第217話~エルフの王都の冒険者ギルド~

 神殿見学へ行った数日後。


「銀、ホルスターのことは頼んだぞ」

「はい。ホルスト様。お任せください」

「ホルスターも銀ちゃんの言うことを聞いて、おとなしく遊んでいるのよ」

「うん、銀お姉ちゃんと遊んでいるから大丈夫だよ」


 俺たちはそうやってホルスターと銀を館に残すと、歩いて外に出かけた。


「皆様、行ってらっしゃいませ」


 商館の入り口でマロンさんがそうやって挨拶してくれたので、


「「「「行ってきます」」」」


と、全員でにこやかに挨拶してから商館を出た。

 目的地は同じ商業区にあるので、10分とかからず着くと思う。


 商館を一歩出ると、外は晴天だった。

 エルフの町は木造の建物が多いので、背の高い建物は多くない。

 だから、空がよく見えた。


「たまにはこうやって青空を見るのも悪くないですね。特にエルフの国は空気がおいしいので、気持ちがよそよりもいいですね」


 歩きながらそんなことをヴィクトリアが言う。


「ヴィクトリアさんの言う通りですね」

「ああ、本当に空気がおいしいね」


 他の二人もヴィクトリアと同意見のようだ。

 確かにエルフの国の空気はおいしいと思う。

 この王都だって町のすぐ近くまで森が迫っていて、町の中まで森の香りが漂ってくるくらいだ。

 だから空気がおいしいのだと思う。


 と、そんなことを考えているうちに目的地へ着いた。


★★★


「こんにちは。冒険者ギルドファウンテンオブエルフ支部へようこそ」


 目的地の建物に入って受付の職員さんへ声をかけると、職員さんはそう力いっぱい挨拶してくれた。

 そうここは王都の冒険者ギルドだ。


 今日ここへ来たのは情報収集と顔見せのためだ。

 何せギルドといえば情報の宝庫だからな。何かいい情報が手に入る可能性が高かった。

 それに何かしら適当に仕事を受けて顔を売っておけば、今後の活動に益する。

 そう思ってきたのだ。


 しかし、本当にマロンさんといい目の前の人といい、エルフってこんなに元気いっぱいに挨拶する人が多いのだろうか。

 まあ、単にそういった人を受付に置いているだけの話なのかもしれないが。


 ともかく、用件を告げることにする。


「えーと、ここのギルドのギルドマスターさんにご挨拶をしたいのだが」


 そう言いながら自分のギルドカードを見せる。

 たちまち受付の職員さんが驚いた顔をする。


「え?Sランク冒険者?まさか。このカード偽物とかではないですよね」

「何を言っているのですか。ギルドカードってっ魔法的な処理が施されていて偽物を作ることが不可能なので、有名じゃないですか」

「は、そうでした。私としたことがついテンパってしまって……あ、ギルドマスターでしたね。ちょっと連絡してきますので、少々お待ちくださいね」


 そう言うと、職員さんはすぐに受付を離れ、奥の方へ駆けて行くのだった。


★★★


「ようこそ、ファウンテンオブエルフの冒険者ギルドへ。私、ここのギルドマスターをしているイーグルと申す者です」


 あの後、俺たちはすぐにギルドマスターと面会することになった。

 この位大きな町のギルドともなると、ギルドマスターも忙しいことが多いので中々会うのが難しいはずなのだが、それでも簡単に会えるとは……恐るべしSランク冒険者カードというべきか。


 それはそれとして、イーグルさんだが、筋骨隆々のたくましい肉体を持ったエルフだった。

 元はAランクの冒険者で戦士だったらしい。

 そう聞けばこのたくましい体にも納得がいくというものだ。


 さて、イーグルさんに挨拶してもらったのだからこちらも挨拶するとしよう。


「初めまして。俺はホルストといいます。以後お見知りおきを」


 そうやって自己紹介した後、二人で固く握手をする。

 これで堅苦しい挨拶は終わりだ。

 その後はソファーに座って雑談をする。


「しかし、ホルスト殿はすごい方ですな。この前もウィンドウの町で起きていた難事を片付けたとか。いや、素晴らしいですな」


 ほほう。さすがはギルドマスター。

 もうそのことを知っているのか。情報が早いな。


「いや、そんな……大したことはしていないですよ」

「いや、ご謙遜なさるな。弟から活躍のほどは聞いておりますぞ」

「弟……さん?」

「ええ、弟のコンドルはウィンドウの町でギルドマスターをしておりまして。それで、この前魔道通信機で弟と業務連絡をしたときに弟が皆様のことを話しておりましてね」


 魔道通信機。

 ヒッグス家の工房が開発した遠距離での会話を可能とした装置である。

 大変便利なものであるが、装置はバカでかくて置き場所に困るし、稼働時間も長くないので詳細な内容のやり取りが必要な場合は手紙を送ることも多かった。

 その上高価なので一般には普及しておらず、ギルドやヒッグス商会などで定時連絡や非常時の連絡に使われることが一般的な使われ方である。


「ああ、イーグルさんはコンドルさんのお兄さんなんですか。それで、ウィンドウの町の件はそれからどうなったかとか言っていましたか?」

「あれ以来、鹿による被害はなくなったそうだよ。弟はとても感謝していたよ」

「そうですか。それはよかったです」


 事件が無事解決したと聞き、俺はホッとするのだった。


 その後も和気あいあいとイーグルさんとの会話は続いた。

 そして、小一時間ほどイーグルさんと話をして、そろそろ帰ろうかと思った時、イーグルさんが突然真剣な顔になり、ある頼みごとをしてきたのだった。


★★★


「実は、皆さんとこうして知り合ったのも何かの縁。実はお願いしたいことがあるのですが」


 そろそろ帰ろうかという頃になって、イーグルさんがそんなことを言ってきた。


 正直、俺はあまりいい予感がしなかった。

 こういう場合に頼まれる依頼というのは妙に難しいものが多いからだ。

 フソウ皇国でもそうだったし、この前のウィンドウの町でもそうだった。


 ただ、こういう依頼というのは相手も相当困っている時に言ってくると思うので、解決してあげればその分良好な関係を築けるというメリットもある。

 ということで、受けるかどうかは別にして話だけでも聞いてみることにする。


「どういったことでしょうか?」

「実は……」


 イーグルさんの話を聞いた俺たちは依頼を受けることにした。


★★★


 1時間後。


 俺たちはこの前も行った2つの神殿の神官長室にいた。


「そうですか。ホルスト様たちが依頼を引き受けてくださるのですか」


 俺たちの目の前では、ネイアさんが頬杖をつきながら、そう嘆息していた。


「ええそうです。一応ギルドマスターから依頼の概略は聞いています。何でも国王陛下のご病気を治すための薬を作るための材料が欲しいという話だそうで」

「その通りです。でも、これが中々難しいのです」

「ええ、聞いていますよ。何でも1か月ほど前、Sランク冒険者チームを送り込んだけど、音信不通になっているとか」


 俺たちがイーグルさんに聞いた話によると、1か月ほど前に『森の妖精』というSランク冒険者チームにこの件を依頼したそうだ。

 『森の妖精』は王都に2チームしかないSランク冒険者チームの一つだそうなのだが、嬉々として依頼を受けたものの一か月経っても帰ってこないらしい。

 もう一つのSランクのチームは大口の依頼を受けていて、当分は帰ってこないらしい。


 ということで、どうしようもなくなって困っていたというわけだが、そこへ現れたのが俺たちというわけだ。


 それで、今、国王陛下のご病状はいかがですか?」

「それがあまりよくなくて。一応私の作成した魔法薬で病状の悪化をある程度防いでいるのですが、日に日に衰弱している始末でして」

「そうなのですか」

「はい。ですから今度行われるルーナ様とソルセルリ様のお祭りに出席していただいて挨拶していただく予定の国王様が出席できるか不明でして、準備が滞っているのです」


 ああ、ネイアさんがこの前言っていた困ったことというのはこのことだったのかと思った。


「わかりました。国王陛下の命がかかっているとなれば、俺たちも協力しましょう」

「本当ですか?ありがとうございます」


 俺の言葉を聞いたネイアさんはぺこりと頭を下げた。


「それで、どこへ行って、何を取ってくればいいのですか」

「はい、コーカサス山脈へ行き、『黒き双頭の蛇』の抜け殻を取ってきてほしいのです」


 俺の問いかけに対して、ネイアさんはそう答えるのだった。

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