第219話~黒龍を退治せよ!~

「『神強化』」


 とりあえず、自分に強化魔法をかける。


「『筋力強化』、『敏捷強化』」


 エリカも自分に強化魔法をかけている。


「『戦士の記憶』よ。我に力を与えたまえ」


 リネットは『戦士の記憶』の力を使って自分を強化している。

 神器である『戦士の記憶』にはこういう使い方もあるのだ。


「準備もできたようだし、これより作戦を開始する」

「「「「はい」」」」


 こうして準備の整った俺たちは早速作戦を開始するのだった。


★★★


「俺とリネットとエリカの3人で黒龍を攻撃するから、ヴィクトリアと銀はエダマメを守ってやれ」

「ラジャーです」

「畏まりました」


 ヴィクトリアと銀をエダマメの護衛に残し、残りの三人で攻撃を開始する。


「『重力操作』」


 俺を含めた3人に魔法をかけ、一気に空を飛んでいる黒龍に接近していく。


「『石槍』」


 エリカが魔法を発動させる。

 すると無数の石の槍が俺たちの周囲に出現する。


「行きなさい」


 エリカ一言そう呟くと、石の槍が一斉に黒龍に向かって飛んでいく。


「うが?」


 近づいてくる石の槍にさすがに黒龍が気付く。

 避けようと慌てて行動を開始するが、もう遅い。


 ドン、ドン。

 石の槍が次々に黒龍に命中していく。

 ただ、黒龍の皮膚は石の槍が当たったくらいでどうにかなるものでない。

 当たる側から次々に地面に落ちていく。


 だが、これでいい。

 何せ黒龍は大事な商品だからな。その皮膚に傷なんかついたら値段が下がってしまう。

 エリカの魔法はあくまでけん制のために放っただけだ。


 すると。


「うがあああ」


 黒龍が雄たけびを上げながら俺たちの方へ向かってきた。

 ダメージはほとんどなかったとはいえ、石を大量にぶつけられて痛かったようだ。

 その目は怒りで満ちていた。


 うん、狙い通りだ。

 俺はほくそ笑む。


「エリカ、援護を頼む」

「はい、旦那様」

「それじゃあ、リネット行くぞ」

「おう」


 一直線に向かってくる黒龍に対して俺とリネットが攻撃をする。


「『重力操作』」


 もう一度魔法をかけ直し、加速して、猛スピードで黒龍に突っ込んでいく。

 もちろん、黒龍も黙っているわけがない。


「ゴオオオオ」


 炎のブレスを吐いて迎撃してくる。


 しかし、ドラゴンというやつらは本当ワンパターンだね。

 どいつもこいつも、自分のブレスが無敵だと思って使ってきやがる。

 そんなわけがあるわけがないのにね。


 ということで、目の前の偉そうな黒龍にも自分の無力さを思い知らせてやることにする。


「エリカ」

「はい、旦那様。『氷弾』」


 俺の指示でエリカが魔法を発動すると、無数の氷弾が俺たちの周囲に出現する。

 そして、黒龍が炎のブレスを放つたびに、それらの氷弾が一つずつ飛んでいき、炎のブレスを相殺していく。


 今のエリカの実力なら、これだけの数の氷弾を1度に作っても1個1個にドラゴンの炎ブレスを打ち消すだけの威力を持たせることが可能だった。


 一緒に駆け落ちした最初のころは、たまに魔法を外すこともあるくらいのレベルだったのに、本当よくここまでになったものだと思う。

 さすが俺の奥さんだ、と思う。


 エリカがそうやって炎ブレスを迎撃してくれるので、俺とリネットはやすやすと黒龍に接近できた。

 それを見て、黒龍の奴が焦り出す。


「うがあああ」


 その強力な爪を振り回して、俺たちに攻撃してくる。

 しかし、そんな今更な攻撃に屈する俺とリネットではない。


「うおりゃあああ」


 リネットが盾を前面に構えて爪を迎撃する。


 ガゴン。

 爪と盾がぶつかる激しい音がする。

 たちまち黒龍とリネットの押し合いへし合いが始まるが、当然勝ったのはリネットだ。


 力押ししか知らない黒龍が、ジャスティスの修業を受けたリネットに勝てるわけがないのだ。


「ふん」


 リネットが盾で押し返すと、その反動で黒龍が体勢を崩す。

 そこへリネットが追撃の一手を入れる。

 ゴン。

 盾で思い切り黒龍の手首をぶっ叩いたのだ。しかも両腕をいっぺんにだ。


「ぎゃあああ」


 リネットの攻撃を受けて、黒龍が悲鳴を上げる。

 黒龍の手首は力なく下にたれているので、多分、今の一撃で手首の骨が折れたのだと思う。


「今だ!」


 その隙を見て、今度は俺が攻撃する。

 下から回り込んで、クリーガで黒龍の心臓を一突きにしてやる。


「グハ!」


 短い悲鳴を残して、黒龍の目から光が消え、力を失った黒龍が地面に落下していく。


「おっと。地面に落ちて傷がついたら値段が落ちてしまう。『重力操作』」


 落ちていく黒龍に魔法をかけ、傷つかないようにゆっくりと地面に降ろす。


「うん、死んでいるね」


 そして、地面に横たわっている黒龍にリネットが近寄って生死を確認すると、黒龍は息絶えていた。

 これにて討伐完了だ。


 俺たちは武器を収め、ホッと一息つくのだった。


★★★


「これはひどいな」


 黒龍を討伐した後、エダマメが近くに黒龍の巣があるというので行ってみると、そこは血の匂いで満ちていた。

 見ると、巣の中は血があちこちにこべりついていて凄惨なありさまだった。


「ホルスト君、これ」


 と、ここでリネットが何かを発見した。


 近寄って確認すると、幾枚かのギルドカードと衣服の切れはしや武器の残骸が散乱していた。

 骨とかは残っていなかった。


「旦那様、もしかしてこれらは例のSランクチームの……」

「そうだとは思うが、今は確認のしようがないな」


 ただ、そうは言っても同じ冒険者仲間だ。

 冒険者には不文律があって、冒険者の物らしい遺物を発見したときにはギルドへ持って行ってやることになっている。


「ヴィクトリア」

「ラジャーです」


 ヴィクトリアに言って布袋を出させ、全員で死者の冥福を祈った後、それに遺物をまとめて詰めていく。

 王都に帰ったら、これをギルドに持って行ってやるつもりなのだ。

 俺たちにしてやれることはこの位しかないが、少しでも供養になればいいなと思う。


 さて、黒龍の巣には他には何もなさそうなので、いよいよ本命の『黒き双頭の蛇』の所へ行くことにする。


★★★


「ホルストさん、あいつが『黒き双頭の蛇』じゃないですか?」


 エダマメに案内されて『黒き双頭の蛇』の巣まで行くと、巣の前で一匹の蛇が俺たちの行方を遮ろうとした。

 その蛇は黒色で、確かに頭が二つあることから、『黒き双頭の蛇』に間違いなかった。


 ただ。


「こいつ滅茶苦茶弱そうだな」


 『黒き双頭の蛇』は黒龍と比べても、物凄く弱そうだった。

 強い動物が放つ威厳とかそういうの全然ないし。

 実際、エダマメの話でも強い奴が相手だとすぐ逃げ出すということだし。


 ということで、俺はジャスティスに教わった技を試すことにする。

 生命エネルギーを放出して敵を威圧する技だ。


「はあああ」


 善は急げと、早速使ってみる。

 すると。


「シャアアアア」


 『黒き双頭の蛇』は反転して、尻尾を巻いてどこかへ行ってしまった。

 本当、噂にたがわぬ弱さだった。


 それはともかく。

 邪魔者もいなくなったことだし、すぐさま巣の捜索を開始する。


 しばらく全員で捜索すると。


「ホルスト君、これじゃないかな」


 リネットが『黒き双頭の蛇』の抜け殻を見つけた。

 『黒き双頭の蛇』は自分の抜け殻を巣にため込む性質があるらしいので、こうやって簡単に見つけることができたのだった。


「さて、目的も達成したことだし、さっさと帰るとするか」

「「「「はい」」」」

「と、その前にエダマメにお礼をしなくちゃな。危険なのに俺たちに付き合ってくれて、ありがとな」

「いえ、いえ。私どもの方こそ目障りな黒龍を討伐していただき、ありがとうございます」

「いいよ。ついでだったし。それよりも、ほんの気持ちだが、お礼の品を渡すよ。ヴィクトリア」

「ラジャーです」


 俺の指示でヴィクトリアが収納リングからいつものやつを出す。


「稲荷ずしだ。皆で食べてくれ」

「これはありがとうございます」


 エダマメは稲荷ずしを見ると体をソワソワさせて喜び、稲荷ずしを受け取るのだった。


「「「「「それでは」」」」」

「皆様、お元気で」


 最後にそうやってエダマメと別れると、俺たちは王都へ帰還するのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る