第86話~クリント生誕祭、本祭編~

 本日はクリント生誕祭の本祭の日です。


 クリント生誕祭は前夜祭、本祭、後夜祭と3日かけて行われます。

 主神様の生誕を祝うだけあって、お祭りは盛大に行われます。

 ここノースフォートレスでも、近隣の町や村からたくさんの人々が集まって来て、演劇や剣闘士の公演が開催されるなどして華やかです。


 後、これはノースフォートレスあたりだけで言われていることなのですが、この期間に親密になった男女の恋は成就するとの伝承があります。

 ですから、ヴィクトリアさんとリネットさんに旦那様へのアプローチを勧めたわけです。


 それで、昨日はヴィクトリアさんの番だったのですが割と上手く行ったみたいですね。

 だって、旦那様、昨晩はあまりよく眠れなかったみたいですし。


 その証拠に朝起きた時、旦那様の目、寝不足で充血していましたし。

 多分、予想外に魅力的だったヴィクトリアさんを見て、胸のドキドキを抑えられなかったのだと思います。


 旦那様、私には積極的に夜迫ってくるのに、他の女の子に対しては初心うぶなんですから。

 本当かわいらしいですね。

 まあ、旦那様が平気で色々な女の子に手を出すような男だったら、私は結婚してないですが。

 なので今くらいがちょうどいいと思います。

 この分なら一生私たちに優しい旦那様でいてくれるでしょうしね。


 ただ、気をつけるのは外部からの圧力でしょうか。

 特に私の父辺りがうるさそうです。

 あの計算高い父なら、側室とは言わないまでも、跡継ぎの男の子がいないヒッグス一族の家の女の子に旦那様の子を産ませて、男ならその家の跡継ぎにするとかいうようなことをしてくるでしょう。


 ヒッグス一族も全体的に魔力が落ちてきていますから、魔力の高い旦那様の血を広めて、ヒッグス一族全体の力を高めようとするでしょう。

 父のその考えは理解できるのですが、私は嫌です。


 旦那様は種馬ではないのです。

 大事な大事な旦那様なのです。

 だから、父の動向には十分注意しておこうと思います。


 それはともかく、クリント生誕祭の3日間は、私とヴィクトリアさんとリネットさんの3人で旦那様を分け合うことになっています。

 それで、今日は私の番です。

 なので、今日は旦那様と楽しもうと思います。


★★★


 ということで、今日は旦那様と二人でお出かけです。


 ヴィクトリアさんとリネットさんは用事があって出かけている、ことになっています。

 銀ちゃんも近所の子供たちと遊ぶ約束をしているみたいで遊びに行ってます。


 旦那様と二人きりでの外出は久しぶりです。

 私は妊娠中なので、訓練所に行く以外は家で大人しくしていましたし、出かけるときは出かけるときで、ヴィクトリアさんやリネットさんが心配して必ずついてきてくれましたから。


 今日は神殿にお参りに行く予定です。

 無事に出産できるようにお祈りしてこようと思います。


「それじゃあ、行くぞ」


 神殿に行くに際して、旦那様は人力馬車を雇ってくれました。

 人力馬車は馬の代わりに人間が引く車です。


 人が引っ張っていくので大人数は乗れません。

 現に私たちが乗るのも二人乗りです。

 ただ、小さいので馬車よりも小回りが利きます。

 だから、今日のように人の多い日の移動には最適です。


 それに。


「旦那様、もうちょっとそちらに寄ってもよろしいですか」

「ああ、いいぞ」


 座席が小さめなので、こうやって旦那様にくっつく口実にもなります。

 ちなみに、この人力馬車、ノースフォートレスのカップルの間で大人気だったりします。

 だって、堂々と好きな人とくっつけるのですから。


「それじゃあ、神殿の近くまで行ってくれ」

「へい、合点です」


 それはともかく、私たちは神殿へと出発しました。


★★★


 神殿の近くまで来ると道は人で溢れかえっていました。

 さすがクリント生誕祭の本祭です。すごい数の人です。

 いくら人力馬車でもこれ以上進むのは無理そうなので、ここから先は歩いて行くことにします。


「それじゃあ、俺たちは行くからここで待っていてくれ」

「合点で」

「それと待っている間、これで飯でも食っていてよ」

「これは、ありがとうございます」


 今日雇っている人力馬車は一日貸し切りにしていて、既に料金は支払っているのですが、旦那様は車夫さんにさらに昼飯代として銀貨1枚を渡しました。

 もらった車夫さんがぺこぺこしています。


 旦那様は割とお金にはうるさい人ですが、お金の使い方はちゃんと心得ています。

 レストランのウェイターや宿屋のボーイさんにはちゃんとこうやってチップ?もしくは心づけ?

というものを渡します。

 自分たちに尽くしてくれた人にはちゃんと報いる。

 それが旦那様です。


 旦那様は将来多くの人たちを導く立場になる人です。そして、そういう立場の方はこういう態度を身に着ける必要があります。

 だから、こういう心遣いができる旦那様をワタクシは誇らしく思います。


 さて。


 人力馬車から降りた私たちは、神殿へ向かって歩きます。

 神殿への大通りにはたくさんの出店が立ち並び、たくさんの人が歩いています。

 その中を私たちは人ごみをかき分けるように進みます。


「エリカ、お腹の子供に万が一のことが無いように注意しろよ」

「はい、旦那様」


 旦那様は私が人にぶつかったりしないように常に盾になりながら移動してくれます。

 まあ、何とも頼もしい。

 私はそんな旦那様を見て思わずうっとりとします。

 本当にこの人と夫婦になれてよかったと思います。


 そういうふうに旦那様に見とれながら歩いていると、いつの間にか神殿に着いていました。

 私たちは財布からお賽銭と、マジックバックから花を取り出し1人1本ずつ持ちます。

 クリント生誕祭では、お花を供え、お賽銭を入れてからお祈りするのが慣習だからです。


 私たちの前の人々が順にお祈りを終えていくと、私たちの番になりました。

 花を添え、お賽銭を入れお祈りをします。


「エリカが無事に元気な子を産めますように」

「旦那様の立派な赤ちゃんを産めますように」


 お祈りが終わると、他の方々同様、私たちも神殿を退出しました。


★★★


「これと、それとあれ。後そっちのもください」


 神殿を出た後、私たちは屋台で家に買って帰るお土産を買いました。

 ヴィクトリアさんとリネットさん、銀ちゃんが喜びそうな甘いお菓子を買いました。


 その後は、旦那様とご飯を食べるために近くの食堂に入りました。

 お祭り中ということもあって、店は人で賑わっていました。


「俺は、このステーキセットをくれ」

「私は、このパスタとピザ、後ステーキとサラダ、デザートにアイスクリームをください」


 私は最近、自分でも驚くほどご飯を食べます。

 もしかしたらヴィクトリアさんよりも食べているかもしれません。

 なぜなら、私にはお腹の赤ちゃんに与える分の栄養も必要ですからとてもお腹が空くのです。

 最初はみなさん驚いていましたが、今ではすっかり慣れたようです。

 現に私が大量に注文したのを見ても、旦那様は何も言いませんし。


「いただきます」


 料理が来ると早速食べ始めます。

 がつがつ。

 ひたすら食べます。食べ続けます。

 何せ二人分食べる必要があるのだから、何があっても食べます。


「ふう、おいしかったです」


 ちょっと食べ過ぎかなとも思いますが、これもお腹の赤ちゃんのためです。

 仕方ない。仕方がないのです。


 食事が終わると家路につきます。


「旦那様、今日は楽しかったです」


 私は歩きながらそうやって旦那様と腕を組みます。


「そうだな」

「そうですね。ふふふ」


 私は旦那様に寄り添いながら通りを歩き、人力馬車で家に帰るのでした。


★★★


 その日の晩は久しぶりに旦那様の相手をしてあげました。

 ただ、子作りは無理なので、その他の方法で満足させてあげます。

 本当に久しぶりなので、旦那様は非常に満足そうでした。


「エリカ、愛しているよ」

「はい、私もです」


 こうして、クリント生誕祭本祭の一日は終わりました。

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