第227話~魔樹へと続く道 第一の関門 力を示せ!~

「こちらでございます」


 王宮を出た俺たちは兵士の案内で王都の北東にあるという開かずの門へと向かった。


 開かずの門は、ダークエルフにしては珍しく、鉄製の頑丈な門で、その上に鎖でがんじがらめにされて封鎖されていた。

 それを見てよほどこの門を誰にも通過させたくないのだと思ったが、そもそもダークエルフたちは誰もこの門に近づこうともしないので、無駄な心配だな、とも感じられる。


 それはともかく、案内の兵士が門番の兵士に声をかける。


「王のご下命だ。この方たちが神木様の所へ向かわれる。門を開けよ」

「はは!」


 案内の兵士の命令で門番たちが門を開ける。

 鎖にグルグル巻きにされているので開けるのがとても大変そうだったが、それでも10分ほどで鎖がはずされ、門が開いた。


「では、ご武運を祈ります」

「ああ、行ってくるよ」


 そして、俺たちは兵士に見送られながら魔樹の元へと出発するのだった。


★★★


「ホルストさん、また敵ですよ」


 魔樹への街道を進んでいると敵が現れた。

 これですでに5回目だ。

 この魔樹への街道、王都へ来るまでの街道と同種類の敵が出現するのだが、敵の襲撃がより頻繁に起こった。


「敵はワイルドベアか」


 今回の敵は熊の魔物ワイルドベアだった。禁足地へ来てから何度も遭遇している敵だ。

 そんなに強くない割には皮は良い値段で売れるし、内臓も薬の材料として重宝されるという俺たちにとってはお手頃な魔物だ。


 ということでサクッと狩る。


「ヴィクトリア、やれ!」

「ラジャーです。『精霊召喚 土の精霊 風の精霊』」


 ヴィクトリアが2体の精霊を呼び出す。

 ヴィクトリアに呼び出された精霊たちはすぐさま攻撃を開始する。


 まず防御力の高い土の精霊が突っ込んでいく。


「うが?」


 土の精霊はワイルドベアに組み付いてワイルドベアを足止めする。

 その隙に風の精霊が後ろから近づき、ザシュッとワイルドベアの首をはねてしまう。

 これで、後はヴィクトリアがワイルドベアを回収して戦闘終了だ。


 俺はヴィクトリアを褒めてやる。


「ヴィクトリアも大分精霊を使うのが上手くなってきたな」

「そうですか?お褒めいただきありがとうございます」

「うん、褒めてやる。ご褒美に、後で食べようと思っていた今日のおやつのドーナツの残りをやろう」


 そう言うと、俺は自分のマジックバッグからおやつの残りのドーナツを取り出すと、ヴィクトリアに渡してやる。


 途端にヴィクトリアの顔がパッと明るくなる。

 本当、喜怒哀楽の分かりやすい奴だ。


「ありがとうございます。早速いただきますね」


 ドーナツを受け取ったヴィクトリアは、まるで獲物を誰かに横取りされやしないかと恐れる猫のように、すごい勢いでドーナツを食べるのであった。


 もうちょっとお行儀良く食わないと、エリカに怒られるぞ。

 というか、最近はお前の弟子の銀の方がお行儀がいいぞ。

 お前、子供に負けていて何とも思わないのか?

 ヴィクトリアの食いっぷりを見ながら俺はそう思ったが、もちろん俺は口に出さない。


 まあ、ヴィクトリアの見事な食いっぷりを見るのも俺は好きだからな。

 今はそれを眺めて満足することにしよう。


★★★


 そうやって、魔樹への街道を進むこと2日。


「ホルスト君、前方に何かあるようだよ」


 ヴィクトリアと一緒に御者台に座って見張りをしていたリネットから、馬車の中にいる他のメンバーに連絡が入った。

 報告を受けて俺も御者台から身を乗り出して見てみる。

 すると。


「門?」


 そこにはでかい門があった。

 門は街道を塞ぐように設置されているので、門を開けない限り先へ進めなさそうであった。


「ちょっと行ってみる」


 とりあえず、俺が一人で門に近づいてみる。

 そして、門の周囲をあれやこれやと探ってみると。


「おや、こんなところに何か書かれている」


 門のど真ん中に何かが書かれているのを見つけた。


「うん、なんて書いているのか読めないな。……でも、この文字には見覚えがある!ヴィクトリア、ちょっと来い!」

「はい、は~い」


 俺に言われて、ヴィクトリアがホイホイと歩いてくる。

 俺の所に来たヴィクトリアに、俺はこう言う。


「この文字、多分神代文字だ。読んでくれ」

「ラジャーです」


 そう言うと、ヴィクトリアは文字を読み始める。

 そして、読んだ結果は。


「Show your strength.”力を示せ”と書いていますね」

「力を示せ、か。どういう意味だろうか」

「多分、単純に力を見せつけたらいいのではないですか」


 それを聞いて、俺はそんなバカなと思った。

 いくらなんでも単純すぎると思ったからだ。


「お前、いくら何でも発想が単純すぎるだろう」

「そうでしょうか?でも、この門を誰が作ったかと考えれば、そういう結論になると思います。ホルストさんは、これを誰が作ったと思いますか」

「さあ、わからないな。というか、お前はわかるのか?」

「多分、リンドブルおじい様だと思います」

「なぜそう思うんだ?」

「だって、この門、神木が植えられてからずっとここにあるんでしょう?なのに全然古びた感じがしないです。こんな建物、人間の手だけで作れるとは思いません。確実に神の手が入っています。そしてダークエルフたちにとって神とはおじい様のことです。ですから、この門もおじい様が作ったに違いありません」

「なるほど」


 ヴィクトリアの説明を聞いた俺は納得した。

 確かにこんな門、人間に作れるわけがなかった。


 ただ、それだけではわからないこともある。

 俺はその点をヴィクトリアに聞いてみた。


「お前のじいちゃんがこの門を作ったのはわかった。それはいい。だが、お前のじいちゃんが作ったからといって、どうして”力を示せ”が、お前の言うような単純な意味になるんだ?」


 俺の質問を聞いてヴィクトリアが渋い顔をする。

 多分、あまり話したくないのだろう。

 しばらく、話そうか迷っていたが、やがて決心したのか、口を開くのだった。


「リンドブルおじい様って、とても賢くてスマートに行動できる方なのですが、その一方で、少々自分の力を自慢する傾向がありまして。昔、天界の大地が崩壊しかかったときに自分一人で大地を支えたとよく他の神々に自慢するのです。それで、その話を繰り返し聞いたワタクシのバカ兄が、すっかり脳筋になってしまいまして。うちの母など、『お父様の自慢話のせいで、うちの子が脳筋になってしまった』とか騒ぐ始末なのです。そういう方が作った門ですから……後は言わせないでください」

「あー」


 ヴィクトリアの話を聞いた俺は返す言葉が見つからなかった。


 なるほど、あの脳筋シスコン兄貴誕生の一端をヴィクトリアのじいちゃんが担っていたというわけか。


 うん、俺とヴィクトリアに子供ができても、絶対にヴィクトリアのじいちゃんにその話はさせないようにしよう。

 俺はひそかにそう誓うのだった。


 それはともかく、確かに力自慢の神様なら”力を示せ”という言葉を単純に力を見せろという意味に考えるだろう。

 そう思った。


 まあ、ヴィクトリアの話を聞けて、大体納得できたので、試してみることにする。


★★★


「『神強化』」


 魔法を発動して万全の状態にしてから俺は門へと向かう。

 そして、門の中央に手をかけ、全体重、全筋力をかけて門を押す。

 すると、門が少しだけ動く。


 これは行ける!


 そう思った俺は、さらに魔力を注ぎ込み『神強化』の強度を上げる。

 そうやって全力を出して門を押し続けると、少しずつ門が開いていく。


 10分後。


「やった!開いた!」


 ようやく門が開いた。


「よし、それじゃあ行くぞ!」


 早速みんなを通過させる。

 皆が通過した後は、俺はそのまま馬車に乗る。

 というのも、さすがに10分間も全力で門を押し続けたので疲れ果ててしまったからだ。


「旦那様、物凄い汗ですよ。タオルをどうぞ」


 さらに他人から見ても丸わかりなくらいに汗をかいていたようで、エリカがそうやってタオルを差し出してくれた。

 それで体を拭うと、あっという間にタオルが汗でびしょ濡れになった。


「代わりのタオルです」


 すぐさまエリカが代わりのタオルを出してくれたが、それもすぐにびしょ濡れになり、それでまたエリカがタオルを出し……ということを5回ほど繰り返したところで、ようやく汗を拭きとることができた。


「旦那様、すごく汗をかきましたね。さぞ喉が渇いたことでしょう。今水をいれますからお飲みください。『水球生成』」


 俺の喉が渇いていると見込んで、まあ実際喉はカラカラだったが、エリカが大きいコップに水を入れてくれる。


「ありがとう」


 そう言いながら水を受け取ると、俺は一気にそれを飲み干す。

 ただ、一度では満足できなかったので何杯かおかわりする。

 3杯目でようやく喉が潤うと、今度は疲労感が浮かんできて眠くなる。


 まあ、あれだけ一気に体力を使ったのだから、無理もなかった。


「少し休むよ。何かあったら起こしてくれ」


 そう言うと横になる。

 横になり眠気に支配されそうな中、疲労で働きが鈍くなった脳みそで俺は考える。


 今回は俺が疲れるくらいで済んだけど、この先の関門はどうなのだろか。

 あまり難しくないといいなあ。


 そんなことを思いながら、いつの間にか俺を膝枕してくれていたエリカの膝の上で、俺は寝るのだった。

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