第173話~再戦ゾンネ&決闘剣聖~

 とうとうジャスティスたちと戦う日がやって来た。


 ということで、俺は朝から準備していた。

 朝早く起きると、朝食の前に日課の素振りをする。


「は、は」


 ジャスティスに教わった『人の行』と『地の行』を思い返しながら、念入りに素振りする。

 こういう時はああして、ああの時はこうして。

 その後は、瞑想をして、イメージトレーニングを繰り返す。

 こうやってとっさの場合に適切な行動がとれるようにするのだ。


「最後は……」


 最後にやるのは『天の行』だ。これで、『神属性魔法』そのうちでも肉体を強化する『神強化』の技術を向上させる修行をする。

 というか、ジャスティスが教えてくれたのはそこの部分だからな。

 だから、そこの練習をする。


「ホルストさん、ご飯できましたよ」


 それらの修練が一通り終わったころ、ヴィクトリアがご飯に誘いに来た。


「ああ、行くよ」


 俺はヴィクトリアに手を引かれて朝飯を食べに行った。


「おお、ごちそうだな」


 この日は朝から豪華な食事だった。


「「「今日は私たちだけで、旦那様のために腕によりをかけて作りました」」」


 しかも、エリカの実家の王都屋敷にいる間は屋敷のメイドさんと共同で作っていたのを、今日は俺のために自分たちだけで作ったらしい。


 奥さんたちが俺を応援してくれている。

 俺は正直嬉しかった。


「いただきます」


 早速食べる。

 うん、おいしい。

 バクバク食った。


 ただ、少々気になったのは……。


「うむ、この卵焼きはビクトリアが作ったのか。おいしいではないか」


 何か知らんが、ジャスティスの奴まで遠慮せずにバクバク食っていることだ。

 こいつも、ヴィクトリアに負けず劣らず大食らいなのだ。


「お兄様。それはホルストさんのために作ったのですから、少し遠慮してください」

「まあ、けちくさいことを言わなくてもいいではないか」


 ヴィクトリアに注意されても、どこ吹く風で、遠慮なく食い続けるのだった。

 こうして、朝食は賑やかな感じで進み、いざ、決戦となるのだった。


★★★


「ほう。たくさんの人がいるな」


 決闘会場の闘技場へ行くと、たくさんの見物人が来ていた。


 まあ、当然だった。

 今日、闘技場は剣聖たちが借りていて、無料で見物できるようにしている。

 ということで、武術大会の前回優勝者と今回優勝者の試合をただで見られると知った武術愛好家たちが集まってきたのだった。


 見物されるのは俺は別に構わないので、気にはならなかったが。


 さて、それはともかく。


「それでは、ホルスト殿。始めるとしようか」

「ああ、始めようか」


 俺もゾンネも、正式な大会でもないのに、観客への挨拶とか面倒くさいことをするのは嫌いなので、早速試合を開始することにする。


★★★


「始め!」


 審判の合図で試合が開始される。


 試合のルールは簡単だ。

 場外に出たら負け。

 戦闘不能になったら負け。

 降参したら負け。

 以上である。


 後、俺の勝手な縛りだが『神強化』は使用しない。

 あれを使って身体能力を強化すれば、ゾンネや、多分剣聖も、簡単に倒せてしまうからだ。

 何せ『神強化』は邪神の眷属である4魔獣にも通じるのだ。

 人間同士の決闘に持ち込むのは、いささか野暮というものだ。


「はああああ」


 まず、ゾンネの方から迫ってくる。

 ビュッ。

 するどい突きが俺に迫る。


 それを俺はジャスティスに教わった『人の行』の動きを使って、最小限の動きで軽く受け流していく。

 ビュッ。ビュッ。

 その後も何度もゾンネは突きを入れてきたが、結果は変わらない。


 ゾンネの攻撃は確かに素晴らしいものだったが、よく見ると無駄な動きが多い。

 つまり隙だらけということだ。これでは俺を崩すことはできない。


「やるではないか」


 自分の攻撃が通じないと感じたのか、ゾンネが攻撃のパターンを変えてくる。


「フェイントか!」


 攻撃にフェイントを混ぜてきたりする。


 だが、これも俺には通じない。

 フェイントというのは左から攻撃するように見せかけて右から攻撃するような攻撃だ。

 以前の戦いでもゾンネは使っていたが、今のフェイントはその時よりも確実に性能が上がている。

 目とか気配”だけ”で動きを追っている剣士ならだますことができるだろう。。


 しかし、今の俺は『地の行』を習得している。

 それを使って探れば、フェイントか本気の攻撃か丸わかりなのだ。

 人間、攻撃する時には無意識に生命エネルギーが変化するのだが、それを探るだけでフェイントかどうかわかってしまうから。


「ふん」


 俺はフェイントを完全にスルーして、本気の攻撃のみに的確に対処していく。


「?」


 ゾンネが怪訝そうな顔をする。

 当然だ。自分のフェイントが完全に見破られているのだから。


「ならば」


 ゾンネが手を変えてくる。


「『暗器殺改 蛇行剣』」


 必殺技を使ってくる。


 以前、ゾンネは王国武術大会で『暗器殺』という技を使ってきた。

 『忍び足』という気配を断つ技の応用技で、気配を消して相手の死角から攻撃してくる技だ。

 今回のはあれの改良版ということらしい。


「なるほど、いい攻撃だ」


 確かにこの技は元の技より優れている。

 技の軌道が蛇のように蛇行して捉えづらくなっているし、一撃の威力もスピードも元の技の比ではない。

 前回の時は、俺も『知覚拡大』の技を使って防げたが、この改良された技に対してはそれだけでは防ぎきれなかったと思う。


「だが……」


 『知覚感知』と『地の行』で得た生命エネルギー感知を組み合わせれば別だ。


「複数のセンサーを使えれば、感知の精度はよくなる」


 修行中ジャスティスの奴がそんなことを言っていたが、まさにその通りだった。


「なに?!」


 ゾンネが驚愕の表情になる。

 当然だ。

 自分の改良したはずの技が前回の時よりもより完全に防がれて、全然当たらないのだから。


「こなくそ」


 それでもゾンネは何とかしようと技の速度や威力を上げ、技の軌道まで複雑にしてくるが結果は変わらない。

 逆に技の強度を上げたことで隙が多くなった。


「そこだ!」


 もちろん俺がそれを見逃すはずもなく。

 カラン。

 ゾンネの腕を強打し、その手から剣が零れ落ちる。

 たちまちゾンネ楽音の表情を浮かべ、膝まずく。


 そこへ俺はすかさず剣を突きつけこう言う。


「まだやるか?」


「いや、参った。拙者の負けでござる」


 さすがは剣聖の弟子。

 こうなった以上は素直に負けを認めた。


「勝者、ホルスト!」


 それを見て審判が俺の勝利を宣言する。


「ワー、ワー」


 たちまち場内が歓声に包まれる。

 それに対して、俺は礼儀だと思い、一応手を振ってやる。


 だが、心は落ち着かない。まだ2戦も残っているからな。


★★★


 さて、次は剣聖との対決だ。

 と、ここで剣聖がジャスティスの奴に挨拶したいというので面談することになった。


「貴殿がホルスト殿の師ですかな。私は剣聖ハンニバルと申す。以後、お見知りおきを」

「うむ、私がホルスト剣術を教えているジャ……ディケオスィニというものだ。よろしく頼む」

「ディケオスィニ殿ですか。ご立派な名前ですな。ところで、ディケオスィニ殿。貴殿とはどこかで会ったような気がするのだが、お会いしたことがありましたかな?」


 どうやらジャスティスに既視感を覚えたらしい剣聖がそんなことを尋ねた。

 まあ、既視感を覚えるのも無理はない。

 何せどこの道場にもジャスティスの神像が飾られているからな。

 見た気がするのも当然だった。


「いや、会うのは初めてだと思うぞ」

「左様か。まあ、いいでしょう。ホルスト殿。待たせたな。さあ、試合を始めるとするか」


「試合開始!」


 俺と剣聖の試合が始まった。


「初手から本気で行かせてもらう。行くぞ!『空間斬』」


 自分の弟子との試合を見ていて俺を油断ならない技だと感じたのだろう。

 剣聖は初手から技を繰り出してきた。


 『空間斬』

 多分、名前からしてリネットの技『空間団』と同じく真空の刃を飛ばしてくる類の技だと思う。

 実際、周囲の人間には剣聖が単に何もないところで剣を振ったようにしか見えていないだろうし。

 普通の人間ならば、訳が分からずそのまま技を食らうだろうが、『地の行』を会得した俺には通じない。


「はっ」


 技に含まれるかすかな生命エネルギーを感知して、最小限の動きで俺を避ける。

 俺に命中しなかった『空間斬』は、地面に命中し、小さなクレーターを作り出す。

 それを見て、俺は避けて正解だったと思った。


 それら俺の一連の動きを見て、剣聖が不敵に笑う。


「初見でこれを避けるとは……やるではないか」

「まあ、似たような技なら見たことありますしね」

「なるほど。なら次は直接攻撃と行こうか。『一刀両断』」


 そう言うと、剣聖は俺の懐に一気に飛び込んできて大上段からの一撃を加えてくる。


 『一刀両断』

 名前からして、一撃必殺の一撃を繰り出す技のようだ。

 実際、剣を振り下ろそうとする剣聖からはすさまじい圧迫感を感じる。


 これも俺は避けようかなと思ったが、あえて受けることにした。


「相手が最大の攻撃を放ってきた時こそが、こちらも最大の逆襲のチャンスだ」


 ジャスティスがそう言っていたのを思い出したからだ。


「ふん」


 俺は試合用の剣に『地の行』の修業でやったように生命エネルギーを集中させる。

 そして、剣を中段に構えて剣聖の攻撃を待つ。

 そこへ剣聖の攻撃が迫る。


 さて、うまく行くかどうか。

 俺は賭けに出るのだった。

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