第201話~ホルスターの誕生日パーティー 後編~

 私の名前はオットー・エレクトロンという。


 これでも、ヒッグス家で魔法騎士団長をしている。

 普通なら重職ともいえる職業に就いて順風満帆な人生と言えるはずだが、実情はそうでもない。


 生まれつき魔力は高いのに魔法を使えなかった息子を邪険に扱ったせいで、息子の嫁やその両親に良く思われておらず、今や私の地位は風前の灯火だからだ。

 というのも、息子の嫁の父親のトーマスが今やヒッグス家の当主で、自分が仕えるべき主人なのだ。

 一応、トーマスは私のイトコでもあるので、温情をかけてもらって今の地位にとどまっているが、それもいつまでのことやら。


 何せ、その期待していなかった息子は今や英雄とまで呼ばれるほどの存在になった。

 数十万の魔物を滅ぼし、数々の強大な力を持つ魔物を討伐しているという話だ。

 だから、トーマスは息子のことを非常に気に入り、色々と世話を焼いている。


 小さい頃の息子を見て、誰がこうなると予測できるだろうか。本当、自分の見る目のなさにはあきれるしかない。


 かたや、期待していた娘は色々やらかして、今や修道院で修業の日々である。

 一応家に戻ってくる予定ではあるが、戻ってきても何もしてやれない。

 私にはそんな力はもう残っていないし、本家の怒りも買ってしまっている。

 うまいことどこかそれなりの家に嫁入りさせてやりたいが、娘の悪事は一族中に広まってしまっているので、中々難しいと思う。

 多分、独立してどこかその辺で働いてもらって、自立させるしかないだろう。


 本当、なぜこうなった。


 自業自得と言えばそれまでだが、こんなことならもうちょっと息子に優しくしておけばよかった。

 おかげで、息子にはほとんど相手にしてもらえなくなり、寂しい老後を送る羽目になりそうだった。


 そんな私にとって唯一の希望は孫のホルスターだけだ。

 ホルスターはとても優秀な子で、こんな私のことも、


「じいじ、じいじ」


と呼んで、慕ってくれる。


 息子に面会制限を食らっているので、頻繁に会えないのは残念だが、たまに会えるのをとても楽しみにしている。


「オットー様。そろそろ出かけますよ」


 と、私がそんなことを考えていると、妻のカイラが声をかけてきた。


 そう。今日その孫の誕生日パーティーが開かれるのだ。

 私が嫌いな息子といえども、さすがに私と妻を排除するのは無理だったらしく、招待状を渡してきた。


 さあ、孫に会えるのは久しぶりだ。

 張り切って出かけねば。


★★★


 俺とエリカが玄関で来客に挨拶をしていると、俺のオヤジとおふくろがやって来た。


「こんにちは。ようこそおいでくださいました」


 俺はそんな型通りの挨拶だけしてそれ以上は話さなかったが、人の目がある以上、エリカはそれだけではまずいと思ったのだろう。


「お義父様、お義母様、こんにちは。ほら、ホルスターも挨拶なさい」

「おじい様、おばあ様、こんにちは」


 自分が挨拶した後、ホルスターにもそう挨拶させていた。

 ホルスターに挨拶されたオヤジたちは、


「おお、ホルスター、ちゃんと挨拶できるようになったのだな」

「本当に賢い子だこと」


と、うれしそうにしていた。


 正直、オヤジたちが喜ぼうと関心はない。

 ただ、ホルスターがじいちゃんばあちゃんに会えて喜ぶというのなら、俺が口出すことでもないので好きにさせておくことにする。


 オヤジとおふくろの後も俺たちは来客に挨拶を続け、そのうちにいい時間になったので会場へと入っていった。


★★★


「この度は、私の息子の誕生日パーティーにお集まりいただきありがとうございます」


 パーティーはそんな俺の挨拶から始まった。


「それでは、ごゆっくりお楽しみください」


 その言葉であいさつが終了すると、参加者が自由行動をとり始める。

 まず、大半の参加者が俺とエリカとエリカのお父さんお母さんの所に挨拶に来る。


「ご子息のお誕生日、おめでとうございます」

「ああ、ありがとう」

「ありがとうございます」

「お孫様のお誕生日、おめでとうございます」

「うん、ありがとう」


 そうやって挨拶に来てくれた人に挨拶し返していく。


 一応、俺のオヤジの所に挨拶に行く人もいるようだが、そんなにはいない。

 俺とオヤジの不仲をみんな知っているので、はれ物に触りたくないと皆避けているのだ。

 それでも、オヤジの部下なんかには挨拶されているみたいで、


「ああ、ありがとう」


と、嬉しそうに挨拶していた。


 後、蛇足だがエリカのじいちゃんの所にも結構挨拶に来ている人がいた。

 すっかり権力を失ったとはいえ、先代のヒッグス家の当主だからな。

 俺のオヤジよりは挨拶に来る人がいた。


 挨拶が終わると、次はホスト役だ。

 来客に酒を注いで回ったり、食事をとって配ったりする。

 俺とエリカとリネットとヴィクトリアの4人はずっとそれをやることになっていて、自分が食べる暇はほとんどなかった。


 ただ、ヴィクトリアだけは、


「ホルスターちゃんに、銀ちゃん。ワタクシと一緒にご飯を食べましょうね。ほら、この肉なんか大きくて切りにくいでしょ。ワタクシが切ってあげますから一緒に食べましょうね」


と、子供をだしにして、飯を食っていた。


 多分、新年会でもあまりごちそうを食えなかったので、今度こそ食い逃してなるものか、とか考えていると思う。

 こいつの食い物に対する執念は本当にすごいと思う。

 本当なら説教ものだが、子供たちの面倒を見る存在は必要だし、パーティーで食わないヴィクトリアはヴィクトリアじゃないという感じもするので、見逃すことにする。


 そうこうしているうちに、パーティーも中盤となり、司会役の家臣がみんなに声をかける。


「それでは、これよりホルスター様によるケーキのローソク消しを行います」


 そう言うと、屋敷の使用人が会場の真ん中にでかいケーキを運んでくる。

 ホルスターは今度2歳になるのでケーキの上には2本ローソクが並べられている。


「それでは、ホルスター様、お願いします」

「うん、ふー」


 家臣に言われたホルスターが、次善にエリカに教えられていた通りにローソクを吹き消す。

 すると、見事にローソクが消える。

 パチ、パチ、パチ。

 それと同時に会場が拍手の音に支配される。


 しばらくして拍手の音が止むと、ケーキが切り分けられる。

 参加者が多いので一人分にするとほんのちょっとだが、全員に行きわたるように切り分けられる。


「こんなものか」


 俺も一口食ったが、味は、まあ、普通だったと言っておこう。


 ケーキを食べた後は参加者たちの雑談タイムが始まる。

 こういうパーティーというのは人脈作りのチャンスでもあるので、みんな積極的に話しかける。


 もちろん、俺たちの所にも来る。


「私、この町で食料品の卸問屋を営んでおります……」


 そういった商人たちが挨拶に来る他、


「ご子息には婚約者はおられますか」


というようなうちの息子に嫁を送り出そうとするのも来る。

 中には。


「将来、お嬢様が生まれましたら、ぜひうちの息子の嫁に」


 そんなまだ生まれてもいない俺の子供との結婚を狙っているのまで来たりする。

 まだ生まれてもいない、いや嫁たちのお腹の中にさえいない子供の話などしてくるなと言いたい。


 というか、俺に娘ができても簡単には嫁にはやらんからな!まずは俺を倒してみろ!

 そんな風に俺は思っている。


 なお、後で嫁たちにその考えを話すと、


「「「アホなことを言うな!いい加減にしろ!」」」


と、ぶん殴られてしまった。


 そう思っているだけで、娘がどうしても結婚したいというのなら許しても構わないと思っていたのに……。

 こういうことではうちの嫁たちには冗談は通じないらしかった。

 今後は気を付けるようにしよう。


 ちなみに、俺の所だけでなく、ホルスターの所にもなんか小さい女の子たちが寄って来ていた。


「ホルスター様、今度一緒に遊びませんか」

「ホルスター様、私と今からお庭を散歩しませんか」


 と、中々のモテぶりだ。


 多分、女の子たちはその親の差し金でそうしているのだと思うが、小さい頃あんなにモテなかった俺としては羨ましい限りだ。もっとも。


「はい、はい、みなさん。ホルスターちゃんはこう見えても忙しいのです。よその女の子と遊んでいる暇とかないのです」


 そんな風に、エリカに指図されたであろう銀が、女の子たちをあしらっていたので、女の子たちはすごすごと退散していたけどね。


 というか、銀って、こうやって簡単によその女の子をあしらってしまえるとか、能力高いよな。

 さすがうちの嫁さんたちが教育しているだけのことはあるな、と思った。


 さて、そうこうしているうちに誕生日パーティーも終わり、来客たちが帰り始めた。


★★★


「今日は、お越しいただきありがとうございました」


 屋敷の出口では屋敷の使用人たちがそう言いながら、来客たちに手土産を渡していた。

 来客たちは皆ホルスターに誕生日プレゼントとして何かくれているので、その返礼としてお土産を渡しているのだ。


 お土産を渡している使用人たちの横では、俺とエリカも挨拶をしていた。


「本日は私どもの息子の誕生日パーティーにいらしていただきありがとうございます。また、お越しください」


 そんな風に次から次へとあいさつしていく。

 30分ほどで来客がはけると、パーティーは終了だ。


「それでは、お義父さん、お義母さん、失礼します」

「ああ、気を付けて帰りなさい」


 パーティーが終わると、お父さんたちに挨拶をし、俺たちは家に帰るのだった。


★★★


「「「「「「かんぱ~い」」」」」


 家に帰った後は、パーティーで残った料理で家族だけでホルスターの誕生日を祝った。


「しかし、誕生日パーティーってあんなに堅苦しいんですね」


 テーブルに置かれた料理をつまみながら、ヴィクトリアがそんな感想を漏らす。


「まあ、誕生日パーティーと言っても、あれは半ばホルスターの知名度を上げるためのものですからね。だから、ホルスターがもうちょっと大きくなって学校へなんか行き始めたら、ああいう大仰なパーティーだけでなく、学校のお友達を集めた子供だけのパーティーもするようになりますよ」

「ふーん、そんなものなんですね」


 エリカの説明を聞いて、ヴィクトリアが納得したような顔になる。

 まあ、偉くなるということはそういうことだから、納得するしかないんだけれどな。


 さて、少し飲み食いして腹が膨れたところで、皆がホルスターにプレゼントを贈る。


「ありがとうございます」


 皆にプレゼントをもらったホルスターがうれしそうな顔になる。

 早速中身を確認すると、大半がおもちゃだった。

 皆事前にホルスターから欲しいものを聞いていたようで、それをプレゼントしたようだ。


 その中で。


「このマフラーは銀姉ちゃんが作ったの?」

「うん、そうよ。もしかして、気に入らない?」

「ううん。大事にするよ」


 銀だけが手作りのマフラーを渡していた。

 どうやらエリカたちに作り方を教わって、頑張って作ったみたいだ。


 銀にマフラーをもらったホルスターは嬉しそうに笑っている。

 銀もホルスターに喜んでもらえてうれしそうだ。

 本当に仲の良い姉弟みたいで、見ていてほほえましかった。


 こうして、ホルスターの誕生日も終わり、もうすぐ春という季節になったのだった。

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