閑話休題32~ホルスター、初めて魔法を使う~

 私の名はレベッカ・ヒッグス。

 こう見えてもヒッグス家の当主夫人です。


 子供は息子と娘が一人ずついます。すでに二人とも結婚して家庭を持っています。

 ただ、今のところ子供がいるのは娘の方に男の子が一人いるだけです。


 ホルスターといって、かわいらしい子で私のお気に入りです。


 私がホルスターをかわいいと思う理由は色々あるのですが、一番の理由はホルスターが私の母の父、つまり祖父によく似ていることでしょうか。


 私は祖父が大好きでした。

 とても私のことをかわいがってくれて、よく一緒に遊んでくれました。

 ホルスターはその祖父に雰囲気がよく似ていて、一緒にいるだけでなんとなく幸せな気分になれます。


 祖父の娘である私の母もそう思っているらしく、二人でホルスターを見ている時はすでに故人である祖父の思い出話をしたりなんかします。


 さて、自己紹介はこれくらいにして、今日は仕事です。

 私、一応白薔薇魔法団という部隊の隊長なのです。


 白薔薇魔法団はヒッグス家が誇る優秀な女性魔法使いを集めた精鋭部隊です。

 その幹部は全員魔術師の称号をもらっているほどです。


 それで、今日はその白薔薇魔法団をはじめとした各部隊の合同演習があり、今から視察に行く予定なのです。


「おばあ様、おじい様がそろそろ出かけるからって、おばあ様を呼んでいるよ」


 と、私がそんなことを考えていると、ホルスターが私を呼びに来ました。

 どうやら出かける時間が来たようです。


 ちなみに今日はホルスターを連れて行く予定です。

 そろそろホルスターにも実践的な魔法というものを見せたいと思うからです。

 まあ、ホルスターは普段から私の娘たちが魔法の練習をするのをよく見ているようですから、あまり必要がないのかもしれませんが。


 さて、時間です。出かけるとしましょう。


★★★


「『火球』」

「『水刃』」

「『風刃』」


 白薔薇魔法団の子たちが次々に魔法を放ち、それが的に命中していきます。


「うん、順調なようですね」


 私は白薔薇魔法団の訓練を見て非常に満足しました。


 昨年ヒッグスタウンは魔物の大軍に襲撃されました。

 ホルスト君の活躍もあり、何とか撃退できましたが、犠牲も多かったのです。

 ですから、その時の教訓を生かして、訓練方法を改善し、戦力を上げることに血道を上げています。


 今、訓練を視察した限りではその成果が大分出ているようです。

 素晴らしいことだと思います。


 本当なら部隊のみんなを褒めてあげたいところですが、この位で満足させてもという気持ちもあるので、今日のところはやめておくことにします。

 それよりも見ていていろいろ気が付いたことがあるので、指導の方を優先しようと思いました。


 と、その時、ホルスターがこんなことを言い出しました。


「ねえ、おばあ様。僕も魔法を使ってみていい?」


 私は一瞬孫が何を言っているのかわかりませんでした。


 魔法?ホルスターが?

 でも、ホルスターは魔法の練習をしたことがないはず。

 一体どこで魔法を覚えたのでしょうか?


 そう思い聞いてみると。


「パパやママやヴィクトリアお姉ちゃんや銀姉ちゃんが練習しているのを見て覚えた」


 そうホルスターは言いました。


「でもね、ホルスターちゃん。魔法って見たくらいで覚えられるものではないのよ」

「うん、だからママたちがいない時にちょっと練習してみたの。そしたらできたの」


 本当だろうかと私は思いましたが、ものは試しとやらせてみることにしました。

 白薔薇魔法団の子に指示して、的を一つ空けさせます。

 的の正面にホルスターが立ち、的へ向かって魔法を唱えます。


「『火球』」


 すると、大人の魔法使い顔負けの強力な魔力を宿す火球が出現し、一直線に的へ向かって飛んでいきました。

 ドカン。

 大きな音を立てて的が吹き飛びました。


 それを見て私は唖然としました。

 当然です。

 誰が2歳の子供がこんな強力な魔法を使えると想像できるでしょうか。


 私以外の白薔薇魔法団の子も同じことを思ったようで。


「まさか、2歳の子供があんな強力な威力の魔法を放てるなんて」

「さすがヒッグス家の直系の子ね」

「私、この前娘が生まれたばかりなんだけど、側室でもいいからもらってくれないかしら」


 ひそひそとそんなことを言い合っています。

 私は考えがまとまらないまでも、ホルスターに声をかけます。


「ホルスターちゃん、本当に魔法が使えたのね。使えるのはあれだけ?」

「ううん、他にも使えるよ。やってみせようか?」


 そう言うとホルスターは再び的の正面に立ちました。そして。


「『火槍』」

「『氷弾』」

「『石槍』」

「『光の矢』」

「『電撃』」


 そうやって次々に魔法を放っていきます。

 しかも、どの魔法も大人の魔法使い顔負けの威力です。

 一部私の知らない魔法も混ざっていますが、娘は私の知らない魔法を知っているようなので、それを練習しているのを見て覚えたのだと思います。


 『神殿前の小僧、習わぬ聖書を詠む』とはまさにこのことです。


 ホルスターがそうやって魔法を使うのを見て、私はうれしくてたまらなくなり、思わずホルスターを抱きしめてしまいました。


「ホルスターちゃん、すごいわ。こんなにたくさん魔法が使えるなんて、おばあちゃん驚いたわ」


 そう言いながら、孫をひたすら撫でまわします。

 そのうちにふと気づきます。


「そうだわ、このことはトーマス様にも報告しなければ。そこのあなた。ちょっと呼んできてくれない」

「はい、畏まりました」


 そうやって私の命令を受けて白薔薇魔法団の子が夫を呼びに行くのでした。


★★★


「ホルスターが魔法を使ったというのは本当かい?」


 しばらくすると、トーマス様が息を切らせながら走って来ました。

 トーマス様の後ろには私の父とオットーもついてきています。

 多分、今日は全軍の合同演習だから二人ともトーマス様の近くにいて、それでついてきたのだと思います。


 本当なら二人にはホルスターとの面会制限があるので会わせたくないところですが、今日は慶事です。

 特別に許すことにします。


 それはともかく、今はトーマス様の問いに答えるとしましょう。


「ええ、本当ですよ。ホルスターちゃん、おじい様たちにも見せてあげなさい」

「はい、おばあ様」


 私の言葉でホルスターが三度的の前に立ちます。


「『火槍』」

「『氷弾』」


 そしてさっきと同じように魔法を使ってみるのでした。


「「「おおおお。すごいじゃないか」」」


 ホルスターが大人顔負けの見事な魔法を放つのを見て、3人ともとても感動したらしく、かわるがわるホルスターの頭を撫でてかわいがるのでした。

 それを見て、私は非常に満足しました。


★★★


 その日の晩、私は夫のトーマス様に相談しました。


「トーマス様、ホルスターもあれだけ魔法が使えることだし、誰か家庭教師をつけて本格的に魔法を学ばせてはいかがでしょうか」

「そうだね。僕もそう思うよ。でも、それを僕たちが勝手に決めちゃいけないよ」

「勝手に?」

「ああ、エリカやホルスト君に相談してからでないとね。さもないと、エリカ、怒ると思うよ」

「それもそうですね。まずはエリカたちに言わなくちゃですね。明日にでも連絡しますか?」

「いや、しばらくは無理だと思うよ。ホルスト君たち、今重要な仕事を受けているみたいで、向こうから連絡するまでしばらく連絡は控えてほしいと言われているんだ」

「ああ、そうでしたね。では、しばらく待つとしましょうか」


 そういうことならしばらく待つことにしましょうか。


 そう思いながらも、私は胸のどきどきを抑えられませんでした。

 自分の孫がここまで魔法の才がある子だったなんて……本当将来が楽しみだわ。


 そう考えるだけで、私はその夜あまり寝られなかったのでした。

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