第91話~対決レジェンドドラゴン~
「さて、どうしようか」
レジェンドドラゴンの巣を目の前にして、俺は思案していた。
レジェンドドラゴンのブレスは普通のドラゴンのそれよりもはるかに強力だという。
馬鹿正直にこのまま巣に乗り込んで行っては、狭い巣の中、碌に逃げ道もなく
ブレスに焼かれ、最悪全滅ということになりかねない。
「ということなら、とりあえず引っ張り出すか」
そこで、まずはレジェンドドラゴンを巣から引きずり出すことにする。
どうやって引きずり出そうかと考えていると、いい物を持っていることを思い出した。
「そういえば、モクモク草を持っていたな。ヴィクトリア、モクモク草を出してくれ」
「モクモク草ですか。ラジャーです」
俺の指示でヴィクトリアがモクモク草を収納リングから取り出す。
モクモク草は、名前通り火をつけると大量の煙をモクモクと発生させる草である。
主に巣にこもった獣をあぶりだすときに使われる物だが、魔物の中にも巣にこもる奴はいるので、そういうのをあぶりだすときにも使う。
「よし、これでいいかな?『重力操作』」
巣の前にモクモク草を大量に置いた俺は、魔法で火をつける。
途端に。
「これはすごいな」
モクモク草から大量の煙が噴き出る。
「『天風』」
それを、風の魔法でレジェンドドラゴンの巣へ流し込む。
「さて、仕込みはオーケーだ。後は出てくるのを待つか」
準備を終えた俺たちは、近くの岩に隠れて、レジェンドドラゴンが巣から出てくるのを待つのだった。
★★★
10分後。
ドゴン。ドゴン。
突然レジェンドドラゴンの巣から大きな地響きが起こった。
どうやらうまくいったみたいだな。
そう思いながら見ていると。
「グオオオオ」
洞窟から巨大なドラゴンが姿を現した。
「ごほ、ごほ」
煙に巻かれて苦しかったのだろう。
目から涙を流しながら、ひどく咳込んでいる。
「あれがレジェンドドラゴンで合っているか?」
「立派な翼に立派な角。あれで間違いないと思うよ」
「そうか。なら、早速攻撃開始だ」
「「はい」」
ということで早速攻撃の準備に入る。
「『神強化』」
「『光の加護』」
まず、しっかりとブレスへの対策をする。
敵のブレスは強力だそうだから当然だ。
「えーと、こっちが『筋力強化』でこっちが『敏捷強化』か」
それとリネットについては能力アップ系のポーションを飲む。
能力アップ系のポーションは、文字通り、能力にバフを与えてくれる魔法の宿ったポーションだ。
結構有益なポーションだが、値段が高くて、効果時間もそんなに長くないので、そこまで評判がよくない。
俺たちも普段ならエリカに同じ魔法をかけてもらえるので使わない。
ただ、今回はエリカもいないし、レジェンドドラゴンと戦うに際して少しでも戦力を上げておきたいので使用することにした。
「さて、準備も整ったことだし、始めるか」
俺たちは武器を構えると、レジェンドドラゴンに攻撃を開始した。
★★★
準備が整った俺たちはレジェンドドラゴンに攻撃を開始する。
「咳込んで苦しんでいるところを悪いが、この世は弱肉強食。遠慮なく攻撃させてもらう」
俺は一気にレジェンドドラゴンとの距離を詰める。
ズバ。
レジェンドドラゴンの片翼を根元から切り落とす。
切り落とされた片翼は俺の愛剣クリーガによって吹き飛び、10メートルほど飛んでいき、ピクピクと地面の上で数回はねた後、動かなくなった。
「グギャアアア」
翼を失って怒り狂ったレジェンドドラゴンは、俺を爪で攻撃しようと、腕を振り回してくる。
ブン。ブン。
その勢いはすさまじく、普通に受けたら体が引き裂かれそうなくらいの威力がありそうだった。
だが、所詮目が見えない状況で放たれた苦し紛れの一撃だ。
大振りすぎて、避けるのはそう難しくなかった。
「当たるかよ!」
俺はレジェンドドラゴンの攻撃をさっと避けるとl逆に一撃入れてやった。
スパッ。今度はレジェンドドラゴンの指が何本か飛んでいく。
これで、自分の爪攻撃が通じないことを悟ったのだろうか。
レジェンドドラゴンは、今度は広範囲にブレス攻撃を仕掛けてきた。
ゴオオオオオ。
レジェンドドラゴンの口から大量の炎が吐き出され、周囲を炎で覆いつくす。
この炎はなぜか燃えるものが何もない地面の上でも燃え広がっており、その炎は天に届かんばかりの勢いだ。
「『天凍』」
魔法を使っていったん火を消そうと試みるが。
「なんだと!」
火が消えるどころか、逆に燃え広がってしまう始末だった。
どういうことだ。
意外な事態に俺は何が起こったか一瞬わからなかったが、すぐに上級学校で習ったある事象を思い出して原因を推測する。
そういえば、油火災の消火で水をかけると……。
そうなるとすぐには対処できないので、一旦引くことにする。
「リネット、一時ヴィクトリアのところへ後退だ」
「了解だ」
リネットも火の回りを見てまずいと思ったのかすぐに俺の意見に賛同する。
「『重力操作』」
俺はリネットを抱きかかえると、一時ヴィクトリアのところへ撤退した。
★★★
「あれは油火災と同じだな」
一時撤退した俺はみんなに今回の事態について説明した。
「油火災?かい」
「そうです。油火災の時水をかけると余計に火が回るでしょう?あれは水をかけたせいで油が飛び散って、ああなるんです」
「そうなのか?」
「ええ、上級学校でそう習いました。実践訓練の時間に、火で攻撃された時の対応というのがあって、そこで習いました」
「ほう、上級学校ではそういうことも習うんだね」
「で、今回なんですが、奴の炎を消そうとして氷の魔法をかけたら余計に火が回ったでしょう?あれは、魔法のせいで奴の炎に含まれていた可燃物質が巻き取らされたからだと思います」
「それはつまり、レジェンドドラゴンの炎には油が混ざっているということですか」
「油とは限らないけどね」
そう別に油でなくともよい。
燃えるものなら同じことができると思う。
むしろ油より厄介なものの可能性がある。
「まるでナパーム弾みたいですね」
ナパーム弾?何だそれは?
ヴィクトリアがまたよくわからないことを言ったが、まあ、いつものことなので聞き流すことにする。
まあ、話の流れから言って、今回のような厄介な火災を引き起こすもののことだと思うが。
それはともかく、敵の攻撃の正体が分かった以上対応策はある。
「ということで、俺があいつの炎を何とかしますので、その間にリネットが奴を攻撃してくれ」
「心得た」
方針が決まったので作戦開始だ。
★★★
俺は盾を構えてレジェンドドラゴンの前に立った。
もちろん『神強化』を使ってバリバリに強化した上でだ。
「ぐるるる」
俺が近づくとレジェンドドラゴンがそうやって威嚇してくる。
俺に警戒しつつも、自慢の翼を俺に奪われて怒り心頭なようだ。
目には怒りと憎しみの炎が宿っている。
ゴオオオオ。
突然、レジェンドドラゴンが炎を放ってくる。
当然予想していたことなので、俺はさっとそれを避ける。そして。
「『天土』」
地面に着弾した炎の上に思い切り土をぶっかける。
ふっ。
土をかけられて炎が掻き消える。
空気が無ければ火は燃えることができない。
だから土をかけて空気を遮断する。
消化の一つの手段である。
ゴオオオオ。ゴオオオオ。
その後も奴は炎を放ってきたが結果は同じだった。
もちろん、俺は攻撃も忘れない。
「『天凍』」
魔法で氷弾を作ってレジェンドドラゴンめがけて放ってやる。
ザク。ザク。
氷弾がレジェンドドラゴンの皮膚を傷つけ血が噴き出る。
致命傷とはならなかったが、奴をイラつかせるには十分だった。
「グオオオ」
レジェンドドラゴンは俺に近づいてくると爪で攻撃してきた。
今度は視界がクリアなせいか、さっきより攻撃は鋭い。
だが、俺がこの程度の攻撃で今更どうにかなるわけがない。
「当たるかよ」
俺はそれをさっと避けると、後方へ大きく飛ぶ。
そして、挑発してやる。
「当てれるものなら当ててみろよ」
「ガオオオオオ」
挑発に乗ったレジェンドドラゴンが俺を追ってきて、激しく攻撃してくる。
俺はそれらの攻撃を避けつつ、さらに氷弾をぶつけ奴を挑発する。
そうやって、奴を目的の場所に誘導していく。
★★★
ついにその時が来た!
俺はレジェンドドラゴンを挑発して、目的の場所に誘導した。
目的の場所は岩の岸壁の側で、岸壁の上には彼女が待ち構えていた。
「うおりゃああ」
リネットが岸壁の上から飛び降り、一直線にレジェンドドラゴンに向かっていく。
グサ。
オリハルコン性の大斧が振り下ろされ、首が中ほどまで切断される。
さすがレジェンドドラゴン。今の一撃で首を完全に落とせないとは。
だが、大ダメージを与えられたようだ。
「ぎゃあああああ」
切られた頸動脈から大量の血を噴出させながら、レジェンドドラゴンはのたうち回るのだった。
これだけの出血だ。
このまま放っといてもすぐに死ぬだろうが。
「こいつも、伝説といわれるドラゴンだ。これ以上の醜態をさらさないように一思いにとどめを刺してやろう」
俺はレジェンドドラゴンに近づくと、優しく心臓にクリーガを突き刺してやり、息の根を止めてやった。
これにて、レジェンドドラゴン討伐は完了した。
★★★
「いやあ、すごい一撃でしたね」
討伐完了後、俺たちはレジェンドドラゴンの死体を回収するために、バラバラになった体のパーツを1か所に集めていた。
回収している間の雑談で俺はリネットの一撃をほめた。
本当に素晴らしい一撃だったからだ。
「そ、そうかな」
褒められたリネットは照れ臭そうに顔を赤くする。
それを見て、ヴィクトリアが寄ってくる。
「なんだ」
「リネットさんだけほめてもらってズルいです。ワタクシも頑張ったのでほめてください」
「わかった。わかった。お前もよくやったな」
そう言うと、俺はヴィクトリアの頭を撫でてやった。
「えへへ、うれしいです」
それを見て、今度はリネットが寄ってくる。
「ヴィクトリアちゃん、ズルい。あたしは頭撫でてもらってない」
「あーわかりました」
なんだかなあと思いつつ、俺は二人の頭を撫でるのだった。
ただ、一つ言えることは女の子の頭を触るのは気持ちいいなということだけだ。
その後、レジェンドドラゴンを回収した俺たちはノースフォートレスへと帰還するのだった。
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