第14話~輸送任務~

 ガタガタ。


 馬車が揺れる。道が悪いのでそれはそれはよく揺れる。


「馬車に乗るのは久しぶりだな」

「そうですね。駆け落ちの時以来ですね。旦那様」

「ワタクシは初めてです。結構揺れが激しいですね」


 ドラゴンを退治してからはや2か月余りが経った。


 俺たちはノースフォートレス北部のトンルカ山脈で行われるモンスター討伐戦に参加するために北部砦に向かう馬車に乗っていた。

 モンスター討伐戦は農繁期の前に行われる重要行事で、それによって農繁期における農作業の安全性を確保するのが狙いだ。王国中から部隊を集めて行われる。


 馬車にはそれらの戦いで使用するための物資が満載だ。

 マジックバッグの普及で一度に運べる物資の量も増えたが、その分何かあった場合の被害も増えることになった。

 文明の発達というものには常に負の側面というものも存在するのだ。

 だから使用者側も冒険者や傭兵を護衛にたくさん雇うわけで、これが俺たちの重要な食い扶持の一つになるわけだ。


 ゆえに、今回参戦の他にも物資の護衛というのも俺たちの依頼には含まれていた。


「だまされた。いや、押し付けられてしまった」


 今回任務の内容の割に報酬は少なかった。

 だから誰もやりたがらない。


 俺たちも高位ランク者の義務ということで無理矢理押し付けられた格好だ。

 高位ランク者には一度はモンスター討伐に参加義務があるからだ。


 だったら高位ランク者になるのを辞退すればよかったじゃないかとも思うが、高位ランク者の報酬は高い。

 先のこと、俺たちの幸せな生活を考えるとランクはなるべく上げておきたいところだ。


 それにギルドも後でいい仕事を回して今回の分を補填してくれるみたいだ。

 だから俺たちも我慢している。


「しかし、本当にひどい道だ」


 馬車での旅に揺れはつきものだが、北部砦への道は、道が未整備の箇所が多くさらにひどい。


 そんな中、俺は横になり自分がAランクになった日のことを思い出す。


★★★


 Aランク授与式は豪華だった。


 ギルド1階の食堂を貸し切りにし、豪華な飾りつけがなされ、テーブルには豪勢な食事が並んだ。


「冒険者パーティー『竜を越える者』のホルスト・エレクトロンをAランク、エリカ・エレクトロンをBランクに任ずる」


 パチパチと俺たちをたたえる拍手が響く中、ギルドマスターのダンパさんがそう宣言する。

 ダンパさんは恰幅の良い中年男性だ。元冒険者ということだがそうは見えなかった。


 なお『竜を越える者』というのは俺たちのパーティー名だ。ギルドでは3人以上でパーティーが組めるのだが、何か名前を付けなければならない。

 それで『竜を越える者』と名付けてみた。自分でも出過ぎた名前だと思うが、リネットさんが名前には迫力が大事だというので、これにした。まあ、名前負けしないように頑張りたいと思う。


「それでは、あとは食事を楽しんでくれ」


 ギルドマスターの挨拶が終わると、食事となる。

 食事は立食形式なので、参加者たちが一斉に動き出し食事を始める。


「うわー、おいしいですう」


 ヴィクトリアがあちこちのテーブルから料理を取ってきて、自分の皿に盛っている。本当食い意地の張ったやつだ。

 最近多少ましになったと思えばこれだ。本当先が思いやられる。


「お前、少しは考えて料理取れよ。俺たちまで意地汚く見られるだろうが」

「え~、だっておいしいんですもの。ほら、ホルストさんも食べてみてください」

「えっ」

「はい、あーん」


 ヴィクトリアがフォークに刺した肉料理を俺に食わそうと差し出してくる。仕方なく俺はそれを食べた。


「うん、うまいな」

「でしょ」


 確かに料理はうまかった。料理を味わうため、俺はよく噛んで食べた。


「あっ、お口が汚れちゃいましたね」


 ヴィクトリアがハンカチを取り出して俺の口を拭う。俺は黙って拭われる。


 何だか周りからの視線が痛い気がした。特に男からの視線が。


「あの野郎許さねえ」

「リア充爆発しろ」


 呪詛の言葉まで聞こえてくる。

 まあ、ヴィクトリアは女神だけあって外見だけはものすごく美人だ。気持ちはわかる。

 でも、こいつは地雷だ。手を出したらやけどじゃすまないぞ。


「ホルストさん、また変なことを考えていませんか」

「考えていない。気のせいだ」

「旦那様、ヴィクトリアさん、一体何をしているのですか」


 エリカが現れた。ものすごく顔を引きつらせてこめかみをピクピクさせている。


「エ、エリカ。これは違うんだ」

「そうです。違うんです」

「いいから、こっちに来なさい」


 俺たちは慌ててごまかそうとしたが、そんなものが通用するはずもなく、控室に連行されてしまった。


「ヴィクトリアさん、おとなしくしときなさいとあれほど言っておきましたよね」

「はい、申し訳ありません」

「旦那様も何ですか。いっしょになってはしゃいで」

「はい、ごめんなさい」

「いいえ。今日という今日は反省してもらいます」


 俺とヴィクトリアはエリカにこってりと絞られた。


「ひどい目にあった」

「やあ、楽しいんでいるかい?」


 控室から逃げるように出てきた俺に声をかけてきたのはリネットさんだった。


「ええ、楽しんでますよ」

「それはよかった。ところで、例の指名依頼の件は考えてくれたかな」

「モンスター討伐の件ですか」

「うん。何とか参加してくれないかな」

「そう言われましても」

「頼むよ。報酬は安いけど、食事は支給されるし、寝るところの心配もいらない。いい仕事なんだ」

「でも、誰も参加したがらないですよね」

「うっ」


 当たり前だ。腕のいい冒険者ならその拘束期間内でもっと稼げるからだ。


「確かにそうだけど、高位ランク者は一度は参加する義務がある。今参加しておけば、もう参加しなくてもよくなるぞ」

「仕方ない。今回だけですよ」

「ありがとう。感謝するよ」


 こうして俺たちは貧乏くじを引くことになったのだ。


★★★


「モンスターだ!」


 俺を回想から呼び覚ましたのは敵襲来の報だった。


 俺は剣を引き寄せ、ハーフプレートメイルを装着する。

 このハーフプレートメールは最近新調したものだ。以前使っていた皮の鎧が大分大分傷んできたのと、Aランクらしく良い装備にしようとしてこうなった。


「旦那様」

「ホルストさん」


 二人が俺の側に寄ってきた。


「よし行くぞ」


 俺たちは馬車の外へ出た。


「ワー」


 馬車の外ではすでに戦闘が始まっていた。

 兵士や用心棒たちが飛び出し激戦が繰り広げられている。


 敵はゴブリン、オークなどを中心にして構成された100匹ほどの群れだ。こちらの倍ほどの数がいる。

 魔物たちは数で押してきており、こちらの方が形勢不利なようだ。


「エリカ、やれ」

「『小爆破』」


 俺の指示を受けたエリカが魔法を放つ。


 魔法はモンスターの密度が一番高い所で炸裂する。

 ドゴオオン。

 すさまじい轟音とともに2、30匹まとめて魔物たちが吹き飛ぶ。本当、範囲攻撃魔法は強力だ。


 エリカはこの2か月でさらに魔法の腕に磨きがかかり、強力な魔法を使えるようになった。


「大丈夫ですか。今、直しますね。この者に治癒の光を。『小治癒』」

「ああ、すまない」


 ヴィクトリアは負傷した用心棒たちを治療して回っている。


 ヴィクトリアはエリカに鍛えられたおかげで多少魔法が使えるようになった。

 ただ攻撃魔法は相性が良くないらしく、というかこいつは大体の魔法の適性があるとか抜かしてたはずだが、主に治癒魔法に特化した魔法構成となっている。


 ちなみに、ヴィクトリアは本来Eランクからスタートするところを、俺たちのおまけということで、Dランク冒険者となっている。


「さて俺も行くか」


 俺は剣を抜き、『神強化』の魔法をかける。


「覚悟しろ」


 俺は敵陣に切り込む。


 俺もこの2か月でかなり強くなった。

 まず町一番の剣術道場へ通い剣を鍛え直した。素の能力を上げて『神強化』の威力も向上させるためだ。

 最近ではずいぶん成果が出てきて、師範が「よくなりましたな」と褒めてくれるようになった。


 もちろん、魔法の訓練も欠かさない。

 魔力操作とイメージトレーニングの基礎練習に加え、実戦で使用し続けることで、連射と威力の調整の精度を上げることができた。


 それに新しい魔法も覚えた。


「『天凍』」


 俺が魔法を放つと、俺に向かってきていたオークが3匹まとめて氷漬けになる。


「『天雷』」


 今度は極太の雷が魔物たちに降り注ぐ。

 ドンッ。

 5,6体のゴブリンやオークが黒焦げになる。


「今だ、突っ込め」


 戦況がこちらに傾いたのを見て輸送隊の指揮官が総攻撃を命じるのが聞こえる。


 もちろん俺も部隊の動きに合わせて突っ込む。

 バッタバタと敵を切り倒していく。

 7、8体ほど倒したところで。


「攻撃やめ」


 そう指令が出た。


 戦況を確認してみると、残った魔物たちは逃げ出しているようだった。

 今は輸送任務中ということでこちらも深追いは避けるみたいだ。


 俺も剣を納め、戦いは終結した。


★★★


 その日の晩飯では、よくやったということで一人一杯の酒がふるまわれた。


「お前たち、すごいじゃないか」


 指揮官が直々に来て褒めてくれた。


「どうだ。軍に入らないか」


 そんな勧誘を受けたりもした。


「すみません。冒険者家業が性に合っているもので」

「そうか。まあ、軍の給料は安いからな」


 断っても指揮官はそう言って納得してくれた。


 その後は、一杯の酒をちびちびやりながら夜が更けるまで楽しく話してから寝た。


 いよいよ明日北部砦に到着する。

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