第202話~久しぶりのナニワの町 エリカのお兄さんたちとの約束と銀の親孝行~

「お兄様、お義姉様、それでは行ってきてくださいね」

「ああ、エリカ、それにホルストたち、行ってくるよ」

「行ってきます」


 以前に約束した通り、今日はエリカのお兄さんたちとフソウ皇国のナニワの町に来ている。


 それで、今二人が神社にお参りに行くのを見送っているところだ。

 二人はお参りした後は少し町を観光したいと言っており、夕方再び俺たちとここで合流することになっている。


 一応、お兄さんたちの護衛に私服姿のヒッグス家の騎士が何人かついてきているので、安全上の問題はないと思う。


「それでは、また、夕方」


 そうやって一旦お兄さんたちと別れてバラバラに行動する。

 とはいっても、俺たちの目的地もお兄さんたちとそう変わらない。


「えーと、神社の裏側だったな」


 お兄さんたちと別れた俺たちは、そのままの足で神社の裏側の森に回る。

 すると。


「皆様、お久しぶりでございます」


 森の中には、一人の顔立ちの整った美しい女性がいた。

 その女性を見た途端、銀がバタバタと駆け出していく。

 そして、女性の目の前に立つと挨拶する。


「お母様、お久しぶりです」

「ええ、久しぶりですね、銀。大きくなりましたね」


 その女性は銀の母親の白狐が人間に化けた姿だった。


★★★


 白狐と再会した俺たちは、再会を祝してささやかな宴を催すことにした。

 地面に敷物を敷き、持ってきたごちそうを並べる。

 すると、俺たちの周りにこの森にすむ狐たちが集まって来た。


 この狐たちは白狐の配下の狐たちであり、俺たちの護衛のために集まってきたのだった。

 ちなみに、俺たちの周囲には幻術の結界が張られており、周囲から俺たちの姿は見えなくなっているという話だ。


「護衛の狐さんたちもお召し上がりください」


 その護衛の狐たちに対して、エリカが持ってきていた稲荷ずしを差し出す。


 すると、狐たちは欲しそうな顔をしつつもチラチラと白狐の顔を見る。

 多分、食べていいかどうか、上司の顔色をうかがっているのだと思う。

 この辺、狐の社会も人間の社会と変わらないようだった。


「折角、ホルスト様たちがお前たちのために用意してくれたものなのですから、いただきなさい」


 ということで、白狐が許可を出すと、配下の狐たちは急いで稲荷ずしを口にくわえ、忙しく食べだすのだった。


 それはそうとして、俺たちも食事を始める。

 メニューは稲荷ずしの他に、肉や魚、それに白狐が好きだというアンコロ餅などのデザートまで色々と用意してきた。


「これほどの物を用意していただけるとは……皆様、ありがとうございます」


 目の前に並べられたごちそうを見て、白狐がそう喜びの声を漏らすほどだった。


「お母様、食べたいものがあれば銀に言ってください。銀がお母様のために取ってあげます」


 久しぶりにお母さんに会えて少しでも親孝行したいと思っているのだろう。

 銀が白狐にご飯を取ってあげたりしている。


 それを見て、うちの嫁ズが感激のあまり涙を流している。


「うう、銀ちゃん、いい子ですね」

「銀ちゃん、けなげですう」

「銀ちゃんは親孝行な子だな。小さい子の世話もできるし、将来はいいお嫁さんになれるね」


 そうやって嫁ズはべた褒めだった。

 白狐も娘の成長ぶりに目を見張っているようで、


「銀も、すっかり大人びてきましたね」


と、娘の頭を撫でてやっていた。


 そんな風に、ささやかな宴は順調に進んでいった。


★★★


「さあ、お母様。お出かけしましょう」

「まあ、この子ったら。もうちょっと落ち着きなさい」


 宴が終わった後はみんなでナニワの町へと出かけた。


 出かける先は、最近できたという博物館だ。

 古今東西珍しいものが集められていて、展示されているという話だ。


「全部で、銀貨3枚になります」

「はい、これでお願いします」

「はい、確かに。どうぞお入りください」


 入り口で入場料を俺が払い、中へ入る。


 すると、中は幻想の世界だった。

 薄暗い館内には赤、青、黄色と、様々な色の光を発する光源が置かれており、不思議な雰囲気が醸し出されていた。


「これは不思議な演出だな」

「そうですね。なんか変な気持ちになりますね」


 その不思議な魅力にひかれつつ、俺たちは展示物を見物していく。


「ふーん、これが800年前の槍か。今とそんなに変わらないね」


 展示されている槍を見てリネットがそんな感想を漏らしたり、


「パパ、パパ。この骨、ドラゴンのなの?ドラゴンって大きいんだね」


ホルスターがドラゴンの全身骨格を見て驚いたりしている。

 ヴィクトリアなど、


「この果物、おいしそうですね」


展示されている果物を見てよだれを流したりしていた。

 一方白狐親子も、


「お母様、ここ色々なものが置いてあって、見ているだけで楽しいですね」

「ええ、そうね」


博物館を楽しんでいるようだった。

 それを見て俺は、ここへ来てよかったな、と思うのだった。


★★★


 さて、俺たちが博物館の見学を終えて神社の裏の森に帰って来た時にはすっかり夕方になっていた。


 ということで、俺たちもエリカのお兄さんたちと合流して家に帰らなければならなかった。

 なので、銀も自分の母親に別れの挨拶をしている。


「お母様、行ってきます」

「ええ、頑張ってヴィクトリア様の下で修業をするのよ」


 別れ際、母親と別れるのが寂しいのか、銀はずっと母親に抱き着いていた。

 こういう所を見ると、銀もまだ子供なんだと実感できた。


 しかし、いつまでもそうしているわけにはいかない。

 白狐が娘の背中を押す。


「それでは行ってきなさい」

「はい」


 そう娘に声をかけると、最後に俺たちに挨拶してくる。


「皆様、娘のことをよろしくお願いします」

「ああ、心配しなくても娘さんのことは任せてくれ。必ず立派な神獣にして見せるから」


 こうして白狐と別れた俺たちは、お兄さんたちとの合流地点へと向かう。


★★★


「お兄様、アリスタ様にちゃんとお願いしてきましたか?」

「ああ、してきたよ」

「お義姉様とのデートは楽しんできましたか」

「うん、楽しんできたよ」


 お兄さんたちと合流した後、エリカがそんな質問をすると、お兄さんからそんな返事が返ってきた。

 どうやら、お兄さんたちもちゃんと目的を果たせたようだ。

 これで、万事オーケーーである。


「それでは帰りますか」


 こうして楽しかった一日が終わり、俺たちは家に帰るのであった。


★★★


 さて、こんな感じでエリカのお兄さんたちとの約束も果たしたし、銀にも親孝行させてやれた。

 そして、ノースフォートレスの町で大分時間も過ごしたので大分暖かくなってきた。


 ということで、そろそろエルフの国へと旅立つ時期が来たのかな、と思い、俺は出発の準備を考えるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る