第198話~新ダンジョン攻略 第5階層 ヴィクトリア、代官屋敷は別に代官が悪事を働く場所じゃないからな~

「ふーん、ここは都市エリアか」


 4階層の下り階段を下りた先は都市エリアだった。


「似たようなのを『希望の遺跡』でも見たが、ここはあそこよりもずっと広いようだな」


 そう。このダンジョンの都市エリアは広かった。

 多分、人口規模にして数万人が住めるくらいの広さがある。

 正直どこから手を付けていいかわからないくらいだ。


 ただ、その分楽しみも多い。


「おったから、お宝。頑張って探しましょう」


 ヴィクトリアが5階層に来てからずっと鼻歌を歌っている。


 確かに、ダンジョン内のこういった場所というのは良い物が多い。

 『希望の遺跡』の時は裏1階層の廃墟エリアでお宝を見つけた。今回は新規ダンジョンなので期待するのは当然だ。


「こういうのこそ、冒険者の醍醐味だね」

「前の時も結構良い物を見つけたので、今回も頑張りましょう」

「銀も楽しみです」


 どうやら、女性陣も乗り気のようである。


「それでは行くぞ」


 ということで、早速5階層の探索を開始する。


★★★


「『世界の記憶』」


 俺が魔法を使用すると脳内にここのマップが浮かび上がる。

 ただ。


「マップはわかるんだけど、これではごちゃごちゃしててわからないな」


 当然だ。

 ここは結構大きい町だ。

 ということは、町の建物もそれなりに多く、全部を把握するのは無理そうだった。


 だから、次善の手を打つことにする。


「ヴィクトリア、マッピング用の紙を出せ」

「ラジャーです」


 俺の指示でヴィクトリアが紙を出してきたので、俺はその紙に町の概略図と、次の階層への下り階段の位置を記入する。


「これで、ギルドへの提出用のマップはいいかな?後は……」


 後はお宝探しをするだけだ。

 そうは言っても、全部の建物を探す時間はない。

 だから、めぼしい所だけ狙うことにした。


「代官屋敷か。なんか良い物が置いてそうだな。ここでいいか」

「「「「いいと思いますよ」」」」


 全員賛成だったので、それで行くことにした。


★★★


 まず最初に向かったのは代官屋敷だ。

 なぜ代官屋敷だとわかるかというと、俺の頭の中に浮かび上がった地図にそう書いてあったからだ。


「それにしても敵が出てこないね」


 代官屋敷への道すがら、リネットがそう呟く。

 確かにこのエリアには敵がいなかった。

 ダンジョンにはこういう場所がたまにある。


 もっとも、こういう場所の後には強力な敵が待っている可能性が高い。

 『希望の遺跡』でもそうだったからな。


「おっと、もう着いたか」


 そうこうしているうちに代官屋敷に到着した。

 早速中へ入ることにする。


★★★


「うわー、すごくけばけばしい装飾ですね。いかにも悪代官の屋敷って感じですね」


 代官屋敷の入り口に飾られている獅子のレリーフを見て、ヴィクトリアがそんな感想をもらす。


 けばけばしい?

 俺はこいつ何を言っているんだと思った。


「いや、代官屋敷ならこれくらいの装飾普通じゃないか」


 本当にそう思う。そんなこと言ってたら、玄関にドラゴンの頭のはく製を置いているエリカの実家はどうなるんだと思う。

 ただ、俺が指摘しても、ヴィクトリアは自分の考えを曲げない。


「何をおっしゃいますか、ホルストさん。このライオンのレリーフ、純度の高い青銅でできた立派なものですよ。お高いはずですよ。ここの代官、きっと越後屋から、『お代官様のお好きな山吹色のお菓子でございます』と言われて渡されたワイロで作ったに違いないです。それで、ワイロをくれた越後屋をもうけさせてやるために悪政を敷いているのに違いないです」


 なんかヴィクトリアがいろいろ言っているが、そんな代官はほとんどいないと思うぞ。


 第一、この国では代官を置く場合、不定期で監査官を派遣するから、悪事なんかしたら即バレるし、それ以前に、代官なんて徴税と簡易な警察権、上司である国王や領主の決めた規則を施行するくらいの権限しかないから、そもそも大それた悪事なんか出来っこないはずなんだが。


 というか、越後屋って何だよ。

 山吹色のお菓子って何だよ。


 越後屋とやらが季節のお菓子を贈るくらいなら、別にワイロとかいうほどじゃないぞ。本当、意味が分からない。


 まあ、いつもの病気なので、ヴィクトリアの好きに言わせておくとして、俺たちは中へと入っていく。


★★★


「まあ、結構素敵なお皿が置いてありますね」


 代官屋敷の食堂の食器棚を見て、エリカがうっとりとする。


 確かに食器度棚には色彩豊かなグラスが並べられていて、白磁や青磁の高級そうな装飾の皿が並べられていた。

 食器集めが趣味のエリカにとっては、とてもうれしい場所のはずだ。


「ヴィクトリアさん」

「ラジャーです」


 ということで、エリカがヴィクトリアに言って、気に入ったのをせっせと回収している。

 多分、エリカのことだから、これらの食器は売ったりせず自分で使うのだと思う。


 それと、この部屋には別のものもあった。


「ここの地下室はワインセラーになっていますね」


 ヴィクトリアが食堂の隣の台所の地下がワインセラーになっているのを発見する。


 見つけにくい位置にあるのによくやった!

 さすが大食いの女神!

 食い物を発見する嗅覚は一流のようだ。


「ホルストさん。今、何か変なことを考えませんでしたか?」


 お、勘の鋭い奴め。俺が悪口を心の中で考えているのを見抜いてきやがった。

 もちろん、俺はごまかす。


「いや、何も考えていないぞ。……それよりもワインを漁るぞ」


 ということで、ワインセラーに潜入する。


「ほほう。たくさんあるな。ちょっと調べてみるか。『世界の知識』」


 俺はたくさんあるワインを魔法で調べてみる。すると。


「おお。ここのワインは全部飲めるみたいだぞ。その上、ここのワインは年代物ばかりで中には、外の世界ではもう手に入らないものもあるみたいだ。おい、ヴィクトリア」

「ラジャーです」


 俺の指示を受け、ヴィクトリアが嬉々としてワインを回収する。

 その顔はさっき食器を回収した時よりもうれしそうだ。


 まあ、食えない皿とかあまり興味のないやつだから、お酒が見つかってうれしいのだろう。

 というか、ヴィクトリアだけでなく、エリカもうれしそうだ。


「帰ってからの晩酌が楽しみです」


 ヴィクトリアが収納リングへ入れているワインを見ながら、うれしそうに体をくねくねさせている。


 まあ、この二人はお酒大好きだからな。

 これだけ上等のワインが手に入って、さぞや楽しみが増えたことだと思う。


 実は俺も結構うれしい。

 というのも、これで身分が高い人への贈り物の選択肢が増えたからだ。

 身分の高い人って珍しくてまず手に入らない品を贈られると喜ぶからな。

 ここのワインはその条件にぴったりだ。

 だから、俺としてもうれしいというわけだ。


 さて、食堂周辺で回収できる物はしたし、次へ行くか。


★★★


 次は倉庫へ行った。


「ホルスト君。ここにはいい武器が置いてあるね」


 倉庫に置かれた武器の山を見て、リネットが興奮気味に言う。


 というか、俺も心が躍っている。

 ここの武器庫には結構いい品質の武器や防具が揃っていた。


 俺とリネットは、その中から気に入った品を選ぶと、自分のマジックバッグに入れて自分のものにしてしまった。


「これで俺のコレクションがまた充実したな」

「そうだね。アタシもこれだけの武器が手に入ってうれしいよ」


 二人して、手を取り合って喜んだ。


 それを見て、残りの3人はふーんという顔をしている。

 完全に興味がない顔だ。


「ワタクシにはよくわかりませんが、武器を集めるのって楽しいんですかね」

「さあ?私はこの旦那様に作っていただいたベヒモスの杖があれば十分ですし」

「銀は、そんなにたくさん武器があっても、置き場所に困るだけだと思うのですが」


 3人でヒソヒソとそんなことを言っている。


 まあ、別にいい。

 俺とリネットは誰かに理解してほしくて武器を集めているわけではないからな。


 ちなみにその他の武器は、壊れているのを除いて、ヴィクトリアに回収させた。

 これだけの武器なら、売れば金になるからな。


 さて、倉庫も探したし、次へ行くか。


★★★


「ここが代官の部屋ですか」


 俺たちが代官屋敷で最後に調べたのは代官の部屋だった。


「旦那様、ここにはそんなに大したものはなさそうですね」


 部屋をぐるりと見まわして、エリカがそんなことを言う。


 確かにエリカの言う通りだ。

 この部屋には代官が執務に使う大きな机と、来客用のソファー。それに雑然と本が並べられた本棚しかなかった。


「大したものはなさそうだけど、一応調べるか」


 それでも一応調べてみる。

 エリカとヴィクトリアと銀が本棚を。俺とリネットが机を調べてみる。


 すると。


「ヴィクトリア様、絵本を見つけました」


 銀が子供用の絵本を見つけた。『獣王と勇者様の冒険』というタイトルの本だった。


「ほう、銀はいい本を見つけたな。それで、銀はその本を読んでみたかったりする?」

「はい、ホルスト様」

「それじゃあ、その本は銀が自分の物にしな」

「いいんですか、ホルスト様。ありがとうございます」


 こうやって銀が絵本を見つけたのを皮切りに、エリカとヴィクトリアも珍しい本を発見した。


「旦那様、これは古代の魔術書ですね。これを読めば、魔法の研究に役立ちそうですね」

「ホルストさん。こっちには図鑑がありますね。見たこともない動物や植物の情報が乗っています」


 どうやら、この部屋には結構いい本があるようだ。

 もちろん、見つけた以上は俺たちの物だ。


「ヴィクトリアさん」

「ラジャーです」


 エリカに言われてヴィクトリアがせっせと本を回収している。


 一方の俺とリネットは。


「ダメだ。碌なものがないな」

「本当だね。ガラクタばかりだ」


 大したものを見つけられなかった。

 さて、こうして代官屋敷の捜索は一応終わった。


 俺はギルドへの報告書をまとめる。

 『第5階層。廃墟エリア。特に魔物出現は確認できず。多数の建物があり、財宝の発見に期待できる。問題はここまで到達するのが困難なことか』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る