第5話~冒険~
翌日、朝食を食べた後、ギルドの隣の武器屋へ向かった。
ギーという軋む音とともに扉を開けた。
「こんにちは」
声をかけたが誰も出てこない。仕方なく店内を見回してみると、そんなに広くない店内に商品が所狭しと並べられていた。
とりあえず剣を1本手に取り抜いて確認してみる。
「これなら、俺の持っている剣の方がいいな」
実は俺たちは武器持っている。鋼の剣が1本と魔法使い用の杖が1本だ。
ともにエリカが自分のマジックバックに入れていた物だ。
剣はエリカが実家の蔵から拝借してきた一品で、ヒッグス一族の本家が所有していただけに、かなりの業物であった。
杖もエリカが魔法の修業を始めるときに父親からもらった物で、かなりの高級品であった。
そんなわけで俺たちには武器があるので、ここには防具と魔物や収穫物を収納するマジックバッグとポーションなどの道具類を買いに来たのだ。
「いらっしゃい」
やっと店長らしき人が出てきた。髭面のおっさんでいかつい感じだが、愛想はよい。
「今日は何がご入用ですか」
「今日は俺とこの子の防具と、道具類が欲しいんですが」
「失礼ですが、お客様は武器とか買うのは初めてですか」
俺たちを見ながら店長が聞いてきた。俺もエリカも普段着だからそう思ったのだろう。実際そうだし。
「はい。よくわからないのでよろしくお願いします」
「それでしたら、皮の鎧はどうでしょうか。軽くて扱いやすいので初心者にぴったりです。後、そちらのお嬢さんは魔法使いでしょう?でしたら、そちらの棚に魔法使い用のローブがございます」
店長がそう言うので、俺が鎧を選んでいる間にエリカがローブを選ぶことになった。
「こちらになります」
店長が鎧を持ってきてくれたので、俺はそれを着てみた。
「とてもお似合いですよ」
「うん、悪くないな」
思っていたよりも軽いし、とても動きやすかった。すごく気に入った。
「これをもらうことにするよ」
「ありがとうございます。ついでにこちらの皮の盾はいかがですか」
「これもいいな」
こちらもよかった。皮の盾はバックラータイプの小型のもので、取り回しがよかった。これなら魔物の攻撃も大丈夫そうだった。
「じゃあ、鎧と盾両方ください。調整にはどのくらいかかりますか」
「30分もあれば大丈夫です」
「お願いします。さて、後は」
店長に寸法などを計ってもらった後、俺は道具類のコーナーへ向かった。
コーナーには革袋、ロープ、ポーション類などが並んでいた。その中で俺の目に着いたものがある。
「『初心者セット』か」
初心者セットは、ナイフやロープなどの冒険に必須の小道具のほかに、ポーション数本が皮のポーチに入ったお買い得な商品である。
「皮の色も何色かあるから、二人で色違いを買えばお揃いでいいな。よし、これを買おう」
「旦那様、いかがですか」
その時、エリカがちょうど試着室から出てきた。エリカは白色のローブを着ていた。
めっちゃ似合っていた。
「かわいい。めっちゃ似合っているよ。それにしなよ」
「ありがとうございます。そう言ってもらえると、とても嬉しいです」
エリカが照れて赤くなる。俺はそんなエリカの手を引き誘う。
「後はマジックバックを選ぼうか」
「はい」
マジックバックのコーナーにもたくさんの品があった。
「これって、うちの実家の商品ですね」
エリカが商品を一つ手に取り、裏を見て確認する。そこには『ヒッグス商会』と書かれてあった。エリカの実家がやっている会社である。
エリカの実家が手広く商売をしているのは知っていたが、まさかこんな遠くで商品を見るとは思わなかった。
「でも、よく考えたら魔道具の生産にエリカの実家が関与していない方が少ないのか」
「ええそうですね。父もおじい様もやり手だったので、ここまで勢力を広げたと聞きます」
「そっか。大きいね」
「ええ。大きいですね」
俺は対峙している敵の大きさを知り今更ながら驚いたが、別に怖いとは感じなかった。逆にやる気に火が着いた。
今の俺にはエリカがいる。守るものがあるのだ。守るものがある男が泣き言など言ってられない。
むしろ、攻撃される前にやるというくらいの気概で臨む必要がある。
そのついでに今までの仕返しなんかできたら最高だ。まあ、こっちはできたらだけどね。
そんな事を考えながら俺はエリカの顔をじっと見た。エリカも見つめ返してくる。そのエリカの目を見て決意を新たにする。
「絶対君のことは守るからさ。安心して」
「ええ、お願いしますね、旦那様。……ついでに、おじい様たちをギャフンと言わせたいですね」
「えっ」
「私に隠し事などできませんよ。それに私も旦那様と気持ちは同じです。おじい様たちのことは、常々苦々しく思っていましたから」
完全に俺の心が読まれていてびっくりしたが、これが夫婦というものなのだろう。
何せ夜中にあんなことをする関係だ。このくらいできても不思議ではない。
「ちなみに一番効く復讐は、私達が幸せになって、子供の顔を見せてやることですよ。間違いなく、おじい様には一番のダメージです。だから、いろいろと頑張りましょう」
「ああ、がんばろう」
俺はエリカをそっと抱きしめた。
「それはそうとして」
マジックバックのコーナーの中から商品を選ぶ。
「ここの商品は大体うちのなんですけど、よろしいのですか。気に食わなかったりしませんか」
「別に構わない」
どこの誰が作ろうと商品に罪はないし、そんなことを言っていたら買う商品がなくなってしまう。
「これにしよう」
「いいですね」
俺たちはリュックサック型のマジックバックを選んだ。これなら背中に背負えるので持ち運ぶのに便利だからだ。
「できましたよ」
ちょうどその時、頼んでいた防具の調整が完了したようで声をかけられた。
「は~い」
俺たちは選んだ商品を持って行き、一緒に支払いを済ませると店を出た。
★★★
武器屋を出ると、俺たちはすぐ隣のギルドへ向かった。無論、依頼クエストを探すためだ。
ギルドに入るとすぐに依頼ボードに行く。
「どれにしようかな」
「旦那様。これがよろしいのでは」
ボードを物色していると、エリカが目敏くよさげな依頼を見つけてきた。
「カチカチ草1キロか。結構量があるな。というか、この草知ってる?」
「はい、実習で取りに行ったことがあります。大きなトーガの木に自生している薬草です。高級ポーションの材料になります。割と珍しい薬草で、一本の木からそんなに取れませんが、森の中をくまなく探せば量は確保できるでしょう」
「詳しいね」
「まあ、習ったことですから」
「じゃあ、これにしようか」
俺たちは依頼書を剝がすと、受付に持って行った。
「やあ、よく来たねえ」
受付にはちょうどリネットさんがいたので、そちらへ行く。
「見違えたねえ。よく似合っているよ」
「ありがとうございます」
装備をほめてもらったのでお礼を言う。
「うんうん。今日は依頼かい?」
「ええ、そうです。頼めますか」
「まかせな」
リネットさんはすぐに手続きをしてくれた。
「では、行ってきます」
「ああ、気を付けてね」
挨拶もそこそこに俺たちは依頼に出かけた。
★★★
城門の外は一面の草原だった。もう春なので、そこら中に草が生えてきていた。
「天気はいいんですけど、風が強いですね」
エリカの言う通り風が強く、草が風にあおられ揺れているのが見えた。
「さて、今昼前で目的の森まで往復2時間かかり、採集に2時間くらいかかるとして、夕方までには戻れるかな」
「そうしたいですね。夜は魔物が多くなるので、あまり外を歩きたくないですからね」
となると、善は急げだ。俺たちは目的地に向かって歩き始めた。
「平和だな」
「本当。平和ですね」
しばらくそんなのんきな会話をしながら歩いていると異変が起きた。
「ゴブリンですね」
「ゴブリンだな」
ゴブリンの集団が現れた。全部で5匹いた。
ゴブリンはこちらが二人しかいないのを見て侮ったのだろう。
まっすぐに突っ込んできた。
「本当に考え無しに突っ込んで来るな。こういう時はあれだ。他に仲間がいるかだけ注意しないとな。エリカ、どうだ」
「魔法で今調べてみましたけど、他にはいないみたいですよ。旦那様」
「じゃあ、俺が突っ込んでいくから、エリカは魔法で援護してくれ」
「はい」
俺は剣を抜くと、走って一気に間合いを詰めた。
「『火矢』」
すかさずエリカが火の魔法を放つ。
「ギャン」
3発放った魔法のうち2発が命中した。先頭と2番目の位置にいたゴブリンが火達磨になる。
魔法に驚いてゴブリンたちの進軍が止まる。
俺はその隙を見逃さなかった。すかさず接近して剣を振るう。
「ハアッ」
剣を一閃する。ザクッ。ゴブリンの首が飛ぶ。
「もう1匹」
返す刀で、今度はゴブリンの腹を切り裂く。
ドサッ。と腹から中身が零れ落ち、ゴブリンは息絶える。
「ギャオ」
残りの1匹はエリカが魔法で火達磨にした。
「終わったな」
「意外とあっさり終わりましたね」
「しょせんゴブリンだしな」
多少物足りなかったが、初陣としては十分だろう。
「さて、先を急ぐぞ」
俺たちは依頼達成のため移動を再開した。
★★★
目的の森の中。
「旦那様。あそこにありますよ」
「おお、あれか」
俺はエリカに言われて木に登った。
「滑りそうだな。気を付けないと」
落ちないように気を付けながらカチカチ草を引っこ抜くが、そんなに量は取れなかった。
量を稼ぐにはもっと頑張らなければならなかった。
「旦那様。ここにもありますよ」
「今、行くよ」
その後も、俺はエリカの言うままに草を引き抜くのみだった。
「こんなものかな」
「旦那様、お疲れ様です」
やっとこさ草を集め終わった後は、お弁当タイムだ。
「サンドイッチですよ」
パンにハムとチーズを挟んだだけの簡単な物であったが、そこは料理上手のエリカが作ったものだ。
「うまい」
俺は弁当をむさぼるように食った。
「おいしかったよ」
「それはよろしゅうございます。では、帰りますか」
俺たちは立ち上がるとその場を離れ、森を出ようとした。
「旦那様、何かいますよ」
森の隅っこの方に何かがいるのに気付いた。すぐに確認した。
「オークか。3匹いるな。どうしようか」
オークはゴブリンより強い魔物だ。中級ぐらいのパーティーでも油断すれば命を落とすこともある。
だが、俺たちに勝てない魔物ではない。なにより肉がおいしく、高く売れた。
俺は決意して、剣を抜いた、
「よし。狩りの時間だ」
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