第97話~武術大会予選②

 予選は全16ブロックで行われる。


 それぞれのブロックの上位1名だけが本選へ進めるのだ。

 つまり、本選に進めるのは16名だけということだ。

 予選の段階で結構厳しい選抜が行われているわけだが、それがルールなのだからやるしかない。


「それではまたあとで」

「ああ、お互いに頑張ろう」


 そう言ってリネットと別れた俺は自分のブロックへ向かった。

 俺の番号は755番。

 第7ブロックだ。


「よし、行くぞ!」


 俺はパンと一発手をたたき、気合を入れる。

 そして、第7ブロックへ向かって歩き始める。


★★★


「716番と724番前へ」


 トーナメント表に従い、審判に呼ばれた716番の選手と724番の選手が前へ出る。

 ここでいうトーナメント表とは第7ブロックにおけるトーナメント表である。

 第7ブロックに集まった選手たちの間でさらに抽選が行われ、トーナメントの枠が決定されたのだった。


 もちろん、俺も引いた。

 俺の枠はトーナメント表の端のほうだった。

 まあ、枠がどこだろうと大した問題ではない。

 どのみち対戦相手を全員倒さないと、本選へは進めないのだから。


「始め!」


 審判の掛け声で戦いが開始される。

 716番は筋骨隆々の斧を構えた戦士、724番は中肉中背のロングソードを構えた戦士だった。


「うおおおお」


 まず、716番の選手が斧を大上段に振りかぶって、724番の選手に襲い掛かっていく。


「なんの」


 724番の選手はそれをさっと避けると、ロングソードを横に振って、716番を攻撃する。


「その程度か!」


 しかし、716番はそれを盾で受け止め、斧でもう一撃繰り出す。


「ぐっ」


 今度は攻撃が724番に命中する。

 攻撃を受けた724番は、2,3メートル後ろに後退する。


 だが。


「まだまだー!」


 724番の選手は戦意を失うことなく反撃するのだった。

 このように、各ブロックではこうした白熱した戦いが繰り返されているのだが。

 目の前の716番と724番の戦いを見て、俺は思ってしまった。


 こんなものなのか。


 別に俺は目の前の716番と724番の戦いを侮辱するつもりはない。

 彼らは死力を尽くして戦っているはずだ。

 一介の戦士として、それを否定する気は毛頭ない。


 ただ、戦いのレベルは高くない。

 スピードは遅いし、一撃の威力も高くない。

 先ほどの716番が大上段から放った一撃だって、本人は渾身の一撃のつもりなのだろうが、リネットなら半分の力も出さずに出せる一撃だ。

 正直、このレベルで武術大会に出てくるのかと思ったくらいだ。


「うおおおお」


 俺がそんなことを考えているうちに勝負がついた。

 どうやら、初撃を与えて有利に立った716番が勝ったみたいだった。

 まだ、予選は始まったばかりだ。


★★★


「755番、前へ」


 ようやく俺の番が来た。

 審判に促され、前へ進み出る。


「760番、前へ」


 俺の対戦相手は760番の選手だった。

 少し細身の素早そうな剣士だった。


 相対したところでお互いに剣を構える。

 お互いに戦闘準備が完了したのを確認した審判が頷く。


「始め!」


 そして、開始の掛け声がかかる。


 武術大会の勝敗の基準はこうなっている。

 決められたエリアから出たら負け。

 敗北を認めたら負け。

 気絶したら負け。

 審判が試合続行不能と判断したら負け。

 以上4点である。


 後、魔法とマジックアイテムは禁止だ。

 使用武器も限られている。


 要は純粋に武術の腕を競う大会なのだ。


 試合が始まって最初に動いたのは相手の760番の選手だった。


「はああ」


 剣を青眼に構え、一直線に俺は向かってくる。

 普通なら悪くない攻撃なのかもしれないが、俺からは遅く緩慢な動きに見える。

 一瞬俺を油断させて誘う動きかとも思ったが、相手の真剣な顔を見る限りそういう感じでもない。


「やあ」


 俺に十分近づいたと思ったのか、斬りつけてくる。

 俺はそれを最小限の動きでかわすと、逆に相手の剣めがけて一撃を入れてやる。


 カラン。

 760番の剣が吹き飛ぶ。

 俺に剣を叩き落された760番が信じられないという顔をする。


 そんな760番に俺は言ってやる。


「早く、拾えよ」

「くそっ!」


 それを聞いた760番は顔を真っ赤にして剣を拾うと、再び俺に向かってくる。


「おのれ」


 先ほどよりは鋭い動きで切りつけてくるが、結果は変わらない。

 カラン。

 再び760番の剣が吹き飛ぶ。

 今度は760番の顔に剣を突きつけながら言う。


「まだやるつもりか」

「ま、まいった」


 2度も剣を叩き落されて敵わないと思ったのだろう。

 760番は降伏した。


★★★


 その後も俺は何戦か試合をこなした。

 もちろん、すべて俺の勝利だ。


 さて、次だ。そう思っていたら。


「会場の皆様に申し上げます。本大会は、これより昼食休憩となります。1時間後に再開しますので、しばしお待ちください」


 そうアナウンスが流れた。

 ということで昼食にする。

 会場の床に敷物を敷いて座り、荷物から用意していた昼飯を取り出す。


「今日の昼飯はおにぎりと……なんだこれは」


 昼飯の入った包みを開けると、中からはおにぎりともう一つ何か出てきた。

 ご丁寧に手紙まで添えられている。


 手紙をめくってみるとヴィクトリアからだった。


***


 ホルストさんとリネットさんのために焼きそばパンを作りました。


 肉やお野菜も入っていて栄養も十分でおいしいと思います。


 食べてみてください。



 ヴィクトリア


***


 ほう、焼きそばパンか。それはうまそうだな。

 俺は早速焼きそばパンとやらを食べてみた。


 うん、うまい。

 疲れた体には濃い味がちょうどよい。


 俺は焼きそばパンを無我夢中で食い、次の戦いに備えるのだった。


★★★


 とうとう予選の決勝戦まで来た。

 ここで勝利したほうが本選へ行けるというわけだ。


「755番、716番、前へ」


 決勝の相手は最初に見た716番の筋骨隆々の戦士だった。


「始め!」


 お互いが武器を構えると早速試合開始だ。


「うおりゃああ」


 今度も先に相手が突っ込んでくる。

 斧を上段に振りかぶり向かってくる。


 716番は最初の試合以外にも何試合か見たが、どれも力ずくで勝負を決めに行っていた。

 どうやら脳筋というか、力に自信があるタイプらしい。

 おまけに動きも悪くない。

 普通なら強敵なのだろうが。


 ブン。

 716番が斧を振り下ろして攻撃してきた。

 俺はその攻撃をさっとかわすと、斧を握っていた腕をつかんでやる。


「?」


 716番が顔を真っ赤にする。

 俺が腕をつかんだだけで斧を動かせなくなったからだ。


「こなくそおおお」


 716番が何とか斧を動かそうと力を籠めるが、結果は変わらない。

 完全に俺のほうが膂力という点では勝っていた。


「どうした?お前の自慢の力はその程度か?そんなに斧を動かしたいのなら俺が手伝ってやろう」


 そう言うと、俺は斧ごと716番を力任せに投げ飛ばした。


「ぐあ」


 投げ飛ばされた716番が無様に地面を転がりまわる。


「どうした。戦意がまだ残っているのならかかってこい」

「くそう」


 俺の挑発に怒った716番が斧を構えて突っ込んできた。


 だが、感情的な攻撃で構えも何もあったものではない。

 一言で言ってしまえば隙だらけだ。


 俺はさっと716番の背後に回り込むと、剣で首に一撃当ててやった。


「ぐは」


 それで716番は意識を手放した。


「755番の勝利!」


 審判が俺の勝利を宣言した。これで俺の本選出場が決まった。


★★★


 予選終了後は観客席へ向かった。

 もちろんエリカたちに勝利を報告するためだ。


「お、いたな」


 観客席に行くとエリカたちが談笑していた。

 見ると、すでにリネットもいる。

 笑いながら談笑しているところを見ると、彼女も勝ったのだろうと思う。


「ただいま」

「これは、旦那様。お疲れさまでした。それで、結果はどうでしたか」

「もちろん勝ったよ。リネットは?」

「アタシも勝ったよ」

「そうですか。それはおめでとうございます」

「ありがとう。ホルスト君もおめでとう」

「ありがとう」


 こうしてお互いの健闘を称えあった後はしばらく談笑した。

 そして、家に帰ることになって観客席を立ち、家路についた。


 その帰り道、俺はヴィクトリアに声をかけた。


「ヴィクトリア」

「は、はい」

「焼きそばパン、おいしかったよ。また作ってくれよな」

「はい、喜んで」


 さて、これで予選は終わりだ。

 いよいよ明日から本選だ。

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