第220話~エルフの秘薬~

 黒龍を討伐し、『黒き双頭の蛇』の抜け殻を回収した俺たちは、パトリックを回収した後、急いで王都に戻った。


 城門から入り2つの女神の神殿へ直行するのが本来取るべき行動なのだろうが、その前に冒険者ギルドへ寄る。


 なぜ先にギルドへ行くのかって?

 そんなの先にやるべきことがあるからに決まっている。


「ギルドマスターを呼んでくれ」


 受付でギルドマスターに連絡してもらうと、すぐに面会する。


「素材の回収の報告は神殿に直接報告すると聞いていますが」


 俺たちと面談したイーグルさんが怪訝そうな顔をする。

 そんなイーグルさんに、俺は黒龍の巣で見つけた『森の妖精』と思しき冒険者たちの遺品を黙って渡す。


「ホルスト殿、これは?」

「実はな。『黒き双頭の蛇』の巣の周辺には黒龍が徘徊していてね。その黒龍は俺たちが討伐したんだが、その後、黒龍の巣を捜索してね。その時に見つけたものなんだ。骨とかは全然残っていなくて、見つけたのはギルドカードが何枚かと、それらの遺品だけだ」

「そうだったんですか。やはり『森の妖精』の連中は……一応確認させてもらいます」


 そう言うとイーグルさんは一旦部屋を出て、しばらくすると戻って来た。


「確認できました。やはりあれらは『森の妖精』の物でした。ホルスト殿、わざわざ届けていただきありがとうございます」


 お礼を言いつつ、イーグルさんがペコリと俺たちに頭を下げてくる。

 俺は慌てて手を振る。


「いえ、冒険者として当然のことをしたにすぎません」

「いや、ホルスト殿が遺品を届けてくれたおかげで、最低限の弔いをしてやれます。本当に感謝しかありません」


 イーグルさんはもう一度頭を下げるのだった。

 その後はしばらく雑談した後、俺たちはギルドを出た。

 もちろん、仕事の報告をするためだ。


★★★


「着いたな」


 神殿に着くとすぐに裏口へ回り、ネイアさんと連絡を取る。

 すると、そのまま神官長室に通され、すぐにネイアさんと面会できた。


「みなさん、首尾はいかがですか」


 会うなりネイアさんはそう聞いてきたので、


「ヴィクトリア、ブツを出せ」

「ラジャーです」


ヴィクトリアに言って依頼の品を出させて、ネイアさんに渡す。

 それを見て、ネイアさんがホッとした顔になる。


「まあ、これこそまさに『黒き双頭の蛇』の抜け殻。これで国王陛下のご病気を治す薬が作れます。本当にありがとうございます」

「いえ、いえ、俺たちは単に依頼を遂行しただけですから」

「まあ、謙虚な方たちですね。それでは出かけましょうか」

「出かける?どちらへ」

「王宮に決まっているではありませんか」

「王宮ですか?」

「当然です。あなた方は命がけで薬の材料を取ってこられたのですから、当然行ってご褒美をもらうべきです」


 戸惑う俺たちに対して、ネイアさんはこともなげに言う。


「では行きますよ」


 そして、そう言いながら本当に俺たちを王宮に連れて行くのだった。


★★★


「皆様はここでお待ちくださいね」


 俺たちを王宮の応接室に待たせると、ネイアさんは部屋を出た。

 ネイアさんは王宮に一部屋与えられていて、そこで今から王様のための薬を調合するのだそうだ。


 結構時間がかかるらしいのでそれまでのんびりすることにする。


「お茶はいかがですか」

「あ、いただきます」


 王宮のメイドさんがやって来てお茶を淹れてくれたので、それを飲みながらゆっくりする。


「あ、このお茶おいしいですね」

「そうですね。ハーブティーだと思うのですが、後味がすっきりしていて飲みやすいですね」

「うん、確かに。これならハーブが苦手な人でも大丈夫そうだね」

「銀も気に入りました」


 どうやらここのお茶はうちの女性陣には好評なようだ。

 実際にどうかと思い俺も飲んでみる。


「うん、確かに飲みやすいハーブティーだな」


 とても飲みやすかったので、俺も気に入った。

 ということで、メイドさんに思い切って聞いてみる。


「これはどこで取れたお茶ですか?」

「はい。こちらは王宮御用達のハーブ園で取れたハーブを調合したものになります。一応、町に行けば市販されているようですよ。お値段はとてもお高いようですが」


 ほう、これはいいことを聞いたな。これ、売っているのか。

 なら買いに行かないとな。

 嫁たちを見ると、とてもほしそうな顔をしているので、俺が言い出さなくても買いに行くだろうしな。


 と、俺たちがそうやっているうちに時間が来た。


★★★


 エリカです。


 先程ネイア様がお見えになられて、、


「薬ができました」


とおっしゃるので、皆で一緒に王様の部屋に向かうことになりました。


 しかし、さすがエルフの国の王宮です。

 木造の建物だというのに壁の装飾が美しいです。


 いや、むしろ木造だからこそ美しいと言えます。

 というのも、石と違い木の壁の方が細かく彫刻できるからです。

 その上、木なら石よりも色が細かく塗れるので、色彩が鮮やかです。

 私もこんな美しい壁を見ながら暮らしたいと、思わず思ってしまいました。


 と、私がそんなことを考えているうちに王様の部屋に到着したようです。


「国王陛下、失礼します」


 ネイアさんが扉をノックし声をかけると、


「うむ、入るがよい」


すぐに中からそう返事が返ってきたので、中に入ります。


 すると、部屋の中にはベッドの臥せった王様と、護衛の兵士、それに王様の家族でしょうか、王妃様らしい方と小さな女の子がいました。


 部屋に入ると、すぐにネイア様が王様に対してひざまずきます。

 それに合わせて私たちも一緒にひざまずきます。


「うむ。大儀であった。それで薬の方は?」


 それを見て、王様がネイア様に声をかけたので、


「これにございます」


と、ネイア様が薬を差し出します。


「ふむ、これがどんな万病でもたちまち治すと噂の『エルフの秘薬』か。早速飲むとしようか」


 ネイアさんから薬を受け取った王様が薬を飲みます。

 これで王様の病気もたちまち治るはずと皆が見守っていたのも束の間。


 王様の顔色は悪いままで、特に変化はありません。

 それどころか、薬を飲んで疲れたのか、王様は再びベッドに横になり、ため息をつきます。


「はあ、『エルフの秘薬』をもってしても効果がないとは。私もここまでなのかもしれん」

「あなた!」

「お父様!」


 王様が弱音を吐くのを聞いて王妃様と王女様が王女様に飛びついて行き、大泣きします。


 家族が苦しんでいるのに、自分は何もしてあげられない。

 見ていてとても辛い光景です。


 私は見ていられなくて、思わず目を背けてしまいました。


「ちょっと、お待ちください」


 と、ここでヴィクトリアさんが大声を出します。


 またこの子は何をしでかすつもりなのだろうと思い、止めようと思いましたが、その目は真剣そのものでした。

 ですから、とりあえず口を出さず様子を見ることにします。


 すると、ヴィクトリアさんはこう言います。


「今、ほんのちょっと邪悪な気配を感じました。それがその薬による治癒効果を阻害したみたいです。ちょっと調べさせてもらっても構いませんか?」

「はい、お願いします」


 きっと藁にも縋る思いだったのでしょう。

 王様の側にいた王妃様がヴィクトリアさんに許可を出しました。


 許可をもらったヴィクトリアさんが王様に近づきます。


「『状態把握』」


 ヴィクトリアさんが王様の状態を把握するための魔法を使います。


 これは『僧侶の記憶』の中にあった魔法で、かなり高位の魔法になります。

 多分、並の神官や回復術士には使えないほどの魔法です。


 それを使ってヴィクトリアさんが王様の体を調べると。


「やはりですね。王様には何らかの呪いがかかっています」


 ヴィクトリアさんがそんな結論を出しました。

 それを聞いて、これからどうなるのだろうと、私はドキドキするのでした。

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