第208話~いざ、エルフの国へ~

 エルフガーデンの町に着いた翌日。


「ほら、ホルスター。おばあ様たちの言うことを聞いておとなしくするのよ」

「うん、ママ」


 エリカに注意されたホルスターが銀とともにエリカのお母さんたちの馬車に乗り込んでいく。


 今日は、皆で近くの森林公園に出掛けようということで、朝から準備をして、こうして出発しようとしているわけだ。


「よし、出発だ」


 エリカのお父さんの指示で、馬車が一斉に動き出す。

 馬車は全部で5台で、うちの家族、お父さんたち、お兄さんたち、使用人たち、護衛の人たちの分がある。


 それで、ホルスターと銀はお父さんたちの馬車へ乗った。

 まあ、エリカのお母さんが孫を手放したがらないので、いつものことだ。


 後、俺の馬車の御者は護衛の騎士団の子がやってくれている。

 おかげで、俺は嫁ズと馬車の中でのんびりしている。


 馬車の中では、嫁たちと楽しく遊んでいる。

 今日は皆でスゴロクをやっている。

 まあ、子供向けの遊びだが、実際このスゴロクを使って銀やホルスターがよく遊んでいる、たまには大人がするのも悪くない。


「お、6だな。……って、『1回休み』かよ」

「あら、ホルストさん、残念ですね。次はワタクシですね。……げっ。『振り出しに戻る』ですか。やられました」


 と、こんな感じでスゴロクをやって俺たちは遊んでいた。

 そのうちにスゴロクに飽きてくると、窓から馬車の外を見る。


「見てください。エルフがいますよ」


 ヴィクトリアがそんなことを言う。


 俺も外を見ると、背が高く、尖った耳を持ったエルフの冒険者らしい一行が歩いていた。

 ここはエルフの国との境界だから、普段自分の国から離れようとしないエルフたちも交易などの目的で来るのだろう。


 エルフは魔法に長けた者が多い種族だ。その実力はヒッグス家に所属する魔法使いたちと十分以上に渡り合えるくらいだ。

 そんなエルフたちは高級なポーションを作るのが得意で、それを人間との交易の品とすることが多い。


 他方、人間の魔法使いはポーション類よりも魔道具作りに長けた者が多く、エルフたちは交易の品としてそれらを求めてくることが多い。


 ということで、人間とエルフの間に交易が成り立っているというわけだ。


 そんなことを考えながら外を眺めていると、馬車が止まった。


「旦那様、どうやら目的地に到着したようですよ」


 そうこうしているうちに、目的地に着いたようだ。


★★★


「ほーら、ホルスター。おじいちゃんと釣りをしようか」

「はい、おじい様」


 目的地の森林公園に着くなり、エリカのお父さんはホルスターを連れて森林公園内にある川へ釣りに行った。


 この公園の川はいい釣りスポットとして知られているらしく、多くの人が釣りに来るらしかった。

 ただ、今日に限ってはこの公園はうちの貸し切りだ。


 というのも、昨日エリカのお父さんがこの町の市長に挨拶に行ったら、


「この町には有名な森林公園があるので行ってみてはどうですか」


と、勧めてくれた上に貸し切りにしてくれたのだ。

 しかも、公園内にある迎賓館も貸してくれたので、俺たちはそこを利用しているというわけだ。


 まあ、エリカのお父さんの権勢は大貴族とも肩を並べるからな。

 当然中央の役人たちとも大きなつながりがあるわけで、そうなるとお父さんの機嫌を取っておけば出世につながるかも。

 市長がそう考えても不思議ではない。


 だから、ここで媚びを売っておいて、出世の役に立てばいいなあという市長の気持ちはよくわかる。

 まあ、おかげで俺たちは気楽に遊べるというわけだ。


 お父さんが釣りをしている傍らで、俺はエリカのお兄さんと狩りに出かけた。

 護衛の騎士が2人ほどついてきて4人で狩りをする。

 狙いは野鳥や小動物だ。


 森の中に入って10分ほどで早速1匹見つける。


「ブヨブヨ鳥だね」


 木の上の獲物を見てお兄さんがそう言う。

 ブヨブヨ鳥は王国ではどこでも見かけるような鳥だ。

 名前の通り肉付きがよく食べると美味しい。


 ただ、名前に反して逃げ足が速いので狩るのは難しい鳥でもある。


 そのブヨブヨ鳥に対してお兄さんは矢をつがえる。


「『矢加速』」


 そして、矢の威力と弾速を増す魔法をかけると、ブヨブヨ鳥に向かって矢を放つ。

 グサッ。

 いい音とともに矢がブヨブヨ鳥に命中して、ブヨブヨ鳥が地面に落ちる。


「やりましたね、おい」

「はっ」


 俺の指示で騎士団の子がボーボー鳥を回収に向かう。


「中々の獲物ですね」


 獲物を持ち帰った騎士団の子が獲物を俺たちに見せてくる。


「いい肉付きだな」


 お兄さんが落とした獲物は肉付きが良い小太りのボーボー鳥だった。


「これは今日の夕飯のバーベキューの肉にはいいだろうね」

「さすがですね。お義兄さん」


 それで、次は俺の番だ。

 そこからさらに森の中を歩くと。


「今度は野ウサギか」


 茶色い野ウサギを見かけた。のんきに草を食んでいる。

 俺は風下から回り込むと、野兎へ向けて矢を構える。


「『天風』」


 そして、俺も矢に魔法をかけて矢を放つ。

 ビュッ。

 鋭い音とともに矢が野ウサギに命中し、野ウサギが動かなくなる。


 と、同時に騎士団の子がさっと野ウサギの方へ向かい、回収してくる。


「これも太っていておいしそうだね」

「ええ、そうですね。バーベキューのいいおかずになりそうです」


 このようにして狩りは順調に進んでいき、合計で鳥を3羽、野ウサギを3羽狩ったところで狩りを止めた。

 ちょっと物足りない気もするが、あまり狩り過ぎて狩場を荒らすのも良くないのでこれくらいにしておいた。


「たくさん捕れたね」

「そうですね」


 ただ、それでも十分な成果と言えたので、俺たちは満足して帰った。


★★★


「旦那様、お帰りなさいませ」


 迎賓館の方へ帰ると、エリカたちが夕飯の支度をしていた。

 エリカたちは昼間山菜取りに行っていたらしく、それを使って炊き込みご飯を作り、おにぎりにしていた。

 エリカのお父さんたちも魚釣りからとっくに帰ってきているようで、その魚をさばいて、バーベキューに供するようだ。


 俺たちもとってきた獲物を差し出す。

 一応、森の中で血抜きと皮の剥ぎ取りなどは済ませてきたので、すぐにでも食べられる状態にしてある。


「おいしそうですね」


 ヴィクトリアが獲物を受け取ると、それをさばいて、塩を振って下ごしらえし、串に刺してバーベキューの食材へと加工していく。

 このようにしてバーベキューの準備は進んでいく。


★★★


「うん、いい匂いだな」


 迎賓館の庭にバーベキューのいい匂いが漂っている。


「じゃんじゃん焼きなさい」


 エリカの指示で屋敷の使用人さんたちが、肉や魚、野菜の刺さった串を次々に並べて焼いて行く。


「ユリウス様、私が食べさせてあげます」


 庭の片隅では、そうやってエリカのお兄さんが奥さんにバーベキューを食べさせてもらっていた。

 二人とも周囲の視線が気になるのか、頬を赤くしている。

 とても初々しい感じでいいと思う。


 うん、羨ましい限りだ。

 ただ、俺も負けてはいない。


「旦那様、あーんしてください」

「ホルストさん、次はワタクシのをどうぞ」

「肉ばかり食べてたら駄目だよ。アタシが野菜も食べさせてあげる」


 そうやって、嫁さんズが俺に次から次へと食べさせてきた。

 ヴィクトリアでさえ、自分の分はそこそこに俺に食べさせていたくらいだ。

 多分、お兄さん夫婦に負けたくないと思っているのだと思う。


「まあ、若様の所もお嬢様の所もラブラブで羨ましいです」

「ああ、私もあんな素敵な旦那様が欲しいです」


 そんな俺たちやお兄さん夫婦を見て屋敷のメイドさんたちがそうやってヒソヒソ話をしている。

 彼女たちも年頃の女性が多いから、仲の良い男女にはあこがれるのだと思う。


 一方のお父さんたちはと言うと。


「私が取ってあげます」


 一応エリカのお母さんが、串から肉や野菜を取ってあげて皿に並べていた。


「ああ、ありがとう」


 で、それをお父さんが食べている。これはこれで仲が良さそうに見えたが。


「はい、ホルスターちゃん。おばあちゃんが食べさせてあげるね」


 皿に並べる以上のことはせず、せっせとホルスターに食べさせていた。


「ホルスターちゃん、銀姉ちゃんも食べさせてあげるからね」


 それになぜかお母さんに張り合って、銀もホルスターに食べさせていた。


 おかげで、お父さんはポツリと飯を食うことになっていた。

 ちょっとかわいそうな気もするが、お父さんはお父さんで孫が喜んでいる姿を見られて幸せそうなのでよしとする。


 こうして、迎賓館での一日は過ぎて行った。


★★★


その後、俺たちは数日を森林公園で過ごし、さらに数日をヒッグス家の別荘で過ごした。

 そして……。


「ホルスター、ちゃんとおじい様とおばあ様の言うことを聞いていい子にするのよ」

「うん、ママ」


 休暇が終わったので、俺がお父さんたちをヒッグスタウンに連れて行くことになった。

 そうやって挨拶を交わした後、俺が『空間操作』の魔法で転移を門を開き、ホルスターたちをヒッグス家の屋敷に送り届ける。


「それじゃあ、行ってくるからな」

「うん、行ってらっしゃい、パパ」


 そうやって、行ってきますの挨拶を交わした後、エルフガーデンに戻る。

 そして、用意していた馬車に乗る。


「さあ、これから先はいよいよエルフの国だ。皆、気合を入れろよ」

「「「「はい」」」」


 そして、馬車を走らせる。

 馬車の進行方向の空は、春らしくとても青かった。

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