第206話~暴れ熊、討伐完了! そして、間もなくエルフの国~

「中々熊来ませんね」


 ヴィクトリアがぼやく。

 昨日の夕方から、俺たちはこうやって木の上で熊がやってくるのをじっと待っている。


 なぜ俺たちがこの木の上にいるかって?

 そんなのこの木の周辺が問題の熊の巡回ルートだからに決まっている。


 俺たちは熊を巡回ルート上で迎え撃つことにしたのだ。

 その方が広い熊の縄張りを回るよりも効率がいいと判断したからだ。

 ただ、その代わりとても退屈だ。


 だから、交代で休みながら見張りをしている。

 ちなみに、休む時は木から落ちないようにロープで体を縛り付けている。

 まあ、うちのパーティーに木から落ちるような間抜けはいないと思うが、念のためだ。


 それで、今は俺とヴィクトリアが見張りの番だ。

 まだ春先で夜は寒いので、ヴィクトリアは俺に寄り添い、二人で1枚の毛布をかぶって暖を取っている。


 そんなさなか、ヴィクトリアがこんなことを言う。


「こうして、たまには星の世界を見るのも悪くないですね」

「ああ、そうだな。たまにはいいもんだな」


 そんなことを言い合いながら二人で星を見る。

 そうしているうちに、ふと思いついたことをヴィクトリアに聞いてみる。


「なあ、ヴィクトリア。今思ったんだが、お前ってこの世界以外のことも知っているよな。やっぱり、他の世界に行ったら、こことは見える星が違ったりするのか」

「そうですね。違いますよ。例えば、この世界だと北極星はドラゴン座の一部ですが、別の世界だとこぐま座の一部だったりしますね」

「ふーん、そうなんだ」


 そう言いながら、俺はヴィクトリアの手をギュッと握る。

 握られたヴィクトリアが恥ずかしそうにモジモジする。


「急にどうしたんですか」

「お前って、そうやっていろいろな世界へ行っているんだな。それがちょっとうらやましいと思って、とりあえず手を握ってみた」

「手を握ることと、ワタクシが他の世界へ行ったことと因果関係がないはないですか。でも、まあいいです。許してあげます」


 そう言うと、ヴィクトリアは俺に抱き着いてきて、こうささやく。


「ワタクシは確かにいろいろな世界へ行きましたが、一番のお気に入りはホルストさんがいるこの世界ですよ」

「そうか。そう言ってもらえると俺もうれしいな」


 そう言いながら俺はヴィクトリアの頭を撫でてやる。

 すると、ヴィクトリアがさらに抱き着いてきた。

 ヴィクトリアの体温が伝わってきて、とても暖かかった。


 こうして夜は更けていく。


★★★


 早朝近く。

 俺の生命エネルギー感知能力が大きな生命エネルギーの持ち主が近づいてくるのを感知する。


「おい、みんな起きろ」


 俺は急いで全員を起こし、次の事態に備える。


「『神強化』」


 魔法を起動して、『神眼』の効果を得てから、生命エネルギーが近寄ってくる方向を見る。


「お、ようやく来たようだな」


 俺はみんなにようやく聞こえる程度の小声で、歓喜の声を上げる。

 生命エネルギーの持ち主を『神眼』で確認した結果。


「顔に傷のあるオスの熊。間違いない。問題の熊だ」


 俺のその言葉を聞き、全員が戦闘態勢を取る。

 さあ、いよいよ熊狩りの時間だ!


★★★


「熊がこのルートに来たということは、俺たちの背後にある村に人を襲いに行くつもりなのだと思う。ということで、作戦の確認だ。予定通り、熊を逃げられないように包囲してから攻撃する」

「「「「はい」」」」

「エリカと銀は熊がこの先の村の方へ行かないように、村の入り口に待機。俺は熊を背後から襲ってこっちの方へ追いやるから、熊の後ろへ回り込む。リネットヴィクトリアはこの場に待機して俺が追い込んだ熊の迎撃だ」

「「「「はい」」」」


 こうして作戦を決めた俺たちは、それぞれ配置に着いて作戦を開始することにする。


★★★


「あれだな」


 空を飛んで熊の背後に回り込んだ俺は、熊を見てほくそ笑む。

 早速行動を開始する。


「生命エネルギー解放」


 熊の背後に隠れて立った俺は、問題の熊に向かって巨大な生命エネルギーの波動をぶつけてやる。

 すると、突然背後に巨大な力を持った敵が現れたと感じた熊が立ち上がり、ぶるぶると震える。


 そして、しばらくすると、脱兎のごとく前に向かって走り始める。

 多分、恐怖に駆られて逃げ出したのだと思う。


 だが、残念。その先は行き止まりだ。

 逃げ出した熊はすぐリネットたちとご対面する。


 リネットも、俺同様、生命エネルギー放って熊を威嚇しているので、挟み撃ちにされたと思って面食らっていることと思う。


 無論、俺もすぐにクマを追いかけて行ったので、前後を挟まれて熊は完全にパニック状態だ。

 このままおとなしく何もできないまま討伐されてくれれば楽なんだがな。

 そう思ったが、自暴自棄になったクマが最後の抵抗を仕掛けてくる。


「うがあああ」


 突然雄たけびを上げたかと思うと、俺一人の方が勝機があるとでも思ったのか、俺の方へ突進してきた。

 舐められたものだと思ったが、この程度でどうこうなる俺ではない。

 剣を抜き、熊の突進に備える。


 そして、すれ違いざま。

 ザン、ザシュ。

 熊の足を2本とも切り落としてやった。

 足を失って、体勢を崩した熊が地面に倒れ伏す。


 俺はさらに熊に近寄り、残りの四肢も切り飛ばしてやる。

 これで熊は完全に戦闘不能となったわけだ。


 俺がこうしたのには理由がある。


「熊をなるべく生かして捉えてください。村人を失った恨みを熊に晴らしてやりたのです」


 そう村長さんに頼まれていたからだ。

 ということで、こうやって手足を切り飛ばして生け捕りにしたというわけだ。


「さて、これで仕事は終わりだ。村へ報告へ行くぞ」

「「「「はい」」」」


 こうして熊の討伐を終えた俺たちは件の村へ向かうのだった。


★★★


「おお、ありがとうございます。あなた方こそ、まさに村の救い主。感謝しますぞ」


 村へ熊を持って行くと、村長さんが俺の手を取り感謝してくれた。

 で、問題の熊だが。


「この野郎。よくもアルクを!」

「よくも妹を!」


 友人や家族を熊に殺されたらしい村人たちから、早速石などを投げつけられ悪意を向けられていた。


 多分、このままだと村人たちから碌な殺され方をしないと思うが、俺たちのパーティーにそういうのを見て楽しむような人物はいないので、村長からギルドに提出する依頼完了報告書をもらうと、さっさと村を出るのであった。


 その後は、協力してもらった狐たちと会い、お礼に稲荷ずしを渡し、ギルドに依頼の報告をすると、次の目的地へ向かった。


★★★


 それから、10日後。


 俺たちは次の目的地であるリーネ川へと着いた。

 この川を渡れば、とりあえずの採集目的地であるエルフガーデンの町は目前だ。


 ということで、俺たちは渡し舟業者を雇いに行く。

 この川には橋が架かっておらず、渉には渡し舟業者を雇うのが一般的だった。


 リーネ川沿いの町『リバーサイド』の町のギルドへ行き、業者を紹介してもらう。


「ホルスト様、一軒だけすぐに使える業者があります」

「本当か?」

「はい、すぐにでも船を出せるそうです」


 ギルドで紹介された業者の中にすぐに向こうへ行ける業者があるというので、そこへ行く。


「ギルドからの紹介できました」


 業者の受付でそう名乗ると、


「よく来てくださいました」


と、非常に歓待してくれた。


 ガイアスの町でもそうだったから、ギルドってやっぱり信用があるんだなと思った。

 そうこうしているうちに船の準備ができ、パトリックを乗せ、出港する。


 さて、エルフの国まであと一息だ。

 そう考えると、俺は湧き上がってくる興奮を抑えられないのだった。

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