第4話~登録完了、新生活の始まり~
「それでまだ聞きたいことがあるんですけど、構いませんか」
「なんだい」
「俺たちなるべくたくさん稼ぎたいと思っているんですけど、なんかいい方法はないですかね。……もちろん安全第一で行動するとしての話ですよ」
「そうだねえ。まあ、ベストなのは徐々に実力をつけてランクを上げ、高額の依頼を受けることかな。ちなみにランクは功績をコツコツと貯めるか、上位のランクに見合った実力を示せば上がるよ」
そうではない。俺が聞いたのはそういうことではない。低ランクの依頼を受けるにしてもその中で少しでも多く稼ぐ方法を聞きたかったのだ。
何せ俺たちには金が必要なのだから。
「なるほどそういうことかあ。それだったら商業ギルドに納品してみたらどうだい。商業ギルドはここの隣だよ」
「商業ギルド?」
「商業ギルドでは冒険者からいろいろと買い取りをしているのよ。モンスターの肉や素材、薬草や木の実なんかを買っているよ」
なるほど、それはいい考えだ。依頼のついでにそういうこともやれば、お金稼ぎの効率も上がるだろう。
ただ、リネットさんは商売も忘れない。案外抜け目のない人だ。
「商業ギルドの反対隣りにギルド経営の武器屋さんがあってね。そこで容量の大きなマジックバックを買えば稼ぎの効率が上がること間違いなしさ」
「ははは。今度買いに行きます」
「頼んだよ。それと、あと稼ぐという点ではダンジョンへ行くのもおすすめだよ」
「ダンジョン!?そんなものがあるのですか」
「うん。あるよ、ここから1時間くらいの所にね」
それは近いな。それにダンジョンと聞くだけで何だかワクワクする。冒険者の夢が詰まっている気がする。
俺は期待に胸膨らませて続きを聞く。
「『希望の遺跡』といわれているね。昔高名な神官が作ったといわれているダンジョンさ」
「へえ」
「なんでも、神様とお話しするために作られたとかいう伝承があるね。まあ、アタシたちにとっては飯のタネに過ぎないけどね」
「本当ですね」
「ま、説明はこんなものかな。それじゃあ最後に」
リネットさんは奥へ行くと、黒いカードを2枚持ってきた。
「ギルドカードだよ。これに1滴ずつあんたたちの血を垂らしてもらえれば登録完了だよ」
俺たちは針で指を突き、血を1滴カードに落とした。たちまちカードが白に変わる。
「じゃあ、これで終わりってことで。頑張りなよ」
これにて、俺たちの冒険者登録は完了した。
★★★
「この物件は築25年、リビングにキッチン、風呂、トイレ、ベッド付きの寝室が一つに、おまけに物置部屋まで完備しています」
「うん、かなりいいわね」
エリカがものすごく真剣に不動産屋の話を聞いていた。
話を聞きながら、合間に壁やら床やら触ってなにやら事細かにチェックしている。
俺たちは不動産の内覧に来ていた。案内してくれる不動産屋はリネットさんの紹介で、ギルドの2軒隣にあり、もちろんギルドと提携していた。
ちなみに家を決定する権利はもちろん俺になく、エリカ主導ですべて進んでいた。
「ここでおいくらですか」
「一か月銀貨10枚です」
「安いですね」
「ええ、結構築年数が経っているのと町はずれにあるのでこの値段になります」
「よし、決めたわ。ここにするわ」
「いいのか。そんなにあっさり決めて」
ここで内覧は3件目なのだが、前2件と異なりあっさり決めてしまったエリカに本当にいいのか確認する。
「いいの。私が気に入ったんだから」
「そうか」
エリカがそう思ったのなら俺から言えることは何もない。あとは金を払うだけだ。
「お支払いは先払いとなります。初回は三か月分の支払いとなります」
「それでは、お支払います」
「ありがとうございます」
こうして俺たちは新居を確保し、幸せへの第一歩を歩むこととなった。
★★★
そのあとはいろいろ準備した。まずは教会へ行った。もちろん、夫婦になるためだ。
この町に来たばかりで、そんなに急ぐ必要もない気がするが、
「住む所が決まったら、ちゃんとした夫婦になりましょうね」
旅の間、エリカがずっとそう主張していたので、『善は急げ』とばかりに早速結婚することにしたのだ。
「一生に一度の晴れ舞台なのに、本当にこんな簡単なのでいいのか」
そうエリカにも確認したが、本人は「ホルストと夫婦になれるだけで十分です」と言って譲らない。
まあ、どうせこの町には結婚式に呼ぶような知り合いもいないことだし、追われる身の上だ。
それにちゃんとした結婚式をするような金もない。
神様に誓いを立て、夫婦だと認めてもらうだけでも十分なのかもしれない。
ただ、俺としてはいずれ金がたまったら式を挙げ直したいとは思っている。
そのためにも頑張って稼いでいこうと思う。
「すいません」
「なんですかな」
声をかけると奥から神父さんが出てきた。
「実は僕たち結婚したいのですが、結婚式をするようなお金がなくて」
「それで、正式な結婚式はできなくても神様への誓いだけでもできないかと思って、こうして立ち寄らせてもらったのです」
「構いませんよ。ではこちらに」
神父様は快く引き受けてくれた。
後で聞いた話では俺たちのような人は結構多いらしい。
何せ魔物に町や村が滅ばされまくっているのだ。
だから身寄りも金もない人たちも多く、そういう人たちが結婚する場合、俺たちの様に神様への誓いだけで済ませるということが多いそうだ。
「こちらへどうぞ」
神父様は俺たちを祭壇の前へ案内する。そして、準備が終わると、すぐに結婚式が始まる。
「では、始めますぞ。汝ホルスト・エレクトロンはエリカ・ヒッグスを妻とし、病める時も健やかな時も共に過ごすことを誓いますか」
「誓います」
「汝エリカ・ヒッグスはホルスト・エレクトロンを夫とし、病める時も健やかな時も共に過ごすことを誓いますか」
「誓います」
「うむ。これで神は二人を夫婦と認めました。さあ、誓いの口づけを」
俺たちはキスをした。
最高に幸せだった。
この幸せを守るためならなんでもしてみせる。そう誓った。
★★★
「これは少ないですが、貧しい人のために使ってください」
「これはどうも。主神クリント様の加護があらんことを」
「主神クリント様の加護があらんことを」
俺たちは神父様に寄付という名の謝礼を渡すと教会を離れ、次の目的である買い出しに出かける。
最初に行ったのは布団屋だ。
「いろいろありますね」
二人であれやこれやと吟味し、そこそこの品質で値段も手ごろな布団を一組買った。
大事なことなのでもう一度言う。一組だけ買った。
そもそもあそこは夫婦者用の部屋なので、大きいベッドが一つしかなかったし、何よりエリカが、
「夫婦だから一緒に寝るのは当然です」
と、顔を真っ赤にしながら主張するのでそうなった。
エリカのこういう発言を聞くと、俺たちは本当に夫婦になったのだと実感する。
次に青空市場に行く。ここには雑多な店が立ち並んでおり、一度に色々そろう便利な場所だ。
「これと、これと、これがいいかな?」
とりあえず鍋にフライパン、調理器具を買う。
「お肉にお野菜、パンも買わないと」
そのあとは食材を買う。とりあえず今晩の分と明日の朝の分があればよいので、そんなに量はない。
ちなみにここでの買い物はエリカがメインで行った。
俺は正直料理は上手でないし、道具や食材の良し悪しも全くわからないからだ。
「それじゃあ、買い物も終わったし帰るか」
「はい。夕飯は腕を振るいますので期待してください」
買い物が終わると、俺たちは家に帰った。
★★★
夕飯が始まった。
夕飯は、パンにシチュー、サラダにステーキだった。
「おいしいですか」
「うん、とてもおいしいよ」
「よかった。たくさん食べてくださいね」
言われるまでもない。俺は食べに食べた。
「ホルストの食べっぷりを見ていると、一生懸命作ったかいがあったと実感できます。それで……食後にデザートは食べますか?」
エリカが顔を赤くして身体をモジモジさせる。その態度を不思議に思いながらも返事をする。
「うん?もちろん食べるよ」
「では、お風呂を沸かしてきますので、ホルストはご飯が終わったら先に入ってベッドで待っていてください」
「えっ。それって」
俺はわかってしまった。エリカの言うデザートが何なのかを。
「めっ。これ以上言わさないでください」
エリカはちょっとだけ怒ったような顔をすると、走って風呂を沸かしに行った。
今後の展開を想像した俺は、そわそわしながら晩飯を食うことになった。
★★★
食事が終わった。風呂にも入った。
さて、一番重要なのはこれからである。
「では、お風呂に入ってきますね」
エリカがお風呂に行った。俺は先に入ってベッドで待っている。
すっごくドキドキする。落ち着こうと深呼吸しても、逆に汗がにじみ出てきて気持ちだけが空回りする。
そんなことをしているうちに30分ほど過ぎ、エリカが風呂から出てくる。赤色のパジャマに着替えており、とても愛らしく感じられた。
「お待たせいたしました」
「ああ」
「そちらへ行きますね」
エリカは俺の隣にちょこんと座った。そのまま体を傾け、俺に体を預けてくる。
俺もエリカの肩を抱き、こちらへ引き寄せる。
そっとキスをする。しばらくっそのままで過ごした後。
「では、改めまして」
そう言ってエリカが俺から離れる。俺も離れる。そして二人でベッドの上に座って向かい合う。
「ふつつかものですが、末永くお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
お互いに挨拶すると、また抱き合う。エリカの温もりが感じられてとても心地よい。
ふと気付く。エリカが小刻みに震えていることに。
多分、初めてなので緊張しているのだろう。その気持ちはよくわかる。なぜなら、俺もものすごく緊張しているからだ。
そんな均衡状態を崩したのはエリカだった。自分のお腹を擦りながらぼそっと呟く。
「私、ホルスト、いえ、旦那様の赤ちゃんが早く欲しいです」
初めて旦那様と呼ばれてちょっと気恥ずかしかったが、優しくエリカのお腹をなでてやりながら返事する。
「そうだね。俺もエリカの子供が欲しい。でも」
「でも、しばらくは我慢ですね。生活が成り立ちませんし」
俺たちは駆け落ちの身で、今は自分たちを養うだけで精いっぱいだ。子供のことはもうちょっと生活に余裕ができてから考えよう。
事前に二人で話し合ってそう決めていた。
「子供はダメだけど、その分今はイチャイチャしましょうか」
エリカがゴロンとベッドの上に横になる。
「旦那様。エリカは初めてなので優しくしてください」
俺たちはとても長い夜を過ごした。
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