閑話休題29~その頃の妹 冒険者になろう~

 私の名前はレイラ・エレクトロン。

 今、私は山奥の修道院で修業の日々を送っています。


 修行は正直きついです。

 修道院長や他の修道女たちの監視がきつくて、のんびりしている暇はほとんどありません。

 ちょっとでも手を抜いたりサボっているのがばれたら、即懲罰の滝行行きだからです。


 春になって、少しは寒さが和らいだといっても、まだまだ滝の水は冷たく、一度その水を浴びると、体の芯から冷え切ってしまいます。

 はっきり言って、そうなると極寒地獄へ突き落とされた感じになり、肉体的にも精神的にもその日一日きついです。

 だから、そうならないように気をつけて行動しています。


 ということで、私は毎日ぎりぎりの生活を送っているわけですが、そんな私にもついに安らげる日が来ました。

 ある日、私と友人のフレデリカは修道院長に呼び出されてこう言われました。


「シスターレイラに、シスターフレデリカ。最近はよく頑張っているようですね。ご褒美として、次の休みの日は他のみんなと同じように休んでもいいですよ」


★★★


「やった!休みだ」


 久々に休みをもらえた私とフレデリカは、修道院の庭で外を眺めながらのんびりとしていた。

 ああ、この休みの日に何もしなくてよい幸せ!

 久しぶりだ。


 私とフレデリカの二人には、修道院に戻ってからというもの基本的に休みなどなかった。

 というのも、私とフレデリカの二人には休みの日にも特別講義として修道院長や修道女たちのありがたい説法を受けていたからだ。


 まあ、それも今日は受けなくてよいわけで、私たちは食堂でもらってきたお湯を飲みながらぺちゃくちゃ話していた。


 え?なんでお茶ではなくお湯なのかって?

 そんなの簡単だ。

 ここは厳しい修行の場なのだ。

 お茶何てぜいたく品、修行中の身である私たちが飲めるはずがないのだ。


 ぜいたくは敵だ!

 それがここのスローガンである。


 もっとも、それは建前で、本当の所を言うとお茶を買うような予算が無いからというような事情もあったりする。

 だから、ここではお茶は来客があったときなど特別なときにしか出ることがなく、お湯で『午後のティータイム』ならぬ、『午後のお湯タイム』を過ごすことが普通であった。


 そんなわけで、私とフレデリカは二人でお湯を飲んでいたわけだが。


「シスターレイラに、シスターフレデリカ。ご実家からお手紙が届いていますよ」


 そう言いながら、修道女が私たち二人に手紙を届けてくれた。

 差出人を見ると。


「お父様?」


 父からだった。


 早速開けて中身を呼んだ私は青ざめた。


「嘘?最近、親戚中からお前のことでいろいろ言われて困っている。修道院から出てきても、もうあまり援助してやれないから、出てからは自立して生きていく方法を模索するように。一応、自立のために少しくらいは資金援助はする……ですって?」


 それは父からの最後通牒だった。

 多分、親戚に説教されて、修道院に入ってもいろいろやらかしている私にこれ以上甘い顔はできないと思ったのだろう。

 一族への手前、これ以上面倒は見ないと父は言っているわけだ。


 それを聞いて、私は絶望しそうになった。


 だって、私は一人で生きていく術何て全然知らないのだから。

 全然自炊とかできないし、裁縫とかも屋敷の使用人がやってくれていたからできない。

 掃除は、ここでいろいろやらされたので多少はできる。

 ただ、それだけで生きていけるかというと、はなはだ心もとない。


 一応、少しくらいは資金援助はしてくれるそうなので、それで何とかするしかないが、何をどうすれば生きていけるのか、うまく未来図を描けなかった。


 どうしようと、意味もなく首を動かしてきょろきょろと周囲を見ていると、フレデリカも暗い顔をしているのが見えた。


「フレデリカ、どうしたの」

「あははは、私、親に見捨てられちゃった」


 フレデリカは目に涙をためながらそう言うのだった。

 詳しく話を聞くと、フレデリカも私と同じく親に見放されたようだった。


 どうやら、もう面倒を見ることはできない。

 手切れ金を渡すから自分で生きていくようにしなさい。

 そう言われたらしかった。


「そっか。フレデリカも帰るところなくなっちゃったのか」

「も?ということはレイラもか?」

「うん、そうなんだ」


 そこまで言うと、私はフレデリカの横に座り込み、二人して空を見上げた。


 春らしく、雲一つない青い空だった。

 それは、まるで私たちのこれから先の未来みたいだった。

 なにも希望が見えない未来。目の前の何もない空そのものだった。


 しばらく、二人してぼーっと空を眺めていると、フレデリカがこんなことを言い始めた。


「ねえ、レイラはここから出たら何かあてはあるの?」

「そんなものはないよ。それどころか、私、碌に家の手伝いとかしたことないから、一人で生きていけるかどうかもわからない」

「そうなの?だったら、私に一つアイデアがあるんだけど」


 フレデリカがジッと私の顔を覗き込みながらそう言う。

 私は黙ってそれを聞く。


「ここを出たら、冒険者にならない?」

「冒険者?」


 フレデリカの突拍子もない提案に私は驚きを隠せなかった。


「何で冒険者?」

「だって、冒険者って儲かるんでしょ?レイラのお兄さんだって、めっちゃお金持っているじゃん。私たちも頑張れば、そのくらい稼げるようになると思うんだ」

「そんなにうまく行くかしら」

「行くと思うよ。幸いなことにレイラは魔法が使えるし、私も昔から兄貴たちの狩りについて行っていたから弓の心得はあるんだ。だから、後何人かパーティーメンバーを見つけてパーティーを組めば、うまく行くと思うんだ」

「でも」


 なおも反論しようとして、私はふと思った。


 それはいい考えだ、と。

 私が冒険者となって、それで兄貴たちよりも活躍すれば、兄貴や両親、他にも私をバカにしてきた

連中を見返してやれる!

 それは兄貴への十分な復讐になる。


 私はそう思い、フレデリカの手を取る。


「いいわ。フレデリカ。ここを出たら、一緒に冒険者として頑張りましょう」

「オッケー。頑張ろう」


 こうして、私たちは修道院を出た後は冒険者になることを決めた。


 しかし、この時の私たちは知らなかった。

 冒険者稼業は決して楽な仕事ではなく、いろいろひどい目に遭うことを。

 そして、兄貴たちが異常な存在だったことを思い知る羽目になることを。


ーーーーーーー


 これにて第10章終了です。


 ここまで読んでいただいて、気にっていただけた方、続きが気になる方は、フォロー、レビュー(★)、応援コメント(♥)など入れていただくと、作者のモチベーションが上がるので、よろしくお願いします。


それでは、これからも頑張って執筆してまいりますので、応援よろしくお願いします。

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