第226話~リンドブルおじい様、ヴィクトリアはとても感謝しています~

 太陽神リンドブルが俺たちに頼みがあると言ってきた。


「頼みとは何でしょうか」

「うむ、頼みとは他でもない。お前たちに神木を救ってほしいのだ」


 どうやらリンドブルの頼みとは神木を救ってくれ、というもののようだ。


「おじい……リンドブル様。それはどういうことでしょうか」


 と、ここでヴィクトリアが会話に割り込んできた。

 とてもうれしそうな顔をしているので、優しいおじいさんに久しぶりに会えてとても喜んでいるのだと思う。


 リンドブルはリンドブルでかわいい孫に久しぶりに会えてうれしいのだろう。

 にっこりとほほ笑みながら、とはいってもリンドブルを包む光のせいでその笑顔は俺とヴィクトリアにしかわからないはずだが、優しくヴィクトリアに話しかける。


「お嬢さん、私の言った助けるという意味は、だね。倒してしまうという意味だよ」

「え?倒してしまうのですか?」

「そうだ。神木といえども、こうも暴走してしまっては一度倒す以外に暴走を止める方法はない」

「そうなのですか」

「そうなのだよ。それにこのまま暴走させていては、神木がダークエルフたちに与えていた恩恵がすべて呪いに変わって、最悪ダークエルフという種族が滅亡する可能性がある」


 ダークエルフ滅亡。

 そう神に告げられて、会場中がざわめく。


「そんなあ」

「もう終わりだ!」


 中には泣き出すダークエルフもいて、会場は修羅場と化している。

 そんなダークエルフに対してリンドブルが優しく話しかける。


「聞け!ダークエルフたちよ。私はまだ滅亡の可能性があると申しただけだ。つまり今なら助かる方法があるというわけだ。そして、そのお前たちを助けてくれる者こそ、目の前のこの者たちである」


 そう言いながら、リンドブルは俺たちの側にやってきて、俺たちのことを紹介する。


「この者たちならば、神木の暴走を止めることができるはずだ。それに神木は一度死んでも再びよみがえることができる。だから、お前たちが心配することなど何もないのだ」

「おおおおー」


 リンドブルの言葉を受けて、さっきまで葬式会場状態だった会場の雰囲気が一気に明るくなる。

 それを見て、リンドブルが再び俺たちに話しかけてくる。


「ということで、お前たち、神木退治は任せたぞ」

「それはよろしいのですが、おじい……リンドブル様。神木がよみがえるって何の話ですか?そういう話はあまり聞いたことがないのですが」

「それは、ね。神木は死ぬときに種を1個残すんだよ。その種を植えて大事に育てれば、神木復活ということさ。もっとも、元の力を取り戻すには長い時間がかかるだろうけどね」


 なるほど、種か。

 ということは神木を倒すと同時に種も回収しなければならないということか。

 ちょっと仕事が増えたが、まあ、この程度知れたことなので、良しとしよう。


 ということで、俺は力強く答える。


「わかりました。神命とあらば、神木を倒すとともにきちんと種も回収してまいります」

「うん、頼んだよ。さて、それじゃあ私は帰るとする」

「おじい……リンドブル様。もう帰られるのですか?」

「ああ、私がこのままの状態で長居しては地上に悪影響が出るからね」


 そこまで言うと、リンドブルは俺とヴィクトリアに近づいてきて、小声でこう言うのだった。


「ヴィクトリア、元気そうで何よりだ。その調子でちゃんと使命を果たすんだよ」

「はい、おじい様」

「それと、ホルスト君だったかな。孫のことは頼んだよ」

「はい、お任せください」


 俺たちの返事を聞いて満足したのだろう。

 リンドブルは俺たちから離れると、今度は会場中の人に聞こえるような大声で、


「それでは、さらばだ!」


そう言い残して、会場から去っていくのだった。


★★★


 リンドブルおじい様、ありがとうございます。

 おじい様はワタクシたちがピンチなのを見て助けに来てくれたのですね。

 神官長の罪を裁きに来た!そうおじい様はおっしゃっていましたが、ワタクシにはわかります。


 まあ、おじい様は正義感の強い方なので神官長を許せないというのも本当なのでしょうが、それよりもワタクシを見る時の優し気なまなざし。

 あれは、昔ワタクシがまだ幼かったころ、走っていて転んで泣いていたのを抱きかかえてあやしてくれた時のおじい様の優しい目そのものでした。


 ワタクシ、正直嬉しかったです。おじい様が来てくれて。


 それにしてもおじい様、相変わらずやり方がスマートですね。

 あの神官長、完膚なきまでに叩きのめされちゃいましたね。

 さすがは、クリントおじい様の懐刀と天界で呼ばれているだけのことはあります。


 今は無理ですが、落ち着いたらそのうちお礼のお手紙でも書きたいと思います。


 おじい様、今回は本当にありがとうございました。

 いつまでもお元気でいてください。


★★★


 『神の審判』の儀式が終わった後、俺たちはダークエルフたちから滅茶苦茶歓迎された。


「救い主様への贈り物でございます」


 そう言いながら、ダークエルフたちが次から次へと贈り物を持ってくるのだ。

 大半は肉や魚、木の実などの食い物だったが、中にはミスリルやアダマンタイトなどの希少金属や宝石類などを贈ってくる者もいた。


 あのう、俺たちまだ魔樹を討伐していないんですけど。


 そうは思ったが、リンドブルが俺たちがダークエルフたちを救ってくれると太鼓判を押しているのを皆が見ているわけで、リンドブルへの信仰厚い彼らとしては、リンドブルの言葉を疑うなどありえないことであり、だからこそ俺たちを慕ってくれているというわけだ。


 それはともかく、この贈り物の山をどうしようかと思う。

 折角くれたものを返すのは失礼だし、かといって、こんなにいっぺんに食べられるわけがなかった。

 最終的には収納リング行きかな、と思っていると。


「おいしそうですね、銀ちゃん」

「そうですね、ヴィクトリア様」

「これからワタクシたちは魔樹へ行かなければならないわけですし、魔樹へ行くのは結構大変だと聞きますから、その間に食べるお弁当がたくさんいりますよね」

「その通りです。ヴィクトリア様」

「ということで、エリカさんにリネットさん。今からこれらの食材を使ってお弁当を作りませんか?」


 と、ヴィクトリアがそんなことを言い始めた。

 それに対してエリカたちも、


「ええ、いいですね」

「うん、いいよ。どうせ暇だし」


と、オーケーを出すのだった。


 ちなみに今いるのは王宮の離宮だ。

 離宮といっても、そんなに広い建物ではなく、ちょっとした小金持ちが住むくらい広さのの家だ。

 ここを自由に使ってよいとダークエルフの王様に言ってもらっているので、ここの台所を使って作るつもりのようだ。


「ヴィクトリアさん、その鳥は丸焼きにするので、オーブンに火をつけてください」

「ラジャーです」

「銀ちゃんはお野菜を切ってね」

「畏まりました、エリカ様」

「リネットさんはその木の実を潰してください」

「了解だ」


 そうやって、皆でワイワイ楽しそうにしながら弁当を作っている。


 それを見て俺は思う。

 ああ、俺って本当に幸せだなあ、と。


★★★


 『神の審判』の儀式の翌日。

 俺たちは再びダークエルフの王と謁見することになった。


「ホルストよ。うちの神官長がそなたたちに酷いことをしてしまって、すまなかった」


 開口一番、王はそう言いながら、俺たちに頭を下げてきた。

 王様に謝られてしまった俺は慌てて手を振りながらこう返す。


「いや、王様が謝ることではありません。悪いのはあの神官長とそれに与した神官たちです。王様の謝罪は不要です」

「そうか、そう言ってもらえるとありがたい。感謝する」

「いえ、いえ、当然のことです。それよりも、神官長に手を貸していた神官たちはどうなりましたか」

「神殿の神官たちは全員捕えて尋問中だ。何せ奴らは神の言葉を偽り、神木を暴走させ、あまつさえこの私を殺そうとしたのだからな。尋問は厳しいものになるだろうし、厳罰も免れられまい」


 俺の問いに王様はそう答えた。

 実は昨日の儀式の後、あの場にいた神官たちは俺たちの目の前で全員捕えられたのだった。

 まあ、神様に悪行をばらされてしまったわけだし、当然の報いだとは思う。


「この背信者め!」

「地獄へ堕ちろ!」


 連行されるときにダークエルフの人たちに石を投げつけられる姿は哀れだったが、奴らはそれだけのことをしでかしたのだ。それ相応の罰は受けてもらうとしよう。


 さて、それよりも今は魔樹のことを王様から聞き出さねばならない。

 俺は王に問う。


「それで、王様。神木についてお伺いしたいのですが」

「うむ、そうだな。そなたらに私の知っていることをできるだけ教えるとしよう。ただ、そうは言っても私も神木を見たことはないので、教えられることはあまり多くはないのだが、な」

「そうなのですか」

「まあ、神木との交信は太陽の神殿でもできたし、何より、神木の所まで行くのはとても危険なのだ。……まあ、とりあえずはそのあたりから話そうかの」


 ということで、王は魔樹について話し始めるのだった。


★★★


「まず、神木へ行くためには3つの関門をクリアする必要がある」

「3つの関門ですか。それはどのようなものなのでしょうか」

「それが分からないのだ」

「わからないのですか」

「うむ、そうなのだ。というのも、近年神木まで行った者がいなくてな。3つ関門があるということしかわからないのだ。すまぬな」

「いえ、大丈夫です。関門があるとわかっただけでも、助かります。事前に心構えができますから」

「そうか」


 俺の返答を聞いて、王は大きく頷いた。


「それで、神木へはどう行けばよいのでしょうか」

「うむ、実はこの王都の北東には開かずの門と呼ばれる門がある」

「開かずの門ですか」

「そうだ。そして開かずの門から王都を出ると、今は使われていない街道があり、そこを進んでいくと神木の所へ行けるのだ」

「そうなのですか。それで、他に何か神木に関する情報をお持ちではないですか」

「ないな。以上が私の持つ情報のすべてだ。すまぬな。この程度の情報しか与えることができずに」

「いえ、とんでもないです。何もないよりははるかにましですから」

「そうか、そう言ってもらえるとありがたい」


 そこまで言うと、ダークエルフの王は立ち上がり、最後に俺たちに激励の言葉をかけてくるのだった。


「それでは、ホルストよ。神木を助けてくれ!」

「畏まりました」


 こうして俺たちは神木へ向かうことになったのであった。

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