第180話~ジャスティス天界へ帰る そして、帰る際に妹からプレゼントをもらい大喜びする~

 結局、妹のアホはその友達と一緒に元居た修道院に送り返されることになった。


「お兄ちゃん、助けて!もう修道院生活は嫌なの!」


 何かそんなことを言ってきたが、俺は無視して、逆にこう言ってやった。


「うるせえ!お前が無罪放免になるように俺がどれだけ頭を下げたか、お前はわかっているのか?本当に碌でもないことしかしない奴め。修道院にはお前の処遇を厳しくするように頼んでおくから、今度こそちゃんとまともになって帰ってくるんだぞ。言っておくが、次また逃げ出したら、今度は家から追い出すからな」

「そんな、ひどい!」

「ひどくねえよ。これでも最大限に譲歩してやっているんだぞ。おとなしく修道院に行かないのなら、本当に当座の生活費だけ与えて家から追い出すからな。そうすれば、今すぐに自由の身になれるぞ。自分一人で生きていけるというのなら、それでもいいぞ」


 目の前のアホ妹にそんな気概や能力がないのを見越してそう言ってやると、レイラが俺のことを睨んできた。

 その後もしばらく睨み続けてきたが、やがてあきらめた顔になると、自分の境遇を受け入れることにしたようだ。


「わかったわよ。おとなしく修道院に戻ればいいんでしょ」

「そうだ。わかったんならさっさと行け!」


 と、このようなやり取りの後、俺は妹を修道院送りにしたのであった。


★★★


「そろそろ私は天界に帰ろうかと思っている」


 ある日、ジャスティスがそんなことを言い始めた。


「まあ、お兄様。やっと天界に帰る気になったのですか」


 話を聞いたヴィクトリアが驚いた、いや、驚いたようにも見えるちょっとうれしそうな顔になった。


 ジャスティスがいるせいで俺との関係が進まない。

 そうヴィクトリアがエリカやリネットにこぼしているのを俺は知っていた。

 はっきり言って、ヴィクトリアはジャスティスを邪魔者扱いしていた。


 それでも、一応兄のことを気遣う気は残っているようで。


「お兄様、それは残念です。ワタクシ、お兄様がいなくなると寂しいです」


 そう心にもないことを笑顔で言って、ジャスティスを喜ばせていた。

 本当、女の子って怖いなと思う。


 なお、ジャスティスの奴はヴィクトリアの発言を真に受けたようで。


「そうか、妹よ。お前も寂しく思ってくれているのか。だが、お兄ちゃんは天界でやることがあるのだ。だから、いつまでも下界にいられないのだ。わかってくれ」


 妹に完全に騙されているとも気付かず、能天気なことをほざいていた。

 本当、頭の中身まで筋肉なやつである。


 と、ここで側にいたエリカがこんな提案をしてきた。


「ヴィクトリアさん。お兄さんが帰られるということでしたら、送別会でも開いてあげたらどうですか」

「送別会?ですか」

「まあ、旦那様やリネットさんもいろいろ御教示してもらいましたし、何か月も一緒にいたのですから、そのくらいしてあげましょう」

「それにはアタシも賛成だね。色々お世話になったし、最後くらいはお礼の意味もかねて、ぱっとやろうよ」


 どうやらリネットも賛成なようだ。


 これには俺もリネットと同意見だ。

 色々と迷惑をかけられもしたが、修行してくれたおかげで戦闘能力は確かに上がったからな。

 その点は俺も感謝すべきだと思っている。


「しょうがないですね」


 俺たちの発言を聞き、ヴィクトリアも渋々送別会を開くことを認めたようだ。


「ということで、お兄様。送別会を開いてあげますので、せいぜい喜んでください」

「本当か、妹よ。私は今猛烈に感動しているぞ」


 何か知らんが送別会を開いてくれると聞いたジャスティスは、ヴィクトリアに飛びついて行った。


「いい加減にしろ!このバカ兄貴!」


 だが、ヴィクトリアに手をたたかれて振り払われると、しょぼんとしていた。

 それを見て、俺は本当に面白い兄妹だと思った。


★★★


 それから5日後。


 エリカの実家の王都屋敷でジャスティスの送別会が開かれた。

 この送別会の費用は俺が出した。


「うちで開くんだから、費用なんか気にしなくていいんだよ」


 そうエリカのお父さんが言ってくれたが、ジャスティスに世話になったのは俺たちだし、ジャスティスは俺の嫁の兄ちゃんだ。その送別会の費用をエリカのお父さんに出してもらうのは筋が違うと思う。


 だから、俺が費用を出した。

 送別会の食事の材料費は全額負担したし、送別会に協力してくれた屋敷の使用人たちには俺から特別賞与を出しておいた。


「さあ、お兄様。今日はお兄様のためにみんなが送別会を開いてくれているのですから、最初に挨拶してくださいね」

「うむ」


 送別会はまずジャスティスの挨拶から始まった。


「本日は、私ディケオスィニのためにこのように盛大な送別会を開いていただき、誠にありがとうございます」


 ジャスティスはそう皆の前であいさつをした。


 まあ、及第点な挨拶だと思う。

 ジャスティスの奴も中身がシスコンでどうしようもないことを除けば、優秀な神だからな。

 この程度の挨拶、余裕でこなせるはずだった。


 挨拶が終わった後は、楽しいパーティータイムの始まりだ。


「お兄ちゃん、帰っちゃうの?」

「ああ、ホル坊、お兄ちゃんは仕事があるから帰らなくてはいけないんだよ」


 何かホルスターがジャスティスに対してそんなことを言っていた。

 その表情はとても寂しそうだった。


 というのも、屋敷にいる間、ホルスターはよくジャスティスに相手をしてもらっていたらしい。


「ホル坊。そこはもうちょっと、腕を伸ばしなさい」

「はい」


 しかもジャスティスの奴、ホルスターに武術というか基礎の運動訓練を教えていてくれたらしい。

 武神に教えてもらって、ホルスターは成長著しかった。

 おかげで、いつのまにか息子が丈夫になっていて、同年代の子よりも格段に運動能力が高くなっていた。


 親としてはありがたい話だが、将来ホルスターには俺が武術を教えようと思っていたのに、その楽しみを奪われたような気がして、ちょっとだけ悔しかった。


 それはともかく、パーティーは順調だ。


「銀ちゃん、今日は遠慮なく食べましょう」

「はい、ヴィクトリア様」


 ヴィクトリアの奴は相変わらず銀を連れて食い物を食いまくっていた。

 立食形式にしていたので、二人の皿の上には常に食べ物が満載の状態だった。

 それを主従揃っておいしそうに食べていた。


 うん、とてもいい笑顔だ。

 今日は身内だけのパーティーだ。

 俺は何も言わないから、好きなだけ食え。


「エリカ殿の父上と母上殿。お世話になりました」

「「いえ、いえ。こちらこそ色々お世話になりました」」


 一方、ジャスティスはホルスターの後もお世話になった人たちに挨拶して回っていた。

 そして、一通り挨拶し終えると。


「さて、私も食事を楽しむとしようか」


 そう言いながら、食事を食べ始めた。

 こいつもヴィクトリアに負けず劣らず、大食らいだ。


「おお、このハムはうまいではないか」


 そうやって食い物を褒めつつ、自分のさらにたくさんの食べ物を乗せてはバクバク食うのであった。

 本当、兄妹揃ってよく食うものだと思う。

 まあ、この送別会はジャスティスのために開いたものなので、いくら食べてくれても構わないけどな。


 そうやって、無事に送別会は進んでいき、頃合いになったので、次のイベントをすることにした。


★★★


「なに?私にこれをくれるというのか」


 宴もたけなわになったころ、ジャスティスへのプレゼント贈呈式が開かれた。


「お兄さんには世話になったので、俺たちから心ばかりの物を贈らせてもらいます」


 そう言いながら、一番お世話になった俺とリネットが、それぞれプレゼントと花束を渡した。

 ちなみにプレゼントはワインにした。

 下手な物を贈るより、酒でもあげた方が喜ぶ。

 そうヴィクトリアが言っていたからだ。


「これはありがたい。大切に飲ませてもらおう」


 酒をもらったジャスティスは嬉しそうにそう言った。


「お兄様、ワタクシからもプレゼントを差し上げます」


 俺とリネットのプレゼント贈呈が終わった後は、ヴィクトリアがプレゼントを渡した。


「何?ヴィクトリアも私にプレゼントをくれるのか」

「はい。ワタクシの手作りの品です。せいぜいありがたがってください」

「うん。ありがたく使わせてもらう」


 早速、ジャスティスがヴィくtリアのプレゼントを開ける。


「これは、マフラーか?着てみてもいいか?」

「どうぞ」


 ジャスティスがヴィクトリアにもらったマフラーを身に着ける。


「うん、ちょっと短いようだが……」

「お兄様に合うサイズが分からなかったので、大きさ適当に作ったのでちょっと小さかったですね。お気に召しませんか?」

「いや、別に構わない。お前が私のために作ってくれたものだから、大事にするよ。ありがとう」


 ヴィクトリアの心のこもった手作りの品をもらえたとジャスティスが喜んでいる。


 だが、実はヴィクトリアにはジャスティスのためにマフラーを積極的に作る気はなく、「お兄様に何かプレゼントを上げたらどうですか」とエリカに言われて、渋々マフラーを編んだのを俺は知っている。


 まあ、それでもヴィクトリアが作ったものに違いないので、真実は話さないで、喜ばせておけばいいと思う。


 さて、プレゼントの贈呈が終わった後もしばらくパーティーは続き、終わるころにはすっかりいい時刻になっていた。


★★★


 翌日。


「それでは、これで失礼する」


 ジャスティスが屋敷から出て行った。


「お兄様、お元気で」

「「「「「お元気で」」」」」

「うむ、皆も達者でな」


 短い挨拶を交わし、皆と最後の握手をした後、ジャスティスは屋敷を離れ、町の雑踏の中に消えて行った。

 どこか適当な所で、天界に転移するつもりらしかった。


「しかし、お前の兄ちゃん、お前に似て賑やかだったな」


 ジャスティスがいなくなった後、そうやってヴィクトリアをからかうと、ヴィクトリアがプクッと頬を膨らませる。


「そうでしょうか?ワタクシは頭の中は筋肉ではないですよ」


 どうやら兄貴と同列に扱われるのは嫌なようだった。


 まあ、いい。

 ジャスティスも去ったことだし、俺たちも次の目的に向かって頑張るとしよう。

 俺はそう誓うのだった。

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