第24話~情報と引き換えに~
「旦那様、朝ごはんができましたよ」
エリカの声で俺は目が覚める。
むくりと起き上がった俺は自分が服を着ていないのに気付く。
昨晩はエリカが積極的だったのを思い出し内心ニンマリしつつ、いつまでもダラダラしてたらエリカが怒るので、起きることにする。
慌てて服を着る。
「おはよう」
そして、おはようの挨拶をする。
「おはようございます。さあ、ご飯にしましょう」
俺はエリカに促されるまま食卓に着いた。
テーブルにはすでにヴィクトリアが座っており、先に食事を始めていた。
「ヴィクトリアさん、また先にご飯食べて。意地汚いですよ」
「だって、お腹空いたんですもの」
「もう、しょうがないですね」
エリカに注意されてもヴィクトリアは気にせず食っていた。
いつもの光景だ。
最近ではエリカもあきらめたらしく、がみがみ言わなくなった。
「それで、旦那様今日のご予定は?」
「今日は、情報収集に行ってくる」
「やはり、昨日の件ですか」
「ああ、オリハルコンとはいかなくても、いい剣はやはり欲しいからな。色々聞いてくるよ。だから、エリカたちは今日は自由にしていていいよ」
「それでは私たちは買い物に行ってきますね」
「ああ、わかった」
こうして朝の打ち合わせが終わると、朝食を取り俺たちは出かけた。
★★★
「これが当店で一番良い剣です」
冒険者ギルドの隣の武器屋。
ここで俺は武器を見せてもらっていた。
「うーん」
俺は首をひねる。
確かにいい剣だが、俺が前に使っていた剣には大分劣る。
俺の微妙な表情を見た店主が俺に声をかけてくる。
「お気に召しませんか」
「ああ、折角出してくれて申し訳ないんだけど」
「いえいえ、こちらこそご期待に沿えず申し訳ありません」
俺は剣を店主に返す。
「失礼ですが、お客様は前に使っていらした剣の残骸などをお持ちですか」
「ああ、持っているよ」
俺は背中のマジックバックから前に使っていた剣の残骸を取り出した。
もしかしたら修理ができないものかと思って一応とっておいたのだ。
「ほう、これは……素晴らしいものですね」
「そうなんですか」
「ええ、これは鉄に特殊な鉱石を混ぜて魔法で精錬した金属で作られた逸品ですね」
「特殊な金属?魔法?」
「これほどのものとなると、大貴族が家宝として大事にするレベルの剣ですね」
「え、そんなにすごいものなんですか」
というか、エリカさん、そんなものを実家から持ってきていたのか。
どうしよう。壊しちゃったよ。弁償してくれとか言われたらどうしよう。
俺は背筋が寒くなった。
「お客様、お客様」
「あ、ごめん。他のことを考えていた」
俺絵は店主の声で現実に戻ってきた。
「それで、これと同じような剣って手に入らないものですかね」
「これほどのものとなると、ちょっと」
「そうか」
俺は落胆した。まあ、確かに大貴族の家宝クラスの剣となるとなかなか難しいだろう。
俺は他をあたることにした。踵を返して店を出ることにした。
「そうだ。一つだけ心当たりがあります」
その時店主がそんなことを言い出した。
「本当ですか」
「ええ。この町の鍛冶師組合の会長がドワーフでしてね。かなりの凄腕なので、力になってくれるかもしれません。ただ」
「ただ?」
「依頼で忙しいうえになかなか気難しい人で、なかなか依頼を受けてもらえません」
「そっか」
世の中そううまくいかないか。って、あれ?
そこで俺は思い出した。
「その人って、もしかしてリネットさんのお父さんでは」
「ええ、そうですね。確かに副ギルドマスターのお父さんですよ」
「もしかして、リネットさんに頼めば」
「可能性はなくもないですね」
よし、そうとなったら当たって砕けろだ。
俺は早速リネットさんを訪ねることにした。
★★★
「うーん。ちょっと難しいかな」
「そうですか」
意気込んでリネットさへ頼みに行った俺だが、あっさりと断られてしまった、
「ああ見えてもうちの親父は人気でね。貴族たちからの依頼が絶えないんだ。よっぽどじゃないと受けてもらえないよ」
「ですよね」
なんとなく予想していた通りだった。
しかし、これでこの町で良い剣を手に入れる伝手が無くなってしまった。
「こうなったら王都へ行って探してみるか。それともヴィクトリアの言うようにオリハルコンの剣を探すのもいいかも」
「今、オリハルコンの剣って言ったか」
俺の発言にリネットさんが食いついてきた。
「ええ、言いましたよ。もしかして何か心当たりがあったりします?」
「ある!あるけど……」
「あるけど?」
「ただでは教えないよ」
そう来たか。まあ、妙にもったいぶるから何かあると思ったが。
とりあえず聞いてみることにする。
「で、何が望みですか」
「アタシも一緒に連れて行ってくれ」
「えっ。今なんて」
「だからアタシもオリハルコンの剣を探す旅に連れて行ってくれ」
リネットさんがとんでもないことを言い出した。
「連れて行けって……」
「この前、アタシも北部砦での戦いに参加しただろう。そして本当に死にそうな状況になっただろう。その時思ったんだ。こんなことなら、後悔しないようにもっと冒険しておくんだったと」
「なるほど」
うん、気持ちはわかる。あそこでの戦いは命をかけた戦いだった。リネットさんのように後悔のない人生を送りたくなったという気持ちもわかる。
「でも、副ギルドマスターの仕事はどうするんですか」
「辞めて現役復帰する。元々お飾りなんだから問題はない」
「辞めるとか簡単に言いますけど、それってリネットさんのお父さんの紹介ですよね。そんなに簡単に辞めれますか」
「親父は何とか説得する。だから」
リネットさんはバンと机に手をつき頭を下げる。
「後生だ。連れて行ってくれ」
俺はぼりぼりと頭をかいた。
「俺は別に構わないんですが、他のパーティーメンバーがどう言うか」
「パーティーメンバーって、エリカちゃんとヴィクトリアちゃんでしょ?あの二人なら大丈夫。結構仲いいし。この前も一緒にお茶飲んで、買い物とかしたし」
「えっ、そうなんですか」
「聞いてなかったのかい?」
そう言えば聞いたことがあるような気がする。今日リネットさんと町で会ったとか、そういう話だったと思う。
いつの間にとも思うが、あいつは俺のあまり知らないところで近所の奥さん方とも仲良くしているいるようだし、一緒に買い物に行った時なども店の店主などによく声をかけられたりもする。俺よりもよほど人付き合いがうまいタイプなのだ。
だから、そんものだろうと俺は思った。
「いえ、ちょっとは。まあ、それなら問題はないですかね」
まあ、そんなに仲が良いのならエリカたちも何も言わないだろう。それより。
「それで、情報とは何ですか」
「ホルスト君は東方の海に浮かぶフソウ皇国という国があるのを知っているか」
「ええ、名前くらいは聞いたことがありますね」
確か、学校の地理の時間に習った気がする。王国の東方の島国だったはずだ。
「そこの皇王が隠し鉱山を持っていてね。そこではオリハルコンが少量だが取れるという噂だ」
「ずいぶんあいまいな情報ですね」
「確かにそうだが、他に当てはないだろう」
「それもそうですね」
「それにここだけの話、この噂はかなり信頼性の高い情報源からの情報でね。信用出ると思うよ」
「でも、仮にあったとしてもどうやって手に入れるつもりですか」
「それは……」
リネットさんは口をつぐんだ。どうやら当てはないらしかった。
「ないんですね。じゃあ、この話は」
「待ってくれ!」
話を終わらせようとした俺をリネットさんが押しとどめる。
「実はガイアスの町までの荷運びの仕事があるんだ」
「ガイアスの町?」
「そこの町からは定期船が出ていて数日でフソウ皇国へ行ける。その仕事のついでに行ってみないか」
「荷運びの仕事ですか」
「ああ、報酬も悪くない。それにホルスト君たちって近場の仕事が多いだろ。たまにはどこか遠くへ旅行に行ってみたいとエリカちゃんが言っていたぞ」
それは確かにエリカも言っていた。そういうことなら、仕事が終わった後についでにそういうところへ行くのも悪くない。
思えば、結婚以来苦労をかけっぱなしで、あまりその苦労に報いてやれなかったように思う。
ならば、たまには旅行にでも連れて行ってやりたいところだ。
オリハルコンのことなどついででもいい。
俺は決めた。
「いいでしょう。行きましょう」
「本当?じゃあ、早速依頼の手続きしてくる」
リネットさんはそう言うと奥へと駆け出して行った。
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