閑話休題13~焼きそばパンを作ろう~
焼きそばパンが食べたいです」
ある日、ワタクシはそんなことを叫んでしまいました。
「何事ですか」
急にワタクシが大声をあげたので、ホルスター君をあやしていたエリカさんがびっくりします。
ちなみに今リビングにいるのはこの3人だけです。
ほかの人たちは用事があって出かけています。
「ヴィクトリアさん、どうしたのですか。急に大声をあげて。熱でもあるのですか」
そう言うと、エリカさんはワタクシの額に手を当てて熱がないか確認してきました。
「熱はないみたいですね」
「当然です。ワタクシは健康そのものですもの」
「では、なんで急に大声で叫ぶようなことをしたのですか」
「だから、焼きそばパンが食べたくなったんです」
「焼きそばパン?何ですか、それは」
「パンに焼きそばをはさんだパンですね。とってもおいしいんですよ」
「ああ、サンドイッチの具が焼きそばということですね。わかりました。作ってあげますから、もう急に叫ぶのはやめてください」
「はい、ありがとうございます」
エリカさんは立ち上がると台所へ向かいます。
その間ホルスター君の面倒はワタクシが見ています。
ホルスター君はとても元気な子です。
お母さんのお乳をよく飲み、よく動き回ります。
とはいっても赤ん坊なので、おもちゃのガラガラをふったり手足をばたばたさせる程度ですが。
そして遊び疲れたら、よく寝ます。
寝顔はとてもかわいらしく、まるで天使のようです。
それを見ているとワタクシもこんな子供が欲しいなと思います。
そんなホルスター君の顔をくすぐってやります。
「きゃ、きゃ」
くすぐられたホルスター君はなんか喜んでいます。
「うれしいのか。うれしいのか。もっとやってあげますよ」
そうやってワタクシたちは楽しく遊びました。
そうやってワタクシが遊んでやっているうちにも台所からはソースのいい匂いがしてきます。
これは完成間近みたいです。
「できましたよ」
エリカさんが焼きそばパンを作りました。
ただ、エリカさんの焼きそばパンはワタクシの知っているものと違います。
なんと、食パンに焼きそばをはさんだものだったのです。
当然です。エリカさんは焼きそばパンを知らないのですから。
まあ、とりあえず食べてみます。
焼きそばパンを口に運びます。
ワタクシと同時にエリカさんも口に運びます。
「「うっ」」
そして、二人同時に微妙な顔をします。
「これはソースがパンに染みてベチョベチョで、あまりおいしくないですね。ヴィクトリアさん。本当にこんなのがおいしいんですか」
「うーん、なんというか、これはワタクシの知っている焼きそばパンと大分違いますからね」
「そうなのですか」
「はい。ワタクシの知っている焼きそばパンは、食パンではなくコッペパンに焼きそばをはさんでいます。ソースも、もっと水気のないやつを使っています。それがパンに絶妙に絡んでとてもおいしいのです」
「そうですか。そういうのが本物の焼きそばパンというわけですか。これはやる気が出ますね」
ワタクシの説明を聞いて、エリカさんの闘志に火がついたようだ。
「ヴィクトリアさん、これは是非にも本物の焼きそばパンを作りましょう。一緒にやってくれますよね」
「はい、頑張りましょう」
この日から、ワタクシとエリカさんの焼きそばパン作りが始まりました。
★★★
いよいよ、ワタクシとエリカさんの焼きそばパン作りがスタートしました。
これは二人だけで休日を利用してこっそりやるつもりです。
というのも。
「これを武術大会のお弁当にして、旦那様へのアピール材料にしなさい」
そうエリカさんが勧めてくれたからです。
だから、リネットさんにも内緒でこっそりやります。
さて、それでは開発スタートです。
まずはソースの改良です。
「今までのソースは水分が多すぎますね。普通の焼きそばならこれでいいのですが、パンにはさむと少し水っぽいですね。少し水分を少なくしてドロッとした感じのソースお作りますか」
これが中々難しかったです。
ソースから水分を飛ばし過ぎると、クッキーの生地みたいになったりして使いなくなったりしたからです。
「ようやくできましたね」
良い感じのソースを作るのに1か月ほどかかりました。
ただ。
「これでも少しパン生地に染みこみますね」
それでも、まだパンにソースが浸み込んでベチャベチャします。
どうしようかと思っていると、エリカさんがパン屋さんでいいことを聞いています。
「こういう場合は、パンにあらかじめバターを塗っておくとソースが染み込まないようですよ」
「それはいいアイデアですね」
早速実行します。
「おいしいです」
なるほど、これならベチャベチャしません。
これでソースの件は解決です。
後は、はさむパンがもうちょっと柔らかくておいしい方がいいです。
「そういえば、この前もらったリネットさんのお母さんが作ったというパン。あれ、おいしかったですね。あれならどうでしょうか」
ということで、リネットさんの実家へ行き、お母さんに頼んでパンを分けてもらいました。
もらって帰るなり、パンに焼きそばをはさんでみます。
「うん、素晴らしいです。これこそ、ワタクシの知っている焼きそばパンです」
「本当に。これならヴィクトリアさんがあれほど食べたいと言っていたのもわかりますね」
ワタクシたちは焼きそばパンの完成を祝い、抱き合って喜びました。
★★★
そして、武術大会の予選の日の当日の朝。
ワタクシは朝早くから起きて焼きそばパンを作りました。
これをエリカさんが作ったおにぎりと一緒にホルストさんとリネットさんのお弁当に入れておきます。
ホルストさんの方には手紙も添えておきます。ワタクシの気持ちを少しでも知ってもらいたいから。
ああ、ホルストさんが喜んでくれると、うれしいな。
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