第11章~エルフの森の魔樹~

第209話~エルフの国へ続く森~

 俺たちは薄暗い森に整備された街道で馬車を走らせていた。


 ここはエルフの森。

 エルフの国全体に広がる森で、多くの木が生い茂り自然豊かな場所である。


「旦那様、敵ですよ」


 御者をしていた俺の横でエリカがそう呟く。

 森の中の街道は整備されていると言っても、そこまできちんと整備されているわけでもないので、俺は索敵をせず馬車を御すのに集中し、エリカがずっと魔法で探知していたのだった。


 俺は馬車を止める。

 すると、馬車の中からすぐにヴィクトリアとリネット、銀が出てくる。

 全員武器を構えているので、戦闘準備は十分なようだ。

 俺とエリカも馬車から降り、武器を構える。


 しばらくその状態で待機していると、敵が出てきた。


「ゴブリンテイマーとホワイトウルフか」


 敵はゴブリンテイマーとホワイトウルフの混成部隊だった。

 ホワイトウルフに騎乗したゴブリンテイマーが2匹と他に10匹ほどのホワイトウルフが俺たちに襲い掛かってこようとしていた。


 こいつらは1匹1匹は大した強さではないが、集団で襲い掛かられると面倒くさい相手だった。

 元々オオカミは集団で行動してこそ、その能力の真価を発揮できる生物であり、さらにそこに獣を操ることに長けたゴブリンテーマーが加わるとなると、その集団としての能力はかなりのものだ。

 多分、小さな商隊が遭遇したりしたら最悪全滅する可能性もある。

 そのくらいの相手だ。


 ただ、俺たちだって連携という点では負けていないし、そもそも個々の戦闘力では遥かに上だ。

 こんな所で躓くわけにはいかない。


「来るぞ!ヴィクトリア!」

「ラジャーです。『精霊召喚 土の精霊』、『防御結界』」


 まず、ヴィクトリアが防御を固める。

 土の精霊を召喚し、迫ってくる敵の矢面に立たせて攻撃を妨害し、防御魔法を馬車の周囲に展開して、馬車の守りを固める。


「『風刃』」

「『雷光術』」


 ヴィクトリアが作った防御壁の間を縫って、エリカと銀が攻撃を仕掛ける。


「キャン」

「ギャオン」


 エリカたちの攻撃を受け、狼たちが次々と倒れていく。


「クッ」


 それを見て、形勢が不利だと見たか、ゴブリンテイマーたちが逃げに入る。

 しかし、そうは問屋が卸さない。


「リネット」

「おう」


 すぐさま俺とリネットが突撃を敢行する。


 ザシュ、ザン。

 迎撃しようとする狼たちの首を一撃で切り飛ばし、ゴブリンテーマーに一気に迫る。


 ビュッ。

 迫る俺たちに対して、ゴブリンテイマーたちーが鞭を振るってくる。

 鞭は上下左右に複雑な軌道を描きながら、俺たちに迫ってくるが。


「ふん」


 俺が一撃入れてやると、スパッと鞭が切断され、うねうねしながらどこかへ飛んでいく。


「うらあ」


 そこへリネットが斧をたたきいれる。

 ドス、ドス。

 鈍い音を立てながら、2匹のゴブリンテーマーの頭が被っていた鉄の兜ごと潰される。


「『雷光術』」


 そこへ銀の妖術が飛んできて、ゴブリンテーマーが乗っていた2匹の狼も感電して即死する。


「これで、終わりだな」


 周囲を見回すと、すでにゴブリンテーマーの手下のオオカミたちは全滅していた。

 これで、戦闘終了である。


 俺たちは武器をしまった。


★★★


 さて、戦闘の後は楽しい収穫タイムだ。


「ホワイトウルフの毛皮は、白くてきれいだからコートの材料として人気だ。王国へ持って帰ったら高く売れるはずだ。ヴィクトリア」

「ラジャーです」


 俺の指示で、ヴィクトリアがホワイトウルフを回収する。


 俺の言った通りホワイトウルフの毛皮は、王国でコートの材料として人気で高く売れる。

 白い毛がとてもきれいなので、非常に人気があるのだ。

 一度買えば一生ものだ。

 手入れさえ怠らなければ、一生使えるからだ。


 と、ここで俺はふと思いつく。


「そうだ!お前たち、ホワイトウルフの毛皮のコートって持っていなかっただろう?だったら、ホワイトウルフの毛皮は全部売らずにお前たち用にコートを作ろうか?」


 その俺の発言を聞いて、嫁ズの顔がニコニコ顔になる。


「本当ですか?旦那様」

「ホルストさん、うれしいです」

「ホワイトウルフの毛皮のコートって暖かいらしいからね。アタシも欲しかったんだ」

「ホルスト様、ありがとうございます」


 何か嫁ズの他に銀もうれしそうにしているが、まあ、銀も欲しいのなら作ればいい。

 とにかく、俺は皆が喜んでくれる方がうれしいので、俺もうれしかった。


★★★


 獲物を回収した後、少し移動してから休憩した。


「パトリック、たんと食べるのです」

「ブヒヒヒヒン」


 ヴィクトリアがパトリックに餌をやっている。

 今日は朝から結構進んだのでパトリックもお腹を空かせているのだろう。

 モグモグと良い食いっぷりで餌を食っていた。


 ヴィクトリアが餌をやっているうちに、他の女性陣が食事を用意する。


「さて、敷物を敷き終わりましたよ」


 エリカが地面に敷物を敷く。


「今日はサンドイッチだよ」


 リネットがバスケットを開けて、サンドイッチを取り出す。


「銀が飲み物をお注ぎしますね」


 そして、銀がコップに飲み物を注いでいく。

 準備ができたところで、皆で食べ始める。


「いただきます」


 今日のサンドイッチは、カツサンドとハムチーズサンド、タマゴサンドの3種類だった。

 どれもおいしかった。


 それらを見ながら空を見上げる。

 すると、森の木々の隙間から薄っすらと空が見えた。

 白い雲が青い空に映え、美しい空だった。


 何か青い空を見たのは久しぶりな気がした。

 実際はそんなことはないはずなのだが、エルフの国に入ってからというものずっとちょっと薄暗い森の中を移動しているので、あまり空を直に見ていないから、そう感じるのだと思う。


 あまり空を見られないのは俺的には寂しい気もするが、エリカたちに言わせると。


「あまり肌が焼けなくて済むので、好都合ですね」


 ということらしかった。


 まあ、俺も嫁さんたちがきれいなのは大歓迎なので別に構わないのだが、薄暗い森を進むのはさっきのように突然魔物に襲われることもあるので、危険でもある。


 もっとも、うちは全員が何らかの探知方法を持っているので、魔物に急襲されるという危険性はかなり少ないけどね。


 そんなことを考えているうちに食事も終わり、移動を再開する。


★★★


「お、銀も大分うまくなってきたな」

「ありがとうございます」


 移動を再開した後は、銀が御者をしている。

 もっとも、一人では無理なので、俺が横に付いてちゃんと指導してやっている。


 なぜ銀が御者をしているのかって?

 それは、銀が馬の扱い方を学びたいというからだ。


 というのも、うちのパトリックには子供がいるだろう?

 あれが大きくなったら、ホルスターと二人で並んで乗ってみたいそうだ。


「ホルスターちゃん、お馬さん乗るの楽しいね」

「うん、楽しいね」


 多分、二人でそんなやり取りをしたいのだと思う。

 本当に仲が良くて結構だと思う。


 しばらくそうやって銀が馬車を操っていると。


「ホルスト様。前に何か見えます」


 そう銀が言ってきた。

 俺も前の方を注視すると、どうやら町のようだ。


「エルフの国に入って初めての町か」


 町を見て、俺は期待に胸を膨らませる。


「銀、少しスピードを上げるぞ」

「はい、ホルスト様」


 そして、銀に言ってパトリックの歩く速度を速めるのだった。


 さて、初めてのエルフの町。

 どうなるのか。

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