第194話~新ダンジョン攻略 第1階層 ヴィクトリア、宝箱を見つけたからってホイホイ開けるんじゃない!~

「新ダンジョンですか?」

「うん、そうなんだ」


 旅行から帰ってしばらく後、冒険者ギル尾に呼び出された俺は、ダンパさんに新ダンジョンが出現したことを聞いた。


「どこにですか?」

「ノースフォートレスから西に3キロほど行ったところの山の中だね」


 ダンパさんの話から察するに、新ダンジョンは町の割と近くにあるらしかった。


 この世界、ダンジョンが突然発見されるのは珍しいことではなかった。

 とにかくダンジョンというのは不思議な場所で、以前にも述べたと思うが、一度宝箱の中身を回収しても中身がいつの間にか復活してたり、鉱石を採取しても、次に行ったときには別の鉱石がそこになぜかあったりと実に不思議なことが起こる場所なのだ。


 だから、急に新ダンジョンが発見されても、またかと、そこまで誰も驚かなかったりするものだ。

 で、そんなダンジョンは俺たち冒険者にとっては絶好の狩場ともなっているわけで、ダンジョン専門で生計を立てている冒険者もいるほどだった。


「それで、ダンパさん。俺を呼び出したのって、そのダンジョン関係ですか」

「そうだよ」


 俺の問いかけをダンパさんはあっさりと肯定した。


「ほら、新規ダンジョンってさ。マップも何もないだろう?だから、新人の子とかが勇み足で入ったりなんかしたらよく事故が起こるでしょ。だから、そうなる前にホルスト殿たちにしっかり調査してほしいなと思うんだ」


 なお、ここでいう事故とは、ダンジョンから帰ってこないという意味である。

 よくある話だが、新規ダンジョンほど実態が良くわかっていないので、事故率が高いのは事実だった。


 ダンパさんの提案に対して俺は頷く。


「わかりました。ダンパさんたっての頼みです。引き受けましょう」

「おお、引き受けてくれるか。それじゃあ、お願いします」


 ということで、俺たちは新ダンジョンを探索することになった。


★★★


「それじゃあ、お前たち出発するぞ」

「「「「はい」」」」


 ダンジョンへ行く準備ができたので俺たちは家を出た。

 今回のパーティーは、俺、エリカ、ヴィクトリア、リネット、銀の5人パーティーだ。


 ホルスターはいつも通りエリカの実家に預けてきた。


「ホルスター。ちゃんといい子にしているのよ」

「うん、行ってらっしゃい。パパ、ママ」


 エリカの実家に連れて行くと、手を振りながら俺たちを見送ってくれた。


 さて、家を出た俺たちはダンジョンへ向けて移動した。

 移動手段は徒歩だ。

 新ダンジョンは町から近い。

 馬車で行くほどではないし、馬車で行ったら行ったで、置き場所に困るからな。

 だからギルドに世話を頼んで、パトリックは家に置いてきた。


「たまにはみんなで町の外を歩くのもいいものですね」


 ダンジョンに行く道すがらヴィクトリアがのんきなことを言っている。

 お前には今から仕事だという自覚がないのかと聞いてやりたいが、気持ちはわからなくもない。

 何せ、今日は冬にしては珍しく晴天だ。

 日差しも暖かく過ごしやすい日だ。

 外を出歩くのにはもってこいの日だ。


 だから、ヴィクトリアの気持ちはよくわかるのだが、仕事はきちんとこなさなければならない。


「おい、ヴィクトリア。俺たちは今から仕事なんだぞ。真面目にやれ!」

「は~い。気を付けます」


 俺が注意すると、ヴィクトリアからおちゃらけた感じで返事が返ってきた。

 こいつ、いまいち真剣みが足りないなとは思ったが、これからダンジョンへ潜るのに、パーティー内の不協和音とかごめんなので、それ以上は強く言わなかった。


 と、そうしているうちにダンジョンへ着いた。


★★★


「ふーん。入口は何の変哲もない洞窟みたいだね」


 ダンジョンの入り口を見て、リネットが率直な感想を述べる。

 確かにリネットの言う通りで、ダンジョンの入り口は盗賊がアジトにでも使いそうな普通の洞窟みたいな感じだった。


「『希望の遺跡』とか、入り口に立派なガーゴイルの像とかあって、いかにもダンジョンって感じだったのに、ここはそれに比べるとしょぼいですね」

「まあ、ヴィクトリアさん。そういう言い方はよくないですよ。どんなダンジョンだろうとダンジョンはダンジョン。油断は禁物ですよ。わかりましたか?」

「はい、気を付けます」


 と、ヴィクトリアがエリカに注意されたところで、俺は一枚の紙を取り出す。


 これはマッピング用の特別な紙だ。

 今回のギルドの依頼にはダンジョンのマッピング作業も入っているから、そのために持ってきたのだった。

 それをみんなに見せながら俺は言う。


「さて、じゃれ合うのはそのくらいにして、そろそろ仕事を始めるぞ」

「「「「はい」」」」


 ということで、ダンジョンの入り口で俺たちは中へ入るための準備をして、俺たちはダンジョンの中へ入っていくのだった。


★★★


「リネットは前方の警戒を。エリカは後方の警戒を。俺とヴィクトリアはマッピング作業。銀はいざという時のために待機だ」


 俺が全員の役割を割り振り、ダンジョンの探索を始める。


「前は任せて」


 リネットがカンテラをもって先頭に立ち、『地の行』の修業で得た生命エネルギー感知を使って前方を警戒する。


「後ろはお任せください」


 エリカが探知魔法を使って後方を警戒する。


「ホルストさん、ここ、もうちょっとこう描いた方がいいんじゃないですか」

「そうだな。そっちの方が正確だな」


 俺とヴィクトリアがカンテラ片手にマッピングする。


「ホルスト様、ヴィクトリア様。お疲れではないですか。お疲れでしたら、銀がいつでも変わりますよ」


 銀は俺たちのサポートをしようと待機している。

 この体制で俺たちはダンジョンの中を進んでいく。


★★★


「うーん。また敵だね」


 先頭を行くリネットが警戒の声を発する。

 それを受けて俺たちは戦闘態勢に入る。

 とはいっても、相手は大した敵ではない。


「また、ゴブリンとコボルトか」


 敵はゴブリンとコボルトの混成部隊だった。

 今更と言えば今更だが、ダンジョンの一階層とかでは標準的な敵だ。


「アタシに任せて」


 リネットが前に出る。


「『旋回撃』」


 そして、最近覚えたばかりの技を試してみる。

 リネットが獲物の斧を回転させると、無数の小さな竜巻が発生し、ゴブリンたちを襲う。


「ぎゃあああ」


 たちまちゴブリンたちが竜巻に巻き込まれミンチになる。


「うん、うまく行ったね」


 自分の技の実験がうまく行ってリネットは喜んでいる。

 ジャスティスの修業を受け、リネットも神器である『戦士の記憶』の力を大分使いこなせるようになってきた。


 パーティーの戦力的にこれは喜ばしいことだと思う。


「それにしても、このダンジョン、1階層にしては道が複雑だな」


 リネットが敵をせん滅した後、俺は大分出来上がってきたマップを見ながらそう感想を漏らす。


「確かに、枝分かれする道が多いですね。この分だと、初心者パーティーが入ったりすると危険かもしれませんね」


 エリカもマップを覗き込みながら、俺の意見に同意する。


「でも、鉱石とか薬草とかそういう採取物は多めですね。それなりに実力のあるパーティーであるならば、いい狩場になるのではないでしょうか」


 対して、ヴィクトリアの方はそんな前向きな意見を言う。

 これはこれで一理ある意見だ。


 ということは。


「他の階層も回ってみないと何とも言えないが、ギルドへの報告は『初心者向きではないが、中級者以上の冒険者にとっては稼ぎとなる可能性あり』としておくか」


 そんな風に手探りで俺たちはダンジョンを進んでいくのだった。


★★★


「あ、宝箱です」


 とある行き止まりで、ヴィクトリアが宝箱を発見した。

 まあ、ダンジョンではたまにあることだ。


「開けますよ~」


 早速ヴィクトリアが宝箱を開けようとする。

 しかも、無邪気な顔で無警戒にだ。


 俺は慌ててヴィクトリアの首根っこをつかんでそれを引き留める。

 当然、ヴィクトリアが抗議してくるが。


「何するんですか!」

「バカ野郎!何無警戒に宝箱を開けようとしているんだよ!あの宝箱、俺の生命エネルギー感知にビンビン引っかかるんだよ!」


 そう言いつつ、俺は小さな小石を宝箱に向かって投げる。

 途端。


「キシャアアアア」


 たちまち、宝箱からデカい歯と舌が生えてきて、小石に襲い掛かっていく。

 それを見てビビったヴィクトリアが涙目で俺に抱き着いてくる。


「ホルストさ~ん」

「うむ、やはりモンスターボックスか。リネット」

「うし」


 俺の指示で、斧を構えたリネットがモンスターボックスに躍りかかる。

 グシャ。

 リネットの攻撃一撃でモンスターボックスは粉砕され、この場に静寂が戻ってくる。


 俺はまだ泣いているヴィクトリアの頭を撫でながら注意する。


「お前、もうちょっと慎重にやらないと駄目だからな」

「はい、以後気を付けます」


 このようにちょっとしたトラブルはあるものの、探索自体は順調だった。


★★★


「ホルスト君、下り階段があったよ」


 1階層の探索を大分終えたころ、リネットが下り階段を見つけた。


「さて、1階層の探索も大体終わったことだし、次の階層へ行くぞ」

「「「「はい」」」」


 ということで、俺たちは次の階層へ行くのだった。

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