第207話~エルフの国との国境の町エルフガーデン 折角なのでついでに家族サービスをする~

「旦那様、素敵な町ですね」


 エリカが目の前の町を見てうっとりとしている。


「本当、神秘的な雰囲気があっていい町ですね」

「うん、のんびりとこんな町で暮らすのもいいな」

「銀も、この雰囲気は好きですね」


 というか、女性陣は皆お気に入りのようだ。


 ここはエルフガーデンの町。

 ヴァレンシュタイン王国と、エルフの王国の境にある町だ。


 女性陣がステキだと言っている通り、ここは風光明媚な町として知られていた。

 建ち並ぶ建物はエルフ風の木造建築の建物が多く、エルフの大森林が間近いこともあり、町からは美しいエルフの森が良く見えた。

 その上、森から木々の良い香りが漂ってきて、とても気持ちが良かった。

 確かに、俺もこの町に住みたくなる人間の気持ちがよく分かった。


 そして、この町を過ぎればエルフの王国は目の前だった。

 目的地のエルフの国まであと一歩だった。


 さて、それでは町に入るか。


 と、その前に俺にはやることがあったので、そっちをやることにする。


★★★


「ホルスター、迎えに来たぞ」

「パパ、ママ。来たの?」


 エルフガーデンの町に入る前に俺とエリカはエリカの実家へ向かった。

 息子のホルスターを迎えに行くためだ。

 ホルスターを迎えに行ったのは家族旅行のためだ。


 俺は自分の親に旅行とかあまり連れて行ってもらえなかった。

 だから、自分の子供については色々な所に旅行へ連れて行ってやりたいと思っている。

 ということで、ホルスターを迎えに来たわけなのだが。


「あら、エルフガーデンの町へ行くの?いいわね。私も行きたいわ」

「そうだね。僕もあそこには仕事で一度行ったことがあるけど、いい町だったね。もう一度行ってみたいね」


 ホルスターの所へ行ったら、なぜかエリカのお父さんとお母さんまで旅装姿で待っていた。

 完全に自分たちもついてくる気満々だった。


「ユリウス様、私エルフガーデンの町は初めてです。楽しみです」

「僕もだよ。一度行ってみたいと思ってたんだ」

「本当、エリカの婿殿が優秀でよかったですわ」


 というか、お父さんたちだけでなく、エリカのお兄さん夫婦にエリカのおばあさんまでいた。

 もちろん、全員旅装姿でついてくる気満々だ。


 じいちゃんだけいないのは、多分、エリカのお母さん辺りに、「お父様は来なくていいです」とか、言われたに違いなかった。

 哀れな話であるが、俺もエリカのじいちゃんと完全に和解しているわけではないので、かかわらなくて助かったと思っている。


 それで、エリカのお父さんたちを連れて行くのかって?

 当たり前じゃないか。


 日頃お世話になっているお父さんたちを連れて行かないなんて選択肢は俺にはない。

 ということで、ホルスターの他にエリカのお父さんたち、さらにはお父さんたちの世話をする使用人たちを幾人か連れて、俺はエルフガーデンの町に戻るのだった。


★★★


「こ、これは旦那様」


 エリカのお父さんの姿を見たエルフガーデンの町にあるエリカの実家の別荘の管理人さんが、突然現れたエリカのお父さんを見て驚いていた。


 当たり前だ。

 ここはヒッグスタウンからかなり離れた場所だ。

 そんな所に、屋敷の主人であるお父さんが急に現れたのだから、管理人さんが驚くのも無理がなかった。


 ただ、お父さんはそんな管理人さんの驚きなど意に介していないようで。


「突然連絡なしに来て悪かったね。さぞ、驚いただろう」

「いえ、そのようなことはございません。我々はいつ旦那様が来られても大丈夫なように屋敷の手入れは欠かしておりませんので」

「そうか。それはいい心がけだね」

「ただ、急に来られたので食料品の準備が十分ではありません。すぐに手配しますので、少しお待ちください」

「ああ、頼むよ。とりあえず、昼間は簡単なものでいいから、夕飯からはちゃんとしてくれ。それと、僕の孫は夕飯にハンバーグを食べたいって言ってたから、子供用にハンバーグを用意してくれ」

「畏まりました」


 お父さんの命令を受けた管理人さんは、お父さんの命令を遂行すべくすっ飛んでいった。


★★★


 ヒッグスタウンから戻った俺たちは、ヒッグス家の屋敷へ直行した。


「折角だから、うちに泊まりなさい」


 お父さんがそう誘ってくれたからだ。


 というか、こんな遠く離れた場所にまで別荘を所有しているとか。

 さすが商売を手広くやっているエリカの実家である。


 さて。


 お父さんが別荘の管理人さんにいろいろ言いつけた後、俺たちは別荘に入った。


「私もここへ来るのは初めてですが、中々凝った屋敷ですね」


 珍しくエリカが自分の家の別荘を褒めていた。

 確かにこの屋敷は凝った造りになっていた。

 エルフ風の木造建築の建物で、屋敷の随所の施された彫刻も中々いいものだった。


 屋敷から見える風景も、


「ホルストさん、ホルストさん、見てください。ここから見えるエルフの森。とっても素敵ですよ」

「ホルスト君、ホルスト君。あそこ見てよ。小鹿がこっち見てるよ」


と、うちの嫁ズが騒ぐには十分にきれいなものだった。


 そうやってはしゃぐ嫁たちを横目に俺は部屋のベランダの椅子に座る。

 そして、深く横たわるように椅子に座り、目を閉じて、体の疲れを癒す。


 そのうちに、嫁たちもはしゃぎ疲れたのか、俺の横に座り、のんびりと景色を眺め出す。


 ちなみにホルスターと銀はお父さんたちの所へ行っているので、ここにはいない。

 多分、リビングにいるはずなので、そこで遊んでいることと思う。


 ということで、屋敷に入ってしばらくの間はそうやってのんびりした。


★★★


 昼飯を食べた後、俺たちのパーティーは出かけた。

 パーティーといっても銀はお留守番だ。


「銀お姉ちゃん、遊ぼ」


と、ホルスターが言うので、屋敷に置いてきてホルスターの相手をしてもらうことにした。

 それで、俺たちがどこへ出かけたのかというと。


「ここだな」


 ある建物に到着した俺たちは、建物の中に入っていく。

 その建物の入り口には、『冒険者ギルド エルフガーデン支部』と書かれた看板が掛けられていた。


★★★


 エルフガーデンのギルドは他のギルドと同様、受付の前に依頼ボードが置いてあるスタイルだった。


 もっとも、依頼が張り出されるのはどこのギルドも朝なので、昼の今はそんなに冒険者の姿は見られなかった。

 俺はギルドに入ると、そのままギルドの受付に行く。


「すみません」

「はい、何か御用でしょうか」

「えーと、ノースフォートレスの冒険者ギルドからの依頼で、荷物を運んできたのですが」

「あ、はい。ノースフォートレスからの荷物ですね。それでしたら、荷物を確認させてもらってもよろしいですか」

「はい、お願いします」


 そう言うと、俺たちは受付の人を連れて、一旦ギルドの外へ出る。

 そしてパトリックを連れてギルドの倉庫へ入り、そこで荷物を下ろす。


「それでは確認させていただきます」


 ギルドの職員さんがギルドから預かってきたマジックバッグの封を開け、1個1個中身を確認していく。

 それを30分ほど続けた後。


「はい、確かに確認いたしました」


 荷物の確認が終わった。

 職員さんが俺の方へ寄ってくる。


「それでは、こちらの書類に確認のサインをお願いします」

「了解だ。……これでいいか?」

「はい、ありがとうございます。それではこちらが今回の報酬になります。またのご利用を!」


 これで、今回の依頼は達成だ。

 依頼を達成した俺たちは、そのままギルドを出て、エリカの家の別荘へ帰還することにっする。


 さて、これで仕事も終わったことだし、しばらくは皆でこの町の観光を楽しんで、それからエルフの国へ向かうとするか。

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