今ならもれなく女神がついてきます~一族から追放され元婚約者と駆け落ちした俺。食うためにダンジョンに挑み最強の力を得たまではよかったが、なぜかおまけで女神を押し付けられる~
第205話~暴れ熊を退治せよ! 白狐の娘銀の力~
第205話~暴れ熊を退治せよ! 白狐の娘銀の力~
北部砦を出て街道沿いに北へ進むこと数日。
とある宿場町を通過している途中、町の役場の前に大勢の人が集まっているのを見た。
「何をしているんでしょうね」
「気になるね」
それを見て、ヴィクトリアとリネットが興味津々な様子を見せている。
「ちょっと、様子を見てみるか」
俺も気になったので、役場の横を通るふりをして、そっちの方へ行ってみる。
すると。
「どうか、お役人様。私どもをお助けください」
「このままでは、ここらの村の者たちが死に絶えてしまいます」
近づいて様子をうかがってみると、漏れ聞こえてくる話は、何やら物騒な内容だった。
というか、死に絶えるって何だよ。どういう状況なんだよ。
かかわらない方がいい気もするが、そこは俺の嫁の中では一番正義感が強いヴィクトリアが押してくる。
「ホルストさん、助けてあげたらどうですか」
こいつは女神だけに、困っている人がいると放っておけないらしかった。
「ホルスト君、ヴィクトリアちゃんの言う通りだよ。アタシたちは名の知られた冒険者。困っている人たちを見捨てたとか噂されたら名折れだよ」
「旦那様、二人のおっしゃる通りです、ここは話だけでも聞いてらよろしいのでは」
「銀もその通りだと思います」
他のメンバーもヴィクトリアに賛成らしく、俺に行けと促してくる。
仕方ない。
「あの、どうかしたんですか」
俺は役場の前に集まっていた人たちに声をかけた。
★★★
次の日の昼。
「結構薄暗い森ですね」
ヴィクトリアが多くの木が生い茂り、薄暗い森の光景を見てそう呟く。
俺たちは昨日の宿場町近くの森の中へ来ていた。
というのも、昨日役場の前にいた人々、それはこの森の側の村の人たちなのであるが、に頼まれたからだ。
その村人たちの代表、すなわち村長さんの話によると、
「人食い熊が現れて、村人や家畜が次々と襲われているのです」
ということらしい。
もう何人も村人が犠牲になっており、このままでは村を捨てて逃げるしかないという状況らしかった。
それで、村長さんたちは町役場に熊を退治してくれと請願に言ったわけだが、
「今、軍はドラゴン軍団との戦いで甚大な被害を受け、戦力の立て直し中で対応できない」
そう言われたそうだった。
それで、その話を聞いたうちの嫁ズが助けてやれ、と言うので、こうして熊を討伐するために森に来ているというわけだ。
一応、ただ働きでなく、料金はもらっている。
前にも言ったことがあると思うが、こういう仕事をただで引き受けてしまうと、そういう善人が出てくるのを期待して、ギルドに仕事が来なくなるからだ。
ということで、村長さんに頼んで、宿場町のギルドにある冒険者ギルドを通して依頼してもらった。
ただし、料金は格安だった。
正直、Sランクの冒険者パーティーが引き受けるような金額ではない。
そもそも件の村は貧しくお金をあまり出せないらしい。
だからこそ、冒険者ギルドに頼んだりせず、役所に直訴に行ったのだから。
まあ、経緯はともかく、引き受けた以上はやり遂げるけどね。
★★★
「しかし、結構広い森だな」
俺は森を見回してそう思う。
正直この中から熊を1匹見つけ出すとか……どうすればいいのか、困ってしまう。
一応、村長さんに聞いた話によると、問題の熊の顔には大きな傷がついているので見分けるのは簡単だという話だ。
ただし、現実問題、それだけの情報で問題の熊を見つけるのは難しかった。
さて、どうしようか。
俺が困っていると。
「ここは銀にお任せください」
銀がそうやって名乗り出てきた。
「何か考えがあるのか?」
「はい。ここは我が眷属を使おうと思います」
「眷属?ああ、その手があったな」
銀の眷属。すなわち狐のことである。
白狐の娘である銀は、眷属の狐を使うすべに長けていた。
一応、俺も白狐からそういう力をもらっているが、銀が呼び出した方が、狐たちはより協力的になるのだった。
「それじゃあ、頼むよ」
「はい。それでは……狐族の長、白狐の娘たる銀が命じます。このあたりの狐たちよ。我が下に集まりなさい」
★★★
30分後。
たくさんの狐が銀の前でこうべを垂れていた。
その中の1匹、このあたりの狐の長が前に進み出て銀に挨拶する。
「白狐様の娘様の銀様。お初にお目にかかります。私、このあたりの狐の長をやっておりますトウガンと申します」
「トウガンよ、集まっていただきご苦労様です。それでは、早速ですが本日集まっていただいた用件を伝えますね」
「はは、何なりとお申し付けください」
「実は、私がお仕えする女神ヴィクトリア様の旦那様が、このあたりで人間を襲っているという熊の退治を引き受けたのです。何か、情報をお持ちではないですか」
「熊ですか」
熊と聞いて、狐の集団がざわつき始める。
「どうした。何かあるのか」
俺が聞くと。
「もしかして、その熊とは顔に傷のあるオスのでかい熊でございますか」
「そうだが、知っているのか?」
「はい。実はその熊には我らの仲間が何匹も食われておりまして」
「ほう、そうなのか」
「で、我らも何とかできないかと相談していたところなのです」
「それは大変だったな」
「ただ、我らは所詮狐。強力な力を持つ熊に対抗する手段がなく、困っていたところなのです」
そこまで言うと、トウガンはあらためて俺の方を向き、頭を下げて頼んできた。
「我らもできるだけ協力させていただきますので、何卒その熊を退治していただけませんか」
「わかった。そういうことなら協力しよう。その代わり、クマの居場所を探してきてくれ」
「畏まりました」
こうして狐たちとの間に約束を交わした俺たちは、狐たちを偵察部隊として捜索に出し、しばらくの間待つことになったのだった。
★★★
5時間後。
「ただいま戻りました」
偵察に出していた狐たちが、次々に戻って来た。
「うん、ご苦労様。これを食べて疲れを癒してくれ」
帰ってきた狐たちに俺は稲荷ずしを配って労をねぎらってやった。
「これは、どうもありがとうございます」
稲荷ずしをもらった狐たちはうれしそうな顔で稲荷ずしを受け取ると、俺に偵察の結果を報告していく。
その報告によると。
「熊は特定のコースを徘徊しているというのか」
「はい、左様でございます」
偵察に行った狐が、熊の足跡やら、糞の位置、食べ残しなどを調べて来てくれた結果、そういう結論が出た。
どうやら問題の熊は半径数キロの範囲を生活圏とし、その中で獲物を調達したり寝たりしているようだった。
これはいわゆる縄張りと呼ばれるものであり、肉食動物、というか動物全般が持つものであり、この中で行動するというわけだ。
「それで、その縄張りの中には人間の村なんかもあると」
「その通りでございます」
「そうか。となると、どうするかな」
俺はこれらの報告を受け、どうやって熊を狩るか考えた。
そして、出した結論は。
「よし、待ち伏せ作戦で行くぞ」
待ち伏せ作戦だった。
結構広い範囲を行動する熊を追うのは非効率だし、移動ルートが一定であるというのならそれを利用する方が確実に仕留めることができるというものだ。
「さて、それでは早速準備だ!」
「「「「はい」」」」
ということで、嫁たちに指示して、俺は人食い熊の討伐準備を進めるのだった。
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