第59話~希望の遺跡入り口付近~

 新居に引っ越してから10日ほどは休養に当てた。


「それでは、旦那様、私たちは出かけてきますので」

「それじゃ、ホルストさん、行ってきます」

「何かおいしいもの買って来るから、楽しみにしててくれ」

「ああ、楽しんで来いよ」


 その間、エリカたちは女同士連れだってよく出かけていた。

 3人で買い物に行ったり、美容院とかエステとか美容関係のお店にもよく行っているらしかった。

 3人とも、毎日美人レベルが少しずつ上がって行っている気がする。

 まあ、もともと全員美人だし、俺も3人がきれいになるのはうれしいので、黙ってみていることにする。


 一方の俺はというと、家で剣や魔法の稽古をしたり、『希望の遺跡』について調べたりしていた。

 というのも、俺たちの次の目的地は『希望の遺跡』だからだ。


 『熱砂のハンマー』だったか。

 ヤマタノオロチが言ってたハンマーを手に入れるため、俺たちは希望の遺跡攻略を目指している。


 ただ、調べたところで、表面的に知られていること以上の情報は得られなかった。

 仕方がないことではあるが、後は実際にダンジョンに行ってみるしかないのかと思う。


 そんな風に俺は毎日を過ごしているわけだが、たまには羽を伸ばしたい時もある。

 そういう時には、ギルドの酒場に出かける。


「フォックスさん、お元気ですか」

「よお、ドラゴンの」


 酒場に行くと、大抵誰か知り合いの冒険者がいるので、そういう連中と酒を飲んだり、飯を食べたりするのだ。

 そういう時は。


「最近、西のウェストリバーの町で砂金が取れる場所が発見されたらしいぜ。ただ、モンスターも一緒に現れるらしいんで命懸けだそうだ」

「へえ、そうなんですね」


 そうやって、仕事の話をしたり。


「ほら、町の東門のところに小洒落た酒場があるだろ?最近あそこさ、胸がでかくてかわいい女の子が入ったんだ。く~、俺もお付き合いしてみたいぜ」

「へえ、それは一度行ってみたいですね」


 そんなくだらない話をしたり。時には。


「たまには娼館に一緒に女抱きに行かねえか」


 そう誘われることもある。


「いや、俺には女房がいるから結構です」


 もっともこれに関しては促お断りした。もし誰かに見られたりして、俺が迷っていただなんて噂されると、エリカに半殺しにされかねないからだ。

 俺は今でもヴィクトリアを最初に家に連れて帰った時に見たエリカの怒りに燃える目を忘れていない。


「そうか。そいつは残念だ。まあ、あれだけ美人の嫁さんが3人もいれば、他の女には興味がわかないよな」


 フォックスさんは勘違いしている。

 俺はそう思った。


 確かにエリカは俺の嫁だが、ヴィクトリアとリネットさんはただのパーティーメンバーだ。

 だが、こういう時にはこう言えと俺はエリカに言われている。


「そうですね。素敵な嫁さんばかりで本当俺にはもったいない限りです」


 というのも、「ヴィクトリアさんとリネットさんに変な男が寄り付いてこないように、男女の関係があるということにしておいてください」と、エリカに言われていて、更にヴィクトリアとリネットさんにも、「変な男が寄ってくるなんて真っ平ごめんだから、悪いけどそういうことにしといて」と言われているからだ。


 本当にそれでいいのかなあと思わなくもないが、3人が是非にと頼むのでそうしている。


「まったく、俺も早く所帯持ちたいぜ。ああ、どこかにいい子はいないかな」

「また、また、フォックスさんならすぐに素敵な人が見つかりますよ」


 そう言うと、俺は嘆くフォックスさんに一杯注いであげた。


 俺は一族から迫害され続けてきたせいでずっと友達がいなかった。

 だから、こうやってフォックスさんの様な冒険者の人たちと仲良くなれて幸せだと思う。


 こうして、束の間の休日の日々は過ぎていく。


★★★


 休養期間が終わった。


 早速、『希望の遺跡』攻略にチャレンジすることにする。

 出発の朝、家で入念に打ち合わせをした後、最終確認をする。


「皆、準備はできたか?」

「はい、旦那様。食料の準備は万全です」

「はい、ホルストさん。道具類は完璧です」

「地図も10階層までそろえた。問題はないよ」

「そうか。では準備もできたことだし、『希望の遺跡へ向けて出発するぞ」

「「「おおおー」」」


 こうして俺たちは『希望の遺跡』へ出かけた。


 ちなみに今回は歩きだ。

 というのも『希望の遺跡』は近いので馬車を使うまでもないし、ダンジョンの探索は長期戦が予想されるので、パトリックをそもそも連れて行けない。

 なので、今回パトリックは家の馬小屋につないだままなのだが、一応ギルドに依頼して世話を頼んでいるので、毎日餌をやってもらえるし、散歩にも連れて行ってもらえるようにしているので、問題ない。


 家を出て1時間ほどで『希望の遺跡』に着いた。


「では、さっさと行きましょう」


 着くなりすぐさまヴィクトリアが入って行こうとするが、お前は事前の打ち合わせを忘れたのか。

 お前の頭は鳥と同じなのか。同じなんだろ!

 というか、この前までここに来たがらなかったのに、なんで急に張り切っているんだ。

 心の中で悪態をつきながらも、俺はヴィクトリアに注意する。


「そうじゃないだろ。あれを試してみるって言ってただろ」

「あっ、そうでした。すっかり忘れていました。てへ」


 うん、笑ってごまかそうとしてもダメだぞ。本当に仕方のない奴だ。


 それはともかく、俺はそれを試してみることにする。


 ダンジョン攻略を目指す俺たちにとって、今一番欲しいのは情報だ。

 だから、情報を持ってそうなのに聞いてみることにする。


「聞け、白狐の眷属たちよ。今こそ我の求めに応じて、ここへ集え!」


 俺は白狐の眷属を招集した。

 古狐は知恵に長けたものが多いという。

 中にはこのダンジョンについて何か知っているのもいるだろう。


 それを期待して俺はこの辺りの狐を集めることにしたのだった。


★★★


 30分後。


 この辺りの狐たちがわらわらと集まってきた。

 全部で50匹くらい入るだろうか。


 狐たちが俺たちの目の前に整列する。

 その中の1匹が俺たちの前に進み出て挨拶する。


「初めまして。私、この辺りの狐のまとめ役を務めております、赤丸と申します。皆様のことは白狐様よりお伺いしております」

「ああ、初めまして、赤丸さん。ホルストです。よろしく」

「それで、早速でございますが、本日はどういったご用件でしょうか」

「実はな」


 俺は赤丸さんにここへ来た目的を話した。


「ほう、『希望の遺跡』に関しての情報ですか」

「はい、何か知りませんか」

「そうですね」


 赤丸さんは額に手を当て、何かを思い出すかのような仕草をする。

 しばらくはそのまま、うんうんと唸っていたが、やがて何かを思い出したのか話し始めた。


「何分昔に聞いた話で、うろ覚えで、多少あいまいな情報になってしまうかもしれませんが構わないでしょうか」

「ええ、大丈夫ですよ。お願いします」


 俺が赤丸さんにお願いすると、赤丸さんはポツリポツリと話し始めた。


「これは私の祖父に聞いた話ですが、なんでもこの遺跡を建造するのに、私の先祖が協力したそうなんです」

「そうなんですか」

「はい。それで、口伝に何でも二つ入り口を作ったとか」

「入口を2つも?」

「はい、その通りです」


 赤丸さんはコクリと頷く。


「普通の入り口のほかに真の入り口があるそうです」


 真の入り口ね。そんなものがあるのか。


「ダンジョンの最深部に行きつくためには真の入り口から入る必要があるという話です」

「ふーん、そうか。それでその真の入り口というのはどこにあるんだ」

「さあ、そこまでは」

「そうか、わかった。他に何か知っていることはないか」

「さあ、他には。何分私共はただの狐。ダンジョンに立ち入るなどほとんど致しませんので」

「助かったよ。ありがとう」

「いえ、大してお役に立てませんで。それでは我らは失礼させていただきます」


 そう言い残すと、と狐たちは帰って行った。


★★★


「さて、それでは、これからどうするかな」


 狐たちのおかげで目標が定まった。。

 とりあえず、その真の入り口を探すのが当面の目標となった。


「まずは遺跡の周囲を探索してみるというのはどうですか」


 俺がどうしようか考えているとエリカがそう提案してきた。

 なるほど、真の入り口というからにはやはりそこから始めるべきかと俺は思ったが、それにリネットさんが待ったをかけてきた。


「でもね、エリカちゃん。それも一つの手かもしれないけど、ここは一応町の近くのダンジョンで、周囲も探索しつくされている。今更、新しい入り口が見つかるとも思えない。それに入り口って、必ずしも外にあるとは限らないんじゃないのかな」

「というと?」

「つまり、真の入り口というのはダンジョンの中にあるんじゃないかということさ」


 うん、それも一理あるな。

 確かに真の入り口とやらが簡単にわかる場所にあるとも思えないしな。


 さて、どうすべきか。

 俺が思案していると、ヴィクトリアがこんなことを言ってきた。


「ホルストさん。ここは中を探索した方が良いと思います」

「なぜだ?」

「勘です」


 また勘かよと俺は思った。


 ただ……俺は今までのことを思い出す。

 今までもこいつの勘のおかげで助かったことがあった。もしかして、今回も。


 他に手を思いつかないことだし、たまには女神の勘とやらに頼るのもいいのかもしれない。


「よし、それではとりあえずダンジョンの中を探索するとするか」


 こうして俺たちはダンジョンの中へ入っていくのであった。

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