第197話~新ダンジョン攻略 第4階層 ヴィクトリアの壮大な誤解 スライム何て超雑魚です!……そう思っていた時がワタクシにもありました~

「また行き止まりですね」


 ヴィクトリアが悔し紛れにそんなことを言いながら壁を蹴る。


「いたたたた」


 だが、蹴り方が悪かったのか、足のつま先を痛めたようで、痛そうにしている。


「『初級治癒』」


 慌てて自分に治癒魔法をかけ、痛いところを治癒しているが、傍から見れば単なる間抜けにしか見えない所業だった。


 ところで、なぜ俺たちがこうも頻繁に行き止まりに引っかかっているかというと。


「旦那様、4階層はどうやらダンジョンで一番面倒くさいと言われる迷宮エリアみたいですね」


 エリカが言うように、4階層が迷宮エリアだったからだ。


 迷宮エリアは、文字通り迷路のように複雑に道が入り組んだエリアだ。

 道に迷いやすく、冒険者には不評のエリアで、下手をすれば迷って二度と出てこれなくなった冒険者もかなりいるエリアだ。

 だから、マッピング必須のエリアで、俺たちも当然細かくマッピングをしながら進んでいるわけだが。


「もう、飽きてきました」


 ヴィクトリアの言う通り、何度も行き止まりにぶつかって食傷気味だ。


「ヴィクトリアちゃんの意見にアタシも賛成」

「本当うっとおしいですね」

「銀、頭の中こんがらがってきました」


 というか、ヴィクトリアだけでなく他のメンバーにも大不評だ。

 実は俺もあまりにも道に迷うものだからイライラしている。


 しかも、この階層には迷い道の他にも俺たちをイライラさせる存在があった。


★★★


「旦那様、敵のようです」


 チームの先頭を歩いていたエリカが警戒の言葉を発する。

 全員が動きを止め、武器を構える。


 すぐに4階層の天井の隙間から、何か液体のようなものが落ちてくる。

 その液体のようなものは地面に落ちると、数回自分の体をくねくねさせる。

 そして、一気に勢いをつけると俺たちの方へ飛び掛かってくる。


 そう、その敵とはスライムだった。


「『火矢』」


 エリカがスライムに対し魔法を放つ。

 ボッ。

 魔法がスライムに命中し、スライムが一瞬で蒸発する。


「今回は1匹だけか」

「そのようだね」


 スライムを無事に倒せて、皆がホッとする。

 俺たちをイライラさせるもう一つの存在。


 それはスライムだった。


★★★


「スライムですか?超雑魚ではないですか」


 最初スライムが現れた時、ヴィクトリアはそんな風にスライムのことをバカにしていた。


「お前、なんでそんなに余裕なんだ」


 ヴィクトリアの態度があまりにも敵を舐め切ったものだったので、俺が問いただすと、


「だって、スライムとかテレビゲームだと最初に出てくるような雑魚ですよ。恐れる必要などないですよ」


と、そんな返答が返って来た。


 テレビゲームが何か知らないが、ヴィクトリアの認識は完全に間違っていた。

 慌てて俺が注意しようとしたが、その前にエリカたちがヴィクトリアに注意した。


「ヴィクトリアさん、スライムってとても面倒くさい敵なんですよ」

「そうだよ、ヴィクトリアちゃん。スライムと言えば冒険者が嫌いな魔物トップ3に入るくらい会いたくない冒険者が多いモンスターじゃないか」

「そうなのですか?でも、そんなに強くないと思うのですが」

「確かにスライムは強い存在ではないですね。魔法で簡単に消滅させられますし、体内の核を攻撃すれば武器でも倒せます」

「でも、ヴィクトリアちゃん。問題はそこじゃないんだよ。こいつらは数が多いうえに、とにかくしつこいんだ」


 そうスライムの問題点。

 それはその強さではなく、数の多さとしつこさだった。


「あいつらって、本当にしつこいんだよ。ちょっとでも隙間があればそこに隠れているし、それで冒険者が油断していると襲い掛かってくるんだよ」

「そうですよ。油断して体に取りつかれでもしたら大変ですよ。皮膚や体毛を溶かされて痛い目に遭った冒険者は数多いのですよ。中には髪の毛を全部溶かされて坊主頭にされた女冒険者とかもいるのですよ。皮膚とかは魔法で治せますけど、髪の毛はそうはいきませんからね。油断すると、あなたもそういう目に遭うかもしれないですよ」

「坊主頭ですか?……ふふふ、だ、大丈夫です」


 坊主頭と聞いてヴィクトリアが一瞬ビビった顔になるが、最初に偉そうにしていた手前、まだ虚勢を張っていた。


 それからしばらくして、今。


「うがあああ、本当しつこいです!」


 ヴィクトリアが、あまりにもしつこくスライムが襲ってくるものだからキレていた。

 もう虚勢もへったくれもなくなっていた。

 それほどスライムとはしつこい魔物であった。


「今の襲撃で30回目ですよ。30回!たった1時間でこれは、さすがにしつこすぎませんか」


 怒り狂うヴィクトリアをなだめるため、俺は近寄ってヴィクトリアの頭を撫でてやる。


「落ち着け!そうやって侵入者をイライラさせて隙を作るのがスライムの手口だ。いいから、冷静になれ」

「でも、あまりにもしつこすぎませんか?入り組んだ迷路に次から次へと現れるスライムたち。この二つで来られたら心が休まる暇がないんですけど。ホルストさん、何かいい手はないですかね」

「そうだな」


 確かに迷宮とスライム。二つの面倒な手を組み合わせられてはたまらない。

 せめてどっちかだけでも潰したいな。

 そう思った。


 ということで、ちょっと考えてみた。

 すると。


「そうだ!いいことを思いついた!」


 あるアイデアが俺の頭に浮かんだ。


★★★


「ホルスト君、何かいい手が浮かんだのかい?」


 突然いい手があるとか言い出した俺にリネットが聞いてきた。

 それに対して、俺は自信満々に答える。


「ああ、思い浮かんだんだ」

「旦那様、それはどのような方法でしょうか」

「俺の魔法を使うんだよ」

「魔法ですか」

「そうだ。まあ、やってみた方が早いか。『世界の知識』」


 俺は『世界の知識』の魔法をを使ってみる。

 対象はこのダンジョンの4階層だ。


 すると。


「お、来た、来た。狙い通りだ!」


 『世界の知識』の効果で次々に俺の頭の中に浮かんでくる。

 この階層のマップが!


 俺はヴィクトリアに指示を出す。


「おい、ヴィクトリア。マッピング用の紙を出せ」

「ラジャーです」


 俺はヴィクトリアから紙を受け取ると、それに頭の中に浮かんできたマップを記入していく。


 5分後。


「できたぞ!」


 4階層のマップが出来上がった。


「というか、ホルストさん、これって正確なのですか」

「試してみるか?」


 俺はマップを見ながら、ある一点を指す。

 そして、俺たちはそこへ向かって歩いて行く。

 目的地に着いた俺はニヤリとする。


「ほら、ここがこの階層の中継ポイントだ。マップ通りに進んだら来れただろ?これで、マップの正確さが証明されただろう」


 誇らしげに言う俺を見て、女性陣は大喜びだ。


「さすが、旦那様です」

「ホルストさん、ステキです」

「ホルスト君、惚れ直したよ」

「ホルスト様、ナイスです」


 これで迷宮の迷い道から解放されて、俺を事を盛大に褒めてきた。


「そんな、ほめ過ぎだよ」


 皆に褒められて俺はちょっと照れくさくなるのだった。


★★★


 その後、休憩ポイントで一休みしてから下り階段の方へ歩いて行った。

 大体1時間ほどで着いた。


「さて、こんなくそ階層からは、さっさとおさらばするとするぞ」

「しかし、旦那様。その前にギルドへの報告をまとめた方が」

「そうだな」


 エリカに言われて俺は報告書をまとめる。


 『第4階層。迷宮エリア。似たような道が続き道に迷いやすい。主な敵はスライム。とにかくしつこく出てくる。途中に休憩ポイントあり。一応、マップは作成済みだが、迷宮なのでマップが変化する可能性あり』


 最後に『マップが変化する可能性あり』と書いたのは、実際そういうことがあるからでいわば保険ということだ。


 さて、報告書も書いたし。ここでやるべきことは終わりだ。


「行くぞ!」


 俺たちは階段を降り、5階層へ向かうのだった。

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