第28話~盗賊退治~
「来た、来た」
木の上で待機していた見張りが、心の中でガッツポーズをする。
そして、すぐに仲間へ合図を送る。
「よし、行くぞ」
見張りからの合図を受けた盗賊団のボスが、仲間に声をかけ、待機場所にしている岩陰から飛び出し、街道に向かう。
「状況はどうだ」
ボスは街道に着くなり、見張りに状況を聞く。
「どうなっている?」
「へい、馬車が1台やってきています。御者は赤い髪の女みたいです。結構いい馬車です。お宝にも、中の人間にも期待できますね」
「そりゃあ、今晩の楽しみができそうでいいな」
ボスはその凶悪な髭面をニンマリとさせる。
「よし、じゃあ、お前ら配置に着け」
「へい」
ボスの指示で盗賊たちが所定の位置に着く。
そして、各々が獲物を構え、今か今かと馬車の到着を待ち構える。
数分後。
「来たな」
盗賊たちがおよそこの世のものとは思えない醜悪な笑みを浮かべる。
奪ったお宝をどう使うか考え、ワクワクする。
獲物である女たちを凌辱する様を想像し、胸を高鳴らせる。
本当に最低な奴らだ。
ボスが左手をあげる。この左手が振り下ろされた時、盗賊たちが一斉に襲い掛かる手はずとなっている。
「何も知らないで、のこのこやって来て馬鹿な奴らだぜ」
襲撃の成功に絶対の自信があるボスは、そう嘲笑する。その時。
「まあ、本当のバカはお前らだけれどな」
盗賊たちの後ろから声がした。
「えっ」
突然の声に驚いたボスが振り返ると、そこにはハーフプレートメイルを着こみ、銀色に輝く剣を持った背の高い男が立っていた。
★★★
俺たちの作戦はこうだ。
挟み撃ちで盗賊たちを逃がさないように叩く。
単純だが効果は抜群だ。盗賊たちも唖然としてとっさの行動がとれないでいる。
すかさず俺は先制攻撃をしかけた。
「『天火』」
魔法を解き放つ。
魔法は空中でいくつもに分かれて盗賊たちに襲い掛かる。
セオリー通りに弓を装備した支援要員から狙う。
「ぐああああ」
魔法攻撃を受けた盗賊が一瞬で火達磨になって絶命する。
盗賊たちはたちまち大混乱に陥る。
すかさず俺は距離を詰め剣を振るう。
まずは、首魁であるボスの首からだ。
一気にボスに接近した俺は、容赦なくボスの首をたたき切る。
バサッ。
唖然としたマヌケな顔のままボスの首は落ち地面を転がる。
俺にとって人を斬るのはこれで二人目だ。
一人目は防衛隊の訓練で斬った死刑囚だ。
この死刑囚は5人ほど人を殺した凶悪犯だった。目の前の盗賊たちはその死刑囚以上の人間を殺しているのだろう。
だから、盗賊たちを消し炭にしても、目の前のリーダーを断罪しても特別な感情は沸かなかった。
一つ仕事をこなしたという感覚しかない。
その後も俺は次々に盗賊たちを始末していった。
「助けてくれえ」
生き残った盗賊たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ始めた。
「逃がさないぞ」
だが、そうは問屋が卸さなかった。すぐさまリネットさんを先頭に追撃を開始し、全員で盗賊たちを始末した。
★★★
数分後、一人を残して盗賊たちは全滅した。
なぜ一人だけ残したか。もちろん、アジトの場所を聞き出すためだ。
「さあ、喋ってもらおうか」
リネットさんが盗賊を尋問する。リネットさんは過去にも盗賊退治の仕事をこなしたことがあり、多少手荒な手段を使ってでも、こういった連中から情報を引き出す手腕に長けていた。
もっとも、今回はそれを発揮する必要はなかったようだ。
「ひいい。話すから、どうか命だけは」
盗賊はあっさりとゲロッた。
俺たちは盗賊の案内でアジトに向かった。
アジトは襲撃現場から歩いてすぐのところにあった。
天然の洞窟を利用したアジトで、捕まえた盗賊の話によると、中は結構広いらしかった。
「見張りがいるな」
アジトの入り口には見張りがいた。
「それで、残った仲間はあの見張りと、入ってすぐの詰め所に3人ということで間違いないんだな」
「へい、間違いありません」
「もし嘘だったらどうなるか。わかっているだろうな?」
「本当です。だから命だけは」
涙目になりながらそう懇願する盗賊を縛り上げ、地面に転がせると、俺たちはアジトに近づく。
そろそろっと足音を立てないように移動する
アジトまで十分俺たちが近づくと、俺はエリカに命令する。
「エリカ、やれ」
「はい、旦那様。『電撃』」
エリカが弱い『電撃』の魔法を放つ。
「!?」
見張りが声を出さずに固まったかと思うと、ドンとそのまま地面に倒れた。
すかさず俺は見張りに近づき確認する。
「よし、成功だ」
電撃の魔法を食らった見張りは意識を失い気絶していた。
狙い通りだ。
なお、ここで見張りの命を取らなかったのはリネットさんの提案によるものだ。
「こういう場合は、何名かはとらえて村人に差し出した方がいい。そうすれば我々の評価が上がる」
ということらしい。
つまりは、被害を受けた村人の復讐へのいけにえとして盗賊を差し出せば、単純に殲滅するよりも村人たちが喜んでくれてその分名声が上がるということらしい。
まあ、今更盗賊退治の名声などどうでもよいが、リネットさんが折角勧めてくれるのでそうすることにする。
「よし、次だ」
見張りを縛り上げると、俺たちは奥へ進む。
アジトの通路は暗く狭かったが、松明がいくつか灯っていたので奥へ簡単に進めた。
「いたな」
アジトに入ってすぐの所には詰め所があった。
そっと近づいて中の様子をうかがうと、3人ばかりそこにいた。
「情報通りだ」
俺は内心ほくそ笑む。
「ほれ、エースのワンペア」
「俺、ツーペア」
「残念、フルハウスだ」
三人の盗賊は暢気にポーカーに興じていた。
「よし、行くぞ」
俺は後ろにいるエリカたちに合図を送ると、突撃を敢行した。
まず、外で拾ってきた石を盗賊の一人に投げつける。
ゴン。
凄まじい音とともに石礫は盗賊の頭に命中する。
ドン。
そのまま盗賊は頭から地面に激突する。
「なっ」
突然のことに残った盗賊たちが慌てふためく。
俺はすかさず部屋に突入すると、盗賊の一人の腹をけり上げる。
「ぐへ」
盗賊はそのまま壁まで吹き飛んでいき、泡を吹いて意識を手放す。
「て、敵襲だ~」
残った盗賊は慌てて剣を抜こうとするが。
「遅い」
俺は盗賊の剣を鞘ごと真っ二つにしてやった、
さすがミスリルの剣。いい切れ味だ。
「ひいい」
剣を破壊された盗賊は、腰を抜かして逃げ出そうとするが。
「『電撃』」
エリカの放った魔法によって気絶してしまった。
★★★
「よし、では案内しろ」
俺たちは部屋にいる盗賊たちを捕縛した後、最初に捕まえた盗賊に道案内させた。
アジトの洞窟は結構広かったが、それでも限度はある。
すぐにアジトの奥に行きついた。
「おっ、ため込んでいやがるな」
アジトの奥には財宝がため込まれていた。
金銀財宝に、美術品、骨董品などあらゆる物が置かれていた。
「へえ、規模があまり大きくない盗賊団にしてはため込んでいるな」
これだけ荒稼ぎしているということは、どうやらこの盗賊団は相当あくどいことをしていたみたいだ。
俺がそうやって財宝を眺めているとエリカから声がかかった。
「旦那様、こっちみたいですよ」
エリカの刺し示す方を向くと、そこには鉄格子で隔離された牢屋があった。
シクシクと中から人々のすすり泣く声が聞こえてくる。
「リネットさん、お願いします」
「まかせな」
俺が合図すると、すぐさまリネットさんが斧で牢屋のカギを叩き壊す。ガチャン。カギはいとも簡単に壊れた。
「皆さん、もう大丈夫ですよ」
ヴィクトリアが牢屋の中に声をかけると、盗賊に捕らえられていた人たちがぞろぞろと出てきた。
その数、女性10人、子供10人の計20人だった。
全員、ろくな扱いを受けてなかったからなのか、やつれて疲れ果てているようだった。
それを見た俺はヴィクトリアに指示する。
「ヴィクトリア。何か食べる物を出してくれ。後、ケガをしたり、弱っている人がいたら回復魔法をかけてやってくれ」
「ラジャーです」
俺の指示通りにヴィクトリアが食事を出し、ケガ人の手当てをしていく。残りのメンバーはそれを手伝う。
そして、1時間後。
「とりあえず、大丈夫そうだな」
捕らえられていた人たちが歩けるくらいには回復したようなので、アジトを離れることにした。
★★★
捕らえられていた人たちのうち、小さい子供と十分に回復してない人は馬車に乗ってもらい、残りの人は歩いて付いてきてもらうことになった。
本当は全員馬車に乗せてあげたいが、まあ、馬車に乗れる人数には限度があるので仕方なかった。
一方盗賊たちはというと、縛り上げたうえで馬車で引きずって連れて行くことになった。
リネットさん曰く、盗賊をしょっ引く時の伝統的な運搬方法らしい。
すごく痛そうで、反省を促すためにもいい方法だと思う。
もちろん、ギャアギャア喚かれるとうるさいので、きっちりと猿ぐつわを噛まして声が出ないようにしている。
「この!よくも!」
「恨み晴らさで置くべきか」
「よくもうちの姉ちゃんを」
道中、盗賊たちは捕らえられていた人々に石を投げつけられていた。
相当な勢いで投げつけられているので、盗賊たちは石が命中するたびにピクリと体を反応させ、全身が青アザだらけになる。
「地獄に行く前に、苦しみやがれ、です」
なぜかヴィクトリアも一緒になって石を投げつけている。
ヴィクトリアは神様だけあって、こう見えても正義感が強く、こういう悪党は許せないらしかった。
そういえば、今までもいの一番に「〇〇を助けましょう」とか、「モンスターをやっつけましょう」とか、言い出すのはこいつだった。
それは正しいことなのだろう。だから、それでいいのだが。それにしても。
「神様に地獄に行けとか言われるなんて、笑えないよな」
俺はポツリとそうつぶやかざるを得ないのだった。
その日は行けるところまで行って、夜は野宿した。
そして、次の日俺たちは大きな宿場町に到着した。
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