第75話~希望の遺跡、裏9階層②~
対面の扉が開き、いよいよボスのお出ましだ。
ズドン、ズドンと大きな足音を立てながらそいつは扉から出てきた。
でかい。
それがそいつを見た最初の感想である。
すべてを飲み込みそうな大きな口を持ち、頭に大きな角を生やしている。
そしてその大きな頭を支えるべく、体もでかい。
「あれはもしかしてベヒモスではないですか」
怪物を見てエリカが言う。
ベヒモス。『暴食』を司るという悪魔である。
その食欲は一日二千の山の草を食べ、大河の水を一飲みにするという。
リッチなどと同じようにおとぎ話に出てくるような伝説の化け物だった。
「それと、旦那様。先に言っておきますけど、ベヒモスには直接攻撃は厳禁ですよ」
「えっ、そうなの?」
「はい。別に直接攻撃が効かないというわけではないのですが、直接的な攻撃をすると、ベヒモスは強烈な反撃をしてくるのです」
「強烈な反撃?」
「『超級爆発』や、『大地震』のような強力な魔法による反撃ですね。災害級の魔法です」
「そうか」
となると、ベヒモスは魔法だけで倒さなければならないというわけか。
しかし、あれを魔法だけで倒せるのか?
『天火』や『天雷』などの魔法は確かに強力だが、効果範囲に難がある。
あれを全部焼き尽くそうと思ったら、一体どれだけの『天火:の魔法を放てばよいか。
とても魔力が持たない。
『天爆』の魔法なら範囲はばっちりだが、貫通力に疑問が残る。
『天爆』は大群を吹き飛ばすのには適しているが、敵1体1体に与えるダメージはそこまででもない。
伝説級の魔物にどこまでダメージを与えられるか不明だ。
ということでベヒモスを倒すだけの魔法に俺たちは欠けていた。
本当に困った状況になった。
「さて、どうするか」
俺が困っていると、ヴィクトリアが話しかけてきた。
「ワタクシが力を貸しましょうか?」
「?、ああ、たのむよ」
こいつに何ができるのだろうと思ったが、ヴィクトリアは俺の手を取ると、ギュッと握りしめた。
そして、祈る。
「ワタクシの中に眠る神の力よ。この者に力を与えよ!」
すると、俺の体が光り始める。
『シンイショウカンプログラムヲキドウシマス』
いつも、神意召喚を使ったときに聞こえる声が俺の頭の中に聞こえてくる。
そうだ。俺たちにはまだこれがあった。
★★★
早速、俺は魔法のリストを確認してみる。
『神属性魔法』
『神強化+2』
『天火+2』
『天凍+2』
『天雷+2』
『天爆+2』
『天土+1』
『魔法合成』
『重力操作+1』
以上である。
『天凍』、『天雷』、『天爆』が+2になっている。
今までは+1だったのに。これは熟練度が上がったということだろうか。
これは、もしかして、通常時でも+1の魔法が使えるようになったということなのだろうか。
後で確かめてみることにしよう。
更に、追加された魔法である。
『天土』。これは土属性の魔法だろうか?エリカだと石や鉄で槍を作って攻撃する魔法があるが、あれと似たようなことができるのだろうか。要検証だ。
そして『魔法合成』これが今回の目玉らしかった。
工夫次第で色々できそうだ。
これもいずれ実験してみたいものだ。
ゴーン。
その時、闘技場にドラの音が響き渡った。
どうやら、試合開始のようだ。
新しい力も手に入ったことだし、ここは一丁やってやるかと思った。
★★★
ドドド。
開始早々ベヒモスが突進してくる。
まずい!でかい体の割にはスピードが速い。
このままでは全員踏みつぶされる。
横には避けきれない。
「みんな!俺に捕まれ!」
「「「はい」」」
俺は全員を抱きかかえると空中へと飛び上がる。
ドゴオオン。
ベヒモスが闘技場の壁へと激突する。
凄まじい音とともにベヒモスの巨体にのしかかられた壁が崩壊する。
崩壊する壁に巻き込まれて、乗客たちが何人か潰される姿も確認できるが、誰も騒いでいない。
それどころが歓声が一段と大きくなっている。
普通なら逃げまどいながら悲鳴をあげていてもおかしくない場面なのに、だ。
この様を見て俺は確信した。
「やはり、ここは偽りの世界か」
ならば攻撃を遠慮することはない。
俺は3人を連れてベヒモスと反対側に移動する。
ドドド。
再びベヒモスが突っ込んで来る。
俺はそれに対して落ち着いて対応する。
「馬鹿の一つ覚えで突っ込んできやがって。こうしてやる。『天土』」
突っ込んでくるベヒモスの目の前に突然巨大な落とし穴が出現する。
『天土』は土を操る魔法だと思っていたが、俺の予想通りだった。
突然出現した落とし穴にベヒモスは対応できず、スポッと落ちてしまった。
「ピギー」
落とし穴に落ちてしまったベヒモスは、落とし穴から這い出ようともがいているが、体がでかすぎて、地面を這い上がろうとしても重さで地面が崩れるばかりで上手く行かない。
「エリカ、行くぞ」
「はい、旦那様」
俺とエリカは観客席に立つと、そこから魔法を放つ。
「『天火』、『天雷』」
「『火槍』、『氷槍』」
次々に魔法を放ち、それがベヒモスに命中していく。
俺たちの魔法を受け、ベヒモスに続々と傷が入っていく。
だが。
「旦那様、あまり効果がないようです」
「ふむ」
やはりというか、この程度の攻撃ではベヒモスは倒せないようだ。
「使うしかないか。『魔法合成』」
俺は奥の手に打って出ることにした。
★★★
『魔法合成』
字面から魔法を合成する魔法だというのはなんとなくわかる。
だが、正直なんと何の魔法を合成すればいいのかわからない。
下手に合成すると、とんでもない魔法になってしまうからだ。
さて、どうしようか
俺は悩んだが、ここは直感で行くことにする。
俺の持つ魔法の中で威力が高そうなのを混ぜてみることにする。
両手にそれぞれ魔力を集中し、異なる魔法を発動する。
発動する前にエリカとヴィクトリアに言っておく。
「いいか、お前ら。今から俺が大魔法を放つ。危険だから、俺が魔法をぶっ放したら、お前たちは、防御魔法で全員を防御しろ」
「畏まりました、旦那様」
「ラジャーです」
二人に指令を出し終えた俺はベヒモスの方を向く。
奴は相変わらず穴方這い出ようと無駄な努力をしていた。
「伝説の魔物が哀れなことだ。これ以上惨めな姿を晒さないで済むように俺がとどめを刺してやろう」
俺は両手を目の前でくっつけると魔法を放つ。
「行くぞ!『天火』と『天爆』の合成魔法、『天壊』」
★★★
ベヒモスの頭上で大爆発が起こった。
爆発と同時に炎も巻き起こり、ベヒモスを焼き尽くす。
爆発と炎は観客席にも及び、人々をも焼き尽くしていくが、どうせ幻だ。
気にしない。
この闘技場で無事なのは多分俺たちだけだ。
エリカとヴィクトリアが全力で防御魔法を使って守っているからだ。
ただ。
「熱いですね」
爆発の熱だけは完全に防ぎきれず、ちょっとだけ熱い。
でも、業火に焼かれて灰になることを考えると知れたものだ。
しばらく、そのまま我慢し、炎が収まるのを待つ。
「炎が収まったようですね」
俺たちは魔法を解いてベヒモスの生死を確認しに行く。
「これは死んでいるな」
近づいてみるとベヒモスは息絶えていた。
全身の8割が黒焦げになっていて、とても生きてはいられないような状況だった。
「でも、角や一部の皮は無事なようだな」
ベヒモスの角は最高級の杖の素材として、皮は最高級のローブの素材となる。
「よし、ベヒモスの死体は持ち帰って、角はエリカとヴィクトリアの杖に、皮はエリカのローブの材料にして、残ったのは売り払うか」
ヴィクトリアのローブを作らないのは、ヴィクトリアの服は神器でこれ以上の物など存在しないからだ。
「嬉しいです!旦那様」
「素敵です。ホルストさん」
新しい装備が手に入ると聞いて、エリカとヴィクトリアが喜んだ。
「それじゃあ、ヴィクトリア、回収しろ」
「ラジャーです」
ヴィクトリアが収納リングにベヒモスを回収する。
ズズズー。
その時、ベヒモスが入ってきた入り口の扉が開いた。
行ってみると、転移魔方陣があった。
「よし、次だ」
俺たちは転移魔方陣をくぐった。
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