第223話~禁足地でのバトル! そして……いざ、ダークエルフの王都へ~

 カタカタカタ。

 木がうっそうと生い茂る森の中、パトリックが頑張って馬車を引っ張って行く。

 悪い道を走っているので、本当ならもっと馬車が揺れてもおかしくないはずなのだが、うちの馬車は特注品の高性能な馬車なので、そんなに揺れなかった。


 馬車を走らせつつも俺たちは警戒を怠らない。

 何せ周囲は木だらけで視界が悪いので、至る所に死角がある。

 だから御者台に二人、後ろの荷台にはヴィクトリアが召喚した木の精霊を配置して、敵の襲来に備えている。


「旦那様、どうやら敵です」


 と、御者台で俺の隣に座っていたエリカが敵の接近に気が付く。


「みんな、準備しろ」


 俺は馬車の中へ声をかけ、パトリックを止めると、自分も剣を抜いて敵の襲撃に備える。

 すると。


「上か!」


 上空から敵の襲撃があった。


 敵の名はバッドモンキー。猿の魔物だ。

 こいつは普通のエルフの森にはおらず、禁足地にだけ生息する魔物だ。

 動きは割と俊敏で、石や木の実を投げて攻撃してくるとのことだ。


 後、出てくるときは集団で来るということだ。

 実際、俺の生命エネルギー感知にも5匹ほど引っかかっているしな。


「ヴィクトリア、俺が全部片づけてくるから、馬車を守れ!」

「ラジャーです。『防御結界』」


 慌てて馬車から出てきたヴィクトリアに指示を出すと、ヴィクトリアがパトリックと馬車を覆うように防御魔法を展開する。

 それを見た俺は馬車から飛び出し、バッドモンキーを迎撃しに行く。


 俺はバッドモンキーの集団を全滅させるつもりでいる。

 逃げられて仲間を連れて戻ってこられたりしたら面倒くさいからだ。


 ということで、離れているのから始末していく。


「『天風』」


 一番離れたところに居るやつと、二番目に離れたところに居るやつを狙う。


「うききき」


 その2匹は遠くからそうやって笑いながらこちらを見ていた。だが。


「キキ?」


 ビュッと俺の放った風の魔法が、にやけ顔ごと2匹を縦に両断してしまうと、そのまま二つに分かれて、ポトリと地面に落ちて行った。


「キー」


 仲間があっさりと倒されたのを見て、馬車に迫っていた3匹のバッドモンキーがパニックに陥り、動きを止めて騒ぎ始める。


 しかし、この程度の事態で混乱するとは……。

 所詮は猿。

 猿知恵とはまさにこのことだ。


 もちろん、俺はこの機会を最大限に活かす。


「『重力操作』」


 空を飛んで手近なやつに一気に近づく。

 ザシュ。

 何をする暇も与えないまま一息に首を切り落としてやる。


 続いて。


「『天雷』」


 2番目に近い奴には雷の魔法を放つ。


「キ!」


 そいつは正面から雷を食らって一瞬で黒焦げになり、そのまま木の上から地面に落ちていく。

 後に残ったのは肉が焦げる嫌な臭いだけだ。


 残り1匹になったので、接近戦で仕留めようと近づいて行く。


「キキキキキキー!」


 最後に残ったバッドモンキーは、半狂乱になりながら必死に俺に石や木の実を投げつけてくる。

 もう理性も何もあったものではなく、手当たり次第に投げてくる。


 カン、カン。

 俺は盾でそれらを軽くはじきながら近づいて行き、最後のバッドモンキーの前に来ると、剣を大上段に構える。


 バッドモンキーは、とっさに腕を上段で組んでそれを防ごうとするが、その程度のことで防げるわけがなく。


「俺たちに手を出そうとしたのがお前らの運の尽きだったな。野生で生きるのなら、ケンカを売る相手の実力はきちんと見極めてから行動しないとな。ということで、地獄へ行け!」


 俺の上段からの一撃を受け、腕ごと真っ二つになり地面へと落ちて行った。


 これで戦闘は終了だ。

 俺は剣を鞘に収め、皆の所に帰って行った。


★★★


 その晩、俺たちは禁足地の森の中で野宿した。

 ここでの野宿は、ネイアさんの助言通り、厳戒態勢で行っている。


 まず敵から身を隠すために『姿隠し』の魔法を付与された特殊な幔幕まんまくを馬車の周囲に張り巡らす。


 これは『姿隠し』の魔法をかけられた特殊な魔道具で、魔法を発動させると周囲から姿を隠せる便利な物だ。

 ヒッグス家の魔道具工房で作られた逸品で、今回旅をするにあたって買ってきたものだ。


「お金なんかいらないよ。僕は君たちが無事でいてくれた方がうれしいから」


 エリカのお父さんはそう言ってくれたが、いつも甘えさせてもらうのは悪いし、俺たちが金を払わないと制作者の魔道具職人にあまり金が入らないらしいから、それは悪いと思い、ちゃんとお金を払って購入してきた。


 それで、これを周囲に張り巡らせて、その上で結界石を設置して、その中で野宿している。


「ららら~、今日のメインはシチューです。まずはオーク肉をいためまして~、次にお野菜もいれまして~、具がいい感じに焼けましたら、水入れて、最後はホワイトソースを入れて味付けしましょ。あ、銀ちゃん、お野菜切ってね」

「はい、ヴィクトリア様」


 今日の食事当番はヴィクトリアらしく、銀に手伝わせながら、鼻歌交じりに作っていく。


「パトリック、たくさん食えよ」

「ブルルル」


 その一方で俺はパトリックに餌をやっている。

 夜の寒さ対策の馬着ばちゃくを着せた後、飼い葉と水を目の前に置く。

 森の中を疾走して腹が空いていたのだろう。

 餌を出されるなり、パトリックはもりもり餌を食べ始めた。


 それを見届けると、俺もご飯を食べるためにみんなの所へ行く。


「あ、ホルストさん。今できたところですよ」


 皆の所へ行くと、ちょうどシチューができたところで、ヴィクトリアと銀が配膳しているところだった。


「はい、ホルストさん」


 席に着くと、ヴィクトリアがシチューを手渡してきたので受け取る。


 今日のメニューはシチューとパンだ。

 焚火を炊きながら、その周りに敷物を敷き、そこでみんなで食うことになっている。


「「「「「いただきます」」」」」


 配膳が終わると早速食べ始める。

 春も大分進み夏が近くなったとはいえ、夜はまだ寒い。

 だから体が暖まるメニューはありがたかった。


「うまいな」


 バクバク食う。

 食いながら話をする。


「ネイアさんの言っていた通り、この禁足地ってところは危険だね」

「そうですね。しかも出てくる魔物は手強いのが多いですしね」


 何かリネットとエリカが愚痴っている。


 確かにここの敵は手強い。

 ここに出てくる魔物は、昼間戦ったバッドモンキーのような猿系の魔物や、この前倒したビッグヘルキャットのような虎系の魔物、後は熊系の魔物が多かった。

 どれも素早くこの狭い森の中では戦いづらい奴らばかりだった。


「まあ、それでも虎と熊はいい値段で売れるからまだいいんだけど、猿はちょっとな」

「そうですね。あいつら全然お金にならない上、食う所もないですからね」


 俺の意見にヴィクトリアが同意する。


 そうなんだよね。猿ってお金にならないんだよね。

 だから昼間倒したバッドモンキーも捨ててきた。

 多分、今頃どこかの肉食獣においしくいただかれていることだと思う。


 さて、こんな風に会話をしているうちに食事が終わった。

 後はゆっくり休むだけだ。


「おやすみなさい」


 俺以外のメンバーが馬車に入って行く。

 今日は朝まで交代で見張りをする予定で、最初は俺の番だ。

 パトリックと、一人と一匹で焚火の前で過ごす。


 しばらくそうやっていると。


「ホッルスットさ~ん。温かいお茶はいかがですか」


 ヴィクトリアがお茶をもってやって来た。

 そのまま俺の横に座り、お茶を渡してくる。


「ああ、ありがとう」


 お茶を渡された俺はそれを飲む。

 それを見ながら、ヴィクトリアが俺に話しかけてくる。


「いよいよ、明日にはダークエルフの王都に着きますね」

「ああ、渡された地図によると、な。ただ、ネイアさんによると、ダークエルフとの交流はほとんどないから、もし場所が変わっていたとしても一切わからないそうだけどな」

「まあ、それは仕方ないですね。ワタクシたちにできるのは、間違っていようがいまいが前に進むことだけですからね」


 そこまで言うと、ヴィクトリアが俺に引っ付いてきた。

 腕をがっしりと抱きしめて、頬ずりをしてくる。

 そんなヴィクトリアの頭を撫でてやると、


「大好きです」


そう言いながら、余計に激しく頬ずりをしてくるのだった。


 こうして禁足地での夜は更けていくのだった。


★★★


 翌日の昼頃。


「旦那様、前方に集落らしきものがあります」


 街道を進んでいくと、エリカが前方に集落らしきものを発見した。


「あれがダークエルフの王都かな」

「多分そうだと思います」


 ということは王都の場所とかは変わっていなかったということだ。


「それじゃ、お前たちダークエルフの王都へ行くぞ」

「「「「はい」」」」


 ということで、俺たちはいよいよダークエルフの王都へ乗り込んでいくのであった。

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