今ならもれなく女神がついてきます~一族から追放され元婚約者と駆け落ちした俺。食うためにダンジョンに挑み最強の力を得たまではよかったが、なぜかおまけで女神を押し付けられる~
第225話~『神の審判』と神官長への天罰~
第225話~『神の審判』と神官長への天罰~
翌日の昼頃。
俺たちは太陽の神殿という場所の横の儀式の間という所に来ていた。
太陽の神殿は、ダークエルフにしては珍しく、木の上でなく平地に普通に建っている木造の建物だった。
儀式の間に至っては石造りで王国の闘技場のように観客席があり、儀式を見物できるようになっていた。
観客席には大勢のダークエルフが集まって来ていて、儀式が始まるのを、今か今かと待っていた。
俺たちはその儀式の間の中央、『太陽の紋章』という紋章の前に並んで立っている。
『神の審判』を受ける者はここに立つのが習わしなのだそうだ。
なお、ヴィクトリアはずっと俺の側から離れないようにしている。
万が一のことがあった場合、まあそんなことはないと思うが、すぐに俺に『神意召喚』を使えるようにするためだ。
『神意召喚』を使えば俺の中の神の力が増大して、こいつらが何をしようと防ぐことができると考えたからだ。
そうやって、ちゃんと準備をした上で俺たちは『神の審判』に臨む。
★★★
「時間だ」
正午になり、いよいよ『神の審判』の儀式が始まる。
太陽の紋章の上に大きな杭が吊るされ、神官長が紋章を挟んで俺たちの前に立つ。
「さて、いよいよお前たちに神の裁きが下る時が来たな」
「そうなのですか?それで、どうなったら俺たちは有罪なのですか?」
「簡単だ。この杭を紋章の上に落として、左に倒れたらお前たちは無罪。右なら有罪だ」
「へえ、それはシンプルでわかりやすくていいですね。ところで、左、右というのは神官長さんの方から見てという意味で合っていますか?」
儀式を行う前にそれは確認すべきことだった。
そうしないと後で難癖をつけられるからな。
「その通りだ。私の方から見て、左、右は判断する」
「わかりました。神官長さんから見て、左に倒れたら俺たちは無罪。右なら有罪。それでいいですね」
「ふふふ、威勢のいい小僧だな。では儀式を始めるぞ」
その言葉とともに神官長が右手を上げる。
すると、吊るされていた杭が切り離され地面に落ちていく。
★★★
切り離された杭が地面に落ちた。
杭はすぐには地面に倒れず、落ちた反動でクルクルと回っている。
それを見て、神官長は内心ほくそ笑む。
ふふふ、これで間もなく杭は右に倒れる。小僧共は破滅だな。
杭に仕掛けがあるとも知らずにバカな奴らよ。
お、杭の回転が止まったな。これで、杭は右に……え?
神官長が杭が右に倒れると思ったのも束の間。
何と杭は左に倒れたのだ。
しかも、これ以上ないくらい、右か左か論争の余地もないくらい完璧に。
それを見た神官長は開いた口が塞がらないのであった。
★★★
「ザワザワ」
杭が左に倒れたのを見て、観客席が喧騒に包まれる。
「こ、こんなバカな!」
神官長も杭が左に倒れたのを見て慌てふためいている。
慌てて杭に近づいてあらを探し始めているが、こうまで完璧に左に倒れていてはそれも難しそうだった。
それを見て、俺は神官長に余裕の表情で言ってやる。
「どうやら杭は左に倒れたようですね。これで、俺たちは無罪ということでよいですね?」
「ち、違う。これは何かの間違いだ!やり直しを要求する」
何か神官長が見苦しいことを言い始めたが、余裕の俺たちはそれを受けてやることにした。
「いいですよ。心行くまでやってみるといいですよ」
「ふはははは。小僧、よくぞ言った。次こそはお前たちに地獄を見せてやる!」
ということで、儀式はやり直されることになった。が。
「ぐぬう。なぜ左に倒れる」
やはり杭は左に倒れた。
それを見て神官長が泣きそうな顔で悔しがっている。
うん、この顔を見られただけでも今日は満足だ。
そう思えるほどの顔だった。
「くそう、やり直しだ!」
そう神官長が言って何度か儀式がやり直されるが。
「全部、左に倒れましたね」
結果は俺たちの完勝だった。
だが、それでも見苦しい神官長はさらに言いがかりをつけてくる。
「ははは、私は儀式の手順を間違えていたよ。お前たちの方から見て左に倒れたらお前たちは有罪だった。だから、やり直しを要求する」
ここまで来ると執念だけでやっているようにしか見えないが、面白そうなのでやらせてみることにする。
「はい、はい。お好きになさってください」
「言ったな、小僧。今度こそ後悔させてやる!」
神官長は今度こそ俺たちを有罪にできると思って、えらく喜んでいたが、結果は。
「なぜだ~」
今度は5回やって5回ともさっきと反対方向に倒れるのだった。
もう神官長、悔しすぎて涙が止まらなくなっていた。
「もう10回もやって、すべて俺たちの無罪判決ですよ。そろそろあきらめた方がいいのでは?」
俺が優しくそう言ってやると、神官長、今度は一転してブチ切れた。
「さては貴様ら、悪魔だな。悪魔の力を使って神の意志を捻じ曲げたな。おい!神官たち。この者たちを捕らえろ!とらえて火あぶりにするのだ!」
「は!」
神官長の命令で神官たちが俺たちを取り囲む。
やはり最後は力で来るか。本当に見苦しい奴だ。
ただ、力づくで来るとなると俺たちも力でねじ伏せるしかない。
そう思い、戦闘態勢を取ろうとしたその時。
★★★
突然儀式の間の上空に光が現れた。
光は周囲に激しい光をまき散らし、会場にいる誰もが目を開けていられなくなる。
俺もまぶしくて目を開けていられなかったので、とっさに目を閉じ、顔を腕で覆った。
その時、俺の横にいるヴィクトリアがこうつぶやくのが聞こえた。
「あ、リンドブルおじい様」
★★★
「リンドブルおじい様?ヴィクトリア、この光の中でお前はあれが何なのか見えているのか」
「光?あ、そういえばおじい様、今はとても怒っていらして、『神の威光』を使っていますからね。人間には単に光っているようにしか見えないでしょうね。あ、でも、ホルストさんなら『神眼』を使えば見えると思いますよ」
「本当?じゃあ『神強化』」
ヴィクトリアに言われた通り『神眼』を使ってみると、俺にもようやく光の中にいる人物のことが見えた。
その人物は老人というほどではないが、ダンディーなナイスガイという感じの人物で、どことなくヴィクトリアに似ていた。
多分、この人がヴィクトリアの言うように太陽神リンドブルなのだと思う。
そして、非常に腹が立っているのか険しい顔をしていた。
そうやって俺たちが見ていると、リンドブルが口を開く。
「聞け!ダークエルフたちよ!我が名は太陽神リンドブルである」
「リンドブル様?」
「まさか?でも、この力の波動は、……本物?」
「大変!早くひれ伏さなきゃ」
リンドブルと聞いて、ダークエルフたちが一斉に土下座する。
それを見て、リンドブルが話を続ける。
「我が今日ここに来たのは、そこのしれ者についてのことである」
リンドブルがそう言うと、会場を照らす光が周囲を見渡されるくらいに柔らかくなり、代わりにスポットライトが当たったかのように、神官長の回りが光で包まれ、神官長の姿が浮き彫りにされる。
「そこの神官長、我はお前の罪を裁きに来たのだ。素直に白状するがよい。さすれば、我にも多少の慈悲はあるぞ」
「お言葉ですが、リンドブル様、私は決して悪いことなど……」
「そうか、罪を認めぬと申すか。ならば、これを見よ!」
リンドブルがそう言うと、地面に倒れていた杭が光で真っ二つにされる。
そして、杭の中から出てきたのは。
「魔法陣?」
何と杭の中には魔法陣が刻み込まれていた。
それを見て神官長の顔が蒼くなる。
「ほれ、ぬしはこのように杭に細工を施して、この者たちが有罪になるように仕向けただろう。神の審判を仰ぐ聖なる儀式でこのような不正を行うとは!神をも恐れぬ所業とはまさにこのことよ。もっとも、その企みは我が阻止しておいたが、な」
「こ、これは違うのです。そ、そうだ。部下が勝手にやったことなのです」
「ほう、まだおのれの罪を認めぬと申すか。では、他のお前の罪も見せてやろう」
そう言うと、空中に一つの画像が出現する。
どうやら神官長が部下と密談している場面のようだ。
その中で、神官長はこんなことを言っていた。
「それにしてもうまく神木は暴走してくれたな。そして、それを鎮めようとした王も呪いにかかってくれた。すべて私の計画通りだ。これで王が死ねば、王の地位は私に回ってくるな」
「はい、神官長様のおっしゃる通りでございます」
つまり、魔樹を暴走させたのは神官長で、その目的は魔樹にダークエルフの王を呪い殺させて自分が王になるためだったようだ。
エルフの王の話が出てこなかったが、魔樹の呪いは強力なので、同じ王ということで巻き込まれたのではないかと推測できた。
本当、エルフの王もいい迷惑だと思う。
それはともかく。
自分の悪事をすべてばらされた神官長は、顔が蒼くなるどころか、今や全身ガクブルの状態であった。
「いや、これは」
それでも、何とか神官長は言い訳をしようとするが、リンドブルはそれを許さない。
「このたわけが!神官のくせにちっとも自分の犯した罪を懺悔しようともしない俗物め!この我が直々に天罰を与えてやるから、地獄で反省するがよい!」
リンドブルのその言葉とともに神官長を照らす光が強くなる。そして。
「ぎゃあああ」
光が一気に強くなったかと思うと、神官長の体に火がつき、あっという間に黒焦げになってしまった。
それを見て、神の威光を感じ取ったのか、ダークエルフたちが一斉に土下座した。
これにて一件落着。そう言いたいところだが、今度はリンドブルが俺たちに近づいてくる。
そして、十分に近づいたところでこう言ってきた。
「お前たちに頼みがある」
どうやら、リンドブルは俺たちに頼みたいことがあるようだった。
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