第191話~ヒッグス家の新年パーティー~
「明けましておめでとうございます」
「「「「「明けましておめでとうございます」」」」」
年が明けて、新年が来たので新年の挨拶をする。
とは言っても、すでに朝早く起きて町の神殿にお参りに行ってきたので、今はすでに昼だ。
なので、ゆっくりお雑煮でも食べて過ごすことにする。
そうやってのんびりしている途中、俺が話を切り出す。
「ヴィクトリア、誕生日おめでとう」
今日はヴィクトリアの誕生日だ。
だから、そう言いながら、俺が誕生日プレゼントを渡すと、ヴィクトリアが満面の笑顔になる。
「「「「お誕生日おめでとう」」」」
他のみんなもプレゼントを渡す。
「ありがとうございます」
それに対してヴィクトリアがお礼を言い、早速プレゼントを開ける。
「うわー、皆さんありがとうございます」
皆からもらったプレゼントを見てヴィクトリアが喜ぶ。
エリカとリネットの二人は、あれは髪留めとイヤリングだろうか、何かアクセサリーをあげていた。
銀とホルスターは二人で一緒に描いた似顔絵をあげていた。
それで、肝心の俺だが。
「これは……バッグですか」
「ああ、お前って買ったものはいつも収納リングに放り込んでいるからそういう洒落たバッグとか持ってないだろ?だから、いいかなと思って」
「ありがとうございます。大事にします」
それを見て、俺はヴィクトリアが喜んでくれてよかったと思った。
ちなみに、誕生日プレゼントに何が欲しいか、事前に本人にリサーチしたら、
「子供」
とか、言われてしまったので、俺なりに頭をひねった結果、これにしたのだった。
まあ、子供はアリスタの依頼を果たすまでお預けだからな。今はこれで我慢してもらうとしよう。
幸いなことにヴィクトリアも喜んでくれたことだし、結果オーライだと思う。
こうしてみんなが誕生日プレゼントを渡した後は、用意していたケーキなんかを食べたりして、正月気分兼誕生日を楽しんだのであった。
★★★
翌日の正月2日。
「旦那様、準備ができました」
「そうか、それじゃあ出かけようか」
俺たちは出かけた。
ちなみに全員盛装である。
俺とホルスターはフォーマルなタキシードを着ているし、嫁ズと銀は華やかなドレスを着て、きらびやかなアクセサリーを身に着けていた。
それで、俺たちがどこへ行くのかというと。
「お義父さん、お義母さん、お久しぶりです」
「やあ、ホルスト君、よく来たね」
「みんな元気そうで、何よりだわ」
ヒッグスタウンのエリカの実家だ。
というのも、本日ここで一族や町の有力者を集めて新年をお祝いするパーティーが開かれるからだ。
入り口でエリカの両親に挨拶した後は、屋敷の中へ入っていく。
屋敷の中にはすでに多くの来客がいて、賑わっていた。
その中でも、一際人だかりができているところがあった。
屋敷の正面入り口から入ってすぐの場所なのだが、あそこに何があるんだろうと思って気になった。
俺以外のメンバーもそれは同じようで、ヴィクトリアが、
「ちょっと行ってみませんか」
と言うので、ちょっと覗いてみることにした。
すると、エリカのお兄さんが来客たちにそこに飾られてある物の説明をしているのが確認できた。
「若様。これは立派なドラゴンのはく製ですね」
「そうですか?褒めていただきありがとうございます」
「しかも、このドラゴン、その辺の貴族の家に飾ってある普通のドラゴンと違うようですね」
「そうなんだ。これはレジェンドドラゴンと言ってね。王国の北部砦の北のエラール山脈のドラゴンたちを支配しているという伝説のドラゴンなんだ」
「ほほう。レジェンドドラゴンですか。さすがヒッグス家。立派な物をお持ちですな。して、これはどちらから手に入れられたのですかな。これだけのドラゴン。手に入れるためには相当ご苦労されたことでしょう」
「実は僕の義弟からもらったものなんだ。何でも、義弟が甥っ子の誕生祝いにレジェンドドラゴンを狩りに行ったらしいんだ。それで無事に狩れて、はく製にしたまではよかったんだけど、置き場所に困ったらしくて、妹に怒られたんだよ。それで、僕の父にくれたというわけなんだ」
「若様の義弟様と言えば、数多の強大な魔物たちを倒しているという王国の英雄と呼ばれる方ですな。それは素晴らしい。ご領主様もさぞや鼻が高いでしょう」
と、お兄さんたちはそんな感じで話をしていたわけだが、それを聞いたエリカが俺のことをジロッと睨んできた。
それを見て、俺はやばいと思った。
「旦那様。これはどういうことですか」
「えーと」
「ちょっと、おかしいなとは思っていたのです。お屋敷に飾られていたドラゴンのはく製がいつの間にか新しいものになっていて、しかも、どこかで見たことがあるなあと思ってはいたのですが、ドラゴンの顔だけ見ても見分けがつかないので、今日まで黙っていたのですが、あれ、前に私が捨てて来いと言ったやつですよね?」
もう言い逃れできないと悟った俺は、おとなしく認めることにした。
「はい、その通りです」
「そうですか。まあ、もうあのドラゴンは屋敷の看板になっているみたいですし、今更捨てろとは私からお父様やお兄様に言うことは難しいですから、その点に関しては追及しません。ですが、旦那様。私たちにはきちんと話し合う時間が必要みたいですね。こっちへ来なさい!」
エリカはそのまま俺の袖を引っ張ると近くの小部屋に連れ込んだ。
そして、中から鍵をかけ、誰も入れないようにすると、
「さて、旦那様。話し合いましょうか」
そう言われて、小一時間ほど説教されるのだった。
本当、正月早々ついていないと思った。
★★★
「さすがエリカさんのお父さんですね。正月からごちそうをたくさん用意してくれて……これは食べ甲斐がありそうですね」
会場に入ると、ヴィクトリアが会場に並べられているごちそうの山を見て、ゴクリと唾を飲み込んでいる。
今にもごちそうを皿に取っていきそうな勢いだが、それをエリカが止めに入る。
「ヴィクトリアさん、わかっていると思いますが、今回はこの前のドラゴン退治の祝勝会の時とは違いますからね。旦那様に恥をかかすようなことをしてはいけませんよ。別に食うなとは言いませんので、食べるのなら一度に取るのは少量にしなさい。それで、取りに行く時もなるべく目立たないようにしなさい。食べる時は貴婦人らしくゆっくり食べなさい。わかりましたね?」
「はい、大丈夫です」
そうエリカに注意されたヴィクトリアは、指示通りおとなしく食事をするのであった。
さすがエリカ。
ヴィクトリアをコントロールするすべをよくわかっていると思った。
ちなみにエリカの機嫌はもう直っている。
俺を説教して気が晴れたのと、ひたすら俺がおだてたおかげで先ほどの怒りはどこへやら、すっかり笑顔を振りまくようになっていた。
まあ、お父さんの身内である俺たちはどちらかというと来客を迎える側だからな。
いつまでも怒っていられないのも事実なので、機嫌が直ってくれてよかったと思う。
ということで、ヴィクトリアたちがごちそうを食べている傍らで、俺とエリカは客への対応に回る。
「ほほう。あなたが噂のご領主様の婿様ですか。お噂はかねがね」
「いや、いや。自分などまだまだです」
「さすがはご領主様のお嬢様。とても美しくていらっしゃる」
「まあ、お口がお達者ですね」
そんな来客のお世辞ともおべっかともつかない会話を無難にやり過ごしながら、来客たちの接待をしていく。
もっとも忙しいのは俺たち夫婦だけではない。
「御館様。明けましておめでとうございます」
「ああ、明けましておめでとう」
「若様、明けましておめでとうございます」
「明けましておめでとうございます」
エリカのお父さんとお母さん、お兄さん夫婦も客の対応に忙しそうだ。
飯も食う暇もなく挨拶しまくっていた。
無論、俺とエリカも同様だ。
本当、挨拶とかしなくていいヴィクトリアとかが羨ましいぜ。
と思って、彼女たちを見てみると、彼女たちも被害を受けていた。
「あなた方が、英雄様の側室様ですか。これはお美しい方々だ。これほどの美人を側室になさるとはさすが英雄様ですな」
「「どうも、ありがとうございます」」
と、どうも俺の家庭構成を調べてきたであろう目ざとい商人やら町の有力者に声をかけられ、忙しそうだった。
まあ、この生き馬の目を抜く様な世の中。彼らも生き抜くために必死なのだと思う。
俺が順調にのし上がって行っているのに目をつけて、近寄ってくる奴もいるというわけだ。
これが出世するということか。
俺はそう思い、ちょっと煩わしさを感じないでもなかった。
ただ、幸せで豊かな家庭を築くためには避けては通れない道ではあった。
だから、ヴィクトリアとリネットにもここは我慢してもらうほかなかった。
あいつらのことは後でフォローするとして、今は頑張らないとな。
こうして、俺は新年会を無事に乗り切るのだった。
★★★
「ああ、あまりごちそうを食べられなかったです」
新年会が終わって家に帰ると、ヴィクトリアがそう残念がっていた。
どうやら意外にも多くの人間に声をかけられて、満足いくほど食べられなかったようだ。
というか、他の大人3人もそんなに食べていない。
だから、俺もちょっと腹が減って困っている。
満足に食べられたのは、ホルスターと銀、子供二人組くらいだろうか。
ちなみにその二人は、今日エリカの実家にお泊りするそうで、明日の昼頃に迎えに行くことになっている。
ということで、これからは大人の時間だ。
俺はみんなに提案する。
「なあ、みんな。これから飲み直しに行かないか?ギルドの酒場なら、今日もやっているし」
「「「賛成です」」」
速攻で全員が賛成した。
早速支度して出かけた。
「よお、ドラゴンの」
ギルドの酒場に行くと、俺と仲の良いフォックスが挨拶してきた。
というか、フォックス以外にも冒険者多くね?
まあ、この前のドラゴン退治で懐の温かい冒険者が多いからな。
正月くらいはみんなのんびりしているんだろうと思う。
「フォックスさん、明けましておめでとうございます」
「おう、明けましておめでとう。お前らも飲みに来たのか?」
「はい」
「じゃあ、一緒に飲むか」
そんなわけで、俺たちは冒険者たちと朝まで飲むことになった。
飲み過ぎで頭が痛くなったが、最終的にいい正月を過ごせてよかったと思う。
とまあ、こんな感じで実家の方の堅苦しい新年のパーティーも終わったし、新年早々冒険者仲間たちとの親睦も深めることもできた。
後やっていないのは正月明けの家族サービスである。
ということで、今度は家族を連れて正月明けの家族旅行と洒落こもうと思う。
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