第185話~新生大規模訓練場を見学がてら新人たちに稽古をつける そして、ノースフォートレスの町の危機~

「どうも、こんにちは」

「あ、これはホルスト様。それに副ギルドマスターも……お久しぶりです!」


 ノースフォートレスの冒険者ギルドに着いた俺たちは、すぐさま2階にある受付へ挨拶に行った。

 顔を知っている受付の女の子に声をかけると、女の子は元気いっぱいに対応してくれた。


「やっと、こちらへ帰ってこられたんですね」

「うん。そうなんだ」

「それでしばらくはこちらにいるんですか?」

「本当なら、すぐにでも北のエルフの国へ行きたいところなんだけど、あそこって冬は雪に閉ざされて行くのは危険じゃないか。だから、しばらくはこちらで活動しようと思っている」

「そうなんですね。あ、そう言えば、ギルドマスターがホルストさんたちに会いたがってましたね。お会いになられますか?」

「ああ、お願いする」


 というか、それが一番の来訪目的なので、むしろこちらから頼むつもりだったので、向こうから言ってくれて好都合だった。


「それじゃあ、連絡しますね」

「ちょっと、待ちなよ」


 ギルドマスターの所へ行こうとする女の子にリネットが待ったをかける。


「実はね。王都のお土産のお菓子があるんだ。ギルドのみんなで食べてよ」


 そう言って、王都土産のお菓子を3箱ほど渡すと、女の子の顔がパッと明るくなる。


「ありがとうございます。皆でおいしくいただきます」

「うん。そうしてね」

「はい、それじゃあギルドマスターの所へ行ってきます」


 お土産を受け取った女の子は、それを他の職員の子たちに渡すと、ギルドマスターに連絡しに行くのだった。


★★★


「ホルスト殿、久しぶりだね」

「お久しぶりです。ダンパさん」


 応接室に案内された俺たちは、久しぶりにギルドマスターのダンパさんと会った。

 久しぶりに会ったダンパさんは依然とあまり変わっていないように見受けられた。

 まあ、半年やそこらで、人間がそんなに変わるとも思えないのでこんなものだと思う。


「ところで、ホルスト殿。王都ではご活躍だったらしいね」


 ここで、ダンパさんが話題を変えてきた。

 さすがギルドマスター。情報が早い。


「あれ、もうこちらの方にも情報が流れてきましたか」

「うん。剣聖と一騎打ちして剣聖を破ったとか、王都に突如現れた強大なヴァンパイアを退治したとか。色々聞いているよ。すごいじゃないか。君たちは、本当ノースフォートレス冒険者ギルドの誇りだよ」


 そうダンパさんに手放しで褒められて、俺はちょっとむず痒い気がした。

 さすがに褒められすぎだと思った。


「いや、いや。たまたまです。運が良かっただけです」


 だから、照れ隠しにそう言ってみたら、ダンパさんがさらに褒めてくれた。


「そんなことはないよ。剣聖なんて、普通の人が逆立ちしても勝てる相手ではないし、建物を一撃で破壊するようなヴァンパイアの相手なんか並の人間にはできっこないよ」

「そうですかね」

「だからね。君たちの活躍のおかげで、所属しているうちのギルドにもギルド本部から報奨金が出たんだ」

「ほう、けち臭いと評判のギルド本部からですか。それはすごいですね」


 本当にそれはすごい話だった。

 ギルド本部と言えば、お偉方のじいさんたちのために各地の支部から上納金をせしめるだけで、大したことはしてくれないというのが、大半の冒険者の共通した認識だったからだ。


「それでね。そのお金を使って、前に君たちが教官をしてくれていたギルドの訓練場があるだろう?あそこの施設の改修工事を行ったんだよ。どうだい?時間があるようだったら、今から一緒に見に行かないか?」


 え?あそこ改修したの?というか、ギルド本部そんなにお金くれたの?

 けち臭いギルド本部にしては珍しいなと思い、俺は興味が沸いた。


 俺は嫁さんたちの顔を見る。

 うん、これは行きたそうな顔をしているな。

 嫁さんたちの顔を見ると、そんな風な顔をしているように見えた。


 まあ、今日ギルドには顔見せに来ただけだから、訓練所に行かなければ家に帰るだけの話だから、どこかへ行きたいという気持ちが強いのだと思う。


「わかりました。行きましょう」


 こうして、俺たちは急遽ギルドの訓練所に見学に行くことになった。


★★★


「見てくれ。新しくなった大規模訓練場を!」


 俺たちをギルドの訓練場に案内してくれたダンパさんが張り切っていた。

 ダンパさんがまず案内してくれたのは室内訓練場だ。


「実は、訓練生の中には夜まで自主練する熱心な子もいてね。ただ、その場合屋外で訓練すると、うるさいと近所から苦情が来ていたんだ」

「それで、屋内に作ったんですか」

「ああ、それに屋内なら外が悪天候で使えなくても、簡単な訓練ならできるでしょ。だから、ずっとほしいと思っていたんだ」


 ダンパさんの話を聞いてなるほどなと思いつつ、俺は室内練習場を眺める。


 室内訓練場は立派なものだった。

 壁は石造りの頑丈なもので、床も固い木でフローリングされている。

 これなら生きのいい訓練生が多少動き回ったところで、十分耐えられるだろう。


 また、壁の一部には大きな鏡が設置されていて、訓練生が自分の動きを確認できるようにしてあったりもしていた。

 俺は、これもいいなと思った。自分の動作の確認は重要な訓練だからな。

 こうやって、自分の動きを確認しながら訓練できるのはよいことだと思う。


「後はね、寮を新設して、食堂を拡大したんだ」


 室内練習場を見た後、ダンパさんは寮と食堂を見せてくれた。


「最近、新人訓練の評価がまた上がってね。王国中のギルドから問い合わせがひっきりなしに来るようになってね。それで、遠くの方のギルドの子だと、寝るところの確保とかも難しいだろ?だから、遠くからくる子のために寮を新設したんだ」

「そうなんですね」


 ダンパさんの説明に相槌をいれつつ、俺は寮を見せてもらう。

 寮は二段ベッドが2つ置かれた4人部屋になっていた。

 ベッドの他には小さなテーブルが1つあるだけの簡素な部屋だが、訓練の傍ら寝泊まりするだけなら十分な設備であった。


「うわー、広くなりましたね」


 次に案内されたのは食堂だ。ヴィクトリアが目を輝かしている。


「うん、何せ新人研修に参加する人が増えたからね。だから、食堂を大きくして一度に大勢の人がご飯を食べられるようにしたんだ」


 ダンパさんがそう説明してくれた。


「そうですね。大きくなりましたね。何かメニューも増えているみたいですし」


 ただ、ヴィクトリアはそう言いつつもダンパさんの説明そっちのけでメニューの方をきょろきょろと見ていた。


「うわー。猪のシチュー定食ですか。これおいしそうですね。食べてみたいです」


 それで気になるメニューを見つけると、俺の方をチラチラ見てくる。


 おい、止めろ!

 いくら知り合いだからと言って、人前でそんなことをするな。恥ずかしいだろうが。

 大体お前、リネットの所でたらふく食ってたじゃねえか!

 まだ食う気かよ!

 俺は呆れたが、よそ様の前で催促の視線を向けられたらたまらない。


 俺はダンパさんにこう提案する。


「結構歩きましたし、そろそろ一休みしませんか?俺がおごらしてもらいますので」

「いや、ホルスト殿。お客人におごらすなどもってのほか。ここは私がおごりましょう」

「いや、いや。ここは俺が」

「いや、いや。ここは私が」


 そう俺とダンパさんの間でしばらく駆け引きがあった後、結局俺が押し負けて、おごってもらうことになった。


「うん、猪のシチュー定食。おいしいです」


 それで、俺たちが飲み物を飲みながらダンパさんと談笑する傍らで、ヴィクトリアは一人定食を食すのであった。

 何だかな。


★★★


 食堂で一休みした後は、新人たちの訓練の様子を見に行った。


「お、やっているな」


 外の訓練場では新人たちが教官にしごかれていた。


「おい、いつまで寝ているつもりだ。一歩外に出たら魔物は待ってくれないんだぞ。さっさと起き上がって、訓練に復帰しろ!」

「はい」


 ここの訓練は厳しいが、きちんと卒業すればいっぱしの冒険者になれる。

 そう評判になっているそうだ。


 まあ、俺たちのパーティーでそうなるように仕組みや訓練方法を考案して、教官たちも育てたからな。

 俺たちがそこまでかかわった以上、一人でも多く新人の子には活躍してほしいと思う。

 今の所、それができているようで何よりだ。

 俺たちも頑張った甲斐があるというものだ。


 それはともかく。


「ホルスト殿が見学に来てくれたよ」


 ダンパさんが教官にそう声をかけると、訓練がいったん中断されて、教官と生徒たちが集まってきた。


「お前らに紹介しておく。こちらが王国最強の冒険者チームとして名高い『竜を超えるもの』のパーティーだ。で、こっちがリーダーのホルストさんだ。この訓練場の創設にも尽力してくださった方だ。俺もこの人に鍛えられていっぱしの教官としてやれている。この人がいなかったら、今この訓練場はここまでになっていなかっただろう。いわば、お前たちの恩人でもある。挨拶しろ!」

「ホルストさん、こんにちは」


 教官に言われて生徒たちが一斉に挨拶してくれた。

 王国最強だとか、変な紹介の仕方をされてちょっとこそばゆい気がしたが、生徒たちが挨拶してくれた以上、こちらも挨拶しないわけにはいなかった。


「今紹介に与ったホルストだ。よろしく頼む」


 そんな型通りの挨拶をした後は、質問コーナーが開催された。

 屋内で修業をしているはずの魔法使い組の子たちまでが集まって来て、色々と質問してきた。


「ホルスト先生、強くなるために一番大事なことは何ですか」

「俺が大事にしているのは基礎訓練だな。雨の日も風の日も、武術と魔法の基礎訓練は欠かしたことはないぞ」

「エリカ先生、魔力の集中が今一つうまくできなくて、魔法の威力が上がりません。何かコツはないでしょうか」

「魔力の集中で一番大事なのは、イメージですよ。全身の力を抜いて、魔力を集中するイメージトレーニングをするのがいいと思いますよ」


 そんな風に新人たちからの質問に答えているうちに、俺は気分が乗ってきた。

 だから、教官にこんなことを提案してみた。


「折角だし、生徒たちの相手をしてみましょうか」


★★★


 ということで、急遽、生徒たちと模擬戦闘訓練をすることになった。

 木剣を一本だけ持ち、前衛職志願の生徒たち全員の前に立つ。


「さあ、かかって来い」

「失礼ですが、先生が一人だけで全員の相手をするのですか」

「そうだが。何か問題でも?」

「いや、さすがに先生一人で150人を相手とか」

「そんな心配は不要だ。かかって来い!」


 ということで、俺と生徒たちの模擬戦闘が始まった。


「うわー」


 生徒たちが一斉に俺に向かってくる。

 うん。中々いい動きだ。連携も悪くなさそうだし。

 まあ、この分ならそれなりに強い魔物とも戦えるだろうと俺は判断した。


 だが、世の中にはより強いものがいる。

 俺もこの前ジャスティスと戦ってそれを思い知ったばかりだ。

 そして、それ以来より高みを目指して精進している。

 ここの生徒たちにもそうなってほしい。


 だから、俺はけがをしない程度の叩きのめして、新人の子たちに向上心を持ってもらおうと思った。


「行くぞ!」


 俺は剣を構えた。


★★★


 5分後。


「はー、はー」


 150人いた生徒たちが全員地面の上に寝転がっていた。

 とはいっても、手加減はしていたので、大したけがはしていないはずだ。

 せいぜい軽い打ち身程度のはずだ。


「ヴィクトリア」

「ラジャーです。『範囲小治癒』」


 俺に言われてヴィクトリアが生徒たちに治癒魔法をかけると、ようやく生徒たちが起き上がり、再び、俺の前に整列する。そんな生徒たちに俺は訓示してやる。


「お前ら、中々いい動きだったぞ。この調子でやって行けば、いっぱしの冒険者になれること間違いなしだぞ。ただ、世の中、いくらでも上には上がいる。それを忘れずにこれからもより上を目指して頑張って行ってほしい」

「はい」


 これで、俺たちの訓練場見学は終わりだ。


「ホルスト殿、新人とはいえ150人を圧倒するとか。さすがですな」


 そうダンパさんに褒められながら、訓練場を後にしようとした。

 その時。


「ギルドマスター、大変です」


 ギルドの職員さんが一人訓練場へ駈け込んで来た。

 ダンパさんがその職員さんに慌てて声をかける。


「どうしたんだい?」

「それが、王国の北方の方にドラゴンの軍団が現れて、このノースフォートレスの町へ進軍中とのことです」


 ドラゴン軍団襲来!


 また厄介な仕事が舞い込んできたな。

 俺はそう思うのだった。

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