第204話~北の関所を通り思い出の北部砦へ そして、今後の方針会議 って、ヴィクトリア会議中にお菓子ばっかり食べているんじゃない!~

 ノースフォートレスの町を出てから数日後。

 俺たちは『北の関所』に到着した。


「うわー、短期間で立派になりましたね」


 北の関所を見て、ヴィクトリアがそんな感想を漏らす。


 ヴィクトリアの言葉通り、ここは最近できた施設だ。

 ほら、前にドラゴンの軍団が襲ってきた時に俺が造った城壁があっただろう?

 あれを王国軍が買い取って、突貫工事で改修したのがこの施設だ。


 城壁の南側、すなわちノースフォートレス側には柵が設けられ、柵の内には軍の施設の他にも商業施設も作られ、宿場町としての機能も持たされている。


 一方、城壁の北側、北部砦の方には深い堀が掘られ、いざという時の防衛施設として機能するようになっていた。

 城壁自体も、階段や物見櫓が設置され、より防衛施設として使いやすいようにされていた。


「確かに短期間でここまでよくやったな。対応が遅いことで有名な軍にしては、やることが早いんじゃないかな?」

「何でも聞いた話によると、北部砦でドラゴン軍団を防ぎきれなかった軍が、国王陛下に、『次、攻めてきたらどうするつもりだ』と、下問されて、ここを整備して防衛体制を強化しますということになって、急遽ここが整備されたらしいよ」


 俺の疑問に裏の事情をギルドで聞いてきたらしいリネットがそう答えた。


「さて、それはともかく。ここで一泊して行くぞ」

「「「「はい」」」」


 ということで、俺たちは北の関所へ入っていくのだった。


★★★


「結構、ご飯美味しかったですね」


 北の関所の宿屋の食堂でご飯を食べた俺たちは、寝室へと向かった。

 最近できたという食堂には客も多く、大体がこのあたりを行きかう商人か冒険者ぽかったが、賑やかだった。

 メニューも肉料理、魚料理、ときちんとそろっており、こんな急造の町の食堂としては十分であった。


 ちなみに俺たちは店主のお手製だというソーセージを食べた。

 ピリ辛な味付けが酒に合い、結構おいしかった。

 それで、飯を食った今、女性陣は食後のだんらんを楽しんでいた。


「じゃーん、ワタクシはフルハウスです」

「残念、スリーカードだ」

「私はツーペアですね」

「何と、銀はフォーカードです。銀の勝ちですね。このドーナツは銀の物です」

「「「フォーカード?」」」


 どうやらお菓子をかけてポーカーをやっているようで、今回は銀の勝ちのようだ。


 ……って、フォーカードって何よ。そんな役、本当にあったの?

 俺、人生で一度も見たことないんだけど。


「フォーカード?本当ですか?ちょっと見せて下さい」

「うわあ、本当だ。すごいね」

「銀ちゃん、引き強いですね」


 実際、俺の嫁ズ、物珍し気に銀のカード見てるし。


 本当、銀は強運の持ち主だな。

 こういうのを奥さんにできる男は、奥さんに強運に引っ張られて出世するんだろうな。


 と、今は奥さんたちを眺めている場合ではなかった。

 俺は目の前で書いている書類と向き合う。


「えーと、ここはこれで、そっちはそれで、あー、役所に出す書類って面倒だな」


 今俺が書いているのは、役所に出す通関書類だ。

 今回俺たちはギルドの荷物を運んでいるので、この書類を出さなければならないのだ。

 一応、ギルドでやり方は聞いてきたのだが、慣れないので何を書いていいかわかりにくい。


 ということで俺は悪戦苦闘しているというわけだ。

 そんな感じで、関所の夜は過ぎていく。


★★★


 翌日。


「書類は確認いたしました。通行していただいて大丈夫です」


 書類を提出した俺たちは関所を通過した。


 結局、俺は書類を作成するのに夜中までかかってしまった。

 本当、役所の書類って面倒くさい。


「さて、次行くぞ」


 こうやって関所を通過した俺たちは次へと向かうのだった。


★★★


「うわー、ボロボロですね」


 目の前の壊れた城壁を見て、ヴィクトリアがそんな感想を漏らす。

 北の関所を抜けてから数日後、俺たちは北部砦へ到着した。


 北部砦と言えば、俺たちにとって色々と思い出深い場所だ。

 ここの城壁の上で寝泊まりして、激戦を潜り抜けたのはいい思い出だし、うちのパトリックも元はここの軍馬だったのを褒美としてもらってきたのだった。


 ただ、その俺たちの思い出はボロボロだった。


「ドラゴンたちに城壁を壊されたのは知っていたけど、ここまでだとは思っていなかったよ」


 リネットの言葉通り、本当に城壁はボロボロだった。

 所々壁がきれいに崩れていて、砦の中の様子がうかがえるほどだ。


 正直言うと、ここまでやられている状況で、よくドラゴンたちの侵入を防げたものだと思う。

 それと同時に、俺たちの造った北の関所の城壁を軍が急いで買い取った理由もよく理解できた。


「ここの城壁がこの状態では、俺たちが造った城壁でもなんでも使えそうなものは使わないと不安でたまらないだろうな」


 なるほど、だから俺たちに大金が入ってくるわけだ。

 まあ、あの城壁は俺たちにはもう必要ないものだし、それで大もうけできたのだから別に構わないけどね。


 さて、それはともかく砦の中へ入るとするか。


★★★


 砦の中へ入ると、人々が忙しく動き回っているのが確認できた。

 皆土や石を担いで動いていることから、城壁の修理をしている職人さんのようだ。


「何か、今年の夏には久しぶりに魔物の討伐戦をやろうとか言う話も出ていたみたいだけど、この分だと夏までに城壁の修理が終わりそうにないから無理そうだね」


 動き回る職員さんたちを見て、リネットがそんなことを言う。


 というか、軍の奴らまたあれやろうとしていたのか。

 以前痛い目に遭ったのによくやると思う。

 もっとも魔物たちとて、あれだけの損害を被れば当分何もできないだろうから、今のうちに次の襲撃の芽を摘んでおくことは悪くないのかもしれないが。


 と、そんなことを考えているうちに宿屋に到着する。


★★★


「ワタクシは、オーク肉のステーキ定食で」

「私は、クリームソースのベーコンとほうれん草のパスタで」

「アタシはミックスフライ定食がいいかな」

「銀はハンバーグがいいです」

「俺はビッグアリゲーターのステーキセットがいいな」


 宿屋の食堂でそれぞれ夕飯を注文する。

 北部砦がこれだけの被害を受けているにもかかわらず、宿屋などの施設は無事なようで、ここの食堂も、北の関所同様、旅人で賑わっていた。


 それに城壁はボロボロではあるが、兵士の心まではボロボロではないようで、城門からここへ来る途中も兵士たちが頑張って仕事をする光景がよく見られた。

 とても結構なことだと思う。

 この分なら、城壁が完全でなくても援軍が来るまでの間くらいなら、ここの砦を守ることはできそうな感じだった。


 それはさておき、食事が来るまで俺たちは適当に雑談をして過ごした。


「ホルストさん、ホルストさん、このお水ちょっとぬるいんで、氷入れてください」

「ほい。『天凍』」


 ヴィクトリアが、水がぬるいというので魔法で氷を作ってコップに入れてやったり。


「ホルスト君、ねえ、見て、見て!これさっきそこで買った占いの本なんだけど、今月、年上の女性と年下の男性のカップルにラッキーなことがあるんだって」


 無邪気に占いを信じるリネットのかわいらしい一面が見られたり。


「旦那様、旦那様。ワインを飲んだらなんか酔っぱらって気分が悪くなってしまいました。ちょっと、背中をさすってもらってもいいですか」


 絶対にワインを一杯飲んだくらいでは酔ったりしない酒豪のエリカがそうおねだりしてきたりと、俺的には楽しかった。


「お待たせいたしました」


 そうこうしているうちに食事が来たが、それでも雑談は続き、


「ごちそうさまでした」


食事の終了とともに一旦雑談は終わり、皆で部屋に行き、今後の方針を確認する。


★★★


「さて、俺たちはこうして北部砦まで来たわけだが、このままエルフガーデンの町ぶ向かうので問題ないな」

「ええ、問題ないと思います」

「アタシもそれでいいと思うよ」

「ワタクシも、もぐ、いいのでは、もぐ、ないかと思います」


 俺が今後の予定をみんなに確認すると、全員予定通りにエルフガーデンの町へ向かうということで問題ないようだった。


 というか、ヴィクトリア。

 食い物を口に入れたまま、話すんじゃない!

 お行儀が悪いだろうが。

 って、お前は何を食べているんだ?


「ああ、これですか?これはホワイトチョコのかかったクッキーですね。ここの食堂のお土産コーナーで売っていたのを買ってきたんです」

「「「ほほう」」」


 それを聞いて、エリカたちが興味を示す。


「ヴィクトリアさん、一つ下さいな」

「ヴィクトリアちゃん一つおくれよ」

「ヴィクトリア様、銀にも一つ下さい」


 そう言いつつ女性陣がヴィクトリアのクッキーに手を伸ばしていく。

 もちろん、俺も黙っておらず、1枚いただく。


「「「「「うん、おいしい」」」」


 全員が異口同音でそう言う。

 そして、もう1枚とばかりにクッキーに手を伸ばそうとしたが。


「ワタクシの分がなくなってしまいます」


 そうヴィクトリアにガードされてしまった。

 仕方がないので、俺が銀貨を財布から取り出して言う。


「しょうがないなあ。ヴィクトリア、余ったクッキーはお前の物にしていいから、たくさんクッキー買ってこい」

「ラジャーです」


 こうして、俺から金を受け取ったヴィクトリアはクッキーを大量に買い込んで帰ってくるのだった。

 その後はみんなでお菓子を食べつつ、雑談をしつつ、そのうちに眠くなってきたので明日以降の旅に備えて寝るのだった。


 エルフの国まではまだだいぶ遠い。

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