閑話休題28~パトリックの子供たち~
「パパ、ママ。お馬さんがたくさんいるよ」
たくさんいる馬を見て、ホルスターが喜びのあまりはしゃいでいた。
「銀姉ちゃん、一緒にお馬さん見て回ろうよ」
「うん、いいよ」
そして銀と一緒に牧場中を見て回る。
ホルスターだけで牧場を見て回らせるのは少々不安だが、銀が付いていてくれるのなら安心だ。
銀は割としっかりしているし、並の大人では勝てないほどの実力を持っている。
ホルスターを任せても大丈夫だと思う。
「二人とも、お馬さんに近づきすぎてけられたりしないように気を付けるのよ。特にいきなりお馬さんの後ろから近づいてはダメよ」
「「は~い」」
「それじゃあ、気を付けて遊んできなさい」
最後はエリカがそう言って二人を送り出した。
ちなみに、エリカが言っていた馬の後ろから近づくなというのは基本的な事項だ。
馬は警戒心が強く、後ろから急に近づいてくる存在に対して、強烈な後ろ蹴りをくらわせることがあるのだ。
その威力はすさまじく、交尾のために雌馬の後ろから近づいた種馬が蹴られて、一発で昇天してしまう事故もたまに起こってしまうくらいだ。
「「わーい、行ってきます」」
エリカの許可をもらった二人は、大喜びで牧場の中を走り回るのだった。
うん、子供らしくて、見ていてほほえましい光景だった。
俺は十分満足した。
★★★
本日、俺たちはエリカの実家が所有する牧場に来ている。
「ホルスト君。ホルスト君の所の馬の子供が生まれたそうだよ」
エリカのお父さんからそういう連絡があったので、家族みんなで見に来たというわけだ。
「うわー、かわいいです」
「うん、賢そうな顔をした馬だね」
母馬からお乳をもらう3匹の仔馬を見て、ヴィクトリアとリネットが嬉しそうにはしゃいでいる。
「あら、お父さんに似て、良い馬に育ちそうですね」
もちろん、エリカも仔馬たちをべた褒めだ。
というか、パトリックが3匹も雌馬をはらませたとき、一番パトリックを庇ってくれたのはエリカだったからな。
だから、無事仔馬が生まれて一番喜んでいるのはエリカだと思う。
うちの女性陣がそうやってはしゃいでいるのとは対称的に、父親になったパトリックはのほほんとしていた。
目の前の仔馬たちが自分の子供だとわかっているのかいないのか、のんびりと仔馬……というか、母馬のことを見ている。
というか、お前、また雌馬のことを狙ってね?
まさか、また子供をつくろうと企んでないか?
すでに目の前の雌馬たちのことを自分の嫁だと思っていないか?
喋ることのできないパトリックの考えを完全に把握することは俺にはできないが、こいつはそんなことを考えている気がする。
「旦那様、いかがなさいましたか」
そんなことを考えていると、エリカが不審に思ったのか、俺に声をかけてきた。
「実は……」
俺が今考えていたことを話すと、
「あら、まあ」
と、声を上げ、エリカがパトリックに近づいて行き、こう声をかける。
「あら、パトリック。あなた、子供を産ませた雌馬に対して責任を取りたかったのね。いいわ。私がお父様に頼んで、あの3匹をうちで引き取って、あなたの正式なお嫁さんにしてあげます」
「ブヒヒヒイイイン」
エリカの発言を聞いて、パトリックが嬉しそうにいなないた。
え?何でそうなるの?
俺はそう思ったが、俺がエリカに逆らえるわけがなく、さらに。
「ええ、パトリック正式に奥さんをもらうんですか?よかったですね」
「おめでとう、パトリック」
他の二人の嫁たちもエリカに賛成したので、もう完全に俺の出る幕はなくなった。
まあ、いいか。
「パトリック、よかったな」
最後は俺もパトリックに祝福するのだった。
★★★
それから数日後、俺たちは再び牧場に来た。
「何だ、馬が欲しいのかい?だったらあげるよ」
と、エリカのお父さんに許可をもらったので、仔馬たちに名前を付けに来たのだ。
「あなたの名前は、パトリシオンですよ」
「あなたはシーザーですね」
「あんたはアリスだよ」
嫁さんたちが仔馬の頭を撫でながら、それぞれ名前を付けていく。
パトリックの仔馬たちは、オスの葦毛あしげが1頭、オスの黒毛が1頭、メスの鹿毛かげが1頭という構成で、それぞれパトリシオン、シーザー、アリスと名付けられた。
ちなみに、パトリックの家族の処遇だが、このまま牧場で預かってもらうことになった。
そもそもうちの家に馬を7頭も置いておくスペースはないしな。
「エサ代とか、全然気にする必要はないから、遠慮せずに牧場に置いておきなさい」
エリカのお父さんもそう言ってくれたことだし、そうすることにした。
ということで、名義こそ俺のものになったものの、この6頭は変わらずここで暮らすことになる。
「パパ。このお馬さん、パトリックの子供なんでしょう?だったら、乗ったりできないの?」
俺がそんなことを考えながら仔馬たちを見ていると、ホルスターがそんなことを聞いてきた。
だから、俺はこう答えた。
「そうだね。この子たちはまだ小さいから、人を背に乗せるのは無理だな」
「そうなの?」
「でも、大きくなって人を乗せる練習をさせたら乗ることができるようになるから、そうしたら、ホルスターを乗せてあげるよ。なんだったら、1頭あげるから、乗馬の練習に使ってもいいぞ」
「本当?パパ、大好き!」
将来馬をもらえると聞いたホルスターは、喜んで、目の前の仔馬たちをなでなでするのだった。
それを見て、俺は息子の嬉しそうな顔を見られただけでも、この馬たちを引き取ってよかったなあ、と思うのだった。
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