第221話~魔樹の呪い~
王様に呪いが掛けられていた。
その衝撃の事実に部屋中がざわつく。
「ヴィクトリア様、王様が呪われているというのは本当でしょうか。私は全然気が付かなかったのですが」
ネイアさんがヴィクトリアに恐る恐る聞く。
「本当です。ただ、この呪いはかなり特殊なもので、薄く薄く呪いをかけられた人の生命力を吸い取って行くタイプの呪いです。この呪いの場合、生命力を吸い取る時にほんのちょっぴりだけ魔力を消費するだけなので、トップクラスの神官といえども、その呪いに気が付くことは難しいです。ワタクシもこの呪いが薬の効果をはじくときに、ちょっと多めに魔力を使ったので、何とか気づけたのです。ネイアさんが気が付くことができなくかったのも無理はないと思います」
「そうなのですか。ヴィクトリア様はすごいのですね。それでこの呪いは解除できるのでしょうか」
「うーん。わかりませんね。一応、ワタクシは解呪の魔法を使えますので試してみますが、この魔法って、呪っている相手が強力だと効果がないんですよね。それでも、やってみますね」
そう言うと、ヴィクトリアは王様の前に立ち、魔法を唱える。
「『解呪』」
するとたちまち王様の体が淡い光で包まれる。
光は王様の体に浸透するように徐々に王様の中へ入って行こうとする。
しかし。
バンッ。
しばらくすると、そんな音を立て光が王様の体から弾かれるように出てしまった。
それを見て、ヴィクトリアが困った顔をする。
「やっぱり呪いによって魔法が弾かれてしまいましたね」
「そんな……ヴィクトリア様、他に手はないのでしょうか」
魔法が弾かれたと聞いて、ネイアさんが落胆した顔になるが、すぐにヴィクトリアに何か方法がないか聞く。
「そうですね。後は呪いの元を断つくらいしか方法はないですかね」
「元。つまり呪いをかけた相手をどうにかするしかないと」
「そういうことですね」
それを聞いてネイアさんが暗い顔になる。
「でも、ヴィクトリア様、呪いをかけた相手を見つけるのって、至難の業ではないのですか?」
「そうですね。難しいと思います」
「何か手はないでしょうか」
「無い事も無いですよ」
ネイアさんの問いかけに対してヴィクトリアが力強く頷く。
それを見て俺は思う。
今日のヴィクトリアはなんか違う。
まるで別人のようだ。すごく頼りになる。
とうとうヴィクトリアも覚醒したか。
俺はヴィクトリアをとても褒めてやりたくなった。
すると。
「ということで、ホルストさん。お願いします」
急にヴィクトリアが俺を指名してきやがった。
え?俺?
急に指名された俺は困惑するのみだった。
そして。
やはりヴィクトリアはヴィクトリアだな。
そう思い直すのだった。
★★★
「俺が魔法を使えばいいんだな」
「はい、お願いします」
ヴィクトリアにどうすればよいかと説明を受けた後、俺が確認のためにもう一度聞くと、そう返事が返ってきたので、言われたとおりにやることにする。
王様の前に立ち、魔法を行使する。
「『世界の知識』」
俺が王様に魔法を使用すると、王様にかけられた呪いの情報が入ってくる。
『魔樹の呪い』
エルフの森の禁足地に存在する魔樹によってかけられた呪い。
相手の生命力を相手に気づかれないうちに徐々に吸い取って行く非常に高度な呪いで、解呪は非常に困難。
現状で解呪するには魔樹を討伐するしかない。
……以上が俺が得た情報のすべてだ。
俺が納得した顔をしているのを見て、ヴィクトリアが声をかけてくる。
「何かわかりましたか?」
「ああ。王様の呪いは、エルフの禁足地にある魔樹によるものらしい。解呪するには魔樹を討伐するしかないそうだ」
「魔樹?!」
俺の説明を聞いて部屋中が喧騒に包まれる。
様子が変だったので、俺はネイアさんに聞いてみる。
「魔樹を討伐することに何か問題があるのですか?」
「はい、実はその魔樹というのは禁足地の中でもダークエルフの支配地域にありまして、しかも魔樹はダークエルフの信仰対象になっているのです」
「そうなのですか」
「はい」
それは困ったな。
ダークエルフの信仰の対象になっているとなれば、討伐どころか近づくのすら難しいかもしれない。
と、俺が頭を悩ましていると、ネイアさんがもっと深刻なことを言い始める。
「今回、エルフの王様の命を狙ったのって、もしかしてダークエルフかもしれません」
「え?それってどういう」
「実はダークエルフの王は魔樹と会話することができるのです。ですから、もし王様にかけられているのが、魔樹の呪いということであれば……」
ネイアさんはそこまで言うと、言葉を止めた。
多分、ダークエルフの王がエルフの王を狙っているのではないかとは言いにくいのだと思う。
そんな証拠はないうえに、ただの憶測でしかないからだ。
もし変なことを言ってそれがダークエルフに伝わったら、エルフとダークエルフの間で最悪戦争になる可能性すらある。
ということでネイアさんとしては口をつぐむしかないわけだ。
だから、俺はそのことには触れないで別の角度から聞いてみる。
「そんなにエルフとダークエルフって仲が悪いのですか」
「いいえ、そんなことはありません。というか、仲が良い、悪いという以前にお互いにほとんど交流がないのです。だから、今回どうしてこうなってしまったのか皆目見当がつきません」
ふーん。そういうものなのか。
そう言えば、以前にも誰かがそんなことを言っていた気がする。
しかし、そうなるとエルフの王様に魔樹の呪いが降りかかってきた理由が不明だ。
これは裏に何かあるな。
俺はそう思うのだった。
★★★
ネイアさんの話で一通りの情報を得ることができたので、俺は思い切って提案してみることにする。
「今回の件なのですが、ネイアさんたちの方に何か解決策はありますか?」
「いえ、何もありません。魔樹がかかわっているとなれば、できることはほとんどないです」
「そうですか。では、そういうことなら俺たちが現地に行って方策を探ってきましょうか?」
それを聞いて、ネイアさんの顔がパッと明るくなる。
「そんなことをお願いしても構わないのですか?ダークエルフの国は禁足地にあります。禁足地には凶悪な魔物も多数生息しています。それなのに、あなた方は行ってくださるのですか」
「ええ、もちろんです。ただ、禁足地へ入るには王家の許可が必要と伺います。その許可をいただけますか?」
「「もちろんです!」」
と、ここで今まで王様の横で黙って話を聞いていた王妃様と王女様が割って入って来た。
「禁足地へ入る許可などいくらでも出しますので、主人を助けてください!」
「お願いです。お父様を助けてください!」
二人とも必死の形相で頼んできた。
そして、王妃様が王様にこう言ってくれた。
「あなたもそれで構いませんね?」
「うむ、こうなってはホルスト殿に任せるしかないようだな。王妃よ。ホルスト殿に『エルフの証』を渡すがよい」
王様の話を聞いた王妃はゆっくりと頷くと、王様の机の引き出しを開け、そこからペンダントのようなものを取り出すと、俺たちに渡してきた。
「王妃様、これは?」
「これは『エルフの証』と申しまして、エルフの王族に認められたという証です。これを見せれば、禁足地に入っても誰も咎めたりしませんし、ダークエルフの王も話くらいは聞いてくれると思います」
なるほど、それは便利なものだな。
俺はありがたく使わせてもらうことにした。
「ありがとうございます。このご厚意に応えるために全力を尽くします」
こうして俺たちはダークエルフの国へ行くことになったのだった。
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