第186話~ドラゴン軍団、南下す! ドラゴン軍団迎撃作戦会議~

俺たちが訓練場へ行った翌日。


「では、今から南下してきているドラゴン軍団に対応するための会議を始める」


 その訓練場内の室内訓練場で、ノースフォートレス方面に侵攻中だというドラゴンの軍団に対する作戦会議が開かれた。

 室内訓練場に椅子と長机を設置し、それで会議をした。


 今回の会議にはDランク以上の冒険者は強制参加である。

 町の危機なのでみんなで協力して事に当たろうという話であった。

 ただ、Dランクとなると数が多いので、冒険者パーティーを組んでいる連中はそのリーダーが、ソロなら本人がそれぞれ出てきていた。


 だから、うちのパーティーで来ているのは俺だけ。……ではなかった。


「ホルスト殿の所は、ドラゴンとの戦闘経験が豊富だから、是非参加してほしい」


 というダンパさんの頼みで、パーティー全員が参加していた。

 まあ、うちは俺とエリカがSランクでヴィクトリアとリネットがAランクだからな。

 その上、その辺の地竜から上位種のドラゴンまで相手してきているからな。

 ダンパさんが頼りたくなる気持ちもわかるというものだ。


 それで、会議の席順だが、ギルドマスターのダンパさんと副ギルドマスターのリネットが上座に座り、その次の席にこの町で唯一のSランク冒険者チームである俺たちが座った。

 ここまでは誰も文句を言わなかった。


 問題はその次だ。


 この町には『赤の斧』、『青の槍』、『緑の弓』と3チームAランク冒険者チームがあるのだが、こいつらが席順で揉めた。


 こいつらのリーダーはそれぞれ、アクスト、シュペーア、ボーゲンという名前なのだが、全員が妙にプライドが高くて、ことあるごとに何かと張り合うような連中だった。


「ホルスト殿たちの次の席は、このアクストのものだろう」

「いや、ここはこのシュペーアが」

「いや、いや。このボーゲンが」


 今日だって席順を巡って3人が揉めていた。

 冒険者にプライドは大切だと俺は思う。

 プライドの高さは向上心につながるからだ。

 向上心がない冒険者は大成しない。

 俺はそう思っている。


 ただ、目の前に危機が迫っている時にやることかね。

 俺は呆れざるを得なかった。


「非常時にいい加減にしないか!」


 しまいにはダンパさんが怒りだしてしまい、それを受け、席次はじゃんけんで決めることになり、アクスト、シュペーア、ボーゲンの順に決まった。

 で、連中の後はBランクの俺と仲が良いフォックスたちが座った。

 こいつらは俺とも仲がいいし、Bランク同士でも仲が良かったので揉めたりはしなかった。

 その後はCランク、Dランクとランク順に席に着いた。


 こうして、作戦会議が始まることになった。


★★★


 会議は現状の報告から始まった。


 ギルドの職員さんが急遽用意された黒板に地図を張り付け、説明を始める。

 細長い棒で地図を指し示しながら、現在の状況を説明してくれる。


「このように、ドラゴン軍団は突然現れ、まず北部砦を襲撃しました」


 職員さんの説明通り、ドラゴン軍団はまず北部砦を襲撃したようだ。


「それで、北部砦はどうなったんだ」


 職員にダンパさんが質問する。


「はい、尋常でない損害を出しましたが、何とか撃退したそうです」

「尋常ではないではよくわからないな。具体的に行ってほしいな」

「はい、えーとですね。北部砦を守っていた兵の4割に死傷者が出て、砦の城壁も半壊させられたようで、修復までに大分時間がかかるそうです」

「4割って……それ、普通に全滅判定食らう損害じゃないか」

「はい、そうとも言いますね」


 俺に指摘を受けた職員さんが汗をかきながら、しどろもどろに答える。

 実際、戦闘で部隊の3割の損害を受ければ、その部隊は戦闘不能と判定され、後方に下げられるものだ。


 というのも、戦闘部隊と一口に言っても、全員が戦闘するわけでなく、1割から2割は部隊の支援要員なわけで、実際の戦闘要員というのは部隊の8割程度なのだ。

 で、その部隊の3割が行動不能ということになると、戦闘要員の半分近くがやられたということであり、こうなるとその部隊の戦闘能力は最大値の2,3割程度に落ちているので、まともに戦える状態ではなくなっているというわけなのだ。


 今回の場合だって、それだけの損害を受けた以上、北部砦は壊滅状態と言っても差支えないのだが、軍もプライドの高い連中だ。

 負けましたと正直に言えず、損害は出ましたが守り抜きましたと、糊塗しているだけの話だ。


 本当に面倒くさい連中だが、まあいい。

 今はドラゴンへの対応を決める方が先だ。


「それで、ドラゴン軍団は今どう動いている」

「はい。ドラゴン軍団は北部砦とノースフォートレスを結ぶ街道を移動中。途中、街道上の町や村を襲って、人や家畜を食っているらしいです」


 人や家畜を襲って食う。

 そう聞いた俺は、一瞬その光景を頭の中に思い描いてしまい、嫌な気分になった。

 だが、だからと言って話を中断するわけにはいかない。


 話を続ける。


「そうか。大体状況は把握できた。それで、肝心のドラゴンは何匹くらいいるんだ。北部砦を壊滅させるくらいだから、相当数がいるんだろ?」

「はい。物見の報告によると、約70体ほどのドラゴンがいるとのことです」

「70?」


 職員さんの説明を聞き、会場中がざわめいた。


★★★


 70匹ものドラゴンが現れ、町や村を襲っている。

 その職員の報告を聞いて、会場が騒ぎになる。


「70匹のドラゴン?そんなのどうやって相手にするんだよ」

「もう終わりだ」


 会場が重い空気に包まれる。


 俺はそれが見て、ああこれが普通の反応なんだと思った。

 正直、俺はドラゴン70匹と聞いてもさほど強いとは思えなかった。

 俺はそれよりも強い敵とずっと戦ってきたからな。


 例えば、この前ドワーフ王国で戦った4魔獣の1匹。グランドタートル。

 多分、ドラゴンが70匹束になってかかったところで、あいつのエネルギーシールドを破ることはできないだろう。

 逆に、尻尾から荷電粒子砲を放たれて、数分持たずに全滅するだろう。


 他にもこの前まで俺とリネットが修行を受けていたヴィクトリアの兄貴のジャスティスなら、


「ほう。ドラゴンが70匹か。準備運動にはちょうどいいな」


とか言いながら、一人木剣一本持って向かって行って、嬉々としてドラゴンたちを全滅させるだろうと思う。

 ジャスティスの腕なら、1分かからずにドラゴンの首を全部切り落とすことができると思う。


 と、俺から見たら70匹のドラゴンとかそこまでの相手でもないのだが、一般の認識ではそうではないようだ。


「ああ、お母さん。お母さんより先に天国に行くことになりそうです。先立つこの親不孝な娘をお許しください」

「俺はともかく、家族だけでも避難させなきゃ」


 会場を見渡すと、そんな悲嘆にくれる光景が目に入ってくる。

 ただ、自分だけさっさと逃げ出そうという意見が聞こえてこないのだけは立派だと思った。


 そんな皆を見て、俺は決意する。


「ダンパさん、発言してもいいですか」


 まずダンパさんに話しかける。


「ああ、頼むよ」


 ダンパさんの許可が出たので、俺は立ち上がり、皆の方を向く。

 そして、ジャスティスとの修行で得た力をも使って、皆に諭すように語り掛ける。


「みんな、落ち着け!俺にいい考えがある」


 俺の声を聞いて、騒ぎがピタッと止む。


 どうやら成功のようだ。

 今やったのは『地の行』の修業で得た生命エネルギーのコントロールを利用したものだ。

 声に波長を変えた生命エネルギーを乗せて声を話すことで、相手の気持ちを落ち着かせることができるのだ。

 実際に使用するのは初めてだったが、うまく行ってよかったと思う。


 皆が落ち着いたところで、俺は話を始める。


「いいか。ドラゴン70匹は確かに強敵だが、戦いようはある。俺に任せてくれ。そうすれば、お前たちに勝利をプレゼントしてやる」

「戦いようって……どうするんだ」

「それを今から説明する」


 俺はみんなに作戦を説明するのだった。

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