第222話~禁足地への侵入 でも、その前に……~

 エルフの王都ファウンテンオブエルフを出発して5日。


「ここだな」


 俺たちはエルフたちが俗に禁足地と呼んで立ち入り禁止にしている場所の入り口に来ていた。


 エルフの国と禁足地の境には木の柵が並んでいて、立ち入ろうとする者の侵入を拒んでいた。

 一応、門もあるのでそこから入ることもできるのだが、門の前には兵士が立って見張っているので普通なら入るのは難しそうだった。


 普通なら、な。

 俺は自分のポケットに手を入れ、王様からいただいた『エルフの証』をギュッと握りしめる。

 何せ俺たちは王様にちゃんと許可をもらっているからな。

 この『エルフの証』を門の前にいる兵士に見せれば、簡単に禁足地に入れるはずだった。


 だが、その前に。


「ここで一晩泊って行くか」

「「「「はい」」」」


 禁足地手前の町で一泊して行くことにした。


 というのも、今は夕方でこのまま禁足地へ行くとすぐに夜になって先へ進めなくなるからだ。

 王宮でネイアさんに聞いてきた話によると。


「禁足地の中で夜移動するのは危険だと聞きます。ですので、夜はしっかり防衛体制を固めてから野宿するのがよろしいと思います」


 そういうアドバイスをもらったので、禁足地に入ってもすぐに野宿をするくらいなら宿屋に泊まってしっかり休養しようというわけだ。


 ということで、俺たちは町の宿屋へ向かった。


★★★


「こんにちは~」

「いらっしゃいませ」


 宿屋に行くと宿屋の主人が元気よく出迎えてくれた。


「今日はご宿泊ですか?お食事ですか?」

「両方だな。部屋は2人部屋と3人部屋を用意してくれるか」

「はい、畏まりました」

「それと食事はどうなっている?」

「はい、1階が食堂になっておりますので、そちらでご注文ください」

「後、明日は朝早く出発する予定なんだが、朝食は何時から食べられる?」

「7時からとなっております」

「わかった。ありがとう」


 必要なことを聞いた後、店主から部屋の鍵を受け取り食堂に向かう。


「お、結構人がいるな」


 食堂には結構人がいた。

 大半がエルフで旅人みたいな人もいないから、地元の人が食事に来ているのだと思う

 とりあえず席に着き、メニューを見て注文する。注文が決まるとウェイトレスさんを呼ぶ。


「すみません」

「はい」

「大人4人にはブヨブヨ鳥のステーキセットを。子供にはハンバーグセットをください。飲み物は大人はお勧めのお酒を。子供はアップルジュースをください」

「畏まりました」


 注文を聞くとウェイトレスさんは下がって行った。


「さて、食事が来るまで作戦会議をするぞ。とりあえずの目標は、ダークエルたちの王都。それでいいな」

「はい、よろしと思います」

「というか、魔樹とかに関してワタクシたちは何も情報がないので、そこへ行くしかないですね」

「うん、そうだね。行ってダークエルフの王に会ってみるしか道はないね」

「銀は難しいことはわかりませんが、森の中は落ち着くので好きです」


 どうやら全員賛成の様なので、その方針で行くことにする。

 後は王宮でもらってきた地図などを見ながら日程を練る。


「お待たせいたしました」


 と、そうこうしているうちに食事が来た。


「「「「いただきます」」」」


 まだ話すことはあったが、先に食事がまだ温かいうちに食べることにする。


「このブヨブヨ鳥、前にエルフガーデンで食べたのより脂が乗っていておいしいですね」


 ブヨブヨ鳥のステーキを一口食べて、ヴィクトリアがそんな感想を漏らす。


 確かに。

 俺も食べてみて、ヴィクトリアと同じ感想を持った。


「何でもエルフの国にいるブヨブヨ鳥は、餌が豊富だからヴァレンシュタイン王国のよりも太っていておいしいって話だよ」


 俺がブヨブヨ鳥のおいしさに驚いていると、どこから聞いてきたのか、リネットがそんな豆知識を披露してきた。

 リネットは俺たちが冒険者になるよりも前から冒険者をやっていて独自の情報網を持っているので、たまにこうしてその知識を披露してくれる。


 今回のようなちょっとした知識から、結構裏の話まで知っていたりするので、俺たち的にはありがたく思っている。

 本当、これだけでも奥さんにしてよかったと思う。

 その上、美人で強いから、言うことなしだ。


 それはともかく、いい話が聞けたのでここは褒めておくことにする。


「へえ、そうなんだ。リネットは物知りだな」

「へへ、そうかな」


 褒められてリネットが照れくさそうに笑う。

 うん、この笑顔もかわいいな。

 俺は十分満足した。


 その後も楽しく会話しながら食事をし、最後の打ち合わせの残りをした後、寝室に行った。


★★★


「ふう、さっぱりしました」


 風呂から帰ってきたエリカが部屋に入ってくる。

 この宿屋の風呂は大浴場形式になっているのでそこから帰ってきたというわけだ。


 ちなみに今日はエリカの日だ。明日は朝早いのでそんなに色々はできないが、夫婦生活は楽しみたいと思う。


「ふう」


 エリカが鏡の前に座ってバスタオルで髪を拭いている。


 ホルスターを妊娠した時、エリカは一度髪型をショートヘアにしたことがあった。

 確か耳が少し出るくらいのショートボブで、刈り上がった襟足を触るとチクチクとした感触がして、とても気持ちよかったと記憶している。

 あの時は潔く短くしたので驚いたものだったが、今はそこから髪が伸びて、背中くらいの長さになっている。


 ショートヘアはショートヘアでとてもエリカに似合っていたとは思うが、やはり黒髪ロングの髪型のほうがエリカには合っていると思う。

 何といっても俺は髪が長い方が好みだからな。


 そんなことを考えていると、急にエリカの髪の毛を触りたくなった。

 こそこそとエリカの後ろに回り、後ろから抱き着きながら囁く。


「なあ、エリカ。髪の毛触らしてくれないか」

「まあ、どうしたのですか、旦那様」

「久しぶりにエリカの髪の毛をじっくりと触りたくなったんだよ」

「そうですか、では」


 そう言うと、エリカは立ち上がりベッドに横になる。


「では、旦那様。お好きなようになさってください」


 お許しが出たので、エリカの所へ行き、じっくりと髪を触る。

 そのうちに我慢ができなくなってきたので、髪を触るのをやめ、夫婦生活を開始する。

 明日は朝早いのでそんなにはできなかったが、それでも十分に楽しめたのだった。


★★★


 翌朝。


「さて、行くぞ」

「「「「はい」」」」


 朝早く、朝食を食べた後、俺たちは宿屋を出た。

 そのまま、禁足地の入り口にある門へと向かう。


「止まれ!ここから先は立ち入り禁止だ」


 門番の兵士たちが俺たちを止めようとする。

 俺は黙って『エルフの証』を見せる。

 たちまち兵士が驚いた顔になる。


「そ、それは『エルフの証』。まさか、あなたたちは」

「ああ、王家の依頼で禁足地へ用事があって行く者だ。通してくれないか」

「畏まりました。どうぞお通りください」


 そう言うと兵士が門を開けてくれる。


「お気をつけて」

「ああ、ありがとう」


 最後はそう兵士に見送られて、俺たちは禁足地へと入って行くのだった。


★★★


「旦那様、これはすごいですね」


 禁足地に入った後、エリカがそんな感想を漏らす。

 エリカの言った通り禁足地はすごかった。

 何せ原生林のように木が生い茂っているのだから。

 下手をすると迷ってしまいそうだ。


 一応昔造られた街道の跡があるので、そこを通っていけばダークエルフの王都へ行けるはずだが、その街道も整備されていないので、草ぼうぼうで、道もがたがただ。

 それでも道があるだけましというものだろう。


 それはともかく先へ進むとしよう。


「さあ、出発だ」


 こうして俺たちはダークエルフの王都を目指して禁足地を進むのだった。

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