずだった。


 と、その時、リッチーが新たな攻撃を仕掛けてくる。


「こうなったらこれを食らうがいい。我が究極魔法『黒死無双』」


 何か『黒死無双』とかいうやばげな名前の究極魔法を使おうとしている。

 そう言えば、リッチーは以前も究極魔法とやらを使おうとしていた。

 まあ、その時は使う前に倒してしまったわけだが、今使おうとしているのが多分それだと思う。


 このままだと危険だと判断した俺はリネットに指示を飛ばす。


「リネット!」

「おう!『飛翔一刀割』」


 リネットが最近会得した必殺技を放つ。

 大斧を持ったリネットが大きく飛翔する。

 そして、そのままリッチーの頭上まで到達すると、縦にグルグル回転しながらリッチーの頭に強力な一撃を加える。


「ぐぎゃあああ」


 リネットの一撃を受けてリッチーが悲鳴を上げる。

 見ると、リッチーの頭が大きくカチ割れ、黒い霧が大量に噴き出ていた。

 そこへさらにエリカとヴィクトリアが追撃を加える。


「『火槍』」

「『聖光』」

「「『火槍』と『聖光』の合体魔法、『聖火槍』」」


 エリカとヴィクトリアの合体魔法がリッチーに襲い掛かる。


「ぐほ」


 エリカたちの魔法はリッチーの胸に突き刺さり、胸に風穴を開ける。

 当然のようにリッチーの胸に空いた穴からも大量の黒い霧が噴き出ている。

 ただ、これだけの攻撃を食らっても、リッチーの奴はまだ究極魔法を維持していた。


「『黒死無双』」


 とうとうリッチーのやつが魔法を放ってきた。


 しかし、もう遅い。

 俺の方の準備もできた。


「『一点突破』」


 リッチーのコアめがけて突撃する。

 途中、リッチーの究極魔法とやらと激突するが。

 パン。

 何事もなかったかのように究極魔法を打ち消してしまうと。

 ドガーン。

 大きな音を立てながらリッチーのコアに激突する。


 前の時はこのコアを破壊するのに苦労したものだったが、今回は余裕だった。


「うおりゃあああ」


 あっという間にコアを突き破り、コアを粉々に粉砕してしまった。


「おのれ!またしても」


 断末魔の叫びを残してリッチーは消滅した。

 これにて第二の関門もクリアしたのだった。


★★★


 その日は、第二の関門を抜けてしばらくしたところで野宿した。

 皆で食事をとりながらワイワイとやった。

 その中で俺は昼間気になったことをみんなに話した。


「なあ、なんで今日出てきたのがリッチーだったんだろうな。他にももっと強い奴らと戦ったはずなのに」

「それは、第二の関門が恐怖を克服するための試練ではないかと思います」


 俺の問いかけにそう答えたのはエリカだった。


「それはどういうことだ?」

「はい。簡単な話です。北部砦の戦いは私たちにとって一番困難な戦いだったからです。たくさんの魔物に包囲されて、私も旦那様も一時は死を覚悟したほどですからね。間違いなく一番恐怖を覚えた戦いだったはずです」

「なるほど、そういうことか」


 エリカの説明に俺は納得した。


 一番困難な戦いだったからこそ、そのボスであったリッチーがここで出てきたというわけか。

 そう考えると合点がいった。


 さて、これで疑問も解消したことだし、後は明日に備えてのんびりすることにしよう。

 そういうわけで、この日は楽しく雑談して過ごした後、ゆっくりと休んだのであった。

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