第193話~家族旅行 後半 芋炊き大会 ここでまさかの妹との再会 妹よ!お前、何で人様に迷惑をかけているんだ!~

次の日。

 午前中はスキーの練習をした。


「うわー、気持ちいいですね」

「本当、最高ですね」


 昨日に比べてもヴィクトリアとエリカは大分スキーが上達した。

 初心者コースとはいえ、初心者と思えないくらい上手にスキーができるようになっていた。

 たった一日でここまで上達すれば上等だと思う。


 さて、二人ともそこそこスキーができるようになったところで、数回ほど初心者コースで遊んだ後。


「それじゃあ、昼近くなったし、そろそろ芋炊きに行くか」

「「「はい」」」


 いい時間になったので、芋炊きに行くことになり、俺たちはスキーのコースから離れ、一旦ホテルへと戻り、準備するのだった。


★★★


「うわー、結構な人だかりですね」


 芋炊きの会場へ行くと結構な人が集まっていた。


「いい匂いです」


 会場にはホワイトソースのいい香りが漂っていて、それを嗅ぎつけたヴィクトリアがいい笑顔をしている。


「すみません。芋炊きに参加したいんですが」


 芋炊きに参加するためにまず受付に行く。


「参加希望の方ですか。失礼ですが、地元の方ではありませんね」

「ええ、そうですが、食材を拠出すれば参加できると聞いてきました。おい、ヴィクトリア」

「はい」


 俺の指示で、ヴィクトリアが収納リングからオーク肉の塊を取り出す。

 合計で5キロあるはずなので、提供する分としては十分だと思う。


 肉の塊を見た受付のシスターさんがうれしそうな顔をする。


「まあ、お肉がこんなにたくさん。みなさんに食材を提供してもらって、このイベントをしているのですが、提供してもらえるのは野菜が多くて、肉はほんのちょっとですので、こんなにお肉をもらえるとか、感激です。そうですわ。院長にも報告しなければ」


 そう言うと、シスターは一旦席を立ち、すぐに院長を連れて戻って来た。


「本当にありがとうございます」


 来るなり院長はお礼を述べてきた。


「まさか、遠方からいらしたお客様にここまでしてもらえるなんて。あなた方にクリント様のご加護がありますように」


 お礼を言われたうえ、お祈りまでしてもらって俺は恐縮するのみだった。


「いや、いや。そこまでお礼を言われることなどしていません。俺たちはただ芋炊きを食べてみたかっただけで……人数も多いのでちょっとたくさん寄付しただけの話です」

「まあ、謙虚な方ですね。素晴らしいですわ。是非、ご尊名をお聞かせください」

「俺はホルストと言います。しがない冒険者をやっております」

「ホルスト様ですか。ご立派なお名前ですね。それではホルスト様方、ごゆっくりどうぞ」


 これで、ようやく修道院長が解放してくれたので、俺たちは会場に入った。

 さて、それでは芋炊きをいただくとするか。


★★★


 会場に入った俺たちは芋炊きを配る列に並んだ。

 本当ならすぐにでも配膳が始まるはずなのだが。


「今、追加でお肉をいれましたので、しばらくお待ちください」


 どうやら俺たちが提供した肉が煮えるまでの間の分、時間が伸びたようで、すぐには配膳は始まらなかった。

 ただ、肉が大量に入ったと聞いて客は大喜びだったので、特に文句は出なかった。


 10分ほど経ち。


「それでは配りますよ」


 ようやく芋炊きの配膳が始まった。

 ちなみに食器まで修道院側に用意する余裕がないので、食器は客の持参である。

 たくさん人が来るイベントなので、皆遠慮して小さな器を持ってきているのかと思いきや、


「みなさん、大きい器持ってきていますね」


大抵の人は大きな器を持ってきていた。


 よく考えたら、この辺の村ってそんなに豊かというわけではないみたいだから、食える時には食っておこうという腹積もりの様だった。

 ということで、俺たちも遠慮せず大きめの器を使うことにした。


「うん、うまいな」

「結構おいしいですね」

「このジャガイモふかふかですね」

「ちょっと甘めの味付けだけど、このクリームスープおいしいな」

「ホルスターちゃん、おいしい?」

「うん、銀姉ちゃん、おいしいよ」


 芋炊きは噂通り美味しくて、俺たちは十分満足した。

 さて、芋炊きも食べたことだし、修道院長に挨拶でもして帰ろうかということになり、修道院長の所へ行くと、ちょうど一人のシスターが修道院長に怒られているところだった。


「まあ、シスターレイラ。また、芋炊きをつまみ食いしたのですか。味見するとか言って、勝手に食べたのを怒られたばかりだというのに、何を考えているのですか」

「ですが、修道院長。味見したときの芋炊きには肉がほとんど入っていなかったのです。それで、たくさん肉をくださった方がいると聞いて、つい我慢ができなくなってしまったのです」


 そのシスターの弁解を聞いて、修道院長がふーとため息をつく。


「何を言っているのですか、シスターレイラ。最初に言ったでしょう。私たちが食べていいのは、お客様が食べた後、残った分だけですと。これは修道院を支援してくださっている地域の方々への感謝を示すための行事なのですよ。それなのに、私たちが食べたいから食べたのでは駄目ではないですか」

「でも」

「でも、ではありません!大体、あなたはひどい目に遭って修道院に戻って来たばかりだというのに、ちっとも反省してないですね。仕事は効率よくするとか言って手を抜くし、ご飯の量をちょろまかすし、最近は目を開けたまま授業中に寝るとかいう特技まで身につけたと聞いていますよ。少しは反省しなさい!」


 どうやら目の前で説教されているシスターは相当の問題児らしく、修道院長も手を焼いているようだ。

 聞くだけでも、相当なことをしているしね。


 ……というか、このシスターの声、聞き覚えがある。

 名前もシスターレイラだし。


 まさかと思い、そのシスターの顔を覗き見ると。


「やはり、レイラか」

「げ、お兄ちゃん」


 やはり修道院長に怒られていたのは妹のレイラだった。


★★★


「うちの愚妹が、皆様にご迷惑をおかけしているようで、誠に申し訳ありません」


 その後、修道院長から妹のしでかしてきた悪事の数々を聞いた俺は、申し訳なさ過ぎて、修道院長に土下座した。

 俺の横ではレイラの奴も土下座している。


「そんなの嫌よ」


 土下座させようとしたら、最初レイラはそう抵抗してきたが。


「うるさい!口答えするのなら、兄妹の絆もここまでだ。家に帰ってきたら、二度と外に出られない様に座敷牢を作って、一生閉じ込めてやるからな!」


 そこまで言ってやると、渋々土下座した。


 身内の不祥事を必死に謝罪する俺に対して、修道院長は優しく微笑みかけてくれる。


「そんなお兄様が謝られることではありませんよ。色々したのはシスターレイラですし。お兄様は悪くありませんよ、さあ、お顔をお上げください」


 俺は修道院長に促されて顔を上げる。

 見ると、修道院長の顔は慈愛にあふれた優しそうな顔だった。

 俺は許されたような気がして、ホッとした。


 俺と同時にレイラの奴も顔を上げようとしたが、


「お前はもっと反省しろ!」


と、怒鳴りつけると、上げていた頭が湖底に沈んでいく石のように、すごい勢いで下がって行った。


 さて、謝罪も済んだことだし、次は修道院に償いをしなければな。

 そう思った俺は修道院長にこう言った。


「本当にうちの愚妹がいろいろやらかしたみたいで申し訳ありません。修道院の信用を傷つけてしまったり、逃走防止用に余計な設備にお金を使わせてしまったようで、申し訳なさでいっぱいです。是非、賠償させてください」


 それに対して、修道院長は手を振る。


「いえ、賠償などとんでもありません。すべては私どもの手落ちから始まったこと。私どもの導き方が足らなかったのです。反省すべきは私どもの方です。ですから、お気持ちだけで十分です」


 なんていい人だろうと俺は思った。

 これはお気持ちだけで済ますとかとんでもないと思った。

 だから、俺はこう言った。


「賠償を受け取っていただけないとおっしゃるのなら、寄付という形ではどうでしょうか。おい、ヴィクトリア」

「はい」

「収納リングの中に小麦粉の大袋があっただろう。あれを20袋ほど出せ」

「ラジャーです」


 俺の指示でヴィクトリアがすぐに小麦粉を20袋ほど出す。


「後、なんか家庭菜園用の野菜の種も持っていただろう。あれも出せ」

「ラジャーです」


 俺に言われたヴィクトリアがそれも出す。


「後は、そうだな。肉や魚なんかもいいかな。でも、生だと収納リングから出したら腐るからな。修道院長様。干し肉や魚の干したのとかでも大丈夫ですか」

「いや、ホルスト様。このようなものをいただくわけには……お気持ちだけで十分です」


 ここに至っても、修道院長は謙虚な態度を崩さなかったが、俺だってここで引くわけにはいかない。


「いえ、いえ。そういうわけにはまいりません。これは俺の信仰のために寄付するのです。どうか受け取ってください」

「でも」

「そうだ!修道院は建てられてから大分経ち、建物に不具合な点も出ていると聞き及びます。近くの町のギルドで大工を手配しますので、どうぞ建物の整備にお使いください」

「いや、ホルスト様。話を聞かれていますか?」

「それと、これはほんの少しですが寄付金です。皆様の神への信仰のために役立ててください。それで、もしよかったら、ついでに俺たちの無事でも祈ってください」


 最後は修道院長の手に、無理矢理金貨を数枚握らせた。

 それで、もう俺の説得は無理だと思ったのか、修道院長は苦笑しながら言った。


「わかりました。ホルスト様の神への敬虔な気持ちを受け取りますわ。あなたたちのために祈らせていただきます。あなた方に神のご加護があらんことを」

「ありがとうございます」


 ようやく修道院長に寄進を受け取ってもらえて俺はホッとするのだった。


★★★


「それでは、また」


 修道院長とのやり取りが終わると、俺はそう言いつつ手を振りながら芋炊きの会場から離れた。

 ちなみに妹のことは帰り際に修道院長にちゃんと頼んでおいた。


「こいつのことは、煮るなり焼くなり、何なら逆さ吊りにしても構いませんので、家に帰るまでに厳しくして、根性をたたき直してやってください」

「お兄ちゃん、なんでよ~」


 俺が修道院長にそう頼んでいるのを見て、修行がより厳しくなりそうだと感じたレイラの奴が抵抗してきたが、俺は怒鳴りつけてやった。


「このバカ野郎!家でも外でも人に迷惑ばかりかけやがって!いいか!家に帰ってくるまでにきちんと根性が直っていないと、本当に家からたたき出すからな!」


 俺に怒られた妹の奴はシュンとして黙り込むのだった。

 これで、多少なりとも反省してまともになってくれるとよいのだが。


 ちなみに、俺の頼みに対して、修道院長は、


「ホルスト様の頼みなら断れませんね。特別メニューを用意して鍛え直してみせます」


と、快諾してくれたので、後は任せることにした。


 こうして、俺たちは芋炊き会場を後にするのだった。


★★★


 芋炊きから帰った後はホテルでのんびり過ごした。


「「「私たちはマッサージに行ってきますね」」」


 エリカたちはホテルに帰るなり、予約していた『極上美容マッサージ』とかいうマッサージに行ったので、俺はホルスターと銀の面倒を見ることにした。


「ホルスターちゃん。銀お姉ちゃんが食べさせてあげる。あーんして」

「あーん」

「おいしい?」

「うん、おいしい」


 とはいっても、銀がホルスターをかいがいしく世話するのをただ見ているだけだが。

 まあ、別にそれでもかまわないけどな。


 俺はイスに深く腰掛けて目を閉じる。

 まさか、ここで妹の奴に会うとは思わなかったが……本当にあいつは碌なことをしていない。

 でも、修道院長にもよく頼んだことだし、少しはまともになればいいなと思った。

 さもないと、いつまでも俺が、いや俺だけでなく息子や下手すりゃ孫にまで迷惑がかかるかもしれないからな。

 今のうちに何とかしておかなければな。


 と、そんなことを考えているうちにいつの間にか俺は眠っていた。

 再び起きたのは、嫁たちがマッサージから帰って来た時だった。


 その後俺たちは数日をホテルで楽しく過ごし、最後はたくさんお土産を買って、家に帰ったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る